《世界》のアレス=クレーゼの初陣
フェジテが夜になった頃アレスはイヴに呼ばれた倉庫へ出向いた。
アレス=クレーゼは今、特務分室のメンバーに挨拶をしている。
「この度、帝国宮廷魔導師団特務分室執行官ナンバー21《世界》となりました。アレス=クレーゼです、よろしくお願いします」
アレスは挨拶をするが、全てのメンバーが唖然としている。
「……正気か?……こいつが《世界》だと……?」
アルベルトはイヴに言うが
「大丈夫よ、この駒は使えるわ……近接戦闘では《戦車》や《隠者》にも引けを取らないし、《星》程ではないけれど遠距離にも対応している……あなたなら分かるでしょう?こんなに使える駒を見捨てる程私は馬鹿じゃない」
イヴのその言葉に誰もが言葉を失う。
リィエルは、特務分室のエースと言われる程には強く。
バーナードは、40年前の奉神戦争で生き残ったほどの猛者。
アルベルトは、帝国随一の狙撃手という異名を持っていながら近接戦闘にも長けており
そんな人物と引けを取らないと言わしめるアレスに皆動揺を隠せない。そもそも特務分室のメンバーとは、全てが優れいる必要は無くどちらかと言えば『何かに特化した』人物の方が多いのだ。
『何かに特化した人物』それは、グレンやリィエルなどが当てはまる。グレンは魔術起動の完全封殺に特化した人物であり、リィエルは高速武器錬成に特化した人物だ。
『万能型の人物』それは、イヴとアルベルトが当てはまる。イヴはイグナイト家の
特務分室のメンバー全員が『万能型の人物』の類にアレスを当てはめただろうが、ここにいる全ての人物はアレスを見誤っていた。
アレスは『何かに特化した人物』だ。では、何に特化したのか──────それは『複製』だ。アレスはルミアの従者として生きてきた時と《無名》という名で暗殺者として生きてきた時がある。そんな人生の中で使えそうな物や技術は全て複製・再現し、少し改造したり組み合わせたりすることで、初めて特務分室のメンバーと同じ土俵に立てるのだ。
「他に何か質問はあるかしら?」
イヴはメンバーに聞くが誰も言葉を発さない。
「それじゃ《世界》あなたにはこれまで通り王女の護衛についてもらうわ」
「了解した。では、僕はもう行く」
そう言ってアレスは
アレスは紹介が終わるまで倉庫にいるつもりだったのだが、予定が変わった。ルミアの監視の為フィーベル邸に待機させていた使い魔が無くなったのだ。必然的に敵はフィーベル邸の防御結界を突破できるほどの強者ということになる。
「……間に合わないか……」
魔眼でこの先の未来を視るが、自分が到着したのはルミアが連れ去られた直後だった。
「《
この呪文で投影されたのは弓と3つの矢
「《
3つの矢を同時に放つが、フィーベル家を襲撃できるほどの手練れであるのならば稼げて数秒。だが、その数秒あれば
ルミアはフィーベル邸を襲撃したジャティス=ロウファンと話していた。
「……僕に協力しろ、ルミア=ティンジェル……僕が正義を執行するために……そして……今、未曽有の危機に陥っているこのフェジテを救うために……ッ!
話し終わる前にジャティスを三本の矢が襲った。
ジャティスは
「……つくづく君には驚かされるよ……これは
ジャティスは感心したように告げる
「……宮廷魔導師団……アレス君が……」
ルミアはジャティスの呟きに驚愕し
「アンタはフェジテを救うと言ったな……乗るよ、その作戦」
アレスの発言にジャティスは
「くはは……はっはっは……あっはははははははははははは──────ッ!」
ジャティスの嗤いにルミアはさらに驚く。
「まさか、君がこの提案に乗ってくるとは思わなかったよ……やはり、君だけは
ジャティスは先程から意味の分からない発言をする
「……その代わり、ルミアは攫わせないよ」
「構わないよ、君が僕の代わりをしてくれると言うのならルミア=ティンジェルは君にこそ必要だからね……」
断固たる意志を持つアレスとは裏腹にジャティスは意味あり気な発言をしながら通信魔術を使うための魔道具を渡す。
「そう言えば聞いていなかったね……君にとっての正義とは何かな?」
ジャティスの言葉にフィーベル邸を出ようとしていた、アレスの動きが止まる。
「……僕は別にグレン先生のように『正義の魔法使い』に憧れた訳じゃないし、貴方のように悪を根絶やしにするなんて立派な正義を持ってるわけじゃない……ただ……」
正義にもいろいろな種類がある。
グレン=レーダスの正義は苦しむ人々を助けること。
ジャティス=ロウファンの正義は悪を全て排除すること。
そのどちらも正義だ。
「……ただ……僕はルミアを守ること……それが僕にとって正義……」
観念したように、それでいて少し嬉しそうに言うアレスとは逆にジャティスは
「……たった1人の為に動くことが正義だと……?」
アレスを不思議そうに見ながらジャティスは問う。
「……うん、僕は1人の為に全てを捨てる……言わなくていいよ……これが他の人からすれば『悪』だということくらい分かってる……」
恐らく、グレンにとってアレスやジャティスのような人物は相容れない存在だろう。
グレンは、人々の助けを求める声を聞くと助けずにはいられない。
ジャティスは、自分という正義のためには人々が死ぬのは必要経費だと確信している。
アレスは、ルミアという存在を護るためならあらゆる存在を捨てる。
そんなことを思いながらアレスはフィーベル邸を出た。
「……アレス君って何者なの?」
フィーベル邸を出てすぐにルミアは質問した
「……すぐに分かるさ……」
アレスは曖昧に答える。
『まず、1つ目の試練だ……フェジテ行政庁市庁舎の中にある『マナ
ジャティスからの指示が来たのでアレスはルミアを抱えながらフェジテ行政庁市庁舎へと向かって行った。
フェジテ行政庁市庁舎の中へと入り、認識操作と異界化の術を駆使してあったがアレスの1分にも満たない
今のアレスは魔眼を常時起動しているため、
階段の突き当りにある小部屋にアレスとルミアが着くと床に禍々しい造形の法陣が敷設されていた。
「……なに……これ……」
ルミアは禍々しい法陣を見て驚愕する。
アレスはルミアのそんな姿を見ながら、
「ルミア、僕に異能を行使してくれないかい?」
アレスがそう言うとルミアは自身の手をアレスの背中に当てる。
「《終えよ天鎖・静寂の基底・理の頸木は此処に開放すべし》」
ルミアの異能を受け黒魔【イレイズ】を使って
「……ねぇアレス君……これは一体……」
ルミアは
「……聞いたことがあるかは知らないけど
「……ジャティスがフェジテを救うと言っていた理由はこれだよ……こんなものをフェジテに放たれれば間違いなく滅ぶだろね」
「……そんな……ッ!?」
アレスの言葉にルミアは後ずさり誰かにぶつかった──────アレスによって
ルミアとジャティスの2人きりにはさせないです。