廃棄王女と天才従者   作:藹華

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 お願い、お願い!もう少し、もう少しだけルミア成分補給させて下さい……イヴは次書くから!

 時間軸は禁忌教典を世界の裏側に持って行って少しした後くらいです。


少年と少女の赤魔晶石

 魔術学院の錬金術実験室で、教壇に立ったグレンは高々と宣言した。

 

「今日の錬金術実験は錬金釜は使わん!古典的な分解再結晶法でやる!」

 

「「「えええ───っ!?」」」

 

「またいきなり、突拍子もないことを言い出すんだから……」

 

「……面倒な方法をとるのか……」

 

「あ!アルス!お前、今面倒っつったな?お前な錬金釜でやっても同じくらいの時間が掛かるんだぞ!」

 

「……《投影開始(トレース・オン)》」

 

 アルスが呪文を唱えると、掌が青く光り少しすると結構大きめな赤魔晶石が握られていた。

 

「お前の特性だからできるだけじゃねえか!?」

 

「手っ取り早い、実に効率的だ」

 

「……お前、そんなキャラだっけ……?」

 

「……ギイブル君の真似」

 

「アルス、後で覚えておけよ……先生の気まぐれにはもう突っ込みませんけど、確か分解再結晶法で赤魔晶石を錬成するなら結合促進触媒が必要で、そんなの授業時間で調合する暇は───」

 

 すると、ギイブルの声を遮ってどんっ!と、グレンが教卓に叩きつけるように金属製の箱を置いた。

 

「心配するな、ぬかりはない。触媒なら全員分、すでに用意してあるぜ?」

 

「えっ!?ど、どうやって……?」

 

「ふっ!実は俺の知人に、この手の試薬の調合に詳しいやつがいてな!この授業に間に合うように、そいつに作らせておいたのだ!ま、これが俺の人徳の為せる業というやつか……」

 

「……先生、クマできてますよ」

 

「やかましい、単位落とすぞ」

 

「すいません」

 

「つーわけで、だ。本日の錬金術実験は分解再結晶法による赤魔晶石の錬成に大決定。逆らうやつは単位落としてやる」

 

「なんて横暴な……」

 

「ねえ、ルミア。赤魔晶石ってなに?それは美味しいの?」

 

「リィエル、赤魔晶石はね~~~(略)~~~───なんだよ」

 

「…………?」

 

「……り、リィエルはグレン先生に聞こうね」

 

 流石のルミアも無理らしい。

 

 すると───

 

「わ、私は断固反対ですわっ!」

 

 わなわなと肩を震わせながら、立ち上がる生徒がいた。

 

 ウェンディである。

 

「分解再結晶法などという、魔術師でない人間でもできる古臭い手法、真の魔術師を目指す私達がやるべきことでは断じてありませんわ!」

 

「君は手先が不器用だから、実際に手で器具や試薬を扱う実験法が嫌いなだけじゃないのかい?」

 

「お黙りなさい!ギイブル!」

 

「……ギイブル君、それ言っちゃダメなやつ……」

 

 ウェンディはギイブルの皮肉を遮り、アルスはボソッと言う。

 

「と、とにかく、錬金釜を使用した呪文制御の錬成法の実戦を要求しますわ!この手法こそ、真の魔術師に相応しい華麗なる錬成法ですわ!」

 

「ふむ、真の魔術師……ね」

 

 グレンはウェンディの言葉に頷いて。

 

「よし、分かった。そこまで言うなら錬金釜を使うか」

 

 あっさり折れた。

 

「……ただし!錬成するのは赤魔晶石じゃない。紫炎晶石だ」

 

「……えっ!?」

 

 ウェンディの表情が強張る。

 

「赤魔晶石ではなくて……紫炎晶石ですって……?そ、そんなの無理ですわ!紫炎晶石を錬成する手法はまだ習っていませんし、それを錬成する錬金釜の使い方もまだ調べてませんわ!急に紫炎晶石の錬成をやれと言われてもできるわけが───」

 

 すると、グレンはチョークで黒板に赤魔晶石と紫炎晶石の配列構造式を書いた。

 

「上が赤魔晶石、下が紫炎晶石の配列構造式だ。見ろ、赤魔晶石と紫炎晶石の構造はほぼ一緒、火素(フラメア)水素(アクエス)の値がほんの少し違うだけだ。こんなにそっくりなものを、君は作れないというのかね?ん?ウェンディ君?」

 

「そ、それは……」

 

「配列構造式と錬成式を理解している魔術師が錬金釜を使えば、大体どんなものでも自由自在に錬成できるもんだ。なのに赤魔晶石は錬成できて、紫炎晶石が錬成できないってのは、根源素(オリジン)配列変換の錬成式を根本的に理解できてない証拠だ。上っ面の知識で習った物質しか錬成できないのが、お前にとっての真の魔術師なのか?」

 

「うぅ……」

 

 ウェンディは悔しそうに俯く。

 

「つーわけで、今日は分解再結晶法をやる。錬成式を理解するにはこの、この古臭くて、どろ臭くて、面倒臭い手法が1番だからな」

 

 グレンはにやりと笑って、実験室の隅に設えられた素材倉庫へと、生徒達の席の間を縫って歩いていく。

 

「まぁ騙されたと思ってやってみろ。それにお前ら、結構驚くことになると思うぞ?なにしろ、この手法で作られた赤魔晶石は天然物と違って───」

 

 そして、素材倉庫にたどり着いたグレンは扉を開けて───硬直した。

 

「…………………」

 

 分解再結晶法による赤魔晶石の錬成は、輝石と呼ばれる水晶質の功績を主材料とするのだが……

 

「輝石が……在庫切れ、だと……?」

 

「うわ、見事に輝石なくなっちゃってますね……」

 

 グレンの背中ごしに倉庫を覗き込んで呻く。

 

「だぁああああああああああ!?ド畜生!輝石なんて錬金術のド基礎素材の1つだろ!?消耗品の補充くらいやっとけっつーの!?」

 

「あの……先生?どうしますか?」

 

 ルミアがグレンに声をかけるが、グレンは脂汗を滝のように流すだけで何も答えない。

 

「あらあら困りましたわね?先生」

 

 ウェンディが勝ち誇ったかのように、グレンへ言葉を投げつける。

 

「輝石が在庫切れなら、もう仕方ないですわね。ここは大人しく当初の予定通り、錬金釜を使って魔鉱石からの錬成を……」

 

「アルス!」

 

「……え、何ですか……?」

 

 グレンに名前を呼ばれ、めちゃくちゃ不安になり後ろに下がりながら返事をするアルス。

 

「輝石は視たことあるな!?あるよなぁ!?」

 

「……あり、ます……けど……」

 

「複製しろ」

 

「犯罪じゃないっすか!?」

 

「今まで剣を何本も複製しておいて犯罪もクソもねえだろ!?」

 

「……あ」

 

「『あ』って、気付いてなかったのかよ!?」

 

「……はい」

 

「まあいいや、複製しろ40人分だ」

 

 それを聞いたアルスがにやりと笑った。

 

「あー、40人分は流石に辛いなあ……何かご褒美がないかな~?ねえ先生、ご褒美があったらやる気でるんですけどね~」

 

「ただでさえ寂しい俺の懐を更に寂しくするとか……お前は鬼か!?」

 

「あ~今日はマナが乱れてるな~」

 

「複製してください、この憐れでゴミクズな俺でも今日の昼ごはんくらいなら差し上げれますから!」

 

「《投影開始(トレース・オン)》」

 

 アルスはたった1節で40個の輝石を全部複製した。

 

 その複製された輝石をクラス全員に渡す。

 

「輝石と触媒はクラス全員に行き渡ったな?なら、作業開始だ!まずは教えた通り、なるべく輝石を細かく砕いて、乳鉢ですり潰せ」

 

 その後は、グレンの指示の下、実験は順調に進んだ。

 

 輝石を細かく砕き、特殊な魔術溶液(アルカヘスト)に溶かし、ガラスフラスコに詰める。火炉にかけて加熱したり、氷嚢で冷やしたりしながら、様々な試薬を咥えていき、ろ過作業を何度も繰り返しながら、不純物を取り除きつつ、構造配列を操作していく……

 

「はーい、注目。今、ルビース液をフラスコの中に一滴落としたな?するとすぐに色が赤に変化したと思う」

 

 グレンが錬金実験室前方に据えられている黒板にチョークを走らせる。

 

「つまり今起きた反応で、ここがこうなって……この部分の霊素(エテリオ)2つが抜けて……その代わりに土素(ソイレ)気素(エアル)がこの順番で入る───と」

 

 数字と記号と式がびっしりと羅列された黒板に、新たな記号を書き足し、その演算結果をしたの烈に新たに書き表していく。

 

「とまぁ、今、こういう配列変換が起こったわけだ。その証拠に、この構造配列式のこの部分に注目しろ。この根源素(オリジン)の並び、見覚えがあるだろう?そうだ、ルビーの構造配列の並びだ。だから、赤色に変色したんだ」

 

「な、なるほど……」

 

 生徒達は感心したように、グレンの解説に耳を傾けている。

 

 この手法は、錬金釜による高速錬成では説明できないことに皆が気付き始めたのだ。

 

「しかし、この配列だとまだまだ赤魔晶石の配列には遠いな?よって、これをさらに赤魔晶石の根源素(オリジン)配列に近づけるために、紅鉛鉱を微小量加えていくぞ?ちなみにこの紅鉛鉱の天秤秤量はマジで真剣にやれよ?少しでも量が違えば台無しになるからな?」

 

 そうして、グレンは生徒達の実験の様子を見て回りに行くのであった。

 

 

「面白いね、システィ」

 

 ルミアが隣のシスティーナに声をかける。

 

「難しい手順がいっぱいあったけど、なんか1つ1つ、自分で赤魔晶石を作ってるんだって気分になるね?」

 

「うん……そうね」

 

 システィーナは少し待ってから続ける。

 

「この溶液がどうやって、あんな結晶体になるのか不思議だけど……確かにルミアの言う通りだわ」

 

 左右に揺れる針の落ち着きを確認し、システィーナが続ける。

 

「それに錬成の理屈も凄くよく分かるわ。だから3つ目の手順で加えた純水素晶のパウダーを抜けば、紫炎晶石になることも今なら分かる」

 

「……うん……うん?」

 

 ルミアはシスティーナとは逆側の隣にいるアルスに目を向けて困惑した。

 

 この少年、寝ているのである。

 

 システィーナもルミア越しに見るが、見事なまでに寝ていた。

 

 何が言いたいのかと言うと、アルスは先に作り終わって暇だったから寝ているのだ。

 

「アルス君、起きて」

 

 ルミアが肩をとんとんと叩いて名前を呼ぶ。

 

「……ん?……寝ちゃってたか」

 

「大丈夫?」

 

 ルミアは心配そうに聞く。

 

「ああ、うん。大丈夫だよ……それで?今、どこまでやったの?」

 

「今、やっとアンタに追いついたのよ」

 

 ルミアに聞いたのだが、返事をしたのはシスティーナだった。

 

「ああ、そうなんだ」

 

「ええ。でも、貴方どこでこのやり方を習ったの?最近じゃ、錬金釜の方が使われてるはずだけど……」

 

「僕の固有魔術は錬金術に近いから、ほとんどんの錬金術は王宮でやらされたよ……違法に近いものも……」

 

 最後の言葉はボソッと付け加える。

 

「今、さらっと爆弾発言が聞こえたんだけど!?」

 

 システィーナには聞こえたらしい。

 

「まあ、冗談はさておいて」

 

「本当に冗談よね!?ね!?そうだって言ってよ!?」

 

「……そうだよ(便乗)」

 

「今の間はなに!?」

 

「いや、それよりもグレン先生の指示があるみたいだよ?」

 

 アルスがそう言うと、システィーナの視線は教壇に立つグレンへと向かった。

 

「さて、大分、工程も進んだな。次は配列系中にマナを含ませる工程だ」

 

「うわー、来たー」

 

「俺、この作業苦手なんだよなー」

 

「まあ、お前らも使い方は知ってるだろうが、おさらいするぞ?その注射器を聖水で清めてから、注射器で自分の血をちょこっと抜け。そして、ろ過器の上に注射器を差し込んで、血をろ過器の中に注入。そうすれば、生体マナを豊富に含んだ透明な血清水が、下の受け皿に落ちてくる……とまあ、こういうお馴染みの手順だ」

 

 今さら説明されるまでもないと、生徒達が渋い顔をする。

 

「精製したこの血清水を、さっきまで作っていた溶液の中に、少しずつ落としていけばいい。この時に、錬成式には何が起こるかは後で説明する。じゃ、作業を───」

 

 グレンが作業開始を促す言葉を生徒達に投げかけたその時だった。

 

「嫌ですわ」

 

 ウェンディが拒否したのだ。

 

「そんな工程、お断りしますわ」

 

「は……?」

 

「どうして、私のこの高貴な玉肌にそのような傷をつけるような真似をしなければいけないんですの?」

 

 そんなウェンディを見かねたシスティーナが注意しようとするが。

 

「じゃあ、僕の血でいいよね?」

 

 システィーナとウェンディの間に入って、血の入った注射器を渡す。

 

「え……?」

 

「注射器を刺すのが嫌なんでしょ?なら、これで解決」

 

 そう言って、自分の席について自分の分の血を注射器で取り出していた。

 

 アルスがこんなことをやった理由もルミアである。

 

 きっと、アルスがやらなければクマが酷いグレンがやって、生徒達もウェンディに便乗する。そして、グレンは貧血と寝不足によって倒れてルミアが心配するだろうからアルスは自分の血で済ませたのだ。

 

 何事もルミアによって決まる、これがアルスのスタンスだ。まあ、散々ルミアに迷惑と心配をかけたアルスが思っていいことではないのかもしれないが。

 

 これで後はグレンの指示通りにやっていけば終わりと思っていると……

 

「その……ごめんなさい……私の分も……やってくれないかな……?」

 

「……え?」

 

 見れば、リンはマスクをしており、時折辛そうに咳をしていた。どうやら風を引いていたらしい。

 

「……ダメ……かな……?」

 

「……構わないよ」

 

 そう言って、アルスはリンの分の血清水を作る。

 

 それからグレンの指示の下、工程は着々と進んでいった。

 

「……ここまでの工程でようやく赤魔晶石の構造配列が達成できたわけだ。ここまで理解できていれば、その他の第七火素(フラメア)系列の晶石は大体、自由自在に錬金釜で錬成できるはずだ」

 

 1区切りの作業を終えて、安堵の息をつく生徒達の前でグレンの解説が展開される。

 

「ま、それはさておき、後は不可逆的な結晶化が起きる……要は『結晶が育つ』のを待つだけだ」

 

 もうすぐ実験終了ということで、生徒達の間に弛緩した空気が流れ始めた。

 

「おおっと、油断するなよ?結晶が育ち切るまでが錬金術だ。この段階では急激な温度の変化や湿度変化、衝撃・振動が大敵だ。机を揺らさないように全員静かにするようにな」

 

 その後は、特に問題もなく無事に終わった。 

 

 そして───

 

「うわぁーッ!?すっげぇ!?」

 

「これ、本当に赤魔晶石かよッ!?」

 

 ガラス円筒内に自然発生した赤魔晶石の姿に、生徒達の驚きと喜びの声が上がった。

 

「大きい……赤魔晶石ってこんなに大きく育つものなんだ……」

 

「……確かに驚いたね。これほどのサイズのものは天然物にも滅多にない」

 

「それになんて綺麗な結晶なの……鮮やかな深紅に透き通ってて……」

 

「天然物と違って、不純物ゼロだからな……この美しさも頷けるなあ」

 

 錬成完了した赤魔晶石を手に取り、光源にさらして透かし見たり、生徒達は、その予想以上の成果に大騒ぎだ。

 

「うわぁ……本当に綺麗……」

 

 システィーナはクラスで2番目(・・・)に大きい自分の赤魔晶石に目を輝かせている。

 

「……うん、そうだね」

 

 ルミアはあまり大きくない赤魔晶石に少し残念がりながら、システィーナの意見に賛同する。

 

 アルスはルミアの残念そうな顔を見て。

 

「ねえ、ルミア」

 

「なに?」

 

「せっかく作ったんだし、交換しない?」

 

「え……で、でも私が作ったのは小さいよ?」

 

「大きさなんて気にしないよ。ルミアが作ったっていうことが大切なんだ」

 

「アルス君……」

 

「だから、ね?」

 

 アルスはクラスで1番大きい赤魔晶石をルミアへ差し出す。

 

「……ありがとうっ!」

 

 そう言って、ルミアはアルスに抱き着いてきた。

 

「ちょ!?ここ皆いるから!?」

 

 アルスはルミアに抱きつかれ慌てて離すが。

 

「アルスゥウウウウウウウウウウウウウウウウウ───ッ!?」

 

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア───ッ!?」

 

 男子と女子でほぼ反対の反応をしている。

 

 ルミアとアルスの交際が学院中に知れ渡った瞬間だった。




 ああ~ルミア様かわええんじゃあ~
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