「終わりだ───
アレスの銃によって放たれた魔弾がザイードの身体に吸い寄せられるように撃ち込まれる。
その姿は、天使を守護する儚い死神のようだった。
「うっ!……尋問のつもりか……私は大導師様に誓った身……ッ!?」
ザイードは天の智慧研究会の大導師に誓って尋問には屈しないという意思表示をしようとしたが、その前にザイードは血を吐いた。
アレスはルミアの目を塞いだ。
そして間もなく
「うぁああああああああああああああああ───ッ!?なんだッ!これはッ!」
ザイードは血を吐きながら叫ぶ。
この魔弾は失血死させるものではない。
「ッ!?身体が……ッ!?」
ザイードの身体が何故か破裂したことにグレンは驚愕する。
「われ……ら……が……」
これがザイードの最後の言葉だった。
「「「ッ!?」」」
そこへアルベルトとシスティーナ以外の特務分室が戻ってきた。
特務分室のメンバーがザイードの姿に息を飲むと同時に、アレスはルミアを開放する。
「アンタに撃ち込んだ魔弾は、本来は世界を引っ繰り返すモノを弾丸にして放ち、着弾した相手の体内で世界が構築・暴走し、その影響で相手を殺す魔弾……」
アレスはこの魔弾について嘘の説明した。
この魔弾の本来の力は、『本来は世界を引っ繰り返すモノを弾丸にして放ち、着弾した相手の体内で固有結界が構築・暴走し、
「世界を構築!?」
クリストフは驚き
「そりゃすごいわい」
バーナードが素直は称賛した
「ん、なんかすごい……んだよね?」
リィエルはよく分かっておらず
そこへアルベルトとシスティーナが到着した。
「アレス=クレーゼ……今回の件、王女を守ってくれたことには感謝する……だが、少なくとも貴様が何者か分かるまでは俺が信用することは無い」
アルベルトは鷹のような鋭い目つきでアレスを見据えながら言うが、アレスは何も言わずただ俯いているだけ。
だが、ルミアの目にはアレスの異常な姿が映った。アレスの顔色は悪く、息遣いも荒い、立っているだけでも辛そうなのだ。当然アレスは倒れた。
「アレス君ッ!」
ルミアは倒れたアレスの元へ行く。
「……使いたく……なかった……ッ!これだけは……ッ!使いたくなかったんだ……ッ!」
アレスは上半身を起こし泣きながら告白し始めた。
「もう二度と使わない……つもりだったんだ……ッ!でもッ!これしか……思いつかなかった……ッ!」
アレスの銃を握っている手は震えている。
アルスがこの魔弾を作ったのは約半年前、ルミアを効率よく護るために作ったつもりだった。
そもそも、この魔弾のコンセプトは敵を素早く無力化する為に敵の体内に固有結界を作り内臓を少し破壊すれば効力を失うというもののはずだったのだ。
この魔弾の効果が失われるのは着弾してから10秒後。だが、撃たれた人間はその10秒で破裂してしまうのだ。
「これは誰かを護るために作ったものじゃない……ッ!」
これを思いついた時は、もう誰も殺さなくて済むと思った。でも、それは間違いだった。固有結界が暴走すれば10秒も掛からずに人は死ぬのだから。
この魔弾を初めて撃った相手は魔獣だった。だが、撃ってすぐに魔獣の身体が破裂したのを見て直感した。『これは使ってはいけなもの』だと。
「僕は……人殺しだ……ッ!」
アレスは白状するように呟く。
【
だが、【
「「アレス……」」
システィーナとグレンは言葉を失う。アレスがどんな境遇で生きてきたのかは知らないが、アレスにはアレスなりの葛藤があったのだ。
「「「…………」」」
アルベルト達も言葉を失っていた。今のアレスは帝国軍の特務分室にいた頃の心が摩耗していたグレンに似ているから。
そんな中動いたのはルミアだ。
「大丈夫だよ!」
ルミアはそう言って震えているアレスの手ごと抱きしめる
「大丈夫だから!……アレス君のおかげなんだよ!?……アレス君のおかげで支配されていた人たちも私たちも助かったんだよ!?……アレス君が皆を救ってくれたんだよ……?」
ルミアはアレスに慈しむように赦すように優しく囁く
「……うああああああああああ─────────ッ!」
その言葉でアレスはルミアに泣きついた。
「大丈夫、私がずっと……ずっと傍にいるから……」
グレン達はその光景を微笑みながら眺めていたのであった。
一時は《魔の右手》ザイードにより社交舞踏会のメインイベントであるフィナーレ・ダンスは台無しとなったが、社交舞踏会はフィナーレ・ダンスを踊らなければ締まらないということによりアレスとルミアのカップルは踊ることとなった。
今は、フィナーレ・ダンスを踊っている最中である。
アレスは泣きまくったせいで目が赤く少し腫れているが、ルミアはアレスを見て微笑む
「ありがとう、アレス君。私、アレス君と出会えて本当に良かったよ。色々あったけど……今夜のことはきっと、私の一生の宝物だよ……」
「…………」
ルミアは満面の笑みでそう言うが、アレスからしてみれば心外だ。
アレスが、ルミアの元とは言え最も近かった自分がこの程度の笑みで悩みに気付けないと思われていることが心外だった。
「ティンジェルさんは、ここにいていいんだよ……」
「え?」
アレス言った一言にルミアは一瞬驚く
「ティンジェル……ううん、ルミア……君はここにいていい……言ったでしょ?君を不幸にはさせないって……」
その言葉と同時にアレスはルミアを抱きしめ、フィナーレ・ダンスは終了した。
この時、アレス以外の誰も気付かなかった。
ルミアはアレスに抱かれる形で静かに嗚咽していたことを……
社交舞踏会も無事終了した。
ルミアをフィーベル家まで送っていった後、家に帰るとアレスの家の前で待つ1人の女性がいた。
イヴである。
「……何の用ですか?イグナイトさん?」
アレスは、イヴに問う
「《無銘》ってあなたでしょ」
泣いてきたのだろう、目が赤く腫れている状態のイヴがアレスに聞く
「……どうやって知ったのかは分かりませんが……そうですよ」
アルスは、真実を告げる。
何故、真実を告げたのかそれを知る者はいない。これは未来を視るアルスだけが出来ることだから。
「……あなたの正体をバラされたくなければ特務分室に入りなさい」
イヴはアルスの正体を条件に特務分室へ招待する。
「……条件がある……」
「何かしら?」
イヴはアルスを手に入れられるという事で上機嫌だ。
「僕のナンバーについてだ……貴女は前に言ったね、執行官ナンバー20《審判》だと……僕が欲しいナンバーは21《世界》だ」
イヴもこれには唖然とした。
特務分室のメンバーにはナンバーが当てられるのだが、その中でも《魔術師》と《世界》は特別なのだ。
《魔術師》は代々イグナイト家が管理し、特務分室の室長となる。
《世界》は、最強の人物に当てられるものだ。そして《世界》は約15年前のセリカ=アルフォネア以来埋まっていない。
別に《世界》は魔術で最強である必要はない。個々の能力の中で最も強い人物を当代の《魔術師》が決めればそうなるのだ。
「……どうする?」
アルスのニヤケ顔を見て焼きが回ったイヴは
「いいわ……そのナンバーをあなたにあげる……ただし、誰よりも戦果を上げなさい。《世界》のナンバーとは最強の特務分室の証よ」
「……わかった」
「……私は行くわ、また会いましょう。執行官ナンバー21《世界》のアルス=フィデス」
イヴはアルスにナンバーを授け、去って行った。
アルス君は特務分室に入れます。あと8巻はカットでも良いですかね?ぶっちゃけアレ、アレス君がいると書きにくくてしょうがない。