廃棄王女と天才従者   作:藹華

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 前話で侵食されているとか書いてましたが、やめます。アルス君はアルス君のままでいて欲しいってのもありますが、この後の展開を考えた結果できないことはないんですけど結構ごり押しになってしまうんです。

 やっぱりみなさんもアルス君のままルミア大天使様とくっついて欲しいでしょ?少なくとも僕はそうなって欲しい。

 行き当たりばったりって怖いですね……身をもって知りました……


最強の盾

 グレン達は《炎の船》の中にいるゴーレムと戦っていた。

 

 いくらリィエルがいても所詮は多勢に無勢。押され始める、リィエルが下がると代わりに出たのはグレンではなくルミアだった。

 

 ルミアは《銀の鍵》を振るい何かに刺して回す。すると、空間を削り取られたようにゴーレムだけがいなくなっていた。

 

「……彼らを異次元へと追放しました。ああいう単体の非生物は、強い力を持っていても存在が小さく、世界との縁が弱いので送りやすいんです」

 

「……ルミア……お前……?」

 

「段々……思い出してきました。ううん……私の中の誰かが教えてくれる(・・・・・・・・・・・・・)んです……この”鍵”の使い方を……」

 

 ルミアは愛おしそうに《銀の鍵》に触れながら続ける。

 

「……私、嬉しいんです。今までは、アルス君や先生、システィ、リィエルに……守られているばかりだった……でも、私にはこんな力があった……この力で、アルス君達や皆を守るために戦える……それが、とても嬉しいんです……」

 

 グレンはそんなルミアの姿に、底知れない危うさを覚えた。

 

「行きましょう、先生。……私も戦います。そして、皆を守ります。この命に代えても……それが、私の使命なんです」

 

 グレンは気付いた。グレンは《銀の鍵》に恐れているわけでは無い。聖女とまで称されるルミアが振るうのだ、間違った使い方などするはずもない。

 

 グレンが恐れているのは───ルミア自身だ。

 

 ルミアの歪み。他者のために、自分の順位が極端に下がってしまう───それが今、悪い意味で浮き彫りになってしまっている。今のルミアは赤貧聖者の無償の奉仕だ。そんなもの狂人と一緒で本来、あってはならない。

 

「ルミア……《銀の鍵》はもう使うな」

 

「えっ?」

 

「リィエルがさっき言ったとおりだ。俺達がなんとかしてやる。もっと、俺達を頼れ、信頼しろ。お前だけが、そんな人外の力を背負うべきじゃねえ……」

 

 だが。

 

「でも、それじゃ駄目なんです」

 

 いつもの素直なルミアはどこへやら。

 

「……私が……皆を助けないといけないんです。そのためなら、私は───」

 

「お前……」

 

 グレンはやっと気付けた。アルスがルミアのこの力を知って止めなかった理由。下手に止めればルミアは暴走して、際限なく《銀の鍵》を使い続けるだろう。アルスはそれを避けるために言わなかったのだ。

 

「せ、先生……時間が……」

 

「わかってる。行くぞ……」

 

 

 グレン達はアセロ=イエロのいる場所へと急いでいると、突然システィーナが口を開いた。

 

「せ、先生っ!気をつけてくださいっ!」

 

「どうした!?」

 

「すみませんっ!今、思い出しました!《鉄騎剛将》アセロ=イエロは、《炎の船》内部の空間を自由に操ることが出来るんです!」

 

「なんだと?」

 

「正義の魔法使いとの戦いでは、それを利用して、《炎の船》に乗り込んだ正義の魔法使いと、彼の仲間達を、別々の空間に分断していました!ひょっとしたら、私達にもそれを仕掛けてくるかもしれませんっ!私達、もっと集まって行動を───」

 

 その時、グレン達は気付いてしまった。この場にある人物がいない。

 

「……ルミアのやつ……どこ行った?」

 

 いつの間にか。本当にいつの間にか、ルミアはいなくなっていた。ほんのさっきまで、その足音と息遣いが聞こえていたのに。

 

 

 

 

 

 

 ルミアはどことも知らない空間を歩いているが、不思議と恐怖は無かった。

 

 皆を助けるためにきたルミアにとって、自分を呼び寄せられるのは好都合だからだ。

 

 そして、大きな門を迷いなく潜った。

 

『……ようこそ、ルミア=ティンジェル』

 

 声のする方を見ると、無数のモノリスに囲まれ玉座に座っているアセロ=イエロがそこにはいた。

 

『流石に驚いたぞ。まさか……貴女が《銀の鍵》に目覚めていたとは……』

 

 ルミアはその魔人に向かって、迷いなく足を進める。

 

『成る程。……現状維持派の連中が、今の貴女で完成だ、充分だ、と大騒ぎする筈だ……まさか、貴女がその域まで完成されていたとは……な』

 

 魔人は肩を震えさせながら言う。

 

『だが、私に言わせれば、未だ不十分。偉大なる大導師様のため……そして、我が主のために……私にはもっと、完全なる貴女が必要なのだ』

 

「ごめんなさい。貴方達の都合は……知りません」

 

 ルミアは真っ直ぐと魔人を見据えた。

 

「私は貴方を倒します。フェジテのために……皆のために。……この命に代えても」

 

『成る程。やはり、貴女はあの方にそっくりだ……これは私ではなく、アセロ=イエロの記憶ではあるがな』

 

「……?」

 

 魔人はゆっくりと立ち上がり……ルミアの前に立った。

 

『聞こう。戦い方はわかるか?……その力の使い方は?』

 

「……分かります」

 

 ルミアには恐れも恐怖も虚勢も無い。さも、それが当然であるかのように答えた。

 

「貴方こそ、心してください。今の私は多分……システィよりも、リィエルよりも、先生よりも……そして、アルス君よりも……強いです」

 

『……くくく……ふははははははははははは……ナムルスは貴女にそんなことも教えなかったのか……』

 

 楽しそうに、嘲笑うように魔人は肩を震わせながら言う。

 

『貴女がアルスより強いなど有り得ぬよ……あの方ですら倒せなかったあの男が不完全な貴女に倒せる筈がないだろう……まぁいい、ここであの男の話をする気はない』

 

 魔人は雰囲気を一変させ、闇の霊気(オーラ)を纏いながら宣言した。

 

『ルミア=ティンジェル。我が悲願のため───その命、貰い受けるッ!』

 

「アセロ=イエロ。私が愛する人達のために───私が貴方を滅ぼします!この私の命に代えてもッ!」

 

 

 

 

 

 ルミアと魔人の戦い、それは人知を超えた戦いだった。

 

 結果だけを言おう。

 

 ──────ルミアは負けた。

 

 ルミアの未来、存在をかけたのに、魔人には届かなかった。禁忌の力である《銀の鍵》を使って、ナムルスと同じような異形の翼を生やし、ルミアという存在、文字通り全てをかけても魔人には届かなかったのだ。

 

「……私は……アルス君みたいに……出来なかった……」

 

 ルミアはアルスのように、大切な人を守ることが出来なかった。

 

 ルミアは心の中で謝っていた。自分にもアルスと同じような器用さがあればと……自分もアルスのように聡明であればと……

 

 5年前、ルミアを守るために1人で全ての根回しを行い、上手く立ち回ったアルス。ルミアは上手く立ち回れなかった。アルスのように明確な勝ちでなくとも、自分を犠牲にした『引き分け』ならばそれで良かったのだ。だが、そんな『引き分け』すらも出来なかった。

 

 

 

 

 

 魔人はルミアを拘束したままモノリスを操作した。

 

 すると、魔術学院の校舎をゆうに超えるゴーレムが投下された。

 

 バーナードもツェスト男爵も応戦するが、まるで意に介していない。それほどまでに硬いのだ。

 

 そのゴーレムは校舎を壊し、壊し尽す。校舎内に存在する結界維持班も次々と撤退を始めた。

 

「……結界維持率51%……43%……くっ……39%……無念です」

 

 結界維持班が撤退したことにより、極端に結界維持率が下がったのだ。

 

 そして、この時【メギドの火】を防げる限界ラインである、40%を切ってしまったのだ。

 

(最初は甘い攻めで、希望を見せ……限界が近づいた時に、本命の攻めで突き崩す……敵も底意地が悪い)

 

「終わりましたね……これからは……」

 

 1人でも多く地下区画に退避させ、恐らく、程なくして来るであろう【メギドの火】に対する生存率を、雀の涙ほど上げる作業だけだ。

 

 クリストフは、もう保つ必要のない【ルシエルの聖域】の解呪(ディスペル)を始めて───

 

 

 

 

 

「あ、あぁ……そん……な……そんなぁ」

 

 磔にされたルミアは涙を流しながら、頭上に投射される学院崩壊の光景を見上げるしかなかった。

 

『フハハハハハハハハハハ───ッ!?どうだ、理解したか!?人間の無力さが!大いなる力の前に、人間のような塵芥は翻弄されるしかないのだ!だから───私はあの時、絶望し、人であることをやめたのだッ!』

 

 そして、魔人はモノリスを操作する。すると、《炎の船》全体が揺れた。

 

『あの忌々しい【ルシエルの聖域】は、すでに力を失った。最早【メギドの火】を阻むものはない。ゆえに【メギドの火】をもって、フェジテを灰燼に帰してやるのだ』

 

「やめてぇええええええええええ───ッ!?」

 

『ふん……偽りの天使め。貴女はそこで己の無力さをかみしめているが良い。そして、祈ることだな。次に生を享けるときは……今のような出来損ないの身ではなく、完全なる存在として生まれることを』

 

「い、嫌ぁああああああああ───ッ!」

 

 ルミアの自壊寸前のような叫びが響き渡る。

 

 《炎の船》が光った。紅く、赤く、光った。

 

『見よ!あの儚き無力さ塵芥ッ!あれが人間なのだぁああああああああ───ッ!」

 

 そこには、フェジテ全土が燃え尽きた光景が映っている──────はずだった。

 

『ば、馬鹿なぁあああああああああああああああ───ッ!』

 

「……アル、ス……君……?」

 

 ルミアは、フェジテの光景を見たくなくて瞳を閉じていたが、魔人の叫びを聞いて投射されている映像を見ると───そこには、1つの盾を構えたアルスが空中で【メギドの火】を受け止めていた。

 

『馬鹿な!?そのような小さな盾で【メギドの火】を防げるものかッ!』

 

 魔人は【メギドの火】を小さな盾で受け止めたアルスを忌々しそうに睨みながら叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

 アルスはルミアがあの魔人に誘導され、負けるタイミングまで正確に視ていた。

 

 だが、アルスは《炎の船》に行くための魔術を持っていない。ルミアのいる場所は、恐らく、転送法陣ですらいけない場所だろう。

 

 ルミアを助けに行きたくても行けない。だが、アルスは不思議と冷静だった。ルミアが今にも自壊しそうだと分かっていながら、何故か冷静でいられたのだ。

 

 そんな感情を持っていると、巨大なゴーレムが落ちてきた。校舎を超えるほどの巨大なゴーレムだが、アルスは自然と魔術を唱えていた。

 

「《三界の理・天秤の法則・律の皿は左舷に傾くべし》」

 

 黒魔【グラビティ・コントロール】を使い、ゴーレムを越えて【ルシエルの聖域】の外まで来て別の呪文を唱えた。

 

「《投影開始(トレース・オン)》」

 

 投影したのは盾。

 

 盾を投影したと同時に《炎の船》が、紅く、赤く、光った。

 

 だが、この距離なら先に盾を投影しているアルスの方が速い。

 

「《雪原囲みし小世界(アンリミテッド・コスモス)》!」

 

 アルスがその呪文を唱えると、アルスを中心として極小の世界が展開された。

 

 その世界は、全ての人とゴーレムすらも巻き込んだ───

 

「ッ!?……なんじゃ……これは……」

 

「……これは……1つの……世界……」

 

「この世界が……アルスの経験……」

 

 バーナードもクリストフも、イヴでさえも驚愕を隠せない。

 

 驚愕に浸っているイヴ達を【メギドの火】が襲う……かに思われたが、アルスを中心に展開された世界が【メギドの火】を飲み込んでいる。

 

 本来なら、数十数百という人数で儀式魔術を展開しないといけない。だが、確かにアルスはたった1人で【メギドの火】を受け止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 ルミアは先程とは別に理由で泣いていた。アルスはいつもルミアを優先するが、今回はルミアの大切な皆を優先してくれたのだ。

 

「ありがとう……ッ!アルス君……」

 

 聞こえないと分かっていても、言わずにはいられなかった。

 

 自分のせいで危険に晒してしまった皆を助けてくれたのだから。

 

 ルミアはやっと覚悟を決めれた。さっきよりも輝きを増した《銀の鍵》を振るおうとして──────優しい手に止められた……ルミアをずっと守り、ルミアがずっと守られてきた手。

 

「……そんな力を使っちゃ駄目……」

 

『なっ!?貴様どうやってここに!?」

 

 魔人の疑問を無視し、いつの間にかルミアの背後にいたアルスは続ける。

 

「もう、君はそんな力を使わなくていい……!」

 

 ルミアの持つ《銀の鍵》に予め投影していた魔術師殺し(ウィ・ザイヤ)を突き刺す。

 

 魔術師殺し(ウィ・ザイヤ)に刺された《銀の鍵》は粉々に砕け散る。

 

「《御霊の恵みたる蒼き乙女・汝の黒き楔を裂き・あるべき場所へ帰れ》」

 

 アルスは誰も知らない転移魔術を使った。すると、ルミアの身体は光り瞬く間に消えた。

 

 それはアルスを転移させる魔術ではなくルミアを転移させるための魔術だった。 

 

『……逃がしたか……』

 

 アルスが魔術を起動している間に魔人が攻撃しなかった理由は、アルスは魔術を起動していたが意識は全て魔人に向けられていた。攻撃しようものなら、魔人は殺されていた。魔人は神鉄(アダマンタイト)で出来ているため、絶対に斬られることはない。ないはずなのだが、一瞬だけ殺される未来(ビジョン)が視えたのだ。

 

「……ルミアを殺させるわけにはいかない……だからまぁ悪人同士、一緒に地獄に落ちてくれ」

 

 アルスはどこまでも穏やかで、どこまでも清々しい笑みを浮かべていた。




 マジで申し訳ない。この章、めちゃくちゃ長いね……皆も早く、デートの話見たいでしょ?僕も書きたい。

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