こうして、不意にリィエルを襲った一連の騒動が幕を閉じた。
マリアンヌはエルザの神風によって死亡。彼女に従った生徒達には、マリアンヌから思考を極端にしてしまう洗脳魔術を使われたような痕跡もあり、多少の情状酌量の余地が認められ、一時的な停学・謹慎処分となるに留まった。
だが、今回、マリアンヌに与していた女子生徒達が抱えていた心の問題は紛れもなく事実であり、それを誘因させる閉塞感が覆う校風も、今回の件で問題視されることになる。よって、中央から新たな学院長が派遣就任し、その閉鎖性の高い校風の改善取り組むことも決定。全ては丸く収まる運びとなった。
無論、釈然としない部分もあった。マリアンヌが口にした『
事件後、国軍省が厳しく追及・糾弾するも、魔導省のトップクラス高官達は、マリアンヌと『
結局、マリアンヌの言が真実だったのか、あるいはただの虚言だったのか───
真実は闇の中へと葬られることになった。
だが、いずれにせよ、事の発端がリィエルの無理矢理すぎる『落第退学』処分だったことは厳然たる事実であり、反国軍省派のアルザーノ帝国魔術学院内における発言力は、大きく減衰。リィエルが短期留学を成功させたことにより、『落第退学』の口実も消滅。
ルミア直近の護衛は、引き続き、リィエルが担当する運びとなった。
そして───
◆
ある晴れた空の下。
聖リリィ魔術女学院敷地内の鉄道列車駅構内にて。
がしゃんがしゃんと機関音を立て、煙突から煙を上げながら、ゆっくりと新しい蒸気機関車が駅構内に入ってくる。途端、辺りを微かな石炭の煙の臭いが漂い始める。
そして、そんな列車の昇降口の前に……人だかりができていた。
グレン達と、2年次生月組の生徒達の面々である。
本日は、ついにグレン達が、アルザーノ帝国魔術学院へと帰還する日。
月組の生徒達は全員総出で、その見送りに来ていたのであった。
「うう……レーン先生……とうとうお別れですね……」
「お疲れ様です。短い間でしたが、今まで大変お世話になりました」
「なぁ、先生。その……なんつーか……あたし、アンタと会えてよかったよ」
フランシーヌ、ジニー、コレットが、クラスの女子生徒達を代表して、代わる代わるグレンへ握手を求め、別れの挨拶を口にしていく。
「システィーナとルミアもな。……アンタらとやり合うの、ケッコー、楽しかったぜ?」
「こちらこそ……って言っていいのかしら?」
「あはは……うん、私達も素敵な思い出が出来たよ。ありがとう」
システィーナもルミアも朗らかに笑っている。
ごくごく短い間ではあったが……彼女達の間には確かに友情があった。
「確かに、貴女達とはよく喧嘩したけど……こうしていざお別れとなるとなんだか、寂しいものね……」
「そうですわね……」
システィーナがしみじみと言い、フランシーヌが頷く。
すると、コレットがこんなことを言い始めたのだ。
「なぁ、システィーナにルミア。いつか私も、お前らの学校……アルザーノ帝国魔術学院へ留学してもいいかな?」
「!」
「なんつーか……興味が出てきたんだよ。レーン先生やお前らが、普段過ごしている学校がどんなところなのか……見てみたいんだ」
「おーっほっほっほっほ! コレットにしては名案ですわねッ! そうですね、その時はわたくしと、ジニーも一緒させていただきますわっ!」
「うへぇ……面倒臭いなぁ……」
コレットの名案に、フランシーヌが高飛車に笑い、ジニー無表情でぼやく。
「あははっ! それいいわね!」
「うん、その時は皆で歓迎するね!」
システィーナもルミアも、楽しそうに笑うが……
「それに……ほら、あれだ……」(照れ)
コレットが、グレンの左腕に組み付き……
「そちらの学院へ行けば……その……また、レーン先生とも会えますし……?」(赤面)
フランシーヌが右腕に組み付き……
「その……いつになるのか、正直わかんねーけどさ、先生……」
「どうか、待っててくださいまし……」
「お、おう……」
2人に熱っぽく迫られるグレンは、脂汗を垂らしながら頬を引きつらせるしかない。
「あははっ! やっぱ、来なくていいかも!」
「うん、その時は皆で塩を撒くね!」
……なんというか……システィーナとルミアの楽しそうな笑顔が、とても怖いのだ。
「はぁ……貴女達、ほんっとうに、最後までブレませんね……」
我関せずなジニーも、呆れ顔で肩を竦めていた。
「と、と、とにかくだっ!」
このままだと、何かが致命的に危ないので、グレンは2人を振りほどく。
「お前ら、今回の一件、本当に世話になったな! 礼を言うぜ!」
「ん……みんな、ありがとう……」
グレンの背後に隠れるように佇むリィエルも、ぼそりとお礼を呟く。
「なんかよくわからないけど……みんなのおかげで、退学にならないでいいみたい」
本当は喜ばしい、喜ばしいことなのだが……リィエルの顔は少し不機嫌そうに頬を膨らませている。
その理由はとても簡単で、この場にとある2名がいないのだ。
お察しの通り、アナスタシアとエルザである。
その頃、2人は駅構内の人目に付かない場所で───
◆
「それで、話って?」
アナスタシアはエルザと向かい合う形で話していた。
「まずは、本当の姿になっていただけませんか? その、女性の姿だと少し、話辛くて……」
エルザにそう言われ、アナスタシアは【セルフ・イリュージョン】で女体化している姿を変える。
「これでいいかな?」
「はい……」
今のアナスタシアの姿はアルスそのものだ。
「あの時……私の命を助けてくれたこと……今でも感謝しています、本当にありがとうございました」
「お礼を言われることじゃない……結局、君のお父さんやお母さんを救うことはできなかったし……」
「それでもです……それに、それだけじゃありません。今回だって……私を助けてくれました、あの時のように……」
「…………………」
「私にとって本当に大切なものを教えてくれた、父の教えを思い出させてくれた……そんな貴方は本当の意味で命の恩人なんです」
エルザはぽろぽろと涙を流しながら、腰を曲げ感謝を伝える。
「……それは違うよ」
「……?」
エルザの感謝の言葉を否定したアルスにエルザは首を傾げる。
「僕は君のお父さんから貰った恩を、君に返しただけだよ」
「父を知ってるんですか!?」
「……前に一度だけ会って、少し剣を教えてもらったことがある」
「貴方は……軍人ですか……?」
「さあね……ただ、君のお父さんには借りがあった。僕はそれを返しただけ……それでいいじゃないか」
「……そう、ですね……その方がいいのかもしれません」
エルザはアルスの言葉の意味が分かった。これ以上の詮索は止せと、その真意を正しく理解した。
「さ、行こうか。先生達の待つ場所へ」
そう言って、アルスは【セルフ・イリュージョン】を解呪しエルザへ手を差し伸べる。
「ふふっ……はい……」
エルザは微笑み、差し伸べられた手に自身の手を添える。
◆
「むむむ……嫌な予感がする……」
同時刻、手を顎に当て難しい顔をするルミアがいたとかいなかったとか……
短いけど許して……短期留学の後日談とか本当に何も思いつかないの!許して!