その後、ルミアはアルスとリィエルと別れた。
リィエルは訓練すると言い、アルスはバーナードに呼ばれたからだ。
2組の教室ではアルスとバーナードが生徒たちに《炎の船》を攻略するために協力を頼んでいた。
「あ、アレス……それマジ!?」
アルスの説明に叫ぶカッシュ。
「……ああ。明日の《炎の船》攻略戦には……グレン=レーダス、システィーナ=フィーベル、ルミア=ティンジェル、リィエル=レイフォード、セリカ=アルフォネア……以上5名が魔人討伐隊として、《炎の船》に攻め込むことになったからね」
「《炎の船》に攻め込む切り札を持つセリカちゃん、船内の歪曲空間を破れる能力を持つルミアちゃん、船内の敵戦力の露払いをするリィエルちゃん、現状、あの魔人に唯一有効な攻撃手段を持つグレ坊、そして、グレ坊の補佐を務め、魔導考古学にも長けた白猫ちゃん……主に戦力配分の方面から散々検討した結果、これがベストだと決まったのじゃよ」
アルスの説明を更に詳しく説明するバーナード。
「……戦力配分?」
「うむ、実は今、この学院の魔術講師ハーレイ殿と帝国宮廷魔導師団のクリ坊……おっと、クリストフ=フラウルを中心に、動ける魔術師達が総出で、フェジテ上空に【メギドの火】を防ぐ防壁結界を、突貫工事で構築しておる」
「マジっすかッ!?」
「は、ハーレイ先生って、実は凄かったんだなあ……」
「でも、一度【メギドの火】を防げば、敵は必ずその防壁結界を破壊するために、《炎の船》内に存在する戦力を、結界の基点であるこの魔術学院へと送り込んでくるだろう。その隙に、グレン先生達が手薄になった《炎の船》へと攻め込んで、魔人を倒す……簡潔にまとめると、こういう手筈なんだよ」
「つまり……守りもあるから、攻めに出せる戦力も限られてるってことっすか?」
「察しが良くて助かるわい。わし達は、何としてもグレ坊が魔人をブッ倒すまで、この学院を守り、防壁結界を維持する必要がある。防壁結界が崩れた瞬間が、ゲームオーバーじゃ。……じゃが、あまりにも人手が足りん」
「結界の維持要員、敵戦力の迎撃要員、負傷者の救援活動要員……人手はいくらあっても足りない。どうか、みんなの力を貸して欲しい。曲りなりにも、みんなは王女陛下に忠誠を誓う魔術師として、有事の際に備え、日頃の授業カリキュラムで戦闘訓練を受けているでしょう?決して、不可能ではないはずだよ」
アルスとバーナードの言葉に、得も言われぬ沈黙が教室を包む。
「当然、戦闘の矢面に立つのは僕やバーナードさんみたいな帝国宮廷魔導師団とこの学院の教師陣……生徒である君たちの役割はあくまで補佐と援護……でも、戦いの場に駆り出される以上、死傷者が出る可能性は充分にある……言葉を濁さずにはっきり言うなら、相当危険なんだよ。でも、みんなが力を貸してくれるなら、その分だけフェジテを破滅から救える可能性は上がる……A級緊急特令を、イヴ=イグナイト百騎長権限で発令して『命令』することも不可能じゃないけれど……正直、僕たちはそれを良しとはしない。あくまで、みんなの意思を尊重する」
「「「…………」」」
「無論、みんなが自分から立たなくても構わないよ?僕やバーナードさんは1人きりになっても、帝国宮廷魔導師として、みんなを最後まで守って戦うことを約束するし、このフェジテから逃げたいと言うのなら今すぐ逃がすことも出来る」
アルスのこの発言に教室がざわつき始め、バーナードはアルスを見て少し驚いている。
緊急対策会議で、クリストフが報告したことの中にはフェジテ全土を覆うほどの
だが、恐らくアルスが断絶結界を破ったところで逃げれるのは10人いるかいないかだろう。フェジテという広大な土地を抜け出すには馬車以上に速い乗り物……もしくは、魔術が必要となり、逃げだせるのは必然的に
「……お、俺は……やるぜ……」
みんなが押し黙っている中、決意に満ちた声を発したのはカッシュだった。
「お、おい、カッシュ……ッ!?」
「マジかよ……ッ!?危険だぞ……ッ!?」
カッシュの発言にロッドとカイが心配そうな目を向ける。
「だって、このまま何もしなかったら……負けたら……フェジテが滅びちまうんだろ?だったら、もうやるしかねえじゃねえか!俺達にできることを!」
カッシュの訴えに周囲の生徒達も押し黙るしかない。
「それに……先生達は、あの空の船に乗り込んで、あのクソ強そうな魔人と命がけで戦って……アレス達はこの学院に攻め込んでくる敵と命がけで戦うんだろ、俺達のために!?なのに、先生やアレス達だけに全てを任せて、俺達は安全な場所でただ震えて待ってるだけなんて、そんなダセェ真似できるかよッ!」
「癪だけど……まったく、同感だね」
カッシュの訴えが効いたのかギイブルも発言した。
「ここで何もせず、先生達だけに任せたら、全てが終わった時、あのロクでなしにどんな恩着せがましい顔されるか……ごめんだね、そんな屈辱」
「う、うぅ……怖い……ですわ……でも……ッ!」
ウェンディも震えながら立ち上がる。
「でも……弱き民を守って戦うが貴族の務め……わ、わたくしだって……ッ!」
「大丈夫よ、ウェンディ……貴女だけに怖い思いはさせないわ。私がついてるから……」
震えるウェンディを励ますように立ち上がるテレサ
「そうだ……俺達は今まで、先生やアレスに守られてるばかりだった……」
「今回くらい、俺達も何かしないと……ッ!」
カイもロッドも。
「わ、私……戦うのは苦手だけど……でも、みんなの怪我の手当てとかなら……」
引っ込み思案で臆病なリンすらも。
学院を襲ったこの前代未聞の苦難を前に、誰も彼もが、自らの意思で自分に出来ることをしようと沸き立っていく。
「勇気ある決断をしてくれたお前さん達に……わしは敬意を表する」
「……みんな……本当にありがとう……」
バーナードとアルスはそんな生徒たちに尊い何かを見据えていた。
「今から、わしがお主らに戦術を指南する。一見、絶望だが存外、地の利はこちらにあり、守るには容易い。それを利用し、わしの言うとおりに戦えば、死傷率は極限まで下がる筈だ……どうかついてきて欲しい」
「「「「はいっ!」」」」
「それでは、僕はこれで」
そう言って、アルスは教室から出て行く。すると、そこには目を閉じて手を胸に置き、恐らく覚悟を決めているルミアがそこにいた。
「…………」
アルスは何も言わずに、去って行った。
今、アルスがルミアに何かを言ったところでルミアは聞かないだろう。ならば、今アルスがすべきことは1人にしてあげることだ。
「……教えてくれないか?僕の『異能』について……」
アルスは人目に付かない場所で誰もいない場所に座りながら呟いた。
『……後悔することになるわ……知らないことが自分を救うことだってあるのよ……』
「……これは、僕の勘だけど……僕は本来、
アルスの勘を聞き驚愕の顔をする
「……未来視を以てしても、ルミア絡みの事件を未然に防げなかった理由……それは、この未来視の中に僕という存在が無かったから」
アルスの『魔眼』は未来視や過去視、直死といった様々な魔眼が複合したような代物だ。
だが、アルスの未来視においてアルスという存在はいない。何故、未来を伝えないのか……結末を教えないのか……それは、アルスの未来視にその結果が載っていないために
『……本当に後悔するわよ?……前の
「それでも……人を救うなら自分の命を犠牲にしなければならない……等価交換だよ」
微笑むアルスに
『……バカ……』
「……ごめんね」
『……貴方の力の名前については私も知らない……
『貴方は世界の全てを視て、全てを監視し、”世界を守らなければならない”』
「……世界を……守る……」
『本来、貴方は人の味方をしてはいけない……それが悪であっても善であっても……なぜなら、世界を壊すのは人間だからよ』
『私が知ってるのはこれだけ……あとは、あなたが自力で探すしかないわ』
そう言って消えていった。
アルスは普通の
”世界を視る”のは
つまり、アルスという人間は世界を監視する
だが、アルスにとってそんなものは関係ない。自分の役目、役割などどうでもいいことだ。アルスはルミアとその周りを守る、アルスの本当の使命とは真逆だがそれでいいのだ。アルスは”人間”なのだから……
自分がこの作品を書き始めてから今日で43日ですね、結構あっという間だった気がします。改めて見ると春休みだった頃の僕って一日に2~3話投稿していて暇人だったんだなあ……と思ってしまいます。
前の話でそろそろ終わるって言ったんですけどIFルートとか書いた方がいいですか?アルス君闇堕ちルートだったり、イヴさんガチヒロインルートだったり、セラさん生存ルートだったり……etc
その辺は言ってくださると嬉しいです。