廃棄王女と天才従者   作:藹華

55 / 89
 タイトルに関してはアレス君は自称『悪』とラザールはフェジテを滅ぼす『悪』ということですね。


悪と悪

 アレスが何故イヴを連れて魔術学院に来たのか……それは少し時間を遡る。

 

 

 

 

 

件の地下室から抜け出し、馬車で急ぎ魔術学院へ向かうことになったグレンだがアレスは馬車に乗らなかった。

 

「アレス、馬車に乗れ急ぐぞ」

 

 グレンはアレスに言うが

 

「……グレン先生……ルミアを任せていいですか?」

 

「……なにかあったのか?」

 

 グレンはアレスが未来を予知できることにある程度勘付いている。

 

「……敵がもう学院に来ています」

 

「「ッ!?」」

 

 アレスの言葉にグレンとルミアは驚く。

 

「……俺達が行くまで死ぬんじゃねえぞ?」

 

 真剣な表情で言うグレン。

 

「……先生……『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』を解呪(ディスペル)するか、起動するかの判断は任せます」

 

「はぁ!?」

 

 アレスの言葉にグレンは驚愕する。当たり前だ。『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』に『臨界励起マナ』を送らないために『マナ活性供給式(ブーストサプライヤー)』を解呪(ディスペル)してきたのに、『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』を起動するかどうかはグレンに任せると言ったのだ。

 

 だが、アレスはグレンが疑問を言う前に疾風脚(シュトロム)で行ってしまった。

 

疾風脚(シュトロム)まで使えんのかよ……」

 

 そんなグレンの呟きは空へと飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アレスが疾風脚(シュトロム)を使って魔術学院へ向かっていると、赤髪の女性──イヴがビルの屋上で待機していた。

 

「アレス、私と協力して《正義》を討つわよ」

 

 イヴはアレスに向かって言った。

 

「……………」

 

 対して、アレスは無言でイヴを見る。

 

「……なによ、犬が私に逆らう気ッ!?」

 

 アレスの目が気に入らなかったのかイヴはアレスに怒鳴る。

 

「……また……アゼルの命令……?」

 

 アレスの言葉にイヴは声も出せない程に驚愕する。

 

「……もう……やめないか?自分を……仲間を犠牲にするのは……」

 

 アレスはイヴを説得しようとする。

 

「ッ!?……貴方に私の何が分かるって言うのよッ!……私はイグナイト家なの!私は誰よりも優秀なんだから!?」

 

 アレスはいつの間にか右手に握っていた歪な短剣でイヴを刺した。

 

「……そんな建前を聞いてるんじゃない……イヴ=イグナイトではなく、ただの魔術師としてのイヴはどうしたいんだ?」

 

 アレスが破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)をイヴに刺した理由は、イヴがイヴ自身にかけている暗示を無効化するためだ。

 

 この暗示は『イグナイト家の名誉を守る』ことにのみを行動目的にするように設定されている。もちろん、イヴはかけたくてかけているわけではない。イヴの実父である、アゼル=ル=イグナイトの押し付けによるものだった。

 

 この暗示のせいでイヴは、自分のやりたいことを口にすることさえ出来ない。だが、もうその縛りは無い。アレスの破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)のおかげで暗示が無効化されたからだ。

 

「……助け……たい……」

 

「……誰を?」

 

「……弱ってる人……苦しんでる人を助けたい……」

 

 イヴは泣きながらアレスに心の内を吐露していた。

 

 イヴ自身分からなかった。何故、自分がこんな簡単に心の内を吐露してしまうのか。

 

「……これは僕もナンバー剥奪処分かなぁ……」

 

 アレスはイヴにすら聞こえない位の声量で呟いて、イヴをお姫様抱っこした。

 

「きゃ!?」

 

 イヴの悲鳴に似た声をアレスは無視し

 

「ごめん、急がないとマズイ……」

 

 手短に謝罪し全力の疾風脚(シュトロム)で魔術学院へと向かったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事、学院の屋上へと着いたアレス。だがそこには、白鎧の男を中心に魔術法陣があり、教師陣は男と魔術法陣を止めようとしたのだろうが半数以上が戦闘不能となっていた。

 

「イヴ、貴女は支援を頼む」

 

「なっ!?私だって戦えるわ!」

 

「知ってる、でも本当の敵はラザールじゃない……その魔力はできるだけ残しておいて欲しい」

 

「……わかったわ」

 

 アレスの言葉には不思議と説得力があったので、イヴは渋々承諾する。

 

「《投影開始(トレース・オン)》」

 

 その返事を聞いてアレスは魔術を起動し、ラザールの周りに剣を投影していた。

 

 その剣を全てラザールに向けて射出する。

 

「なにッ!?」

 

 ラザールが驚愕したのが伝わってくるが、そんなことはどうでもいい。

 

 今のは単なる時間稼ぎ。敵が倒せるのならそれでいいし、倒せなくても砂埃によって時間は稼げる。

 

 

 

 

 

 

 

 アレスと別れたグレン達は馬車でアルザーノ帝国魔術学院へと向かっていた。

 

「……さて、いよいよ始まったようね……」

 

 ジャティスは人工精霊(タルパ)で作成した馬を操りながら呟く。

 

 そして、その馬車の向かう先───アルザーノ帝国魔術学院の上空は、大地から立ち上る幾条もの紅の閃光によって、紅蓮に染まっていた。

 

 破滅の序曲───【メギドの火】の『2次起動(セミ・ブート)』が、ついに始まったのだ。

 

「ちぃ───ッ!だったら、とりあえず、急ぎやがれッ!」

 

「ははは、焦るなよ、グレン……」

 

 ジャティスはそう言うと、軽やかに手綱を引く。

 

 すると、人工精霊(タルパ)の馬車が、全く減速せず、直角に曲がって右折する。

 

「どぉおおおわぁああああああああ──────ッ!?」

 

 グレンは何度も馬車から落ちそうになる。

 

「……もう一度聞くが、もっと急いだ方がいいかい?」

 

「安 全 運 転 で お 願 い し ま す……ッ!」

 

 グレンは忌々しそうに見ながら答えるのだった。

 

 

 

 

 

「馬鹿なのかッ!?貴様ッ!?」

 

 アレスの魔術師としての答えを聞いたラザールは怒鳴るように言う。

 

「……どういう意味かな?」

 

 アレスはラザールにその言葉の意味を問う。

 

「我は魔術師ではないが、魔術師とは礼儀と誇りを重んじることくらい知っている……だが、貴様のその魔術は誇りを穢すものだろう!」

 

「……そんな誇りは当の昔に捨てたよ」 

 

 アレスは懐かしむように言う。

 

「誇りを捨てただとッ!?ふざけるなッ!貴様のような者が我等の計画を阻む……それこそ、我等が偉大なる大導師様に対する侮辱に他ならんッ!」

 

 アレスの言葉にラザールの怒りゲージは止まることを知らないだろう。

 

 それほどまでに、ラザールにとってアレスの発言は到底無視できないものだった。

 

 ラザールは200年前の魔導大戦で神への信仰を失ったが、世界を救った6人の英雄の内の1人であるという自負も誇りもあるのだ。

 

 誇りが無い者など偉大なる大導師様の計画に参加・邪魔をする権利すらない、ラザールはそう思っている。

 

「……そうか」

 

 アレスはそんなくだらない矜持に興味などない。

 

 その回答がラザールの逆鱗に触れたのか

 

「ふんッ!ルミア=ティンジェルなどという小娘に安い忠義を尽くす貴様には分からぬだろうがなッ!」

 

 この時、ラザールは言ってはいけないことを言った。

 

「……お前……面白いこと言うな……僕がルミアに対して安い忠義か……」

 

 アレスの雰囲気はこの場に集う全ての人物の時間が止めるくらいには不気味だった。

 

「何言ってんだよ耄碌ジジイ……逆に僕は、お前のような安い忠義を見たことがない」

 

「……なに?」

 

 声を絞り出してラザールは言う。

 

 アレスの思う真の忠義とは、自分の名誉も誇りすら大切な人物のために捨てられることだ。だが、ラザールは自分の誇りを捨てられていない。

 

「お前みたいな屑共が尊敬している大導師とやらは偉大なんだろう……だがな、ルミアはいつでも寄り添ってくれる……弱者も強者も関係なく全てを優しく包み込む……」

 

 アレスは怒気を孕ませながら言う。

 

「僕は偉大で先を行く大導師より、先を行かずにいつでも寄り添ってくれるルミアの方がよほど忠義を尽くすべき相手だと思うね」

 

 お互いが我慢の限界だった。己の信じる者を侮辱され、己の全てをかけるに値する人物を侮辱したのだ。

 

 アレスは剣を構え、突貫する。

 

 ラザールは、アレスの剣を受けるために盾を構えた。

 

 そして、アレスの剣とラザールの盾が衝突すると──────文字通りの爆風が巻き起こった。

 

「「「《光の障壁よ》!!!」」」

 

 この場に集う魔術師は全員【フォース・シールド】で防ぐ。

 

「くっ!……その剣、真銀(ミスリル)か!」

 

「…………」

 

 対するアレスは無言。もう、話すことはないと雰囲気が訴えている。

 

「ちっ……」

 

 ラザールは忌々しそうにアレスの持つ黄金と蒼銀の二振りの剣を見る。二刀流───ではないだろう。アレスがほぼ無限に剣を複製できるのであれば、それは二刀流ではなく多刀流だ。

 

 アレスはラザールにペースを渡さなかった。

 

「……ぬぅううううううう……」

 

 アレスはずっと、自身の力の限りを尽くしてラザールを盾ごと押さえ付けていた。

 

「《蒼銀の氷精よ・冬の円舞曲(ワルツ)を奏で・静寂を捧げよ》」

 

 アレスが剣を離したと思うと、イヴの魔術によってラザールは更に追い詰められる。

 

 そこから、ラザールは防戦一方だった。




 アレス君の口調がおかしくなってしまった……嫌なら言ってください。修正します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。