ハイスクールD×D ~タイコの戦士、異世界に現る~   作:アゲイン

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第四話、苦戦を演出。
跳躍のための屈伸のようなお話。


苦戦ということらしい……そしてここ一番の

 顔のない殺人鬼、冥界の悪魔のと戦いは熾烈を極めた。

 

 魔弾を操る悪魔は俺を徹底して近づけさせようとせず、終始距離を離しながら死角より襲いかかってくる。

 俺は当たれば致命傷が確実な目の前の魔弾へと意識の多くを割かなくてはならず、死角から奇襲に対応が遅れ何度も傷を負うこととなってしまった。

 戦況は至って不利、しかし俺にはこの状況を打破するための秘策があった。

 それを実行するために、今は耐えるしかなく。

 それでもじりじりと削られていることには変わりなく、一度しかないであろうチャンスが早く来てくれないか、今か今かと構えている。

 

「ちぃ……っ!!」

「ほれほれどうした、どうしたくそガキぃいいい!!!」

 

 自分が優勢であることを理解しているからだろう、調子のいいことに高笑いをしながら攻勢を仕掛けてくる悪魔。

 次々と放たれる魔弾は密度を増し、こちらの退路を奪うようにして宙を飛び交う。

 それでも僅かな隙間を小さな体躯を利用して掻い潜り、魔力を込めた鞘によって軌道を逸らして道を作る。

 

「残念、そこは逃げ場じゃねぇ」

「……っ!?」

 

 二つの魔弾をスライディングで避け、奴を視界に納めようと顔をあげればそこは半球の檻のように設置された魔弾に囲まれていた空間。

 誘い込まれたと理解したときには既に遅く、握り潰されるかのように収縮した魔弾の壁によって地面ごと袋叩きにされる。

 ミンチにでもするかのような執拗な攻撃に全身を打ちのめされ、微かに残されていた余力さえ振り絞って何とか守りを固める。

 

「…………くっ……!!」

 

 必死になって身を守るが、体内の魔力が底を尽きそうなのをひしひしと感じている。

 じり貧だというのは身を持って理解できたが、これをどうこうできるような強力な力など俺にはない。

 そもそも身を守りことを念頭に鍛えてきたのだ。相手を傷つける、ましてや殺すなどではなく、安全に取り押さえるような動きを教えられてきた。

 ……そんな俺がこいつを倒そうなどと、土台無理なことであったのであろうか。

 

 

 

(―――ふざけんじゃねぇぞ)

 

 

 

 押し潰されて、ずたぼろにされて、実力の差を見せられて。

 普通なら諦めるはずだ……でも、何かが俺を諦めさせない。諦めさせてくれない。

 

 

 ―――鼓動がするのだ。強く、激しく。

 

 

 追い詰められているのに、鼓動がどんどんと強くなっていく。

 運動とか、感情の動きのそれではない。

 心臓のある場所から、心臓でないものが動いているのだ。

 

 

 ―――鼓動がする。より強く、より激しく。

 

 

 感覚が遠くなる、意識が外界を遮断する。

 そこにあるものが、より大きくその存在を主張する。

 どんどんと、どんどんと、張り裂けそうになるほどに。

 

 

 

(―――、)

 

 

 

 鼓動が一つ、指が動く。

 鼓動が二つ、手首が動く。

 三つ四つと重なれば、それに応じて僅かに動く。

 五つ六つ、七つ八つ。

 枯れていくはずだった魔力と違う何かが、鼓動と共に弱りきった体を突き動かす。

 そう、動くのだ。

 

 

 

(―――動く、なら)

 

 

 

 九つ。

 理由など、知らないままで構わない。

 でも動くのなら、動いてくれるのなら、それでいい。

 だからもっと、もっと、もっともっともっともっと……!!!

 もっと!!!!

 

 

 

「―――これで終いだ!!」

 

 

 

(―――もっと大きく響かせろぉおおおおおお!!!!)

 

 

 

 悪魔が終焉を告げ、これまでよりもはるかに強力な魔弾が俺の真上に出現する。

 周りの魔弾を飲み込むように、塗り潰すかのような巨大な、まるで隕石のようなそれ。食らえば確実に死に、骨すら残らないだろう。

 落下というよりは膨張するように、魔弾は接触するもの全てを破壊していく。

 呑み込まれ、その圧倒的な力によって消え失せる。

 その、瞬間に―――

 

 

 

 ―――ドクン

 

 

 

 と、異様なほどの低音が、倉庫の中に響き渡った。

 

 

 

△  △

 

 

 

「……目覚めたか」

 

 悪魔が撃ち放った巨大な魔弾。

 それに命どころか存在そのものを消し去られようとしている自分の弟子が、ことこの極限に至ってようやく覚醒したことを、蒼天はその音で理解した。

 

 

 始めはただ、おかしな力を持っていると思い、本当に戯れで鍛えてやっていただけだった。

 しかし、一年、また一年と共に過ごす内、成長していく姿が誇らしく思えてきた。

 愚直なまでに鍛練に身をやつす弟子である。異形である自分になんら忌避感もないのもまた、種族の壁を越え好感を持てた。

 このまま、この者の成長を見ていくのもいいのかもしれない。そう思っていた矢先の、あの悲劇である。

 

 あの日は身を隠す術を使いながら、空の散歩と翼を伸ばしていた。強風など烏天狗の自分には関係ない、そう意気揚々と飛んでいれば、

 

 

 ―――狂乱したように叫ぶ、弟子の声が突然、耳に響いてきたのであった。

 

 

 何事かと、声のした方へ急行してみれば見るも無惨な姿となった母親と思わしき人間にすがり付く、哀れなまでに混乱した弟子がそこにいた。

 とにかくまずは落ち着かせなければと、近寄って気付く。

 犯人のものと思われる残留した魔力、その嫌悪感を催される感じから、その正体が悪魔であることを。

 

 それからは人に化けつつどうにか事態を収拾させるために奔走し、時間は掛かりつつも一通りのことを済ませ。

 そして今、弟子の成長とその覚悟を見せつけられていた。

 

 格上を相手に一歩も退かず、身に付けた技術を存分に使いこなしている。

 始めの一振りなど、これまでで一番の出来であっただろう。

 魔力の運用も淀みなく、本来不利であるはずの小さな体すら利用して見せる機転。

 最早一人の武人としての風格すら滲ませる、そんな戦い。

 

 

 しかし。

 

 

 それでも種族の差、経験の差は埋めがたく、徐々に徐々にと追い込まれていく。

 手出しをすることはしない、そう自分に言い聞かせていたものの何度動こうとしてしまったことか。

 それでもなお、食い付いていく弟子の姿を見れば余計なことはできようはずもなく、歯を食い縛りただ耐えるのみ。

 

 

 そして、とうとう悪魔の檻に捕まってしまい、絶体絶命となってしまった。だが、そこでふと思う。

 じっと、その戦う姿を見ていたからだろう。

 最終局面というところで、弟子から漂う気配の変化。それに気付くことができたのは。

 

 押さえ込まれているはずなのに、徐々にだが弟子の体が動くのだ。

 連続する魔弾の攻撃、耐えるので精一杯のはずなのに、それでも動く。

 まるで何か、別の意思、いや力でも込められているみたいに。

 

 それが何であるか思い至る前に、悪魔がとどめを刺さんとここにきてより強大な魔弾を打ち出す。

 もうだめか、そう思ったその瞬間、

 

 

 

 ―――ドクン

 

 

 

 と、響く何かにようやく、あの力が何であるかを理解する。

 

 

「……目覚めたか、遂に! お前だけの『能力』が!!」

 

 

 苦節六年弱、いくつもの修行を重ねてもついぞ目覚めなかったその力が、主人の危機と極限なまでの渇望によって目覚めたのだと、烏天狗は理解した。

 そして魔弾を打ち破り、のそりと立ち上がる弟子を見て、この勝負の勝敗が決まったこともまた、確信したのであった。

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