廃棄王女と天才従者   作:藹華

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 一応言っておくと、IF作品ではないこの章では、ヒロインはルミアです。イヴのヒロイン力が圧倒的過ぎて、忘れないようにね!


アルスとイヴとグレンと……

 こん。こん。こん。3回のノックが、グレンの部屋に響き渡る。

 

「私よ。入っていいかしら?」

 

「……ああ、勝手にしろよ」

 

 グレンが投げやりに返事を返すと、イヴは部屋の中に入ってくる。

 

 元々学院の宿泊施設の一室なので、必要最低限のものしかない、殺風景な部屋だったのだが────今は酷い有様だ。

 

 床には足の踏み場がないほど本や紙束が散らばり、今、アルスとグレンが話し合いながら向かってる机も、本や論文が山ほど積まれている。

 

 その頭上には、再生機が光の魔術で投射する映像窓がいくつも浮かんでいた。

 

「……まだやってたの?」

 

 イヴは音もなく歩み寄りながら問う。

 

「……………」

 

 グレンは無言。

 

 そんなグレンを見かねてアルスが口を開く。

 

「……まぁ、僕達に出来るのはこれくらいですから」

 

 アルスは答える。

 

 その答えを聞いて、イヴは机を覗き込む。

 

 グレンとアルスは2組の生徒1人1人が抱える課題やこれからの訓練方針を、一心不乱に紙へと書き連ねていた。

 

 生徒達の急成長は、イヴの存在がとても大きいが……日々成長し、変化する生徒達に合わせて、グレンとアルスが細かく課題を洗い出し、訓練方針を調整していたのも大きい。

 

 ただ、その重労働のせいでアルスとグレンの全身には、隠しきれぬ色濃い疲労が滲んでいた。

 

 特に、アルスは魔眼を併用しながら作業をしているため、心なしかグレンより疲労が滲みでている。

 

「はぁ……貴方達、最近、ちゃんと睡眠取ってるの?」

 

 イヴは呆れたように言う。

 

「ああ?」

 

 グレンはそんなイヴに見向きもせず、羽ペンをインク壺につけ、紙に文字を連ねる。

 

「少しは鏡、見なさいよ。……酷いくま。見られたもんじゃないわ」

 

「うっせえな。放っとけよ」

 

 グレンは欠伸交じりに言う。

 

「この程度がなんだってんだよ。生徒達の負担が一番大きいんだぞ?諸悪の根源な俺達がこの程度、やってやんねえでどうすんだよ」

 

「……ふん、案外、熱血なのね」

 

「はっ……そりゃ、こっちの台詞(セリフ)だ」

 

「グレン先生、休憩いいですよ。あとは、これだけなので僕がやります」

 

 アルスのその言葉でグレンは背もたれに身体を預け、天井を見る。

 

「お前もまぁ、よく毎日変わる俺の訓練方針の指示……しかも40人全員分に、文句の1つもなく対応できるな?まぁ、おかげであいつら、タケノコみてーに伸びてるが」

 

 教養を身につけさせることはできても、課題や訓練方針は立てることができても、アルスとグレンは所詮魔術師としては三流であり、邪道だ。

 

 イヴのように正統派に伸ばすような効果的稽古など、つけてやれるはずもない。

 

「……一応、礼を言っておく。あんがとな。お前がいて良かった」

 

「別に。今の私の仕事だし」

 

「ふん……まぁ、流石は帝国軍に名高き《紅焔公(ロード・スカーレット)》様ってとこか?お前、軍人より教師の方が向いてんじゃねーか?」

 

(アンタが言うな……)

 

 アルスの内心はこれ。

 

「……うるさいわね。放っておきなさいよ」

 

 イヴはふて腐れたように突っぱねる。

 

 グレンは、積み上げられた書類をイヴに差し出す。

 

「ほらよ。明日からの連中の課題と教育方針だ……これを後で読んでおいてく……」

 

「ふうん?どれどれ?」

 

 何故か途中で言葉を詰まらせるグレンを余所に、イヴは書類を斜め読みしていく。

 

「はぁ……貴方達、よく見てるわね。よくもまぁ、こんな細かいとこに気付くこと。なるほど……確かに言われてみれば……あの子達には、こんな弱点もある……」

 

「……………」

 

「ええ、いいわ。明日から、この子達の訓練はこの点を意識して……」

 

「……………」

 

「……って、何よ?珍しく褒めてやってんのに、さっきから黙って」

 

 イヴはグレンの呆れたような視線に気付いて問う。

 

「イヴさんの妖艶な身体を見て欲情してるんですよ」

 

 イヴはアルスの言葉に自分の身体を見る。

 

 すると、風呂上がりのイヴの姿は、胸元の大きく開いた薄いシャツ姿だ。先程まで暑かった為、ローブは肩に羽織るだけ。

 

「~~~ッ!?」

 

「ちょ!?馬鹿!誰がこんな女なんかにッ!?」

 

 イヴは顔を真っ赤にし、グレンは慌てながら弁明をする。

 

 少しして落ち着いたグレンが口を開く。

 

「……んで、お前は何しに来たんだ?」

 

 グレンはイヴに問う。

 

「疲れているだろう貴方達に紅茶を淹れてきてあげたのよ」

 

「……紅茶?」

 

 イヴがグレンとアルスの横にティーカップを置く。

 

「……お、お前が、俺に、紅茶だと……?」

 

「ったく、そんなあからさまに警戒しなくてもいいでしょう?……毒なんて入ってないわよ失礼ね」

 

「イヴさん、ありがとうございます」

 

 グレンは警戒し、イヴはそれを注意し、アルスは普通に感謝していた。

 

「命令よ。一息いれなさい。……今の貴方、本当に酷い顔してるわ」

 

「命令って……今のお前の軍階、俺の軍時代の軍階より下じゃねーか……まぁ、俺は退役しちまってるけどよ……」

 

「うるさい。黙れ」

 

 グレンもアルスもイヴも、ほぼ同時に紅茶を飲む。

 

「私が淹れた紅茶。……どうなのよ?感想くらい言いなさいよ」

 

「クッソ不味い」

 

「そうですかね?僕は普通にいけますけど」

 

 グレンは迷わず答え、アルスはイルシアという壊滅料理の天才がいたため、これくらいの不味さはむしろ美味しいのだ。

 

「アルス……お前疲れ過ぎて、ついに味覚が逝ったか……」

 

「……本当のこと言ってるだけなんですけど……」

 

「……………」

 

 グレンとアルスの会話をイヴは黙って聞く。

 

「渋くて苦くて酷ぇ味だ。一体、何をどうしたらこんなに不味く淹れられんだ?何か紅茶に恨みでもあんのか?ったく……相変わらず、紅茶はド下手なんだな」

 

「ふん……放っておきなさい」

 

 イヴも自覚はあるらしい。

 

 ちなみに、料理はイヴの趣味の1つなのだが、なぜかイヴは究極のメシマズであった。

 

「ったく……お前も少しはセラのやつを見習えよ。あいつは……」

 

 グレンは言ってから後悔した。完全に地雷なのだ。

 

「そうね……あの子が淹れてくれた紅茶は……とても美味しかった……」

 

 イヴはボソリと呟く。

 

「……確かに、セラさんの料理はおいしかったですよね……」

 

 次に口を開いたアルスが遠い目をしながら言う。

 

「なぁ……イヴ。お前……なんで、あの時、セラを見捨てたんだ?」

 

 やがて、グレンが意を決したように問う。

 

 その言葉を聞いて、3人の脳裏によぎるのは2年前の事件。

 

 特務分室が《女帝》セラ=シルヴァースを永遠に喪った……あの運命の日。

 

 イヴの判断で、アルベルトの援護が遅れ……結果、セラが死んでしまった、あの事件。

 

「セラが逝ったばかりの頃は……正直、俺も頭に血が上っててな。お前のせいだなんだと口汚く罵るばかりだったが……まぁ、最近、色々あって、ようやく頭も冷えたよ。あの時の事件に、冷静に向き合えるようになった……と思う」

 

「……………」

 

「で、冷静になるとな……やっぱり、どう考えても、あの時のお前の判断……腑に落ちねーんだよ」

 

「……………」

 

「お前は確かに冷酷な効率厨の手柄キチで、俺達を駒のように扱ってコキ使う嫌なやつだが……いくらなんでも、あんな”捨て駒”をやるようなヤツじゃなかったはずだ。社交舞踏会の一件もそうだが、一見”捨て駒”をやっているように見えても、ギリギリの一線でフォローはしている……そういう立ち回りをするやつだったはずだ」

 

「……………」

 

 イヴは無言。目を細め、ひたすら無言を貫く。

 

「それに……お前はあんなにセラと仲良かったじゃねーか。いやまぁ、セラのやつが一方的にお前に絡むだけだったような気もするが……性格ブスで友達いねえお前の、唯一の友人だったじゃねーか。なのに、なんでだ……?」

 

「……………」

 

「一体、あの時……お前に何があった?」

 

 無言を貫くイヴにグレンは問い詰める。

 

何もないわよ(・・・・・・)。……そう、何もない」

 

「……………」

 

「私は、戦果欲しさに、あの子(セラ)を切り捨てた。……それだけ」

 

 今度はグレンが目を細め、無言となる。

 

「ふん……今さら何も言い訳しないわ。そうよ?あの時、あの子を切り捨てる決断をしたのは私、あの子を殺したのは私よ?私はあの決断から逃げも隠れもしないわ。恨みたければ恨みなさい、好きなだけね」

 

 イヴが乾いた冷酷な笑いを浮かべている。

 

「……そうかよ。なら、もう何も聞かねえよ」

 

 冷え切ったグレンの言葉が、イヴを殴りつける。

 

 アルスは気まずい雰囲気を目を逸らさず、ずっと見ていた。

 

「……邪魔したわね」

 

 イヴはティーカップを放置したまま、逃げるように部屋から出ていこうと立ち上がる。

 

「ああ……俺からは、もう何も聞かねえ……だから、いつか話せよ。お前からな」

 

「……なっ!?」

 

 この瞬間、グレンとイヴの互いが歩み寄るために必要な何かが、雪解けした……

 

「な、なんのことだか……ッ!?」

 

 イヴは部屋を出ようとする。

 

「……それじゃ、僕も風呂行ってきます」

 

 アルスもそう言って、部屋から出ていこうとすると。

 

「きゃ!?」

 

 動揺していたせいか、イヴは床に積み上げていた本に蹴躓いてしまう。

 

 ぐらりと傾ぐイヴの身体────

 

「イヴさん!?」

 

 その後ろにいたアルスは慌てて手を伸ばして────

 

「痛たたた……」

 

 イヴは思わず呟くが、言うほど痛くないことに気付く。

 

「……………」

 

「あ」

 

 イヴは、床に仰向けになったアルスに馬乗りになって、組み敷いていた。

 

「あ、そ、その……わ、悪かったわね……私としたことが……」

 

 イヴは咄嗟に謝るが、アルスはイヴを見ようとしない。

 

「……………?」

 

 イヴはそんなアルスに首を傾げる。

 

「……イヴ……自分の姿を見ろ」

 

 イヴが首を傾げていると、グレンが指摘した。

 

 そして、イヴが自分の姿を改めて見下ろす。

 

 肩に羽織っていただけのローブはずり落ち、シャツの胸部は大きく開き、イヴのしなやかなおみ足は露わになり、豊かな胸元、黒いレースの下着が見えている。

 

 ────これは、どこからどう見てもイヴがアルスを襲っているように見える。

 

「な、な、な、な────」

 

 イヴが初心の少女のように真っ赤になり石像のように硬直する。

 

 イヴが硬直していると、アルスの顔色がどんどん青くなっていく。

 

「イヴさん!早くどいて!?」

 

 アルスの慌てふためく姿は珍しい。グレンがそう思っていると、廊下に3つの気配を感じた。

 

「あ」

 

 グレンは察した。この気配はいつもの3人組のモノだ。

 

「先生────っ!夜遅くまで、お疲れ様っ!お夜食作ってきまし────」

 

「アルス君の分もあるよ、私達、3人で作っ────」

 

「ん。食べて……ん?」

 

 アルスにとっては最悪のタイミングでルミア、システィーナ、リィエルが入室してきたのである。

 

「「「「「……………」」」」」

 

 アルス、イヴ、ルミア、グレン、システィーナの間に、圧倒的な沈黙が訪れる。

 

「アルスとイヴ……何やってるの?……格闘術の組み手?」

 

 唯一、状況を分かっていないリィエルの呟きを皮切りに。

 

「い、イヴさぁあああああああああああん!?あ、あ、貴方、一体、何をぉ────ッ!?」

 

「うわぁ……そ、そんな風に押し倒しにいっちゃうものなんだ……うわぁ……」

 

 システィーナは、イヴがアルスを押し倒している光景に驚愕し。

 

 ルミアは、真っ赤になった顔を両手で覆うものの、指の隙間からしっかりと、様子を見ている。

 

「ななな、なんて大胆なッ!?こ、これが大人!?これが大人の女性の攻め方なの……ッ!?……駄目ですってッ!?ここが学校で────」

 

「イヴさん……本当に、アルス君のことを……」

 

 システィーナとルミアは混乱に陥った。

 

「~~~~~~~ッ!?」

 

 イヴは真っ赤になった顔を両手で覆って、悶絶している。

 

「……………」

 

 アルスは、自分の予想していた展開と違うことに驚いてそれどころではない。

 

「リィエル……これが大人の女性だ」

 

「大人の女性……?……それは美味しいの?」 

 

 

 ◆

 

 

 その後、なんとか誤解を解いた。

 

 せっかくだから、皆で夜食会をしよう、という流れになった。

 

 サンドイッチの入ったバスケットを、皆で囲みつつ、和気藹々と夜食をとる一同であったが……

 

「……なんなのよ、この配置」

 

 イヴの左右には、ルミアとシスティーナ。因みに、アルスの隣はリィエルとルミア。グレンの隣はシスティーナとリィエル。

 

 システィーナはグレンを誘惑させないために警戒したのだ。

 

「え?と、特に意味はありませんよ?」

 

「あはは……意味はない……と思います」

 

 システィーナはグレンを取られないように警戒し、ルミアはアルス争奪戦の警戒をした。

 

「……あのね。貴女達、まだ何か誤解しているみたいだけど……」

 

 イヴが少し赤みがかった顔で弁明しようとしても……

 

「こ、これは!あの……そ、そうですっ!これはですね!節操のないアルスとグレン先生が、イヴさんみたいな魅力的な女性に襲いかからないように守っているだけでして────」

 

「白猫……お前、俺のこと、何だと思ってんの?」

 

「……………」

 

 グレンはシスティーナの発言に疑問を抱き、アルスは言っても無駄だと理解しているので無言でサンドイッチを食べている。

 

「……アルス君もやっぱり、イヴさんみたいな大人の女性の方が……」

 

 ルミアはボソッと呟き。

 

「……………」

 

 アルスはただ無言でサンドイッチを頬張る。

 

(……大人の女性も何も、イヴさんは行き遅れただけで……)

 

「痛いッ!?」

 

 イヴに対してとても失礼なことを考えていると、イヴからチョップを喰らった。

 

「……なんか、今失礼なことを考えられてる気がしたの」

 

 的を射た発言にアルスは冷や汗をかいているのであった。




 イヴさん……ヒロインやんけ……
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