廃棄王女と天才従者   作:藹華

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昨日が僕の誕生日だったので、昨日のうちに投稿したかったんですけど、すいません間に合いませんでした。


マリアンヌの思惑

「あら、2対1じゃないわよ?」

 

 嘲笑いながら優雅な足運びで歩いてきたのは、聖リリィ魔術女学院長マリアンヌだった。

 

「……手を組んでたのか……」

 

 アナスタシアは、最悪だと頭を抑えている。

 

「手を組む? 冗談はやめてくださるかしら?」

 

 マリアンヌはアナスタシアの言葉を否定した。

 

「…………………」

 

 流石にその返しを予想していなかったアナスタシアは言葉を失う。

 

「彼女……エルザとは手を組んでいたのではありません。ただ、利用させてもらっただけですわよ」

 

「……利用、だと……?」

 

「ええ。リィエル=レイフォードは強いもの、だから利用させてもらったのよ?」

 

 ふふふ、と優雅に笑うマリアンヌ。エルザは膝から崩れ落ちて、手をプルプルと震えさせている。

 

「リィエルってことは、やっぱりProject(プロジェクト):Revive(リヴァイヴ)Life(ライフ)ですか?」

 

 アナスタシアのその言葉を聞いて、マリアンヌから笑顔が消えた。

 

「……リィエル=レイフォードを知っているその口ぶり……やはり、貴女を警戒しておいて正解でしたわ」

 

 マリアンヌのその言葉と同時に周囲の草むらから出てきた女子生徒達が、アナスタシアやジニー、エルザに向けて細剣(レイピア)や魔術を構えていた。

 

「これは……」

 

 ジニーがやばいと顔を青くして。

 

「拙いな……」

 

 アナスタシアは冷静に分析をしていた。

 

 敵の数は総勢13名。中にはコレットやフランシーヌのような強者も混じっている。固有魔術(オリジナル)を使えば、勝つことはそう難しいことじゃない。だが、この場にはジニーやエルザがいる。

 

 まずは時間を稼ごうと頭の中で結論付けるアナスタシア。

 

「なぜ、マリアンヌの味方をするのですか?」

 

 自分達を囲んでいる女子生徒達に疑問をぶつける。

 

「彼女達は自ら望んで、私に協力しているのよ?」

 

 動揺するアナスタシア達を、マリアンヌがどこまでも嘲笑う。

 

「私に協力してくれたら、蒼天十字団(ヘヴンズ・クロイツ)の構成員に加われるように口を利いてあげる───皆、それであっさり転がったわ」

 

 蒼天十字団(ヘヴンズ・クロイツ)───その言葉を聞いた瞬間、この場の時間が止まった。

 

 この場で一番早く我に返ったのは、アナスタシアでもジニーでもなくエルザだった。

 

「この……人でなし……ッ!」

 

 そう言って、エルザはリィエルにやったように神速でその刀を振るおうとする───だが、それより先にマリアンヌが腰に吊っていた古剣を、左の逆手で、ほんの少し鞘から引き抜くと。

 

 ぼっ! 不意に、エルザの周囲に燃え上がった、いくつかの小さな炎───

 

「あ……」

 

 火勢は強くない。エルザの肌を焦がすわけでもなく、ただ、焚き火のようにエルザの周囲を取り囲むように、炎は燃えているだけ。

 

 ただ、それだけ。それだけだが───

 

「あ、……あ、あ……」

 

 エルザはみるみるうちに、青ざめ、全身を瘧のように振るわせて───

 

 がしゃり、と刀を取り落とし……

 

「ぁあああああああああああああああああ───ッ!?」

 

 頭を抱えて蹲り、金切り声と共に悲鳴を上げていた。

 

「あっはははははははははははっ! 残念だったわねぇ、エルザッ! そう、貴女は強いわ、この場の誰もが敵わないでしょうね! でも、貴女には致命的な弱点があるッ!?」

 

「嫌ぁああああああああ───ッ!? 嫌だ、嫌だ、助け、助けてぇえええ───ッ!?」

 

「そう! 貴女は致命的な心的外傷(トラウマ)を抱えているわ! 貴女は、炎、赤、血───『炎の記憶』を連想させるものが、まるで駄目! それらを直視すると、クソガキのように取り乱し、まったく使い物にならなくなるッ!」

 

「ああああああ───ッ!? 嫌ぁっ!? 熱い、熱いッ!? 血が……赤がぁッ!?」

 

「うるさいわね、いつまで叫いているのさ!」

 

 しびれをきらしたように、マリアンヌがエルザの刀を拾ってエルザを殺そうと振りかぶり───

 

「さようなら、エルザ。貴女の剣技は使えるけれど、その『血の記憶』のせいで魅力は半減どころか激減よ。……いらないわ」

 

 そう言って、マリアンヌは刀を蹲っているエルザの心臓めがけて突き刺そうとするが───

 

 カキィンッ! 剣と剣がぶつかる音がした。

 

「なっ……! 貴女……ッ!」

 

 マリアンヌが自分の刀を受け止めている少女を睨む。

 

 その声を聞いて、エルザもまた顔を上げて───

 

「あっ……」

 

 エルザは無意識に声を漏らしていた。

 

 なぜなら、その光景は『炎の記憶』の中にある唯一の希望と同じ光景だったから。

 

 自分を殺さんと振り抜かれたマリアンヌの刀を青髪の少女(・・・・・)が受け止めてくれている。

 

 その姿は、イルシアの大剣を受け止めた青髪の少年(・・・・・)にとてもよく酷似していた。

 

「ジニーさん! 先生達を呼びに行って!」

 

 マリアンヌの刀を受け止めながら、アナスタシアはこの場で唯一自由なジニーに呼びかけ、ジニーはそれに応えるように走り去っていった。

 

「っ! 貴女のせいで私の計画はめちゃくちゃよ……? どうしてくれるのかしら?」

 

 マリアンヌは刀に力を込めながら訴える。

 

「さぁね……ただ、エルザさんやリィエルは殺させないとだけ言っておくよ!」

 

 そう言って、アナスタシアはマリアンヌを蹴飛ばす。

 

 アナスタシアが体勢を立て直すと、案の定そこは女子生徒達に囲まれていた。

 

 エルザを守りながら、女子生徒達に運ばれつつあるリィエルを助けることなどできはしない。

 

「《我・時の頸木より・解放されたし》」

 

 アナスタシアは黒魔【タイム・アクセラレイト】を起動し、一瞬で女子生徒達の包囲網を抜けマリアンヌの下へ到着する。

 

 【タイム・アクセラレイト】は、自身に流れる時間を加速させることによって、一定時間爆発的に加速することができる。しかし、術の効果が切れると同時に加速した分、減速してしまうデメリットがあるので使用者はあまりいない。

 

 それはつまり、敵も虚を突かれ反応が遅れるわけで───

 

「な……っ!?」

 

 気付いたときには自身の目の前にいるアナスタシアに驚愕するマリアンヌ。だが、それでも【タイム・アクセラレイト】のデメリットを一瞬で思い出したのか勝ち誇ったような顔をする。

 

 アナスタシアの背後には既に武器を振りかぶっている女子生徒達がいる。しかし、アナスタシアは致命傷以外の攻撃を全て無視しながら呪文を紡いだ。

 

「《紅蓮の炎獅子よ・地を疾く駆けよ・天に舞って踊れ》」

 

 黒魔【ブレイズ・バースト】を改変し、炎版【プラズマ・フィールド】を発動する。

 

 黒魔改【ブレイズ・フィールド】───周囲に炎熱のフィールドを展開する無差別広域殲滅型の攻性呪文(アサルト・スペル)だ。この【ブレイズ・フィールド】の特徴は、【プラズマ・フィールド】よりも威力は高く範囲も広い、しかし貫通や感電といったものがないために殺傷性は低いといった点である。

 

 つまり、敵を殺さず無力化するために編み出した改変呪文だ。外傷が目立つ分、女性にとっては地獄かもしれない魔術である。

 

 ここにマリアンヌがいなければ、この魔術でリィエルは奪還できていただろう。しかし、マリアンヌはアナスタシアの呪文の完成と同じタイミングで古剣を抜き軽く振った。

 

 その瞬間───範囲攻撃である【ブレイズ・フィールド】が周りに広がる前に、マリアンヌの剣から放たれた炎が打ち消した。

 

「っ!?」

 

 【ブレイズ・フィールド】を打ち消した炎に驚愕するアナスタシアに追い打ちをかけるように、マリアンヌは炎を出し続ける。

 

 この1回の攻防で、リィエル奪還を不可能だと理解したアナスタシアはエルザの下まで戻り抱きかかえて消えるように走って行った。

 

 

 ◆

 

 

「ったく、あいつら、どこ行ったんだよ……?」

 

 一通り聖リリィ魔術女学院敷地内を回って、元の送別会場のオープンカフェに戻ってきたグレンがため息を吐いていた。

 

「多分、リィエルとエルザさん、一緒に居るはずなんだけど……」

 

 グレンの隣に佇むルミアも心配そうだ。

 

「あー、駄目だ駄目だ、見つからねえなぁ……」

 

「寮や校舎の方には居ませんでしたわ」

 

 そうこうしているうちに、コレットやフランシーヌら月組の生徒達も戻ってくる。

 

「おう、お前ら、悪いな」

 

「いいってことよ、先生。今日で最後だからな」

 

「短い間とはいえ、共に日々を過ごした仲間ですしね」

 

 コレットとフランシーヌが笑う。

 

 つい2週間前、あれほど激しく争い合っていた間柄が嘘のようだ。

 

 無論、未だ両派閥間で子供のじゃれ合いみたいな喧嘩はあるが……派閥同士の軋轢は、徐々に緩和しつつあるようであった。

 

 そんなことを考えていると───

 

 がたんっ! がっしゃあああああんっ!

 

 突如のたけましい物音に、その場の一同がその物音がした方向へ一斉に振り返る。

 

 隅の屋外テーブルを、倒れた勢いで派手にひっくり返したその少女は───

 

「ジニーッ!?」

 

 なんとも派手な登場に皆が困惑していると。

 

「なんで、そんな戻り方してんだよ!? それ俺の給料から引かれないよね!?」

 

 リィエルのせいで給料が引かれることを極端に怖がるグレンを無視して、ジニーは告げた。

 

「先生へ早急にお伝えしなければならないことが……実は……」

 

 ジニーが衝撃の事実を語る。

 

 ………………………。

 

 …………。

 

「マリアンヌ学院長と……エルザが……リィエルを……? 嘘……」

 

「この学院の一部の女子生徒達まで……? くそ……マジかよ」

 

 ジニーが持ち帰った情報に、システィーナとグレンは絶句するしかない。

 

「魔導省の極秘魔術研究機関、蒼天十字団(ヘヴンズ・クロイツ)……軍属時代、俺も噂程度にゃ聞いたことあったが……マジ話だったとはな……ッ!?」

 

 ジニーの話で全てを察したグレンが、拳を握り固める。

 

「先生……リィエルさん達を助けるなら、急いでくだ───」

 

 どぉおおおおおおんっ! 先程のジニーを超える程のたけましい音にやはりまた一同が一斉に振り返る。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 そこには、意識を失っているエルザを抱きかかえるアナスタシアが、剣を杖替わりにしながら立とうとしていた。

 

 アナスタシアは全身切り傷だらけで、ぼろぼろに疲弊しきっていた。

 

「お前、何があった!?」

 

「はぁ……はぁ……すいません、相手がリィエルを守ることすら許してくれなかったんで、エルザさんだけでもと思って連れてきました」

 

 息を整えながら、要点だけを説明した。

 

「そのリィエルはどうした……?」

 

「……マリアンヌ達に連れられて、列車に……」

 

 その言葉を聞いて、グレンは少し考え込み口を開いた。

 

「……白猫。お前、『疾風脚(シュトロム)』で、先行する列車を追いかけて俺を運べるか?」

 

「ご、ごめんなさい……『疾風脚(シュトロム)』の制御は……まだ……せめて、私と同じくらいの女子なら……」

 

「……白猫。お前、アナスタシアを連れて先に行ってろ」

 

「わ、わかりました」

 

 震える声でシスティーナは頷き、剣を鞘に納めたアナスタシアを抱きかかえながら飛んで行った。

 

「さて、問題は俺達の方なんだが……」

 

「それに関してなんだが……まだ、手はあるぜ……」

 

「ええ、そうですわね。わたくし達、全員が力を合わせれば……あるいは」

 

 コレットとフランシーヌが手を上げて提案するように言った。

 

「お前ら……? 一体、何を言って……?」

 

 訝しむグレンに……

 

「決まってんだろ? 私達の仲間を、ここにいる私達全員で助けるって言ってんだよ!」

 

「『白百合会』の皆さん、もちろん、協力してくれますわよね!?」

 

「『黒百合会』の皆! このまま、あいつをみすてるわけねえよな!?」

 

 そんなフランシーヌとコレットの煽りに……

 

「「「「もちろんですわっ!」」」」

 

 その場に集う月組の生徒達全員が、一斉に声を張り上げる。

 

 最早、『白百合会』も『黒百合会』も関係ない。同じクラスの仲間を助ける……そのただ1つの目的の下に、一致団結するのであった。

 

「お、お前ら……」

 

 共に、手を取り合って沸き立つ少女たちを前に、呆気にとられるグレンに。

 

「さぁ、先生!」

 

「一緒に、リィエルを助けてやろうぜ!」

 

 フランシーヌとコレットが、力強く微笑みながら、手を差し伸べる。

 

 

 ───長い夜が───始まろうとしていた。

 

 

 ◆

 

 

 システィーナは『疾風脚(シュトロム)』を使ってアナスタシアを抱えながら飛んでいた。

 

「アレス! 本当にいいのっ!?」

 

 この場に聖リリィ魔術女学院の生徒はいない。故にシスティーナはアレスと呼んでいる。

 

 それよりも問題なのは、システィーナが列車の遥か上空からアナスタシアを落とそうとしていることだ。

 

「大丈夫、だと思う。それよりも、僕が降りたらすぐにグレン先生のところに戻ってね」

 

「それは分かったけど……本当に? 本当にいいのね?」

 

「うん、いつでもいいよ」

 

 アナスタシアのその言葉を聞いて、システィーナは迷いを断ち切ったとばかりに勢いよく落とした。

 

 一方、落とされたアナスタシアは。

 

「《三界の理・天秤の法則・律の皿は左舷に傾くべし》」

 

 【グラビティ・コントロール】を使うことで、今までの落下速度が嘘のように遅くなる。

 

 そうして、無事列車に着地できたアナスタシアは列車後方にいる見張りの女子生徒を気絶させ、侵入した。

 

 それは、アナスタシアが黒魔【セルフ・トランスパレント】と【ノイズ・カット】を使い相手を無力化せずに忍び足で列車を攻略しているときだった───

 

 どぉおおおおおおおおんッ!

 

 後方から響いてきた衝撃音に、前方にいたはずの女子生徒達が続々と集まってくる。

 

 しかし、集まってきたはずの女子生徒達は後方から堂々と侵入してきた人物たちに蹴散らされていった。

 

 戦闘中、「リィエルを返せ!」と声が聞こえている。

 

 エルザやコレット、フランシーヌ、システィーナの声も聞こえるので、正面突破でも負けることはないだろう。

 

 ならば、今のアナスタシアが為すべきことは───

 

「リィエルを助けること……」

 

 アナスタシアはそう小さく呟いて、リィエルの下まで走って行った。

 

 

 ◆

 

 

 列車内に侵入したグレン達と、それを迎撃する女子生徒達が、列車内で激突していた。

 

「やぁああああああああ───ッ!」

 

 ここは通さぬと、女子生徒の1人が細剣(レイピア)を構えて、グレンに突撃してくる。

 

「ふ───ッ!」

 

 グレンが軽やかに体を捌き、細剣(レイピア)で猛然と突きかかってきた女子生徒をかわす。

 

 すれ違いざま、その女子生徒の首筋に手刀を入れ、意識を刈り取る。

 

 間髪入れず、1人突出したグレンを狙って、車両の奥で隊列を組んだ女子生徒達が一斉に呪文を唱えた。

 

「《雷精の紫電よ》───ッ!」

 

「《白き冬の嵐よ》───ッ!」

 

「《大いなる風よ》───ッ!」

 

 雷閃が、凍てつく波動が、殴りつける突風が、グレンに激しく殺到するが───

 

「《光輝く護りの障壁よ》!」

 

 読んでいたとばかりに、システィーナがグレンの眼前へ展開した光の魔力障壁───【フォース・シールド】がそれらを全て遮断する。

 

 

 ◆

 

 

 後方車両の方で、グレン達の戦いが激化する、その一方───

 

 中央のとある車両にて。

 

「リィエル、起きて」

 

 その言葉でリィエルは目覚める。

 

「アレ……ス……?」

 

「そうだよ、それより起きれるかい?」

 

「ん、平気」

 

 その言葉と同時に、リィエルを縛っている【スペル・シール】が千切られた。

 

 しかし、リィエルの表情は優れない。

 

「エルザが心配?」

 

「……エルザは、無事……?」

 

「うん、そしてリィエルを救うためにこの戦いに参戦してるよ」

 

「───っ!?」

 

「お節介かもって思ったんだけどさ、それでもルミアなら放っておかないから」

 

「ん、ルミアならきっとそうする……でも、意外……」

 

「何が?」

 

「アレスは、私を助けないと思ってた。だから……意外」

 

 その言葉を聞いたアナスタシアは、どうだろうと呟いて少し考える。

 

 もし囚われていたのがフランシーヌやコレットだったら? あるいは、エルザだったら? イルシアとの約束がなかったら? そう考えたとき、既に答えは出ている。

 

 昔のアルス(・・・・・)は助けないだろう。どこにメリットがある? と、そう無慈悲に告げるだろう。

 

 でも、今は違う。今のアルス(・・・・・)は助ける。ルミアを笑顔にできるなら喜んで、と……葛藤も躊躇もなく、穏やかな笑顔で人助けをするだろう。

 

 昔は無知だった、昔はルミアが生きていればそれでいい……ずっと、そう信じて疑わなかった。でも、あの日ルミアの笑顔が曇ってしまったあの時……後悔が生まれた。

 

 自分はルミアの笑顔に救われたのに、その笑顔を守れなくてどうする……と。ならば取り戻して護ろう。あの日、ルミアが失くしてしまったものを取り戻し、2度と失わないように護る。

 

 それだけが、不器用な自分が表せる最大の感謝の気持ちだから───

 

 

 ◆

 

 

 列車の戦いは更に過熱していく───

 

 闘争の狂奔は、最早、留まるところを知らないようだ。

 

「フランシーヌッ! コレットォオオオオオオオ───ッ!」

 

 女子生徒達が怨嗟の声を上げながら、フランシーヌとコレットへ立ち向かっていく。

 

「ははっ! 甘いぜッ!」

 

 迫り来る3人、3本の細剣(レイピア)を、コレットは巧みな拳捌きで叩き落とす。

 

 そのまま、蹴りを入れ、肘で殴り倒し、拳から漲る凍気で薙ぎ払い───

 

「《雷精のし───》」

 

 突出したコレットを狙って、後方で待機していた女子生徒達が、一斉にコレットへ攻性呪文(アサルト・スペル)を撃ち込もうとするが───

 

「《虚空に叫べ・残響為るは・風霊の咆哮》───ッ!」

 

 前衛のコレットを盾に、先読みで唱えていたフランシーヌの呪文が一瞬、速く完成。

 

 圧縮空気弾が敵陣へと弧を描いて飛来し───当然、コレットはすでに下がっており───

 

 ずん!

 

「きゃああああああああああ───ッ!?」

 

「うあああああああああああ───ッ!?」

 

 音波衝撃と空気振動で、群れ固まっていた女子生徒達が吹き飛ばされ───

 

 その衝撃で、車両全体が揺れて震えた。

 

「くっ……この人達……ッ!?」

 

 ここはちょうど、列車の左半分が個室席で埋まっている車両だ。戦闘は狭い廊下で行わなければならないわけで、ここでは数の有利が生かせない。

 

「フランシーヌッ! コレットッ! なぜ、私達の邪魔をするのですッ!」

 

 マリアンヌ側についた女子生徒達の1人───シーダが叫んだ。

 

「ああッ!? 邪魔するに決まってんだろ!? 《雷精の紫電よ》───ッ!」

 

「仲間を浚われて、黙って見ていられるわけありませんわ! 《大いなる風よ》───ッ!」

 

「くっ!?」

 

 シーダは個室席内に身を隠し、飛来してくる呪文をやり過ごす。

 

「リィエルなんて、どうせ貴女達にとっては縁の薄い人物でしょう!? 考え直しなさいッ! それよりも───貴女達も私達の仲間になりなさいッ!」

 

 呪文の応酬を続けながら、シーダが叫ぶ。

 

「私達と共に、行きましょう!蒼天十字団(ヘヴンズ・クロイツ)にッ!」

 

「はっ───ッ!? 馬鹿も休み休み言え───」

 

「だって、貴女達も本当は、息が詰まっていたのでしょう!?」

 

 シーダの叫びに、一瞬、コレットとフランシーヌの動きが硬直する。

 

「貴女達だって本当は苦しかった! 家に縛られ、学校に縛られ、自由は、自分の意思は何1つない! こんな状況、破壊したかった! 何か自分は他者と違うと縋るものが欲しかった───だから、あんな『派閥』で粋がっていた! そうでしょう!?」

 

 なさに、シーダのその指摘は───図星だった。

 

 それを好機とみたシーダがより一層、熱心に説得にかかる。

 

「だから、私達と一緒に行きましょう! 蒼天十字団(ヘヴンズ・クロイツ)にッ! それで、貴女達が心底望んだすべてが、簡単に手に入るんですよ!? 苦しみが解決するんですよ!?」

 

 沈黙。戦いの最中、ほんの一時、生まれた静寂。

 

 だが……

 

「お断りだ」

 

「お断りですわ」

 

 コレットとフランシーヌは同時に、そう力強く答えていた。

 

「な、なぜ───?」

 

「ああ、いや、確かに魅力的だ……実は、すげぇ行ってみたいわ、正直」

 

「政府の秘密機関の研究員……もしくは、諜報員……なるほど確かに。家に縛られず、自由に、他の何者でもない、何かになれる……正直、とても心が揺れますわね」

 

「はは、やべぇな……ついちょっと前のアタシらだったら、のこのこついていったかも」

 

「ええ、本当に……」

 

「だ、だったら、素直に、私達と一緒に───」

 

「でも、駄目なんだよ、それじゃ!」

 

 コレット達から帰ってくるのはやはり、拒絶だった。

 

「同じなんだよ、結局! それは自分の力で摑んだもんじゃねえ!」

 

「今と状況は何1つ変わっていないのです! しがらみのままに、何の目的もなく、学院に在籍し、さも自分達は特別であろうと思い込もうとしていた今までの状況と、何1つ変わっていませんわ! 鳥かごの形が多少変わっただけですわ!」

 

「で、でも! だったら、どうすれば!? どうすればいいんです!? このままじゃ、私達の未来に希望は何1つないじゃないですかぁッ!?」

 

 結局、マリアンヌについた生徒達も……薄々わかってはいたのだろう。

 

 それは違うと。自分達の選択は絶対に間違っているのだと。

 

 でも、それしか、そうするしか、彼女達には思いつかなかっただけなのだ───

 

「私は嫌だ! こんな人生、嫌なんです!? どうすれば───ッ!?」

 

「確かにな。私達は詰んでるよな……経済的に超恵まれている代わりに、自由がとてつもなく制限されている」

 

「それを、世間知らずのお嬢様の甘えだと言われれば、それまでなのですが……」

 

「でも、レーン先生が言ってたよ。魔術師ってのは結局、どこまでいっても、自分の願望のために、世界の理すら曲げる傲慢で罪深い人種なんだ……と」

 

「だが、それゆえに、誰よりも自由でもある……」

 

 2人に対峙する女子生徒達は、なぜかそんな2人の言葉に耳を傾けている。

 

 無視できない。まるでそれが救い主の言葉であるかのように。

 

「それに、お前らは訴えたのか?」

 

 コレットのその言葉に、女子生徒達の息が詰まる。

 

「自分達の親に、私は自分の好きな人と結婚したい! って……この中の誰でもいい、訴えたことのある奴が1人でもいるか?」

 

 誰も訴えるはずがない。それが自分達の人生だと諦めていたのだから。

 

「そんなこともしてねぇ連中が、自由なんて語ってんじゃねえ!」

 

 そう言って、コレットはすっかり意気消沈した女子生徒達を倒していった。

 

 この戦いの結末は如何に。




てか、いつの間にかロクアカ13巻発売されてるし! 全然気づかなかったわ!

受験勉強も一段落ついたし、明日買いに行こう
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