異能者と2組の生徒
アセロ=イエロは告げる。
『ルミア=ティンジェル……貴女に恨みは無いが、死んでいただく』
それは死の宣告だった。
『確かに今世の『
「『
『次の貴女。次の次の貴女。次の次の次の貴女。『空の巫女』が完全なる存在となるまで繰り返させてもらう……我らが今まで、そうしてきたように』
魔人の言葉は何一つ理解出来ない。
『偽りの巫女よ。その命、捧げよ……我が、大いなる主のために!』
その言葉と同時に魔人から強烈な殺気が出てきた。
「……ぅ、ぁ……」
ルミアはその強烈な殺気に言葉も発せない。
『……邪魔をするか……アレス=クレーゼ……』
ルミアを庇うようにして立つアレスに殺気が向けられる。
「……悪いね……ルミアを殺させるわけにはいかないんだ」
アレスはアセロ=イエロの殺気に真っ向から立ち向かう。
『そのような身体で我に立ち向かうか……実に愚かなことだ……』
「……それはアンタもだろ?」
アレスの指摘にアセロ=イエロは軽く睨む。
「アンタだって不完全な状態だろ……その証拠に両手の先端だけ
その言葉で全ての人物がアセロ=イエロの指を見る、身体のほとんどが黒光りの鎧を着ているのに指だけは人と同じ色をしている。
『……貴様と同じ眼を持った者を知っている』
アセロ=イエロは語り始めた。
『奴は間違いなく我より強かった……だが、くだらぬ愛で己の命と引き換えに1人の女性を助けた』
アセロ=イエロの話した内容は『メルガリウスの魔法使い』には載っていない話だ。
『貴様があの男と同じ眼で我を視るならば、我の前に貴様が立つのは必然であったな!』
忌々しそうだが、同時に楽しそうに言うアセロ=イエロ
「……僕も貴方も万全の状態とは言い難い……ここは一度手打ちにしないか?」
アレスの目的は休息を取ることなのだが、この魔人がいては休息など夢のまた夢だ。
『ならぬ……我らが大導師様のためにも、今は貴様との戦いよりルミア=ティンジェルを殺さねばならぬ』
これが本当にアセロ=イエロだけならば、ここで引いてくれたのかもしれない。だが、このアセロ=イエロはラザールと融合した形なのだ。当然、ラザールの意思を持っている。
今にも動き出そうとするアセロ=イエロを止めたのは意外にも
『待ちなさい。アセロ=イエロ』
『む。貴女は……まさか……ッ!?』
『”
「……何者だ?ルミア=ティンジェルと瓜二つのようだが?」
「知らん。だが、敵じゃない」
いつの間にか来ていたアルベルトの問いにグレンは答える。
『それよりも話があるわ、ラザール。……今は退きなさい』
『今は退けだと?愚かな。交渉とは対等の者同士が行うものだぞ?』
魔人は
『
『たかが魔将星如きが……
そして、
『《黄金の鍵》だと!?馬鹿な……貴女にまだ、そんな力が残っていたのか!?』
『身体を失い、かつての力をほとんど失った私だけど……今の貴方程度を刺し違える力くらいはあるわ……私という存在概念の完全消滅を覚悟すればね……』
『………………』
『今は退きなさい、ラザール。貴方の力が完全安定したその時に、改めてルミアを殺せばいい。貴方にとっては、今、私とやり合うより、その方が確実だと思うけど?』
『……いいだろう。今は大人しく退こう』
魔人はそう呟いた。
『《■■■■・■・■■■■……》』
得体の知れない言語を呟くと《炎の船》から光が降りてきて、魔人を包み込む。
『……さらばだ、愚者の民草よ。精々、残り少ない生を謳歌すればいい……』
光に包まれた魔人は《炎の船》へと吸い込まれていった。
「……とりあえず、皆の怪我の手当てを……」
しばらく、放心して正気に戻ったグレンがそう呟くと同時に
『……貴女、ふざけないで』
グレン達が見てみれば、ルミアと
「……で、でも……もう……私が犠牲になるしか……」
『ふん!自分を犠牲にしても、他人を守りたい……人の幸せのためなら、じぶんはどうなってもいい……相変わらず、たいした聖女様だこと!』
「やめろ……”
怒鳴りつける
『……ふん!』
アレスの言葉に
「……はぁ……」
アレスはため息をつくと
「アレス!貴方の右腕治療しないと!」
イヴが駆けつけ治癒魔術を唱える。いつもなら、ルミアがしそうな行為だがルミアは茫然と立ち尽くすだけだった。
「ありがとう……実はもう魔力が残ってなくて……」
治癒が終わり、戻った右腕を見ながらアレスは呟く。
「……アレス……貴方、どこまで知ってるの……?」
「……すぐに分かるさ」
イヴの質問に手短に答えるアレスの視線は2組の教室だった。
システィーナも合流し場所は変わって、2組の教室。グレン、ルミア、アレスの順番で並んでいる。因みにイヴは、教室のドアで腕を組みながらもたれかかっている。
「……話して……くれるよな……」
「もうそろそろ……わたくし達も知るべき頃だと思うんですの」
カッシュやウェンディはアレス達に向かって言う。
「先生たちは……何者なんですか?」
恐る恐る呟かれた問いにグレンは答え始めた。
自分が元・帝国軍の魔導士だったこと。
セリカの斡旋で魔術学院の講師になったこと。
「……と、いうことはリィエルも……?」
「ああ、そうだ」
「こいつは、俺が元所属していた部隊のメンバーでな。ルミアを護衛するため、この学院に編入生として派遣されたんだ」
グレンはこれを言った後、言葉に詰まる。
ルミアについてどう言おうか迷っているのだ。
「……ルミアは……そうだな……なんつーのか……」
「先生。……私から話します……それが私の義務だと思うから」
ルミアは自分の全てを語りだした。
自分が帝国王家の人間であり、元・王位継承権第二位の王女であるエルミアナ=イェル=ケル=アルザーノであったこと。
自分が生まれながらの『異能者』であること。
そんな自分の『異能』を天の智慧研究会が狙っていること。
グレンが来てから起こった様々な事件も自分が原因だったこと。
そして、今回の【メギドの火】の事件も……自分という存在がフェジテを滅ぼそうとしていること。
「……これで全部、かな……」
ルミアが語り終えると、皆の視線はアレスに向けられた。
「……僕も、グレン先生と同じ帝国軍の宮廷魔導師団所属の魔導士だ」
それなら納得という風になりかけた空気を壊したのはイヴだった。
「それが貴方の全て?それとも私から言った方がいいの?」
イヴはアレスに向かって言う。
そして、その発言で2組の生徒の目はアレスへと戻る。
「……《解除》」
その言葉を言った後、アレスの身体に掛けられていた黒魔【セルフ・イリュージョン】が
「「「ッ!?」」」
【セルフ・イリュージョン】が
「……僕の本当の名前はアルス、アルス=フィデス……」
観念したように本当のことを言うアルス。
「アルスだって!?」
アルスの名前を聞いて驚いたのはギイブルだった。
「知ってんのか?ギイブル」
「アルス=フィデス……若干6歳にして
ギイブルの説明にクラスの生徒が驚く。
「……皆を騙してごめん……」
深々と頭を下げるアルス。
「……アルス……なの……?本当に?」
システィーナはアルスに向かって問う。
誰もが疑問に思う。何故、システィーナは面識があるのだろうと。だが、アルスの次の発言で驚くことになる。
「5年ぶり……かな……」
それは、アルスが失踪した時期と被るのだ。
「システィーナはアルスと面識あるので?」
ウェンディは質問をぶつける。
アルスは淡々と答え始めた。
自分もルミアと同じ『異能者』で特に偏見の強い『魔眼』あること。
その『魔眼』でルミアが『異能者』だと気付けたこと。
システィーナのお爺様である、レドルフ=フィーベルにルミアを保護してもらうように頼んだこと。
ルミアの保護を頼んだ後、失踪したこと。
アルスの過去を聞いて、誰もが言葉を失った。
自分たちと同じ年齢とは思えないほど達観していたのは、壮絶な過去があったからなのだと理解したのだ。
アルスは頭を下げながら続ける。
「僕は君たちを騙した……僕はどんな罰でも受け入れる……でも、ルミアとはこれからも友達でいてあげてほしい……」
アルスは頭を下げているため、生徒たちの顔がどうなのか分からない。
「今のルミアにとって本当に必要なのは大切な友達で、それは僕には出来ないことだから……」
アルスの懇願にこの教室にいる全ての人物が困惑した。だが、一番困惑したのはルミアだろう。
その中で一番早く我に返ったのはカッシュだ。
「……ったく……俺らも舐められたもんだぜ……」
カッシュはそう言って、アルスの前まで行くとチョップをした。
チョップされたアルスは痛そうに頭を抑えながら、カッシュを見る。
「この学院の天使様と友達をやめる奴なんてこのクラスにはいねえよ」
堂々と言うカッシュにアルスは困惑を隠せない。
「なあ!お前ら!」
カッシュが皆に向けて言うと
「むしろ禁忌の力を持った薄幸の美少女とか、僕にとってはご褒美です、ハァ、ハァ……」
最初に言葉を発したのはルーゼル。このタイミングとこの場所でなければアルスは恐らくミンチにしていただろうと思う。
「わたくし達、ずっと一緒に居たのですわよ?たとえ、ルミアにどんな秘密があったって、ルミアと友達をやめるなんて、思うはずありませんわ!」
「……てか、友達より恋人になりてぇ……」
「諦めなよ、ビックス……叶わぬ恋だよ……」
「……つか、元・王女様なのか……どうりで……」
アルスの予想を超えて、2組の生徒はルミアを受け入れてくれた。
「ルミアだけじゃねえ、お前も俺達の仲間だぜ?」
アルスの前に立つカッシュは笑いながら言う。
「え?」
アルスは驚く。自分はルミアと違って『魔眼』だ。そんな自分すら受け入れてくれるとは思っていなかった。
「確かにお前はずっと俺達を騙してたのかもしれねえけど、それでもお前は俺達のために戦ってくれたからな」
「アレス!俺達のために戦ってくれてありがとな!」
「戦ってる姿、格好良かったぜ!」
「今度戦い方教えてくれよ!」
カイもロッドもアルフもアルスを受け入れてくれた。
「今回ばかりは助かりましたわ」
「助けていただいてありがとうございます」
「……1人で抱え込んで……つ、辛かったよね……」
ウェンディもテレサもリンもアルスを受け入れる。
アルスは思う
(ああ……そうか……君はもう一人じゃなかったんだな……ルミア……)
アルスはルミアに目を向けると泣いているところを皆に励まされていた。
(……少しは頑張ったし……罰は当たらないよな……)
アルスはこの光景を見て、そんなことを思う。自分がこんな暖かな輪の中にいてもいい、そんな事実が堪らなく嬉しかった。
アルスは『少しは頑張った』と言うが、少しどころか自分の心も命さえも犠牲にした、正真正銘、命がけのがんばりであった。
「それより、今から皆で飯、食いに行こうぜ!?腹減ったよ!」
「確か、今、学食で炊き出しやってるんだよな!?」
「腹が減っては戦はできぬ……事態を打破するいい考えが思い浮かぶかもしれませんしね」
そう言って、2組の生徒はルミアとアルスを囲んで食堂へと向かっていった。
「……ってか、なんでお前がいんだよ!?」
「なっ!?私がいたら悪いの!?」
グレンとイヴは教室で喧嘩を始めた。
「……アルスに連れてこられたのか?」
「……ええ」
「……まったく……どこまで
グレンは呟いていた。
「……
世界のどこか……もしかすれば、この世ではないのかもしれない場所で誰かがそう呟くのだった。
2話続けて5000文字超えるとかちょっとハイペースすぎるかもしれない。