廃棄王女と天才従者   作:藹華

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 やっと12巻買えましたよ、ええ。まだ内容も見てないんですけどね。

 


決闘の結果

「……胸はちょっと遠慮してほしいな……」

 

 次の瞬間。

 

 シュバッ! 残像する速度と挙動、超前傾姿勢でジニーが滑空するように突進。

 

 アレスの足元を鋭く切り払うと見せて、不意にその姿が霞と消える。

 

「はぁあああああああ───っ!」

 

 その刹那、消えたジニーは上下逆さまの体勢で、アレス頭上の空間にいた。

 

 天高く跳躍してからの、地に落ちる稲妻のような奇襲。

 

 学生とは思えない卓越した身体能力と体術に、その場の誰もが目を見張る。

 

 だが、しなる鞭のように繰り出されたジニーの日2本の短剣、交差する銀光2閃は───

 

「………………」

 

 ふらり、と。見向きもせずに身体を揺らすアレスに掠りもしない。

 

「くっ───」

 

 攻撃を空振ったジニーは、空中で即座に身を捻って回転し、着地と同時に、左手を軸にした旋風のような下段回し蹴りを放つ───

 

 ───が、すでにアレスは、間合いの外にいる。

 

 ジニーは空振りした蹴りの勢いすら利用して、再び体勢を立て直し、その場から素早く飛び離れ、短剣を構え直す。

 

 ジニーの一連の動作は流れるようで、学生離れした見事な体術ではあったが……

 

「……はは、貴女が剣での攻撃を封印されてるのが、こんなにありがたいとは……」

 

 能面を苦々しげに、悔しげに歪めるしかないジニー。

 

「……アナスタシアさん……つかぬ事をお聞きしますが、貴女の本職ってなんです?」

 

「……色々修めたから特に拘りはないかな」

 

「……ちなみにどの程度修めました?」

 

「剣術、槍術、弓術、射撃術、近接格闘術……ざっとこのくらいかな」

 

「うへぇ……今の一合い、実戦なら何回、私の首を跳ね飛ばせました?」

 

「正確にはわからないけど、多分2回か3回かな」

 

「やれやれ。少しは貴女に本気を出させることができればいいのですが……はっ!」

 

 そして、ジニーが再びアレスへと攻めかかっていく───だが……

 

「いや、もう大丈夫」

 

 次の瞬間。

 

 ジニーの間合いの僅か外にいたはずのアレスがジニーの目の前にいた。

 

「ぐは───っ!?」

 

 そして、ジニーがアレスの姿を知覚したと同時にジニーの腹部に強烈な打撃が打ち込まれた。

 

「がはっ、ごほっ、ごほっ……い、いつの間に……」

 

 ジニーはそう言って、気を失った。

 

「……う、嘘……」

 

「じ、ジニーは、近接格闘戦だけならコレット姐さんにも匹敵するのに……」

 

 この意外な展開に、外野の女子生徒達は唖然としており……

 

「……も、もう驚かねえぞ……」

 

 グレンはアレスのその速度に目を見開きながら言い。

 

「……うん、なんとなく分かってた……」

 

 システィーナは思っていた通りの光景に頭を抱えた。

 

「くぅ……」

 

 ぎりぎりと腰の細剣(レイピア)の柄を握りしめ、忌々しそうに呻くフランシーヌ。

 

 ジニーが敵陣深く切り込んで撹乱し、フランシーヌが遠くから魔術で決める……それがフランシーヌの想定していた勝ち筋だが、アレスに思惑を破られた状態だ。

 

「これは、かなりやべえな……」

 

 コレットが鋲付き手袋を嵌めた両手を合わせながら、深刻そうに呟く。

 

「ええ、ジニーをここまで一方的に倒すなんて……」

 

「……どうする? 正直、2vs1でも勝てる気がしねえんだけど?」

 

「……アナスタシアさんは武術しか使えない……なら、遠距離魔術を使えば───」

 

「させると思う?」

 

 アレスの声が聞こえたその時には、アレスはもう2人の目の前にいた。

 

 フランシーヌとコレット、この2人は作戦会議をしながらもアレスを常に見ていた。一挙一動全てに全神経を注いで見ていた……しかし、アレスの速さの方が上だった。

 

「「───っ!?」」

 

 フランシーヌとコレットは息を呑む。

 

「……どうします? 降参か、それとも……」

 

 尻餅をついているフランシーヌとコレットをアレスは見下しながら問う。

 

「「くっ……」」

 

 フランシーヌとコレットは歯をくいしばりながら俯いている。

 

「はーい、そこまでー」

 

 ぱんぱん、と手を打ち鳴らして、グレンは試合の終了を告げていた。

 

「ま、文句なしに、俺達サイドの勝ちだな!」

 

「うぅ……そんな……このわたくしともあろう者が……」

 

「く、くそっ……嘘だろ……たった1人に……魔術すら唱えられなかった……」

 

 そう。フランシーヌ、コレット、ジニーのチームは魔術の使用が許可されているのだ。

 

 しかし、今回戦い方やジニーを圧倒したという驚愕の事実にフランシーヌやコレットは魔術を唱えるという思考を完全になくしていた。

 

 今回の決闘は、戦術や戦闘能力以外の心理戦でもフランシーヌやコレットは負けていた。終始、アレスに先手を譲り過ぎた故の敗北、完敗だ。

 

 そして……

 

「嘘、そんな……フランシーヌさんが……あんなにあっさり……?」

 

「こ、コレット姐さんが……手も足も出ないなんて……」

 

 ざわざわざわ……そんな驚天動地な試合結果を目の当たりにした女子生徒達は、皆一様に色濃い動揺を浮かべて、互いに顔を見合わせていた。

 

「……さて、敗北の条件覚えてます?」

 

「「………………」」

 

「……土下座っすね!」

 

「……本来なら土下座させたいんだけど……今回はいいよ」

 

「「へ?」」

 

「土下座も謝罪もなし! ただその代わり、レーン先生の授業を真面目に聞くこと……いい?」

 

「「は、はいぃいいいいいい───ッ!?」」

 

 フランシーヌもコレットも必要以上にアレスに対して縮こまっている。

 

「それじゃ、反省会でもしよっか」

 

「「はい……」」

 

 フランシーヌとコレットは完全に委縮している。今ならば『はい』以外の選択肢はないかもしれない。

 

 その後は、グレン指導の下フランシーヌとコレット、気絶から回復したジニーはこってり絞られた。

 

「お前ら、貴族の義務だか力だか知らんが、いっちょまえにご大層な御託並べ立てたところで、単なるチンピラと一緒なんだよ。魔術という普通よりちょっと強い武器を与えられて、いい気になってるだけの『魔術使い』のチンピラ。今回の決闘なんてのもいい例だ。あいつは武術、対してお前らは魔術を使えた。御託を並べているだけのお前らじゃ本当に大切なときにその力を行使できねぇ。そこに『魔術使い』を『魔術師』たらしめる『知恵』がどこにもありゃしねえ」

 

「……うっ……」

 

「あまつさえ、『魔術』の力を持つ自分達を妙に特別視して、自分が見えなくなってて……『魔術』を『使う』どころか、『魔術』に『使われてる』んだよ。確かに、ウチのガッコにゃ、お勉強ばっかのモヤシっ子は多いがな……少なくとも、俺が教えている連中は、お前らと違って、正しく『魔術師』だぜ?」

 

 自分達の中でカリスマ的存在であり、もっとも強かったフランシーヌとコレット。

 

 彼女ら2人が、グレンが教えていた生徒であるアレスに手も足も出なかった……その事実に、女子生徒達はすっかり自信を失って消沈し、俯いてしまっていた。

 

「……さて。お前らは言ったな? 俺に教わることなんか何もねえって」

 

 頃合いだな……と、グレンがほくそ笑みながら言葉を続ける。

 

「断言してやる。俺ならお前達を『魔術師』にしてやれる」

 

 すると、俯いていた生徒達が、はっと顔を上げて、グレンを注視する。

 

「俺がこっちにいられるのは短い期間だけだが……その間でも『魔術師』のなんたるかくらいは教えてやれる」

 

「せ、先生……」

 

「ま、興味がないやつは、別に俺の授業に参加しなくていい。ただ、俺の邪魔だけはすんな。お茶会や喧嘩やゲームがしたいなら教室じゃなくて余所でやれ。別に止めはしねえよ、勝手にしろ。だが……」

 

 グレンはにやりと笑い、堂々と宣言した。

 

「少しでも俺の話を聞いてみたいと思った奴は歓迎するぜ? 本当の魔術ってやつを教えてやるさ」

 

 そんなグレンの無駄に尊大で男前な物言いに。

 

 ざわざわざわ……女子生徒達がグレンを見る目の色を変え、ざわめいていく。

 

「な、なんていう御方……あんな不遜な態度だったわたくし達を許して……?」

 

「デカ過ぎる……今までの先公は皆、アタシ達に迎合しようと媚びを売るか、押さえつけようと高圧的になるか、卑屈になって無視するか……そんなんばっかだったのに……」

 

「こんな御方……初めてですわ……」

 

 出会った当初の、侮蔑に満ちていた目は何処へやら。

 

「「「せ、先生……」」」

 

 今や、クラス全員が、すっかりグレンに対する心酔の眼差しとなっていた。

 

「チョロいなぁー……流石、世間知らずの箱入りお嬢様ども……」

 

「本当だよね」

 

「その口ぶり……もしかして狙ってたっすか?」

 

「……鬱陶しかったのが4割、面倒だったのが4割、疲れるのが2割だったし多少はね?」

 

「なんすか、その未来予知は……」

 

 ジニーはアレスの未来予知めいた思考に呆れ、アレスは失笑するしかなかった。

 

「すごい……先生、あっという間に、このクラスの生徒達の心を摑んだね!」

 

 そんな様子を見守っていたルミアが、まるで自分のことのように嬉しそうに言った。

 

「まさか、先生は最初からこの展開を狙って……? だ、だとしたら……」

 

 システィーナがグレンへ、尊敬するような眼差しを向けるが……

 

 当のグレンは、緩んだ顔で、にへらにへらと厭らしく笑っており……

 

「ううん……あれは絶対、ロクでもないことを考えている顔だわ」

 

 システィーナの眼差しは一瞬で冷め、ゴミ捨て場の生ごみを見る目となるのであった。

 

 その後は、フランシーヌ率いる『白百合会』とコレット率いる『黒百合会』の両方から専属の講師にならないかと迫られたり、皆仲良くシスティーナの【ゲイル・ブロウ】で制裁されたり、グレンとの昼食を掛けてシスティーナとルミアvsフランシーヌとコレットでの負けられない戦いもあった。

 

 

 ◆

 

 

 大勢の人々で賑わう、聖リリィ魔術女学院の食堂にて。

 

 システィーナにコレット、フランシーヌにジニーを筆頭に、大勢の女子達がグレンを取り囲んで、わいのわいのと賑わっていた。

 

「おほほ……最初から、こうしてレーン先生を囲んで、皆さんで一緒に食べればよい話でしたわ」と、フランシーヌ。

 

「あっはっは! しゃーねぇなぁ! 今日はそれで勘弁してやるよ!」と、コレット。

 

「そうよね! やっぱり皆で食べると美味しいもんね!」と、システィーナ。

 

 ……全員、目が全然笑っていない。

 

 ばちばち、と互いに互いを視線で火花を散らしてけん制し合っている状態だ。

 

「……わーい、夢に描いたハーレムだぁー……全っ然、嬉しくねえ……」

 

 何かもう食べる前からお腹一杯で、頭を抱えるしかないグレンであった。

 

「……胃が痛ぇ……白猫まで一緒になってなんなんだ……? こういう時に限って、ルミアもアナスタシアもいねえし……」

 

「人気者な先生には大変ですね」(棒)

 

「完全に他人ごとだな、おい」

 

「完全に他人ごとですから」

 

 恨めしそうなグレンに対し、ジニーはどこまでも素っ気ない。

 

「因みに、アナスタシアさんとルミアさんならそこにいますよ」

 

 ジニーの視線の先では、ルミアとアレスが仲良さそうに”平和”に食事している

 

「……あいつ……っ! こうなると分かって……ッ! マジで許さねえ」

 

 グレンはようやく、アレスがフランシーヌ達相手に決闘した理由を理解した。

 

 

 場所は変わって、アレスとルミアの席。

 

「……なんか、グレン先生に睨まれてる……」

 

「あ、あはは……アレス君のせいでフランシーヌさんやコレットさん達に追いかけまわされてるからね~」

 

「それって、僕のせいなの!? グレン先生が勝手に格好つけて好感度上げたせいじゃ───」

 

「アレス君が決闘挑まなかったら、もしかしたらグレン先生は平和に過ごせたかもしれないじゃない?」

 

「………あの人金欠だし、次のご飯代でも上げたら許してくれるかな……?」

 

「ふふ、グレン先生は優しいから許してくれるんじゃないかな?」

 

「そう願うよ……」




12巻の内容を書くつもりではいるんですけど、1つこの場で注意しておきます。

 あの『オリジナル編』はIF作品としてお考え下さい。あくまで、あれは11巻が終わったときにアルス君がこれ以上ルミアが傷つく姿を見るのは我慢できないと思った結果、我武者羅に走って行った感じの内容なので……紛らわしいようであるならば消します。
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