「全てを原初へ還してやる……その存在ごと」
アルスがそう言うと、アルスの周りに
「《
アルスの周りに投影された剣が
「やはり君は凄い!
「未来予測と不可視の刃とか悪質すぎだろ!僕じゃなきゃ死んでたぞ!」
「君なら死なないと
「ああ、そうかい。それで?これでおもてなしとやらは終わりかい?」
「……いいや?君を殺すための戦力が『この程度』なわけがないだろう?」
「……え?」
「……驚きはいらない。僕の計算では、君はこのことまで視えているだろう?」
「……《
アルスは大量の剣を投影し、後ろにいる中毒者達を全て串刺しにした。
「やはりこの程度の戦力では相手にならないか……ならば、これはどうだい?」
ジャティスが指を鳴らすと、周囲に無数の
「《無駄っすよ》」
即興改変された投影魔術が
「僕は君を買っているんだよ。君だけだ!君だけが
「そうなんですか?」
「ああ、君は僕が認めた中で1番
「……勝手に人を悪扱いか……まあ、否定はしないけどね。でも、僕は僕なりの経験を経て僕の正義に辿り着いたんだ。だからさ……僕の正義を語るなよ、
「……すまない、君の人生を貶めてしまったことは謝罪しよう。それでも、僕の考えは変わらない。僕が絶対の正義であることは間違えようがないし、そんな僕と対立する君は絶対の悪であることも絶対に変わらない」
「アンタがアンタの正義を狂信するのは良いよ。でも、その正義とやらに僕らを巻き込むな」
「これは仕方のないことなんだ!
「
「まあ、所詮悪である君にはこの力の偉大さが分からないか……だが、あの教典の力は本物だ。そして、その教典を手に入れた僕が……僕こそが『正義の魔法使い』となる!」
「……正義の魔法使い、か……なら、僕が貴方の前に立つのは必然でしたね」
「ん……?」
「アンタは僕の別の可能性だ。僕が自身の思う最高の正義を思い続けた果てにアンタの理想はあるんだろう」
「…………………」
「アンタは知ってるか?気が遠くなるほど遥か昔、
アルスはそう言って、剣を投影しジャティスに突貫する。
「くっ!」
アルスの神速の突貫でジャティスは心臓を貫かれた。
「……終わったか……」
アルスがそう呟いて、イヴの元に帰ろうとすると。
「君は僕を倒す……
アルスの背後から声がした。
アルスは絶望の顔をしながら振り返る。
「驚いたかい?今まで君が相手をしていたのは、僕の分身……正確には、僕の魂を持っているから等しく僕なんだけど」
「……魂を分割したのか……っ!?」
「ああ、そうさ!そして、僕の計算では君は
「……ははっ……はははははははははははは」
アルスは笑い出した。
「ようやく、君を
「僕が壊れた?誰が決めた?」
「───ッ!?」
壊れたと思われていたアルスは突然聞いてきた。
その質問にジャティスは驚いた。
「僕が笑ったのは、アンタが僕の
「……なに?」
「それに、戦法まで同じと来た……対策をしないわけがないだろう?」
そう言うと、
「ま、まさか……ッ!?」
「そう、僕は自分の肉体を魂含めて複製したのさ」
アルスと思われていたものは、完全に消え去り。
「アンタの分割と違って、完全な複製だから寿命を縮める可能性もない」
「ああ……ああっ!そうか、そういうことか……ッ!?もっと早くに気付くべきだった!今まで1度たりとも
ジャティスは今までアルスの行動を未来予測して当たったことなど、1度もない。だというのに、この戦いでは最初から最後まで読めていた。そして、ジャティスはそれを疑問に思うことなく戦っていたのだ。
「答え合わせといきましょうか……まず、アンタの固有魔術では僕を読めない理由ですけど……これについては、分かってるんでしょう?」
「ああ、君の未来視は僕の未来予測を遥かに上回る精度を持っている。そして、そんな確定した事項を視ている君は人の理解の及ばない行為に走る……その結果、僕の計算では追いつかない」
「正解……んで、今回僕が自分の魂まで複製した理由ですけど、単純にこれしか裏を取れなかったからですよ。アンタは僕を殺すために、何度も計算間違いをして計算し直しただろう?そのせいで、これ以外のあらゆる手が封じられていたんですよ」
「……まったく……君はいつも、僕の想像の遥か先を行って見せる……正直に言おう!僕は君に嫉妬しているのさ!同じようなものを得ていながら、僕は君の予想通りに、君は僕の予想に反して行動する。全てを思い通りにできる、そんな君は世界の誰よりも
「まあ、最後らへんの話はどうでもいいんですけど……僕とアンタじゃ視ている、あるいは読めている
「……次元?」
「アンタは、人の思考や感情を数式に当てはめることができるから通常の数秘術に比べれば精度はいいでしょうよ。でも、僕の未来視はあらゆる次元から
「……きひひひひひ……ッ!ひゃははははは、はははははははははははははは……ッ!」
傍から見れば、ジャティスは壊れたように見えるだろう。だが、アルスは知っている。この男が”壊れる”ことなど、ありはしない。
「そうかそうか……君は僕に”これ”を教えてくれたのか……ッ!?」
「……前から思ってたんですけど、突拍子もないこと言い過ぎじゃないっすかね?」
「君はその突拍子もない発言であっても理解が追い付くだろう?」
「いや、そういう問題じゃなくて……」
「僕は愚者と弱者には寛容さ。だが、君は愚者でもなければ弱者でもない。君は”愚者の民”じゃないんだ……ッ!」
「……愚者の民……?」
「ああ!君は天人だよ!僕らとは根本的に違う、君はこの時代に生まれてきていい”
「…………………」
「なるほど……通りで、君には僕の固有魔術が通用しないわけだ。君の行動を予測するには、僕はあまりにも”愚者”すぎる」
ジャティスは
「今の僕では君を倒すことは不可能らしい……だからこそ、僕が君を倒すことができたならば、僕の正義が天人である君を上回ったことに他ならない!その時まで、
それだけ言って、ジャティスは消えて行った。
「……もう、アンタと戦うのは御免だよ」
アルスもそれだけ呟いて、イヴの元へと帰って行った……
◆
「…………………」
イヴは倒れているアゼルを転移魔術でイグナイト家に飛ばした後、アレスの帰りをずっと待っている。
すると───
「イヴ!」
イヴはジャティスの殺害に向かわせたグレンの声がしたので、急いで向かった。
そこには、ボロボロのグレンとマナ欠乏症と少しの軽傷を負ったセラがいた。
「せ、セラ!」
イヴは、セラに近づいて白魔【ライフ・アップ】を唱える。
「ありがとう」
セラはお礼を言う。
「それで、アレスは?」
「……あいつは今ジャティスと戦ってる」
「……そう……」
「……大丈夫だよ、イヴ」
突然、セラがイヴにそう言った。
「アレス君はきっと帰ってくるよ。だから、信じよう?ね?」
「……そう、よね……私がアレスを信じなくてどうするの」
イヴは自分に言い聞かせるように、そう言う。
「……絶対に、帰って来て……」
そんなイヴを見て、グレンもセラも微笑むのだった。
イヴが祈り続けて、何分経ったかも分からなくなってきたとき───
「今、戻りました」
アレスの声が緊急対策会議室に響いた。
「アレス!」
イヴがアレスのところへ走って行く。
「ジャティスは!?」
「逃げられました……すいません」
「謝ることじゃないわ、誰にだって失敗はあるもの」
いつものイヴであれば、こんなことは言わないだろう。イヴも成長したのだ。
「イヴさん、大分素直になりましたね」
「……貴方がそう言ったんじゃない……」
「はは、そうでしたっけ」
「そうよ」
そんなアレスとイヴの微笑ましい光景を見ながら、グレンとセラは微笑むのだった……
◆
ジャティスと戦った日から翌日。
セラは入院し、グレンとアレスでそのお見舞いに来ている。
イヴも来たがっていたが、任務の報告やら何やらで結局来れなかった。
「白犬、見舞いに来てやったぞー」
「セラさん、体調は大丈夫ですか?」
「あ、グレン君にアレス君。お見舞いに来てくれてありがとね」
その後、少し話してアレスは本題を切り出した。
「グレン先輩、セラさん、はっきり言います。貴方達は特務分室をやめるべきです」
「「…………………」」
「グレン先輩も今回の事件で分かったでしょう?こう言ったらなんですけど、今回の作戦、セラさんはグレン先輩の足枷でした」
「テメェ!もう1回言ってみろ!」
「ちょっと、グレン君」
「グレン先輩がセラさんを見捨てていたなら、きっとグレン先輩はあんなにボロボロにならずに済みました……だから言ってるんです。2人とも特務分室をやめるべきだと」
「……どういうことだ?」
「2人がやめれば、セラさんが足枷になることもグレン先輩の心が消耗していくこともない。きっと、幸せな未来が2人を待っていると思いますよ」
「「…………………」」
「きっと、イヴさんも許可してくれるはずです。今のグレン先輩達に特務分室は酷過ぎる」
「そ、それは……」
「確かに2人分の穴は大きいでしょう。でも、大丈夫です。そこらへんは、退役を進言した僕が埋めるので」
グレンとセラは悩むだろう。自分達より若く幼さが抜けきってない少年に、こんな酷な仕事を押し付けるのは気が引けるのだ。
「なあ、お前覚えてるか?俺達が逃げるときに、俺言ったよな?素直になれって」
「言いましたね」
「これは俺の予想だがな……本当のお前は、もっと別のことがやりたいんじゃねえか?」
「そりゃそうですよ、僕はルミアを効率よく守るために特務分室に入ったのに、やるのはいつも別任務……もっと、長い時間監視させろってのが本音です」
「お、おう……」
「まあ、情報は入ってくるので構いませんがね……それで、これからどうするんです?」
「……俺は特務分室をやめる。確かにイヴの野郎は危機一髪の状況で、アレスを寄越してきたが、それでも一歩でも遅れてたらセラは死んでたかもしれねえんだ……イヴはセラを救ったが、死ぬ寸前にまで追い込んだのもイヴだ。これ以上、イヴの命令を聞くのは御免だ」
「ずっと、黙ってたけど……私、今回の任務で左手の
「そうですか……良かったです」
「そんなに俺達が消えるのが嬉しいのか?」
「いえ、拒否されてたら実力行使も視野に入れてましたので」
「こ、怖ェよ」
「じゃあ、イヴさんには僕から言っておきます。後は、2人でゆっくり話してください」
アレスはそう言って、病室から出て行った。
「……ったく、素直じゃねぇやつだ」
「ふふ、そうだね」
アレスの去る姿を見て、グレンとセラはそう言うのだった。