廃棄王女と天才従者   作:藹華

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 この作品って、原作で行くと今9巻をやっているんですよね。飽き性の僕がここまでできたのは応援してくださっている皆さまのおかげです。

 本当にありがとうございます。


アレスの固有魔術の正体

「まったく、未完成で研究が凍結された代物だったはずなのに、どこから技術提供を受けたんだろうね……?まさか、連中が【メギドの火】なんて持ち出してくるなんて……くっくっく……その出所は余程、邪悪な組織に違いない……」

 

「出所はどうでもいいッ!つまり『急進派』の連中は────ルミアを殺すため、このフェジテを丸ごと吹き飛ばそうってことなのかよッッッ!?究極の自爆テロでッ!?」

 

 グレンの指摘にジャティスは薄ら寒く笑いながら言った。

 

「当然──────そんなことは、この正義の代行者たる僕が許さない」

 

 ジャティスは続ける。

 

「グレン、『Project(プロジェクト)Frame(フレイム)of(オブ)Megiddo(メギド)』について、説明しよう。現在の【メギドの火】の起動には、潤沢なマナが流れる霊脈(レイ・ライン)と『マナ活性供給式(ブーストサプライヤー)』と『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』の2種類の魔術式が必要だ」

 

「潤沢なマナが流れる霊脈(レイ・ライン)を有する霊地……つまり、フェジテか?」

 

「その通り。そして『マナ活性供給式(ブーストサプライヤー)』とは、土地の霊脈(レイ・ライン)霊点(レイ・スポット)に直結接続させ、その霊脈(レイ・ライン)に流れる外界マナを臨界点まで励起活性化……土地に張り巡っている霊脈(レイ・ライン)を通して、その『臨界励起マナ』を『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』へと送る術式だ」

 

「つまり……そいつだな」

 

 グレンはアレスとルミアの足元にある魔術法陣に目を向ける。

 

「ああ……この『マナ活性供給式(ブーストサプライヤー)』は、中央区、西区、そしてここ南区の3ヶ所に敷設され、すでに全開稼働していた。アレスにはルミアの『感応増幅者』を使って、その3ヶ所の『マナ活性供給式(ブーストサプライヤー)』を解呪(ディスペル)してもらっていたのさ……グレン、君が敵の目を引き付けているうちにね」

 

「ちっ……」

 

 グレンはジャティスにあからさまな舌打ちをする。

 

「さて、僕は連中の計画を摑み、それを防ぐため、アレスに協力してもらったんだけど……何せ初動が遅れてね。3ヶ所の『マナ活性供給式(ブーストサプライヤー)』を解呪(ディスペル)してもらったんだが、もうすでにかなりの量の『臨界励起マナ』が、霊脈(レイ・ライン)を通して『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』へと供給されてしまったんだ……このままでは、やはり【メギドの火】の起動は……フェジテの滅びは避けられない……尽力はしたんだがね……」

 

「ふん……本来なら帝国宮廷魔導師団が総出で当たらなきゃならん案件だ……てめぇとアレスの2人で、ここまでやったことだけは褒めてやるよ」

 

 グレンはジャティスを睨みながら問う。

 

「……で?その最後……『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』は、フェジテのどこに敷設されているんだ?それさえ解呪(ディスペル)しちまえば【メギドの火】の起動は防げる……そうだろう?」

 

「ああ、その場所とは────「アルザーノ帝国魔術学院」

 

 ジャティスの言葉を遮るようにアレスは言った。

 

「「────ッ!?」」

 

 アレスの言葉にジャティスは薄ら笑い、ルミアとグレンは息を飲む。

 

「……これも読めなかった(・・・・・・)……まあいい。アレスの言う通りさ……密かに学院に仕掛けられた『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』は、すでに『初期起動(プレ・ブート)』を終えており……あとは『2次起動(セミ・ブート)』……そして『最終起動(ファイナル・ブート)』の時を待つのみだ……僕の計算によると、その時限は本日の日没─────この時、フェジテは滅びる」

 

「…………ッ!?」

 

「グレン……今、この時に限り、僕達の利害は一致しているはず……ここは1つ、しばらくの間、共同戦線と洒落込まないかい?共にこのフェジテを救おうじゃないか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、アルザーノ帝国魔術学院では校舎を揺らす激震と硝子が砕けるような壮絶な音がした。

 

「……ば、馬鹿な……嘘だろ……ッ!?」

 

 ただ1人、この事態の真相を正しく認識していたギイブルがうろたえている。

 

「な、何が起きたというんですの!?ギイブル!」

 

 真っ青になったウィンディの問いにギイブルが応じる。

 

「……この学院を守る結界が……破壊された」

 

「え?」

 

「設定を誤魔化したとか、術式に介入して無効化したとかじゃない。強引に、力ずくで、破壊されたんだ……ッ!嘘だろ……そんなこと人間にできるわけが……ッ!?」

 

「あ、あいつは……誰だ!?」

 

 教室の窓から外を見ていたロッドが素っ頓狂な声を上げ、皆が見るとそこには妙な男がいた。

 

 白鎧とローブを組み合わせたような衣装を纏い、右手に槍、左手には十字架の印章が入った白き大盾。妙に前時代的な……時代錯誤感のする男だ。現れた巨大魔術法陣の中心に王のように立つ男だった。

 

 そして、この男の前にはハーレイやツェスト男爵を筆頭とした、アルザーノ帝国魔術学院の講師・教授陣がいた。

 

「貴様ぁッ!?この神聖なる学舎で、一体、何をやっているのだッ!?」

 

「流石にそれは看過できんのう、どこの誰やも知らぬ君……」

 

「今、貴様が起動したその魔術が何なのか、理解しているのか!?」

 

「……当然。これは【メギドの火】─────すべてに等しく滅びと安寧をもたらす術だ」

 

 ハーレイの問いに男は答える。

 

「馬鹿な……ッ!?そんな大掛かりな儀式魔術を、我々の目を掻い潜って、いつの間に仕掛けた─────ッ!?」

 

「恥じなくてもよい。これは元からここに敷設されていたものだ」

 

「なん……だと……」

 

 驚愕するハーレイ達の前で男は真実を告げる。

 

「さて、世界最高峰の学舎に集う誉れ高き賢者諸君……この学院の創設者……アリシア三世はご存知かな?」

 

「と、当然だッ!400年前、アリシア三世王女殿下が、帝国の未来のためにと、この学院を創設したからこそ、我々は日々、魔術の研鑽に─────」

 

「そのアリシア三世こそが【メギドの火】の開発計画─────『project(プロジェクト)frame(フレイム) of(オブ) megiddo(メギド)』を打ち立てたのだよ……このフェジテを完全に地図から消すためにな」

 

「……は?」

 

 男の予想外の発言に絶句する教授と講師達

 

「もっとも。当時の魔導技術不足から『project(プロジェクト)frame(フレイム) of(オブ) megiddo(メギド)』は頓挫したが……ここに敷設された『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』は残った。私はそれを利用しただけのこと……」

 

「バカな……そんなことが……崇高なる王家の者がそのようなことを……ッ!?」

 

 この男の言うことを信じる者などいない……はずだった。それはこの【メギドの火】を打ち立てた人物にある。

 

 アリシア三世─────”何かとてつもない脅威が空からやってくる”『遥か遠き後世、聖なる王の血より生まれ落ちる悪魔の化身が国に災いをもたらす』などの予言をした人物であり、原因不明の病に冒され発狂していた……といった曰く付きの人物だ。

 

 アルザーノ魔術学院の聡明なる創設者である、アリシア三世はとても不吉な噂の絶えない人物なのだ。

 

「この魔術法陣を起動させるわけにはいかん!拘束させてもらうよ!」

 

 いち早く、我に返ったツェスト男爵が呪文を唱えようとすると

 

「させぬッ!」

 

 男が槍の石突で地面を突くと、衝撃が学院を襲った。

 

 男を中心に巻き起こる壮絶な衝撃波が、地を這って同心円状に放射されたのだ。

 

「「「ぎゃあああああああああ─────っ!?」」」

 

 その衝撃波に対応できなかった者が吹き飛ばされていった。

 

「全ては大いなる天の智慧のため─────偉大なる大導師様のためッ!我が悲願、妨げる者は何人たりとも容赦はせぬッ!心せよッ!」

 

 圧倒的存在感を放ちながら男は続ける。

 

「我は天の智慧研究会・第三団≪天位≫(ヘヴンズ・オーダー)ッ!《鋼の聖騎士》ラザール!このフェジテを神の火以て焼く者なりッ!それを拒みたくば─────この我を越えていくがいい!」

 

「くっ……魔術なしでこの威力……なんていうやつだ……ッ!?」

 

「やれやれ、とんでもない化け物がやってきたようだのう……ッ!?」

 

 先程の衝撃波を黒魔【フォース・シールド】で防いだ、ハーレイとツェスト男爵は呻く。

 

「まずいぞ、ハーレイ君。……《鋼の聖騎士》ラザールと言ったかね……200年前の六英雄との関係はまったくもって不明だが……いずれにせよ、どうやら彼奴は、今は小さく燻る種火に過ぎぬ【メギドの火】を守る門番ということらしい……」

 

「ええ、そうでしょうね。やつをなんとかしない限り、解呪(ディスペル)どころの騒ぎではない」

 

 左手をラザールに向けながらハーレイは言う。

 

「……やるのか?ハーレイ君」

 

 ツェスト男爵は真剣な表情で問う。

 

「君も聞いただろう?信じがたい話だが、彼奴は天の智慧研究会……しかも、都市伝説とされていた幻の最高位階、第三団≪天位≫(ヘヴンズ・オーダー)だぞ?……見たまえ」

 

 ツェスト男爵の視線の先には先程の衝撃波によって戦闘不能となった講師・教授達だ。

 

「ただの一撃でこれだよ。世界最高峰の学舎に集う腕利きの魔術師達が為すすべもなく……しかも、あろうことに、魔術もなしにね」

 

 ツェスト男爵は痛ましそうにステッキを振りかざす。

 

「とりあえず、彼らは学院の医務室送っておこうか……セシリア先生には悪いがね」

 

 その言葉と同時に戦闘不能だった者が幻のように消える。短距離転送魔術─────さりげなく超絶技巧を披露するツェスト男爵が、それを誇るまでもなく続ける。

 

「恐らく、退くという選択肢が正しいのでしょうね。魔術師は騎士ではない……だが、この学院は魔術研究者としての私の全てなのです。私は私の物が、私以外の何者かに好き勝手されることが我慢ならない」

 

 その言葉を聞いたツェスト男爵も

 

「いいだろう!私も別にこの学院の男子生徒など、どうなっても構わんが、可愛い可愛い女子生徒達が吹き飛ばされるのは我慢ならんッ!当世に名高き第六階梯(セーデ)の力、存分に味わってもらおうか!」

 

 欲望を曝け出したような発言に感化されたように、まだ無事な講師・教授は呪文を唱え始める。

 

「……見せてもらおう。この国でもっとも賢き者達の力を」

 

 ラザールは盾を構えながら言うと

 

「《投影開始(トレース・オン)》」

 

 声が上から聞こえ、講師・教授は詠唱を止め、ラザールは足を止めた。

 

 上から声が聞こえたから止まったわけでは無い。ラザールを中心とした半径5メトラに数十個の剣が現れたからだ。

 

「なにッ!?」

 

 ラザールが言葉を発すると同時に、空間に投影された剣は一斉にラザールに射出された。

 

 

 

 

 

 

 その頃2組は

 

「おい!上!」

 

 カッシュの指摘に全員が上を見ると、そこには不思議な服を着たアレスが赤髪の女性を抱きかかえながら急降下していた。

 

「「「アレス!?」」」

 

 その場にいる全員が『やばい』と思った。すごい勢いで降下してきているのだから。

 

 着地すると煙こそ出たがアレスはピンピンしていた。

 

 

 

 

 

「……貴様、何者だ」

 

 アレスを見たラザールの第一声はそれだった。

 

「……ただのしがない学生さ」

 

アレスは赤髪の女性を下ろしながら答える。

 

「……では、質問を変えよう。その魔術はなんだ」

 

 ラザールの疑問はもっともだ。魔術師は元素と物質を扱う『魔術』を『錬金術』と呼ぶ。

 

 『錬金術』─────それは、元素と物質を操りそこに『あったもの』の元素配列を変え別の物とする。例外としては人工精霊(タルパ)だ。だが、アレスがしたことはなんだ?空間に剣を生成した。普通に考えて有り得ない。

 

 『錬金術』で説明するのなら、アレスは『剣』という物体を空気中にある『元素と物質』だけで創ったことになるのだ。

 

「……アンタに僕の『魔術特性(パーソナリティー)』を教えてあげるよ……僕の『魔術特性(パーソナリティー)』は【万物の複製・投影】だ」

 

「「「ッ!?」」」

 

 白状するように呟くアレスとは裏腹に講師・教授は息を飲む。『魔術特性(パーソナリティー)』とは良くも悪くも、その人の使う魔術に影響を与える。アレスの【万物の複製・投影】は嫌われる『魔術特性(パーソナリティー)』だ。

 

 魔術とは、魔術師とは、常に『なにか』新しいものを探し、『なにか』を新しく見つけ出す者達なのだ。アレスの『魔術特性(パーソナリティー)』である【万物の複製・投影】とは魔術師として対極に位置するものだった。

 

 アレスはこの『魔術特性(パーソナリティー)』のせいで、1度その魔術を視なければ(・・・・・)黒魔【ショック・ボルト】を起動することさえできないのだ。簡単に言うのならアレスに魔術師としての才能はない、それこそグレン以上に。

 

「……魔術師としては使えない『魔術特性(パーソナリティー)』だよ、僕には魔術師としての才能はない……でもね……こんな『魔術特性(パーソナリティー)』でも大切な人を守るくらいのことは出来るッ!」

 

「……貴様ッ!まさかッ!?」

 

 ラザールは答えにたどり着いたのだろう。

 

 アレスの掌の中は青く輝いていた。

 

「辿りついた答えは─────武器も魔術すらも複製・投影する。【万物の複製・投影】という『魔術特性(パーソナリティー)』を利用し、相手の扱う魔術や得物を視て、それら全てを自分も使えるようにする。彼我にどれほど差があっても、自分を相手と同じ領域まで高める、そんな術」

 

 アレスの声を答えを聞いた講師・教授達は、このような状況でなければ鼻で笑っただろう。だが今、この状況で、魔術師として無価値だと思われていた『魔術特性(パーソナリティー)』を用いて、強大な敵に立ち向かうその姿は紛れもなく英雄(・・)であった。




イヴをどうするか迷ったけど、攫っちゃったぜ

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