廃棄王女と天才従者   作:藹華
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 お気に入り登録749名ありがとうございます。

 あと純粋な疑問なんですけど、僕がもし別の小説を書くなら何か書いて欲しい小説とかありますか?

 書くか書かないかは別として……


アルスとメイベル

とある廊下にて────

 

「止まれよ、そこのお前」

 

 不意に響き渡った声に、1人廊下を進んでいたシスティーナは足を止める。

 

 先の廊下の十字路から2人。後ろの教室から1人。

 

 合計3人の模範クラスの生徒達が現れ、システィーナを挟み撃ちにする。

 

「ふっ……お前とアルス?とか言う奴は雑魚クラスの中でもちょっと強いみたいだからね……悪いけど、早々に潰させてもらうから」

 

「いくらお前でも、さすがに3人同時は相手にできねーだろ?」

 

「卑怯か?はは、悪く思うなよ?これが”生存戦”だ」

 

 自分達の有利と勝利を疑わない模範クラスの生徒達。

 

 システィーナは何も応じず、無言で身構える。

 

 

 ◆

 

 

 一方、とある教室にて────

 

「ぉおおおおおおおお────っ!ラッキーッ!こいつはついてるぜッ!」

 

 ルミアの前に現れた模範クラスの生徒────ディーンは大はしゃぎだった。

 

「2組の中でも1番の美少女の金髪巨乳ちゃんに、こうしていきなり出会えるなんて……俺、ついてるぅうううううう────ッ!」

 

「あ、あはは……どうも……」

 

「あー、大丈夫大丈夫!痛くしないよ、手加減してあげっから!それはそうと、俺が君に勝ったら、俺と付き合ってくんない?ね?いいだろ?俺が強くてカッコいいってとこ、今から見せてあげるからさ!」

 

「えーと……彼氏がいるので、お断りしますね……」

 

「彼氏?どーせ、ブスで雑魚だろ?まぁいいや、女は黙って強い男に従ってりゃいいんだって。てなわけで────」

 

 曖昧に笑って戸惑うルミアへ、ディーンは左手を向ける。

 

 模範クラス(自分達)を負かしたアルス(相手)のことを知らないとはいえ、雑魚と言ったディーンにルミアは容赦しない。

 

 アルスがルミアの悪口を許容しないように、ルミアもアルスの悪口を許容することは有り得ない。

 

 

 ◆

 

 

 また一方、とある階層の遮蔽物の無い廊下にて────

 

「……見つけたよ」

 

 廊下を歩いていた模範クラスの生徒────ザックの背後から、不意に声がかかる。

 

 振り返って見れば、ギイブルがいた。

 

 この教室に潜んでいたのだ。

 

 一応索敵結界張ってたはずなんだがな……そう舌打ちしながら、ザックが言った。

 

「あ?何の用だよ?」

 

「決まってるだろう?……先日の借りを返しに来たんだよ」

 

 吐き捨てるように言うギイブルを、ザックはへらへらと笑いながら振り返る。

 

「はっ、雑魚が何、格好つけてんだよ?馬鹿じゃねーの?背後から不意討ちしときゃよかったじゃねーか?まぁ、お前如きの不意討ちを喰らう俺じゃねーけどよぉ?」

 

「御託はいらない。さっさと始めよう」

 

 

 ◆

 

 

 また一方、とある階段の踊り場にて────

 

「あははっ、いたぁ!」

 

「くすくす……どう料理してあげましょうかしらぁ?」

 

「……ウェンディ」

 

「大丈夫ですわ、2対2です。わたくしが前衛を。テレサは援護を頼みますわ」

 

 模範クラスの女子生徒達。

 

 ウェンディはテレサを庇うように前へ出る────

 

 

 ◆

 

 

 また一方、とある儀式実験室にて────

 

「よっしゃ、やっと1人目見っけ!ったく、俺、どうも引きが悪いな……急がないと他の連中に獲物取られちまうってのに!」

 

「けっ……こないだのように行くと思うなよ!?」

 

 眼前の相手などまるで眼中にない模範クラスの生徒を、カッシュが怒鳴りつける。

 

 

 ◆

 

 

 また一方、『裏学院』の学院長室にて────

 

「……やっと見つけた」

 

「ッ!?……貴方ですか……どうやってここへ……?」

 

 『裏学院』の学院長室────アリシア三世の部屋は、真っ当な手段では、到達できない。ここは魔術的な細工によって『裏学院』の校舎内を、決まった道順で通過せねば発見・入室できない、『秘密の部屋』なのだ。

 

 その正しい道順────暗証呪経路(パスルート)を知る者は────故・アリシア三世のみ。

 

 だが、その誰も立ち入れないはずの部屋の机の傍に1人の少女が、そして部屋の入口に1人の少年がいた。

 

 メイベルとアルス。この2人は、本来誰もいないはずの場所で再会した。

 

「話はあとで……かな?早く再編纂を終わらせなよ」

 

 衣服を脱ぎ捨て、上下の下着姿であるメイベルを見てアルスは言う。

 

「……その……見られていては、やりにくいのですが……」

 

「それは失礼」

 

 そう言って、アルスは後ろを向きメイベルは執務机の上に会った羽ペンとインク壺を使って、自分の柔肌に文章を書いていく。

 

 少しして、メイベルの再編纂が終わった。

 

「もう大丈夫ですよ」

 

 メイベルのその言葉でアルスはメイベルの方を向く。

 

「それで……どうして、この部屋にこれたのですか?」

 

 メイベルの疑問は至極当然だ。

 

「……その前に1つ、聞いていいかな?」

 

「なんでしょうか?」

 

「Aの奥義書がアリシア三世とはどういう意味だい?」

 

 グレンとマキシムが貰ったメモに書いてあったものだ。

 

「あれが読めたのですかッ!?」

 

 メイベル自身理解している。あんな文字は読めないと。だが、目の前にいるアルスは読んだのだ。

 

「質問に答えてくれ」

 

「……そうですね。まず私について話しましょうか……私はマキシムが摑まされた偽物の手記ではなく、本物の『アリシア三世の24番目の手記』なのです」

 

「……つまり、偽物の手記ってのが……」

 

「はい、Aの奥義書です。そして、ここまで聡明な貴方なら気付いているでしょう」

 

「……アリシア三世は二重人格障害者(・・・・・・・)だった……」

 

「はい。私、『アリシア三世の24番目の手記』は辛うじて正気を保った彼女が書いた物です。そして、Aの奥義書は発狂した彼女が禁忌教典(アカシックレコード)に対抗するための力として求めた結果です」

 

「教えてくれてありがとう。そして、次は僕の番だ。どうやって、ここに来たかっだったね……魔眼だよ」

 

「……魔眼……?」

 

「そ、魔眼。大きく言えば異能。それを使って、目的の場所へ行くためのルートを視ただけさ」

 

 アルスの答えに、メイベルは顎に手を当て考える仕草をする。

 

 メイベルが考えていると。  

 

「うわぁあああああああああああああああああああああああああああ────ッ!?」

 

 悲鳴が聞こえてきたのだ。

 

「……あぁ……使ってしまったのですね、炎熱系の魔術を……」

 

「……これが、噂の裁断の刑……?」

 

「はい。Aの奥義書が禁忌教典(アカシックレコード)に最も近づけたのは、人間を構成する大量の情報の中に禁忌教典(アカシックレコード)へと至る道があると考えたことで人の全てを本にして、自分の知識として蓄えるからです」

 

「それはまた物騒な……」

 

 アルスとメイベルはグレン達と合流するために学院長室を後にした。

 

 

 ◆

 

 

 アルスとメイベルはグレンの元に着いて見たのは。

 

 マキシムの持つ『Aの奥義書』が生き物のように蠢いて、寄り集まって人の形を形成していく瞬間だった。

 

 やがて、1人の女性が姿を現した。

 

 謎の女性の唐突な出現に、マキシムは悲鳴を上げ、腰を抜かしてへたり込む。

 

 百戦錬磨のイヴですら、言葉を失って唖然と硬直していた。

 

「な……何者だ、てめぇ……?」

 

 グレンの問いに、その女は、にこりと嗤って答えた。

 

『アリシアです。……アルザーノ帝国第13代女王にて、この学院の初代学院長……アリシア三世ですわ、くふっ、くふふふふふ……ッ!』

 

 不気味に嗤うその姿に、壊れた笑顔。

 

 完全に空気を逸してる。

 

『さて、マキシム様。私を使って、この学院にお越し頂き、まことにありがとうございます。貴方様のおかげで、私は使命を果たすことができますわ』

 

「ひ、ひぃいいいいいいいい……ッ!?」

 

 女の優雅な一礼に応じるだけの余裕は、失神寸前のマキシムにはない。

 

『そして、ようこそいらっしゃいました、我が真なる学院へ。貴方も、私の”本”にしてさしあげましょう……永遠にこの私の力となるのです……さぁ────」

 

「や、や……やめぇ……ッ!?く、くる、来るなぁ……ッ!?」

 

 女の腕がマキシムを抱擁しようとした瞬間。

 

 乾いた銃声が1発。

 

「……間に合いました」

 

 ホールに続く通路付近に、1人の少女が火打ち石式拳銃(フリントロック・ピストル)を構えている。

 

 その銃口からは、真新しい硝煙が上がっている。

 

「お前は────メイベル!?」

 

 グレンがメイベルの名を呼んだ瞬間。

 

 撃たれた女は本の頁と解けて崩れていった。

 

 周囲に散らかる頁には、文字が読めないほどに、べったりとインクが付いている。

 

「ど、どうなってんだ?倒した……のか?なんで……?」

 

 グレンの疑問も仕方ない。この本達は【ライトニング・ピアス】が効かないのだ。銃なんかで倒せるとは思わなかった。

 

「とりあえず、ここを離れましょう」

 

 メイベルの背後から現れたアルスに一同は驚くが、すぐに行動に移した。

 

 そこは裏学院校舎第二階層、南の大講義室。

 

 位置と構造的に、避難に一番適している場所だ。

 

「簡易的ではありますけど、結界を張りました。これでしばらくは、あの本の怪物達も入ってこられないでしょう」

 

 メイベルはどこからともなく取り出した本の頁のような紙を、この大講義室へと続く3つの出入り口の付近に、ペタペタと張りながら、そんなことを呟く。

 

「あ、危なかったわね……」

 

「うん、そうだね」

 

「ん、大丈夫。システィーナとルミアは、わたしが守る」

 

 なんとか無事にここへ辿り着いたシスティーナやルミア、リィエル。

 

「くそ……また、なんかとんでもねえことに巻き込まれちまったようだぜ……」

 

「みたいだね。どうなることやら……」

 

 カッシュ、ギイブル、セシル、ウェンディ、テレサ、リンら、2組の生徒達。

 

「ひぃいいいい……い、一体、なんなんだ……なんなのだ、アレは……ッ!?」

 

「嫌だ嫌だ嫌だ……助けて……誰か助けてくれよぉ……」

 

 寄り集まり、頭を抱えながら震えるマキシムと模範クラスの生徒達。

 

 最終的に、ここに辿り着けた生徒達の総数は約30名ほどだ。半分以上の生徒達はここに至るまでに、あの本の怪物達に触られ、本にされてしまった。

 

 本来なら、今すぐにでもここから脱出するべきなのだが、マキシムの持っていた偽の『アリシア三世の手記』も失われたので脱出することすら叶わない。

 

 こんな絶望的な状況に、グレンが痛んでくる頭を必死に押さえていると。

 

「こうなることは……わかっていたんです」

 

 グレンの元へメイベルがやってくる。

 

「だから、貴方達にはこの裏学院での生存戦から手を引いて欲しかったんです。文章で警告もしたんです。せめて、私が彼女(・・)と全ての決着をつけるまでは……」

 

「おい、お前。とりあえず、知っていることを全部話せ。全部だ」

 

 グレンは警戒しつつ、メイベルを問い詰める。

 

「お前は何者だ?あの化け物どもはなんなんだ?この裏学院はなんだ?」

 

「そうですね……一体、何から話すべきでしょうか。まずは私の正体でしょうか?」

 

 メイベルは一呼吸置いて、言った……

 

「私は、マキシムが摑まされた偽物ではない……本物の『アリシア三世の手記』です」

 

 ……あまりにも意味不明過ぎることを……

 

「おい、バカ野郎。ふざけている場合じゃねえぞ?」

 

「ふざけてなんかいません」

 

 グレンの怒りをさらりと流し、メイベルは左袖をまくって、右手でその左手を爪弾く。

 

 パラパラパラ……その左手がまるで本の頁のようにめくれた。

 

「────ッ!?」

 

 それを目の当たりにしたアルス以外の全員が驚愕と動揺に包まれる。

 

「これで、分かりましたか?私は人間ではありません。”本”なのです」

 

 硬直するグレンにメイベルは続ける。

 

「私の生みの親……執筆者はタイトルの通り、アリシア三世です。正確には、アリシア三世の人格と記憶を複製した一種の魔導書的存在が、この私、メイベル。生前のアリシア三世は、こうなる時に備えて、私を学院付属図書館の封印書庫の奥で、密かに眠らせていたのです。普段の私は本当に手記の姿ですけど、有事の際には、アリシア三世の少女時代の姿形を取って、事態を収拾すべく行動を起こすよう、定義(プログラム)されています。この裏学院は、とある邪悪な魔術儀式場。私はその儀式の完遂を防ぐために────」

 

「ちょっと待てよ」

 

 グレンは警戒も露わに吐き捨てる。

 

「いきなり話がおかしいだろ。アリシア三世がこんな事態に備えて、お前を残していただと?このクソったれな裏学院を作ったのは、アリシア三世だろうが!?」

 

「……なんで、こうも察しが悪いのでしょうか……」

 

 グレンの怒りを気にも留めていないメイベルは後ろにいるアルスに言う。

 

「あはは……グレン先生、アリシア三世は、二重人格障害者だったんですよ」

 

「な……?」

 

「アリシア三世は『魔導考古学』を研究するうちに、”何らかの真実(・・・・・・)”に気付いてしまったのです。そのせいでアリシア三世は気が触れ、二重人格となってしまった。晩年のアリシア三世は狂気と正気の人格を持ってたんですよ」

 

「つまり……この『裏学院』を作ったのは……?」

 

「そう、狂気に陥ったアリシア三世。そして、この私を残したのは、辛うじて正気を保っていたアリシア三世。狂気の彼女は『裏学院』を使った、とある狂った儀式を断行しようとし、正気の彼女はそれを止めるために私を残した。彼女は2つの人格の間で、完全に自己矛盾な行動を取っていたのです」

 

「……………」

 

「少し……長い話になります。どうか、聞いてください」

 

 すると、メイベルと名乗っていた『アリシア三世の手記』は、語り始めた。

 

 それは、本である彼女自身(メイベル)に記述されたという、この事態の全ての真実であった。

 

 偉大なる女王にて、教育者でもあったアリシア三世。

 

 晩年、『魔導考古学』に傾倒した彼女は、ある時、唐突に発狂してしまった。

 

「理由は不明です。こればかりは、わたしにも記述がないからわからないのです。ただ、彼女は『魔導考古学』を研究する過程で、”何らかの真実(・・・・・・)”に気付き……そのせいで、何かに怯え……とにかく、それに対抗するための力を求めるようになったのです」

 

「その対抗するための力ってのは、なんだ?」

 

「最近、よく耳にする禁忌教典(アカシックレコード)ですよ」

 

 グレンの質問に答えたのは『アリシア三世の手記』ではなくアルスだった。

 

 また、その名前か。

 

 厄介ごとの先々で、先回りする単語に、グレンが苦い顔をする。

 

「狂気の彼女は、その禁忌教典(アカシックレコード)に限りなく近づいた『Aの奥義書』と呼ばれる本を作り上げることを目的としていました。その本を作るために必要な参考文献は……人間」

 

「おい、まさか……?」

 

「はい。狂気の彼女は、その人格と記憶をベースに『Aの奥義書』を作り、本化させた人間を大量に『Aの奥義書』へ取り込むことで完成品を作り上げようとしました。人間を構成する大量の情報の中に、禁忌教典(アカシックレコード)へと至る道がある……そう考えていたのです」

 

 そして、メイベルは辺りを見回しながら言った。

 

「この裏学院は、そのための巨大な魔術儀式場。『特異法則結界』という魔術をご存知ですか?異界の内部を、通常の世界法則とは異なるルールで支配する魔術です。人間を本に変え、情報化するなどという超常現象が起きる理由は、まさにそれです。この世界で『Aの奥義書』の断片……あの本の怪物に触れた者は、その身体を本に作り替えられてしまうんです」

 

「……………」

 

「でも、そんな狂気に堕ちた彼女の計画は頓挫しました。いざ生徒達を犠牲にする前に、正気の彼女がギリギリでそれを止めたんです。正気の彼女は、その人格をベースに私を執筆した後、『Aの奥義書』を『裏学院』の最奥に押し込め……そのまま『裏学院』そのものを封印してしまった。そして……自殺したんです。この銃で」

 

 アリシア三世の死因については、病死、暗殺死、事故死、諸説は多々あるが……自殺だった。

 

「かくして、『Aの奥義書』は『裏学院』に封印され、『裏学院』は完全に表学院から隔絶されることになてしまったのですけど……最近、その境界にヒビが入りました」

 

「まさか……先の異変の学院校舎の破損か?」

 

「はい。表の学院と裏の学院には次元位相的に密接な関係があります。表の学院が今までにないほど破壊されたせいで、『Aの奥義書』────狂気のアリシア三世が、表の学院に干渉する、ほんの僅かな隙間が次元の間に生まれてしまったんです。そして、『Aの奥義書』は、その隙間からマキシムへ、自身の断片を渡しました……外側から『裏学院』の出入り口を開けさせ、人を招き入れるために」

 

「そうか。その断片が、マキシムが持ってきた『アリシア三世の手記』か」

 

「……はい」

 

「まぁ、状況はわかった。……問題は、だ。俺達はここから脱出できるのか?本になった連中は……元の姿に戻せるのか?」

 

「今、この裏学院の機能と『特異法則結界』を、上位権限で支配しているのは『Aの奥義書』────狂気のアリシア三世です」

 

「ほう?つまり?」

 

「彼女を消滅させれば、結界は解かれ、先生達は私の機能を使って、この裏学院から脱出することができます。生徒達も元の姿に戻る……のですが……その……」

 

「……?」

 

 メイベルが言葉を濁したことにグレンは困惑する。

 

「……”裁断の刑”に処されなかった者以外は」

 

「……ッ!?」

 

 2組の生徒達は予め、炎熱系の魔術を厳禁していたから大丈夫だった……だが、あの本の怪物が現れたとき、模範クラスの生徒は使ったのだ。

 

「『Aの奥義書』は、ありとあらゆる物理・魔術的攻撃に無敵になるように設計されました。けど、恩恵には代償が必要────それが魔術です。そんな無茶な特性を付与したため、元々、本という特性存在の弱点である、炎に極端に弱くなってしまいました」

 

「そうか。その弱点を補うために作ったのが、火遊び厳禁っていうルールか」

 

「はい。これを『裏学院』内で犯した者は無条件で本化されて……裁断処分を受けてしまいます。『特異法則結界』のルールは、状況が限定されているだけに強力で絶対的です。この『裏学院』で、このルールから逃れられる者はいません」

 

「……………」

 

 死。その言葉に、グレンが押し黙る。

 

 裁断の刑に処された者は全員模範クラスの生徒だ。どんなに、ゴミで屑でイラつく奴でもグレンは救う。

 

 これがアルスとの違い(・・・・・・・・・・)。グレンは今も、もっと上手くやれば、救えたのでは……と考えている。だが、アルスはそんなこと微塵も考えていない。

 

「せ、先生……?」

 

「あの……大丈夫ですか?」

 

「グレン……平気?」

 

 システィーナやルミア、リィエルは心配そうにグレンの顔を覗き込む。2組の生徒達もグレンを心配そうに見ている。

 

 例外としてイヴだけが、アルスの悲しそうな顔を見ていた。

 

「おい!メイベル!古本回収作業だ!お前『Aの奥義書』の本体の居場所、知ってるんだろ?とっとと案内しろ!」

 

「協力……してくれるのですか?」

 

「あのな、協力せざるを得ないだろうが」

 

 グレンは憮然と応じる。

 

「ここから脱出しなきゃなんねーし、本にされた俺の生徒を放っておくわけにもいかねえし、クソガキだが、まだ救える模範クラスの連中を見捨てるのも寝覚めが悪ぃ」

 

「……………」

 

「それに放置すりゃ、これからもその古本と裏学院が、表の連中に悪さすんだろ?ンな危険なもん、放置できるかっての!」

 

「その……貴方は……怒っていないのですか?アリシア三世を……私達を……?」

 

「怒ってるに決まってるわ、ボケ!」

 

 グレンが、メイベルに猛然と喰ってかかる。

 

「まったく余計なことしくさりやがって!だが、そんなことは後だ、後!」

 

 メイベルはその言葉を聞いて、不思議な人を見る目でグレンを見る。

 

「……そういう人なんですよ、陛下」

 

 システィーナが苦笑いで言った。

 

「その力も、怒りも、本当に大切に思えるもののために振るう……そういう人なんです。ために思いっきり道を間違えそうになりますけどね」

 

「……そう。……とても生徒思いなのですね」

 

 メイベルはため息を吐く。

 

「私にも……アリシア三世にも……グレン先生のほんの10分の1でも生徒を思う心があったなら、こんなことにはならなかったのに。狂気に陥っていたとはいえ、『火遊び厳禁』……生徒を殺めるこんなルールを作ってしまうなんて……もう、かつての私は、教師として完全に失格だったんですね……」

 

 メイベルの横顔はアルスの様にとても悲しそうで……寂しそうだった……




 きょ、驚愕の8118文字……

 あと、この章の後日談は結構なオリジナル要素を含むので、見たくない方は見ない方がいいと思います。

 後日談の前書きにも書きますが、一応先に言っておきます。

 因みに、この話を書き始めたのは3時27分です。2時間10分で書き終わるって……嘘だろ……



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