廃棄王女と天才従者   作:藹華

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 オレンジから黄色になってしまった!?……まぁ、どうでもいいんですけれども。

 最近、お気に入り登録者数がめちゃくちゃ増えててありがたい限りです。

 九州は梅雨の時期に入って、僕は喉を痛めてしまいました。皆様、体調にはお気を付けください。

 では、どうぞ。


IF:イヴヒロインルート2

無銘達は剣鬼を倒し、馬車を使って特務分室部署へと帰っている。

 

 だが、馬車の雰囲気はお世辞にもいい雰囲気とは言えない。

 

 先程の戦闘で無銘の力量を嫌でも理解したグレンとアルベルトは無銘を危険視しているのだ。例外はセラで、必死にグレン達と無銘の仲を取り持とうとしている。

 

「ねえ、無銘君あの魔術は何?手が青く光ったら剣が現れたよね?……グレン君はどう思う?」

 

 無銘に聞いても返事がないことから、グレンに聞くセラ。

 

「……普通に考えれば、錬金術……と言いたいところだが、こいつは何もない場所から剣を生成した。物体の転移とかその辺じゃないのか?」

 

「で、でも物体の転移魔術って高度な魔術じゃ……」

 

「ああ、その辺は直接聞くべきだろう」

 

 グレンはセラが聞きにくそうにしているのを見て、ため息をつく。

 

「……なぁ、無銘。さっきの魔術はなんだ?」

 

「その辺りは、特務分室で話そう。何度も説明するのも面倒だしな」

 

「そうかよ」

 

 これ以降、この馬車での会話は無かった。

 

 

 ◆

 

 

 特務分室の部署へと帰ってきた無銘達。

 

「任務は成功した」

 

 アルベルトは、室長室に入り淡々とイヴへ告げる。

 

「そう……それで、無銘は《世界》を与えられる程に強かった?」

 

「……正直、決めかねている……実力については申し分ない。癪ではあるが、奴の状況判断と戦闘センスは我々特務分室の中でも群を抜いている……だが、同時に危険なものを感じた」

 

「危険なもの……?」

 

「ああ、奴はグレンと同じだ。精神が摩耗している、そして奴はそれに気付いていない」

 

「自分の精神が摩耗していることに気付いてないって、馬鹿じゃないの!?」

 

「……奴は何か1つの目的のために、自身のあらゆるものを犠牲にしている。その犠牲には精神も入っているのだろう」

 

 アルベルトの卓越した観察眼は、無銘の心を完全に暴いていた。

 

「そんな……」

 

 イヴが落胆した理由は、使える駒が自分を犠牲にする大馬鹿だと知ってのことか……あるいは……

 

 その後は、アルベルトから無銘の不思議な魔術を聞き室長室から出て無銘の魔術について聞くことにした。

 

 

「私の魔術に関してだが……いや、先に魔術特性(パーソナリティー)を言っておこう。私の魔術特性(パーソナリティー)は【万物の複製・投影】だ」

 

「……まさか……お前……」

 

 無銘と同じ特異な魔術特性(パーソナリティー)を持つグレンはすぐに気付けた。

 

「その場で剣を複製したってのか!?」

 

「その通りだ。例えば……そうだな……」

 

 無銘は、そう言って周りを見回す。

 

「《投影開始(トレース・オン)》」

 

 無銘が投影したのは、1つのティーカップだ。特務分室の面々が使っているティーカップ。

 

「……これで、証明できたかな?」

 

 ほぼ全員が唖然としている。

 

 当たり前だ。見て複製する魔術師など、聞いたことがないのだから。

 

 このとき、この場にいた全員が思った。『世界は広いな……』と。

 

「……無銘、貴方のコードネームについてだけれど……これからも《世界》でお願いするわ」

 

 アルベルトの評価と無銘の異質な魔術を考慮すれば当然だ。

 

「了解した」

 

 その後は、特務分室の面々と魔術や格闘術、射撃術などについて教えて貰うという有意義な時間を過ごした。

 

 

 ◆

 

 

 無銘のコードネームが《世界》と決まって半年。

 

 無銘はイヴに室長室へと呼び出されていた。

 

「無銘、明日私の要件を手伝いなさい」

 

「……要件……?任務ではなく?」

 

「ええ、私だけでは無理なことよ」

 

「了解した」

 

「……それと、明日はそのマントは無しよ。【セルフ・イリュージョン】でも何でもいいから、顔を出してきなさい」

 

「……了解した」

 

 マントが駄目と言われ、渋々承諾したのであった。

 

 場所は帝都オルランドの噴水公園だ。

 

 それを確認すると、無銘は室長室から出て行った。

 

「……貴方の精神は絶対に殺させない、貴方は私の大切な駒なんだから……」

 

 そんなイヴの呟きを聞く者はいなかった……

 

 

 ◆

 

 

 翌日、無銘は【セルフ・イリュージョン】を使っていいと言われたのでアレスの姿で噴水公園に来ていた。

 

「……こんな場所で要件なんて、あるのだろうか……?」

 

 時刻は9時半、集合時間は10時だ。

 

 30分前に来る辺り、アレスの性格の良さが窺える。

 

「……30分、何をしようかな~」

 

 アレスがそう呟くと、近くで人だかりができていることに気付いた。

 

 暇なので行ってみると、そこには赤髪の女性がチンピラに絡まれていた。

 

 赤髪の女性───イヴである。

 

 イヴ自身、帝国宮廷魔導士団に所属しているだけあって格闘術も修めているはずだが今回は私服が私服だけに、あまり使いたくないのだろう。

 

 因みに、イヴの私服は上は水色のシャツに黒いジャケットを着て、下は少し短めのスカートにストッキングという、なんとも魅力的な服装だ。

 

 イヴは美女だ。見る人が見ればアリシア七世と同等だとかセリカと同じくらい、と言うだろう。それくらいには美人だ。

 

「ああ、もう!離しなさいよ!私、これから待ち合わせの場所に行かないといけないの!」

 

 イヴは腕を掴んでいる大柄のチンピラに向かってそう言うが。

 

「へへっ、気の強い女は嫌いじゃねえ。こっちに来いよ、お前から腰を振るようにしてやる」

 

 そう言って、路地裏に引っ張って行こうするチンピラの手首を誰かが摑んだ。

 

「ああ!?テメエ、俺の邪魔すんじゃねえ。今からこいつを、俺の女にするんだからよ」

 

 チンピラの視線の先にはイヴとはいかないまでも、綺麗な赤髪の少年がいる。

 

「申し訳ない。その人は、僕の女性なんです。人のを取らないでもらえますか?」

 

「はっ!知ってるか?スラム街(ここ)じゃ、弱肉強食……弱い奴に人権なんざ、ねえんだよッ!」

 

 大柄の男は左手で後ろのスラム街を指しながら言うと、小柄なアレスにその豪腕を振るう。

 

 だが、アレスは後ろに下がって避けるだけだ。攻撃する様子もなく、ただ避けるだけ。

 

 アレスは穏便に済ませたいため、大柄の男の攻撃を躱し続け実力差を分かって逃げて欲しいのだ。

 

「なんだ?テメエ避けるだけかよ……?」

 

 そのまま、男のスタミナを削り続ける予定だったのだが、予想外のことが起きた。背後で置き去りにされたイヴが男に手刀を放ち気絶させたのだ。

 

「……本来なら、警察に引き渡すけれど……今回は見逃すわ、時間も押してるしね」

 

 イヴはそう言って、アレスの腕を引っ張っていく。

 

「それで、なんでチンピラに絡まれたんです?」

 

 少しして、人通りも少ない道を歩きながらアレスはイヴに聞く。

 

「……少し、肩がぶつかっただけよ。それで因縁をつけられただけ」

 

「災難ですね……」

 

「本当にね……」

 

「で、今回の要件ってなんです?」

 

「……今気づいたけど、口調変わってない?」

 

「この姿で、『私』とか『了解した』とか言ったら変でしょう?」

 

「それは……そうかもしれないけど……」

 

「イヴさんが、マント禁止って言ったんじゃないですか。マントさえあれば、こんな口調にしなくていいのに……」

 

「……わ、悪かったわね。お詫びに、今日何か一つ好きなものを買ってあげるわ」

 

「僕は子どもか……」

 

「私から見たら、十分子どもよ」

 

「放っておいてください……それで、今回の要件とは?」

 

「ああ、今日は荷物持ちをやって欲しいの」

 

「………………」

 

 無言の圧力がイヴを襲う。

 

「な、なによ……?」

 

「……帰っていいですか?帰っていいですよね?」

 

「ダメに決まってるでしょう!?」

 

「荷物持ちなんてグレン先輩とかバーナード先輩とかでもいいじゃないですか!?」

 

「バーナードと私じゃ年齢的に……グレンはダメよ、あいつだけは絶対にダメ」

 

 グレンとイヴはいつも嫌味を言い合っている。犬猿の仲というやつだ。

 

「じゃあ他は……任務でしたね」

 

「そういうこと。分かったならついてきなさい」

 

 アレスはグレンとイヴの相性が最悪だと遅まきながら気付いた。

 

 

 ◆

 

 

 その後、アレスとイヴは色々な店を巡った。

 

 食材を買ったり、イヴのお手入れの道具であるナルミオイルを買ったり……などなど、そしてアレスはその荷物持ち。

 

「……少し、休憩にしましょうか……」

 

 アレスの疲労具合を見たイヴは、そう言った。

 

「………………」

 

「わ、悪かったとは思ってるわよ……」

 

 アレスは飲食店に入って、荷物を置くなりイヴを軽く睨む。

 

 その視線を感じたイヴは素直に謝罪した。

 

「でもこれで、買いたいものは買ったし……あとは、何か欲しいものとかある?荷物持ちのお礼に買ってあげるけど?」

 

「ん~……イヴさん、僕の女になりません?」

 

「な……なっ……あっえっと……」

 

 アレスの唐突な発言にイヴは顔を真っ赤にして、口をパクパクさせている。

 

「ぷっ……あはははははははは───っ!」

 

 イヴの想定外の反応にアレスは笑う。

 

 地獄のような荷物持ちで少しだけイラッとしたアレスは、仕返しに少しだけからかってみれば初心な反応をするイヴに笑いを堪えられない。

 

「ははっ、イヴさんもそんな顔するんですね。あっはははははは───っ!」

 

 ずっと笑い続けるアレスに今度はイヴがイラッとして───

 

「……そこに座りなさい……?燃やしてあげるから」

 

 割と真面目に怒って左手に炎を宿すイヴ。

 

「い、イヴさん!?ここ、飲食店だから!お願い、魔術はやめて!僕が悪かったから、やめてイヴさあああああああああああん───っ!」

 

「……次はないわよ?」

 

「は、はいぃ……」

 

「……それと、特務分室で働くときは無銘ではなくアレスできなさい」

 

「それは……」

 

「どうせ、【セルフ・イリュージョン】で作られた偽物でしょう?なら、問題はないはずよ」

 

「いや、そう言う問題じゃ……」

 

「何?断るの?また燃やされたいのかしら?」

 

「……は、はい。分かりました」

 

「それと敬語もなし!」

 

「え、ええ……」

 

「半年も同じ仕事をしているのに、敬語ってのは壁を感じるのよ。よって、これから敬語を使ったら燃やす」

 

「り、理不尽な……」

 

「私は室長よ?大抵の理不尽は許されるわ」

 

「まさかの職権乱用!?」

 

 こうして、《世界》は無銘ではなくアレスとなった。

 

 

 ◆

 

 

 イヴとの買い物から3日後 

 

 特務分室の面々は呼び出されていた。

 

「イヴのやつ、どういう用件だ?」

 

「ま、まぁまぁグレン君、聞いてみようよ」

 

 グレン達が待っていると、室長室からイヴが出てきた。

 

「集まったわね。これから───」

 

「待て、無銘が来ていない」

 

「それについて、今から言うのよ」

 

 アルベルトの指摘にイヴはにやりと笑いながら答える。

 

「出てきていいわよ、アレス(・・・)

 

 イヴがそう言うと、室長室から1人の少年が出てきた。

 

「……誰だ?」

 

「さ、さぁ?」

 

 予想の斜め上を行く人物の登場に全員が困惑する。

 

「……え、えーと。アレス=クレーゼです、今までは無銘と名乗っていました。これからよろしくお願いします」

 

「おう、よろ……しく……って、無銘だと!?」

 

「ええ、そうよ。この子が無銘の正体よ」

 

「う、嘘だろ!?」

 

 まさかのカミングアウトにアルベルトですら目を見開いている。

 

「《投影開始(トレース・オン)》」

 

 アレスは魔術を起動して剣を投影する。

 

「……これで、信じてもらえましたか……?」

 

 その光景を見れば信じるほかない。

 

「……まさか、無銘の正体がこんな子どもだったとは……」

 

 グレンは呟く。

 

「……どんな姿だと思ってたんですか?」

 

 アレスは興味本位で聞いてみる。

 

「もっと、ゴリラみたいな男だと思ってた」

 

「ぐ、グレン君……」

 

 子どもと言いながら、馬鹿正直に言ったグレンをセラが宥める。

 

「……よ、よろしくお願いしますね。先輩方」

 

 グレンの言葉に若干傷つきながら、アレスは再び挨拶した。




 書いてて思った、イヴさんってチョロイn(殴

 今、どこからともなく、拳が飛んできた……

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