廃棄王女と天才従者   作:藹華

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 タイトルはですね~ふざけてるわけではないんですよ。

 神鉄って超魔法文明によって作られた『魔法金属』なんですよね……言いたいこと……分かりましたか?


ルールブレイカー万能すぎじゃね?

アレスは二振りの剣を以てラザールを追い詰めていた。

 

「ふっ!」

 

「くっ!」

 

 アレスは剣を巧みに扱い、ラザールに態勢を立て直す隙を与えない。

 

「《吠えよ炎獅子》」

 

「……ぬぅうううううううう……」

 

 アレスの厄介な点は、剣だけで押し切れないと分かったらすぐに軍用魔術を至近距離で放ってくるのだ。

 

 本来、ラザールの持つ日緋色金(オリハルコン)製の武装、通称『力天使の盾』は、あらゆる物理的・魔術的エネルギーを吸収し100%の効率で光へと変換・拡散するという魔力場を展開するという加護があるのだ。

 

 この加護を持つラザールを突破するためには、魔力遮断物質である真銀(ミスリル)で攻撃し尚且つラザール以上の手練れである必要がある。

 

 この2つが揃うことは奇跡と言っても過言ではない。ラザール以上の手練───それはつまり、人間の規格を大きく外れて強い人物より更に強い者……それ自体が奇跡的な確率なのだが、仮に現れたとしても魔力遮断物質である真銀(ミスリル)はそもそも産出量が少なく、また扱いが難しいので加工できる職人も少ないのだ。

 

 上記の理由から、本来ラザールを倒せる者など同じ六英雄の《剣の姫》エリエーテ=ヘイヴンだけだ。可能性を言えば、セリカがエリエーテの遺品たる真銀(ミスリル)の剣に白魔【ロード・エクスペリエンス】を使えば倒せる可能性はある。

 

 アレスの軍用魔術が通る理由は、真銀(ミスリル)で攻撃すれば一瞬だけエネルギー還元力場は崩れ魔術での攻撃も可能になるからであった。

 

「……このッ!」

 

 ラザールはそう言うと、今まで使わなかった槍を使い始めたのだ。

 

「ッ!」

 

 アレスはその不自然な動きに違和感を感じ後退する。

 

「……貴様はここで排除すべき敵だと認識した」

 

 その言葉と同時に、槍から絶大な法力で作り上げたかのように巨大な光の槍があらわれたのだ。

 

「《投影開始(トレース・オン)》」

 

「”真に、かくあれかし(ファー・ラン)”」

 

 アレスとラザールの言葉は同時で、2人が言葉を発した直後すごい爆風が魔術師を襲った。

 

 

 

 

 

 2組の教室では、アレスとラザールの戦いを窓越しで見ていた。

 

「す、すげえ……アレス、あの鎧の奴と互角に戦ってる」

 

 誰かがそう言うと、巨大な光の槍が形成された。

 

「「「ッ!?」」」

 

 クラス全員が息を飲んだ。

 

 みんなは直感したのだ。こんなものを喰らえばアレスだけでなく自分たちも死んでしまうと。

 

 みんなは目を閉じたが、いつまで経っても痛みはなく目を開けて見てみればアレスは再びラザールと戦っていた。

 

「あ、あれ?」

 

「……なに、が……」

 

「……起こったんですの……?」

 

 みんなは驚愕の声を上げる。なぜ光の槍は自分たちを貫かず、いつの間にか消失しているのだろうと……

 

 

 

 

 

「《投影開始(トレース・オン)》」

 

 アレスには光の槍を解析し、それに応じた武器を投影するだけの時間がなかった。

 

 そんなアレスが投影したのは、目の前にいるラザールが使っている『力天使の盾』だった。

 

 光の槍は真正面からアレスを貫こうと迫るが、アレスは『力天使の盾』によって光の槍を受け止めてみせた。

 

「「「ッ!?」」」

 

 魔術師は驚愕し、ラザールに至っては自分の『力天使の盾』が取られたのではないかと何度も見比べていた。

 

「……別に驚くことじゃない……」

 

 アレスは盾を投げ捨てながら言う。

 

「……言ったろ?自分を相手と同じ領域まで高めるって」

 

「我の武器を複製したとでも言うのかッ!?」

 

 ラザールも魔術師達も信じられなかった。アレスと同系統の『魔術特性(パーソナリティー)』の者は珍しいがいることにはいるのだ。そういった魔術特性(パーソナリティ―)を持つ者は、構造を全て理解しなければ魔術も武器も複製などできないはずだ。

 

 ましてや、その場で解析系の魔術も無しに構造を理解し複製するなど不可能だ。

 

「《投影開始(トレース・オン)》」

 

 アレスのその呪文に呼応するように複製されたのはラザールの持つ槍───《聖槍ロタリキア》だった。

 

「バカなッ!?」

 

 ラザールは目の前の光景に驚愕を隠せない。

 

「”偽・真に、かくあれかし(ファー・ランⅡ)”」

 

 アレスのその言葉でラザールが先程放ったような光の槍が形成され、ラザールを貫こうと迫る。

 

「─────────ッ!?」

 

 だが、ラザールにも『力天使の盾』があり、それを使って受け止めた。

 

「《……─────・いざ森羅の万象は須く此処に散滅せよ・遥かな虚無の果てに》─────ッ!」

 

 唐突に【イクスティンクション・レイ】の呪文が聞こえた。

 

「─────な!?【イクスティンクション・レイ】だと!?」

 

 ラザールは咄嗟にそれに向かって盾を構える。

 

 だが、ラザールの盾は神殺しの術式である【イクスティンクション・レイ】すらも防いでみせた。

 

「げ!?防いじまうのかよ!?ま、マジかよ……」

 

グレンは続けて

 

「ま、まぁいいや……馬鹿騒ぎは───終いにしようぜ?」

 

 ラザールに銃を向けながら言った。

 

 

「グレン=レーダス!?」

 

「グレン君!?」

 

 ハーレイとツェストは驚く。

 

「「「グレン先生!?」」」

 

「ルミアまで……!?」

 

 学院の生徒達も目を剝く。

 

「ちっ……これが【メギドの火】の『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』ってやつか……」

 

 グレンは呟く。

 

「どうやら事情は知ってるようだな!?ならば、話は早い!あの男の持つ盾は特別製で私たちの攻撃が通らんッ!」

 

「そうみたいっすね……俺の【イクスティンクション・レイ】すらも……」

 

「アレス=クレーゼがあの男を引き付けているうちに『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』を解呪(ディスペル)しろッ!」

 

 グレンはハーレイの言葉を聞きアレスを見ると、ラザールの盾を封じ込めながら槍を捌くという人間離れしたことをやってのけている。

 

「……アレス君……」

 

 グレンの隣にいるルミアは心配そうにアレスの名を言う。

 

「……うぉおおおおおおお────ッ!」

 

 すると、ラザールは槍を突き立てながら叫ぶ。

 

 ラザールのその掛け声に応じるかのように槍は輝きを増し、光の槍を形成する。

 

 先程の光の槍と違うのは、真正面からではなく上から押し潰すように向かってくるということであり、巨大な光の槍であるため『力天使の盾』では完全には防ぎきれない。

 

「《熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)》」

 

 それは、アレスが知る限り最も強固な盾だった。しかし、アレスには魔力があまりなかった。それはそうだろう、今日の朝から疾風脚(シュトロム)を使い続け何度も投影をした。逆にここまで奮闘していられることがおかしいのだ。

 

 校舎全体を守るように展開された花弁が3枚あり、上を守る盾と上から貫く光の槍が激突した。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお────ッ!」

 

「はぁああああああああああああああああああ────ッ!」

 

 ラザールとアレスの雄叫びは、槍と盾の持つ力を高めていく。

 

「「「…………」」」

 

 その光景に誰もが言葉を発せない。その場では文字通り、最強の矛と最強の盾がぶつかり合っていた。

 

「ああああああああああああああああああ────ッ!」

 

 アレスの叫びに呼応するかのように花弁は輝き爆発した。

 

「……見事……我の『法力剣(フォース・セイバー)』を2度も防ぐとは……」

 

 ラザールはアレスに向かって初めての称賛を送った。ここまで来ればラザールも称賛を送らざるおえない。

 

 『聖剣』シリーズの最高傑作とされる『聖槍ロタリキア』の『法力剣(フォース・セイバー)』とは邪神の眷属すら殺せる程の力を持っている。アレスはそれを2度も防いでいるのだから

 

 煙も晴れラザールの視界に映ったアレスは満身創痍だった。肌の色は青白く、右腕を潰され立つことすら辛い状態だった。

 

「……《天使の施しあれ》」

 

 白魔【ライフ・アップ】を使い右腕をぎりぎり使えるくらいの状態まで治癒する。そうして使えるようになった右腕で魔石を砕いて魔力を少し回復する。

 

「まだ戦うか……貴様では我に勝ち目など無いぞ?」

 

「……グレン先生……早く……『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』を……ッ!」

 

 そこから先の言葉はラザールの攻撃により紡がれることはなかった。

 

 その言葉を聞いてグレンはルミアを連れて『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』の解呪(ディスペル)を始めようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グレンは『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』を見て

 

「ラッキーだな……全っ然大したことねぇ……俺の腕と残存魔力で、充分解呪(ディスペル)が可能だ!」

 

 グレンはニヤケながら言う。

 

「そ、そうなんですか……?」

 

「ああ。絶対、お前の『異能」を使うことになるだろうって踏んでたからよ……ほら、皆が校舎から俺達のことを見てるだろ?いざ、事に及ぶ時、幻術でお前の姿を隠さなきゃなって、思っててさ……」

 

 この国────アルザーノ帝国では何故か『異能者』に対する偏見と迫害が強い。

 

 ルミアがこの場で異能を使ったことが皆にバレればルミアの居場所はなくなるだろう。

 

「《原初の力よ・我が血潮に通いて・道を為せ》!」

 

 黒魔【ブラッド・キャタライズ】を使って解呪(ディスペル)しようとするが、指を止める。

 

 グレンは感じ取ったのだ──────都合が良すぎることに。

 

 『マナ活性供給式(ブーストサプライヤー)』はルミアの『感応増幅』が無ければ解呪(ディスペル)できないのに、何故『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』の解呪(ディスペル)にルミアの『感応増幅』が必要ないのか……

 

 おかしい。これだけは、絶対におかしい。

 

 あまりにも機能が高度で複雑な術式は、そのデリケートさゆえに解呪(ディスペル)が容易いことは多い。だが、そう言う場合は後付けで何重にもプロテクトをして然るべきだ。

 

 そして、アレスのあの言葉─────「『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』を解呪(ディスペル)するか、起動するかの判断は任せます」

 

 グレンが苦悩していると

 

「先生……どうか、先生の思うままになさってください」

 

「る、ルミア……お前……?」

 

 ルミアはどこまでも穏やかだった。

 

「はっきり言って、俺の予感に確証はない……俺はただ、お前から居場所を奪ってしまうだけかもしれないんだぞ……?」

 

「……それは、先生が皆を助けようと、必死になった結果ですから」

 

「……ルミア……」

 

「……どうか、私の『異能』をお使いください、先生……」

 

 ルミアの身体から黄金の光が出てきた。

 

 

 

 

 

 2組の生徒は驚いていた。

 

「な、なんだ!?ルミアが……光って……ッ!?」

 

「あれは一体なんなんだ!?どういう現象なんだ!?」

 

 

 

 グレンはルミアの『異能』を受け魔術を起動する。

 

「《賢者の瞳よ・万の理を見定めよ・我が前にその大いなる智慧を示せ》─────ッ!」

 

 グレンは【ファンクション・アナライズ】を起動し、『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』を解析する。

 

「……答え……見つかりましたか……?」

 

 グレンに寄り添うルミアは静かに問う。

 

「……ああ。見つけた……俺はこいつを解呪(ディスペル)せずに起動(・・)しようと思う」

 

 

 

 

 一方、起動するというグレンの言葉を聞いたアレスは微笑んでいた。

 

『……どうするの?ここにいる人達はパニックになると思うけど?』

 

 イヴは通信魔術を使ってアレスに問う。

 

『……僕が全ての責任を取るさ……ジャティスに協力したのも僕が最初だしね……』

 

 通信魔術で返すアレス。

 

「な、な、な、あの男、何をやっているのだぁあああああああああああ─────ッ!?」

 

「……グレン君……ッ!?」

 

 ハーレイもツェスト男も慌て始める。

 

「……大丈夫です」

 

 慌てふためく皆を止めたのは穏やかな口調のアレスだった。

 

「……帝国宮廷魔導師団所属の僕が全ての責任を取ります」

 

 アレスは自分が帝国宮廷魔導師団所属であることを暴露し、落ち着かせる。

 

 そんなアレスを狙って、ラザールは槍を振るう。アレスはその行動に間に合わず、受け身を取るが衝撃が来ることはなかった。

 

「……間に合ったな……」

 

 真銀(ミスリル)の剣を担いだセリカがラザールと対峙していた。

 

「いいいいいいいいいいいいやぁあああああああああああああ────ッ!」

 

 その隙にリィエルがラザールを吹き飛ばす。

 

「……セリカァッ!そこをどけいッ!」

 

 セリカを襲撃したラザールだが、セリカが生きていることに対して何も問わずに告げる。

 

「退くかよ、アホ……灸を据えてやる、ガキ」

 

 200年生きているラザールに400年以上生きているセリカは告げる。

 

 

 

 グレンは

 

「……間に合えッ!……間に合えよぉおおおおおおおおお────ッ!」

 

 そう言って『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』を起動すると、洪水のようなマナが『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』から大気中へと拡散する。

 

「……先生……これは……」

 

「この魔術法陣に各『マナ活性供給式(ブーストサプライヤー)』から供給された『臨界活性マナ』……それがこの魔術法陣を『起動』することによって解放され、大気に戻っていってるんだ……」

 

「でも……これは【メギドの火】を起動する『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』なのでは……?」

 

 グレンはルミアの疑問を説明した。

 

 『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』はただの『マナ堰堤式(ダム)』だったこと。

 

 これを解呪(ディスペル)すれば、ラザールの元に膨大な量のマナが送られていたこと。

 

「……ということは全員騙されていたんですか!?私も先生もアレス君もジャティスさんも……皆が黒幕に騙されていたってことですか……?」

 

「……いや」

 

 ルミアの予想をグレンは半分否定した。

 

「今思えば……アレスとジャティスは気付いていたんじゃねえか?」

 

「え?」

 

「その証拠にあいつは、『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』の解呪(ディスペル)を最後に回しやがった。本当に止めたいなら、最初にここを解呪(ディスペル)するはずだろ?ここが、『マナ堰堤式(ダム)』だと知らなきゃできない立ち回りだ……アレスはそこまで視えていた(・・・・・)んだと思う……その上で、ジャティスの掌の上で踊っていただけだ」

 

「……どうして……」

 

「お前を守りたかったんだろ……つか、それ以外の理由だと納得できねえ……」

 

「……私の……ために……」

 

 

 

 

 

 アレスは

 

時間切れ(タイムリミット)……か……」

 

 そう呟くと

 

「……やってくれたな……ッ!?」

 

 ラザールは憤怒に身を焦がしがながら言う

 

「足りん!あれほどマナが失われてしまっていては、完全に足りぬ……ッ!」

 

 ラザールはグレンを舐めていたことを後悔しながら続ける。

 

「……致し方あるまい。世辞にも完璧とは言い難い状況ではあるが……最早、こちらも後には引けぬ……このままだと、彼の力の復活は、凡そ不完全な形となるが……ッ!」

 

 ラザールは懐からカギを取り出す。

 

「我は────天の智慧研究会、第三団≪天位≫(ヘヴンズ・オーダー)、《鋼の聖騎士》ラザール……今こそ我は、汝が『内なる声』に耳を傾けよう……ッ!」

 

 そう言って、カギを自分の胸に差し込むと、『マナ堰堤式(ダム)』に残っていた魔力が全てラザールを包み込む。

 

 膨大な闇となった魔力がラザールを包み込み闇が晴れると、そこにいたのは1人の魔人だった。

 

「……ら、ラザール……?」

 

『私は最早、ラザールではない……私は魔将星。《鉄騎剛将》アセロ=イエロ、だ』

 

 アセロ=イエロであることを証明するかのように上空には《炎の船》が現れている。

 

 

 

 

 

 《炎の船》を見て絶望するグレンの所に現れたのは名無し(ナムルス)だった。

 

『……グレン、これは試練よ』

 

『貴方は、これから起きる災厄を、生き延びなければならない────』

 

『未来と────そして過去のために』

 

 名無し(ナムルス)はその言葉を言うと退廃的な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

「……視なきゃいけないのかな(・・・・・・・・・・・)……全てを……」

 

 そんなアレスの呟きは虚空の彼方へと消えていった。




書いてて気づいた……イヴ要素少なッ!

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