廃棄王女と天才従者   作:藹華

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 なんか、最近書き過ぎてる気がする……一話辺りの文字数が5000や6000超えるんです。

 もう少し、少ない方がいいですかね?



生徒達の強き意思

「さて……これから古本回収作業を始めるわけだが……」

 

 グレンは、この場所に集う者達を見回しながら、作戦を考えていた。

 

 敵の質は大したこないが、物量が凄まじい。質より量とはまさにこのことだ。

 

 グレンやイヴ、アルスだけでは手が回らない。グレン達にも頭数が必要なのだ。

 

「当然、私達もついていきますからね!先生」

 

 システィーナ、ルミア、リィエルがグレンの前に出る。

 

「先生は戦い方が危なっかしいから、背中を守る人が必要でしょう?」

 

「足手まといにはなりませんから。だから、先生、お願いします。私達も一緒に……」

 

「ん。わたしはグレンの剣」

 

 そんな頼もしい3人娘の言葉に、グレンは思わず頬を緩める。

 

「へっ!この期に及んで仲間ハズレはなしだぜ、先生!」

 

「ふん、さっさとこのくだらない騒動、終わらせましょう」

 

「ええ!わたくし達も先生のお力になってさしあげますわ!」

 

 3人娘の影響を受けたのか、カッシュ、ギイブル、ウェンディら2組の生徒達も、次々とグレンの下に集まる。

 

「さすがに、リンみてーな、戦いが苦手なやつは、ここに置いていくけどさ……なんか、敵の数、スゲェ多いだろ?頼むよ、先生。俺達も連れてってくれよ!」

 

「わたくし達でも、先生の露払いくらいはできますわ!」

 

「自惚れかもしれませんがね。……むしろ、僕達がいないと戦力的に厳しいのでは?」

 

 カッシュ、ウェンディ、ギイブルが縋るようにグレンへ頼み込む。

 

 生徒達はあれほどの恐怖を目の前にしても、折れていない。

 

 グレンが教えてきた通り、冷静に客観的な事実を見極め、今、自分達が為すべきことを見据え、自分にできることをしようと決意に目を漲らせている。

 

 理性で感情を制御し、常に怜悧なる思考の中に身を置く……もう、立派な魔術師なっていたのだ。

 

「ああ、わかった。むしろ、こっちから頼む。今回はお前らの力を貸してくれ」

 

「「「よっしゃあああああああああああああ────っ!」」」

 

 グレンに認められ、任された……その嬉しさに2組の生徒達が沸き立つ。

 

「わ、私は行かないぞッ!」

 

 マキシムの叫びが、その場に水を差す。

 

「あんな狂ったモノに立ち向かうなんて……どうかしている!?」

 

 学院長就任初日に、フェジテ最悪の3日間の功労者達を馬鹿にした人物とは思えないほど震えていた。

 

 目を血走らせ、冷や汗を滝のように流し、まさに理性崩壊寸前といった有様であった。

 

 アルスが周りを見回すと。

 

「誰か助けて……誰か助けて……誰か助けて……」

 

「嫌だ、嫌だ……本にされるなんて嫌だ……嫌だ……」

 

 マキシム率いる模範クラスは全員が恐怖に支配されていた。

 

 皆、あの狂気に呑まれ、正気と精神を削られ、心が折れてしまったのだ。

 

 アルスはそんな模範クラスの生徒を見て、懐かしいものを見るような目で見る。

 

 強い力を持っていても、圧倒的な恐怖の前では無力なのだ。それは、物理的な強さではなく、心の強さの問題だから。 

 

 アルスも同じだった……暗殺者として人を殺してきたアルスだからわかる。

 

 自分が絶望しているとき程、周りは見えないものだ。だからこそ、自分は無力だ・自分には何もできないと思ってしまう。

 

 その結果、震えて助けを求めることしかできなくなる。

 

 アルスがそんなことを思っていると。

 

「も、もう、私達はお終いだ……あんな化け物に敵うわけがない……私達は1人残らず本にされてしまうのだ……嫌だ……本にされるくらいなら、いっそ────」

 

 マキシムは言い終わる前に横に吹き飛び壁に激突した。

 

 アルスの右手の甲がマキシムの左頬に直撃したのだ。

 

「悪いね。この高まった士気を下げるわけにはいかないんだ」

 

 初めて、グレンに頼りにされたことで2組の生徒達の士気はこれ以上ないくらいに高まっている。だからこそ、マキシムの言葉は士気を下げる原因になりかねないので寝てもらった。

 

 グレンは思い出したようにメイベルに聞く。

 

「1つ聞きてえんだが……お前、そこまで今回の事件の真相を知っておきながら、なんで今までずっと黙っていたんだよ?もっと、早く公にしてりゃ────」

 

「これは、私の……アリシア三世の不始末です。だから、私は1人で決着をつけるつもりでしたし……何より、公にすること自体が不可能だったのです」

 

「……どういうことだよ?」

 

「私は正気のアリシア三世に執筆されましたが、同時に、狂気のアリシア三世の検閲も受けていて、気付かぬうちに、私の行動原理(プログラム)は書き換えられていました。それゆえに『Aの奥義書』の行動原理(プログラム)を邪魔する行動に制限がかかっていたのです。そんな私には、暗示の魔術でマキシムの生徒になりすまし、彼の行動を監視することだけで精一杯でした。この『裏学院』に突入し、私自身を『インク』で再編纂し、元の行動原理を修復するまでで、こうして貴方達に真実を話すことすらできなかったのです」

 

「インク?再編纂?……なんだそりゃ?」

 

 すると、メイベルはポケットから、1つのインク壺を取り出した。

 

「インクとは、生前のアリシア三世が、私や『Aの奥義書』の執筆に使った、特殊な魔術インク。その調合法は、生前のアリシア三世以外は誰も知らない完全な失伝魔術(ロスト・ミスティック)です」

 

「ひょっとして……さっき、ホールであの妙な女を倒した弾丸は……?」

 

「はい、そのインクを弾丸にしたものです。このインクだけが、炎を封じられたこの空間で『Aの奥義書』を害せる唯一の手段。貴方に渡しておきます。……この銃も」

 

 メイベルは、単発式の火打ち石式拳銃(フリントロック・ピストル)とインク壺をグレンに手渡す。

 

「いいのか?」

 

「いいんです。私、銃の扱いは得意というわけじゃないし……それに、やっぱり、その銃には嫌な記憶しかありませんので。……なにせ、私を殺した銃ですから」

 

 メイベルは続ける。

 

「インクは……あまり無駄遣いをしないでください。私の再編纂に相当量を使ってしまったのから、もう残りはそれしかないんです。それがなくなったら……終わりです」

 

「……ああ、了解だ」

 

 ……やがて。

 

「ここです。この部屋の最奥に『Aの奥義書』は……狂ったアリシア三世、もう1人の私がいます」

 

 メイベルの案内で一同が辿り着いた場所は────

 

「なるほど……図書室、か。まぁ、らしいっちゃらしいよな」

 

「と、図書室?」

 

 グレンの言葉にシスティーナは首を傾げる。

 

「どう考えても、図書室ってレベルじゃないでしょ……図書館って呼んだ方が……」

 

「しっ、来ましたよ」

 

 システィーナの呟きを一喝するメイベル。

 

 一同が黙っていると……ぞるり、ぞるり、ぞるり……

 

 書架の陰から。脇にそれる通路の陰から。

 

 わらわらと、本の怪物が現れる。

 

「ちっ……なんちゅう数だよ、まったく……」

 

 グレンは呟きながら、黒魔【ウェポン・エンチャント】で、魔力を張らせた拳を構えるが……

 

「《投影開始(トレース・オン)》」

 

 アルスの投影した剣が本を壁に縫い付けていく。

 

 何冊も、何冊も。無限とも思える量の本を無限の剣が縫い付けていく。

 

「グレン先生ッ!」

 

 アルスの剣が本を串刺しにしたおかげで、道は開けグレンを先頭に駆ける。

 

 ────駆ける。駆ける。駆ける。

 

 無限に続く書架の回廊を。

 

 グレンを先頭に、アルスとイヴが殿を務めて駆け抜ける。

 

 前と左右はグレンと生徒達が、後ろはアルスとイヴが守る。これが最もいい配置だとグレンが言った結果だ。

 

「ぉおおおおおおおおおおお────ッ!」

 

「いいいいいいいやぁああああああああ────ッ!」

 

 グレンが魔力の灯った拳で殴り飛ばし、リィエルが旋風のように振るう大剣で薙ぎ払い、血路を開く。

 

 グレンとリィエルで処理できない分は────

 

「システィ!」

 

「ありがとう、ルミアッ!《集え暴風・戦槌となりて・撃ち据えよ》────ッ!」

 

 ルミアの《王者の法(アルス・マグナ)》でブーストされた、システィーナの黒魔【ブラスト・ブロウ】────壮絶に渦を巻く風の破壊槌が、本の怪物を纏めて吹き飛ばす。

 

 バラバラと、本の怪物の雨が降ってくる中────

 

「《大いなる風よ》────ッ!」

 

「《大いなる風よ》────ッ!」

 

 左右の書架の陰から迫ってくる本の怪物達を、ウェンディやテレサを筆頭とした生徒達が【ゲイル・ブロウ】の呪文を唱え、押し返していく。

 

「《寄りて集え・土塊で創られし・白痴の巨人》ッ!」

 

 ギイブルが唱えた、召喚【コール・エレメンタル】。それによって召喚されたアースエレメンタルが、本の進行を妨げる。

 

 そして────どうしても、グレン達の攻撃を抜けて迫ってくる本の怪物たちを────

 

「《蒼銀の氷精よ・冬の円舞曲(ワルツ)を奏で・静寂を捧げよ》」

 

 後衛のはずのイヴが援護をする。

 

 後ろはアルスが1人で剣を投影し続けるという人間離れしたことをやっているので、イヴの仕事はあまりない。

 

「お前!炎の魔術だけが能じゃなかったんだな!?」

 

 自分を助けてくれた人物に対する言葉じゃないが、グレンは叫ぶ。

 

(アンタが言うな)

 

 アルスは剣を投影しながら、そんなことを思う。

 

「は?私はエリートよ?なんでもできるわよ。……ただ、炎が一番得意ってだけ」

 

 イヴは憮然と応じる。

 

「しっかし、倒せねえってのは厄介だな!敵は増えるばっかりってこった!」

 

 前衛は何とか、迫り来る敵の群れを押し返して捌いているが、こうしている間にも書架から次々と新手の怪物が現れ続けている。

 

「先生の【イクスティンクション・レイ】でも駄目なんでしょうかね?」

 

「……やってみるか」

 

 システィーナの疑問に、グレンが【イクスティンクション・レイ】の起動触媒を取り出すが────

 

「やめなさいっ!」

 

 イヴが魔術を起動しながら鋭く警告する。

 

「その呪文は、炎熱・冷気・電撃の三属性の複合呪文でしょう!?例の”火遊び禁止”のルール違反に引っかからない保証も、連中に通用する保証も、どこにもないわ!」

 

「────ッ!?」

 

「特異法則結界を甘く見ないで!それに、今は貴方の銃技とインク弾だけが、こっちの切り札なの!それを忘れないで!」

 

「ちっ……厄介な……」

 

 グレンは渋々と起動触媒をしまう。

 

「おい、メイベル!その『Aの奥義書』とやらがいる場所はまだなのかよ!?」

 

「すみません……まだです……ッ!」

 

「ああ、そうかよ!」

 

 

 

 ……図書室にグレン達が突入して、どれくらいの時間が経っただろうか。

 

 ……どのくらいの距離を、ひたすら走り続けていただろうか。

 

「くぅ────」

 

「《拒み阻めよ・嵐の壁よ・その下肢に安らぎを》────ッ!」

 

 ルミアの異能のアシストを受けたシスティーナが、黒魔改【ストーム・ウォール】の嵐の結界で足止めし────

 

「任せて!ふぅ────ッ!」

 

 リィエルが大剣で打ち返す。

 

 それに合わせて生徒達が、突風の弾幕を必死に張るが。

 

「げほっ!やべ……」

 

「カッシュ!」

 

 生徒達の魔力は徐々に尽き始め、マナ欠乏症の症状が出始めていた。

 

 となると必定、本の怪物を妨げていた呪文の弾幕は、緩んでいく。

 

「《投影開始(トレース・オン)》」

 

 後ろを1人で片付けているはずのアルスがカッシュ達の穴を埋める。だが、それにだって限界はある。

 

「おい、まだなのかよ!?メイベルッ!?」

 

「も、もう少し……ッ!後、ちょっとですから……ッ!」

 

 メイベルも額から脂汗を垂らして必死だった。

 

 そして、グレン自身も、息が上がりつつある。

 

「ぜぇ……ぜぇ……くっそ……どうする……ッ!?」

 

 疲労からか、今まで先陣を切って走っていたグレンが、何かに躓いてしまう。

 

「や、やっべ……ッ!?」

 

 そんな体勢を崩したグレンに、本の怪物が一斉に襲いかかる。

 

「せ、先生ッ!?」

 

 フォローを入れようにも、誰もが眼前の敵の相手に必死で、手が回らない。

 

「しまっ────」

 

 本の怪物がグレンに触れようとしたその瞬間────

 

「ぅおおおおおおおおおおおおおおおおお────ッ!」

 

 カッシュが【フィジカル・ブースト】で増幅された身体能力を使って、グレンに触れようとした怪物達へ体当たりをしていた。

 

「カッシュ!?」

 

 その隙にグレンは体勢を立て直すが────

 

「……へへっ、先生……どうやら俺はここまでみてーっす」

 

 カッシュは本の怪物達に取り囲まれ、その場に1人取り残されてしまった。

 

「くそっ、今行く!待ってろ!」

 

 グレンはカッシュを助けに行こうとするが。

 

「馬鹿!」

 

 グレンの襟首を引っ摑んだイヴが、グレンを引きずように連れ去っていく。

 

「おいっ!放せッ!ふざけんな、カッシュのやつが────」

 

「うるさいっ!貴方があの子の心意気に報いる方法は────救う方法は────」

 

 イヴは走りながら、帝国式軍隊格闘術を使って、グレンを前方に投げ……強引に立たせる。

 

「────この戦いに勝つしかないのよッ!?」

 

「────ッ!?」

 

 イヴの叱責に、表情を歪めるグレンへ。

 

「先生ぇええええええ────ッ!」

 

 後方で、怪物に取り囲まれたカッシュが声を上げる。

 

「俺は信じてるぜ!アンタがいつものようになんとかしてくれるって!だから────」

 

 そこまで言われたからには、この戦い……勝つしかない。

 

「くそッ!カッシュ、すまねえっ!待っててくれッ!」

 

 歯を食いしばって、グレンは前に進むしかない。

 

「アルスぅううううう────っ!イヴ先生ぇええええええ────っ!グレン先生を頼────」

 

 怪物に飲み込まれて消えたカッシュの声が────不意に途切れた。

 

「……………」

 

 冷たい表情を崩さないイヴも……

 

 この時ばかりは、人知れずその表情が、微かに歪むのであった。

 

 

 ────そして。

 

 そんなカッシュの脱落が皮切りだったのか。

 

 図書室を目指した、生徒達は、疲労とマナ欠乏症で、1人……また1人……と脱落していった。

 

 グレン達を前に進ませるために、己が身を犠牲にして────

 

 

「私達は、ここでグレン先生を信じましょう……先生達ならきっと……」

 

「うぅ……グレン先生……イヴ先生……アルス……どうか……」

 

 ウェンディとテレサも。

 

「先生!僕はこんな所で終われないッ!もっと上を目指したいんだ!だから────」

 

「そうだね、グレン先生!イヴ先生!アルス君!後はよろしくお願いしま────」

 

 ギイブルとセシルも。

 

 気付けば…… 

 

 最初は20人弱いた集団は、今や、グレン、システィーナ、ルミア、リィエル、メイベル、イヴ、そしてアルス────たった7人まで減っていた。

 

「クソッ!」

 

 駆けながら、グレンは忌々しそうに書架を殴りつける。

 

「落ち着きなさい」

 

 そんなグレンへ、イヴが冷ややかな声を突き刺す。

 

「あの子達は死んだわけじゃないわ。『Aの奥義書』さえ処分すれば、元に戻……」

 

「わかってるッ!わかってるよ、ンなこたぁッッッ!」

 

 グレンは吠える。

 

「だが────俺は、お前ほど冷静にはなれねえんだよッッッ!」

 

「……ふん」

 

 グレンの叫びをイヴは鼻で笑う。

 

「グレン先生」

 

「なんだ……?」

 

「イヴさんも結構怒ってるんですよ?」

 

「はぁ?」

 

 アルスの言葉にグレンは驚く。イヴは見る限り、いつもの冷静な顔だ。

 

「グレン先生も知ってるでしょう?イヴさんは、感情を表に出すのが下手なんですよ」

 

「────ッ!?」

 

 アルスの言葉でグレンは気付いた。

 

 グレンは軍属時代、イヴが泣いたところや、弱音を吐いたところを見たことがない。

 

 だが、フェジテ最悪の3日間や講師になってからのイヴは少しだけではあるが、感情を表に出していた。

 

 軍にいた時期の方が長いイヴにとって、感情を表に出すことがどれほど難しいか……グレンは知っている。

 

 だからこそ、言われて見ればイヴの顔は泣きそうだ。とても辛くて、自分の無力さを実感しているような……そんな表情をしていた。

 

「……スマン」

 

「……別に……」

 

 グレンの謝罪とイヴの素直じゃない返事に、ルミアとシスティーナは微笑む。

 

 そんな会話をしていると、その場所に辿り着いた。

 

「ふ────ッ!」

 

 その場に足を踏み入れた、その瞬間。

 

 突然、メイベルが右手を左手で掴み────右肘から先を千切り取る。

 

 千切った右手は、虚空に五芒星法陣を形成────結界を構築した。

 

 そして、メイベルの見る先には、大人のアリシア三世がいるのであった……




 い、イヴさん……チョロインだn(殴

 原作だと、この巻でイヴさんの株が上がりましたよね。(元から高かったですけど)

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