ハイスクールD×D ~タイコの戦士、異世界に現る~ 作:アゲイン
少年はこうして夢のために足を踏み出していく。
「……塵も残さねぇつもりだったが、上手くいかねぇもんだな」
鼓動は鳴り止み、倉庫に中には静寂が漂っていた。夜もまた明けようとしているのか、闇がうっすらとなり始めている。
それほどの激戦をしていた自覚はないが、改めて周囲を見渡してその惨状にため息をつく。
体が滅んだからか、頭部もなくなっており同じように塵となっている。
倉庫の床はそこかしこにヒビが入り、特に大技を食らったところにはそれに相応しいほどの大穴が空いている。
無事な柱を見つけるほうが難しいような内部のせいで、倉庫は崩れる一歩手前といったところだった。
そうして倉庫Mの惨状を見つつ一息入れていると、それまで見守ってくれていた師匠が近づいてくるのが分かった。
「……終わったな、弟子よ」
「ああ、終わった。全部あんたのお陰だよ、あんたが師匠になってくれなかったら、この結果にはならなかった。
本当に、感謝してる。ありがとう」
まさかの連続ではあった。
しかし、最悪のまさかを自分の手で決着に導くことができたのも、そのまさかのお陰である。
それならば、これはいい出会いだったというべきなのだろう。
「お前は見事仇を取り、我の試練をも乗り越えた。もはやお前は一人前の戦士。我が教えずとも、この先自然と学んでいくことだろう。
で、どうするのだ、お前は」
「どうする、ね……」
本当、見抜いてくれるよね、この人は。
戦いを終えて、今俺が思っていることがあるのをわかってのこの発言だ。おそらくその内容も理解していることだろう
「こういうことってさ、俺たちだけが会ってるわけじゃないと思うわけよ。実際、師匠んとこも色々あるみたいなこと言ってたしさ」
「そうだな。「聖書」の連中は色々と傲慢な奴等が多くてな、ぶつかり合うと面倒なのだ」
「そうすっとさ、それで迷惑被ってる人たちが大勢いるわけでしょ。中には俺みたいに、半端に力を持ってたりとか。それが原因で苦しんでる、とか、いるんじゃないかなって」
「ほう、それで」
ここにはそれほど、いい思いでというのもない。
相変わらずぼっちだし、大人は今回の事件で俺のことを腫れ物みたく扱うだろう。
親族だって余裕があるわけでもないから、どこで引き取るかなんてこともできない。
このままだったら、俺は施設に送られることになるだろう。
それならいっそ、飛び出してみるのもありなんじゃないかと思う。この世界には裏があり、そいつらのせいで迷惑している人たちがいるんなら、手を差し伸べてあげたいと思う自分がいるからだ。
「もう俺みたいな思いをする人間を増やしたくない。流れる涙が、どうか嬉し涙でありますように。
太鼓しかできないような奴が、悲しみだとかを一打ちで払えるようになるにはどうしたらいい、師匠?」
俺がそう問いかければ、烏天狗の鳥顔を器用に歪ませ思案するかのような表情を見せる蒼天。
「さてなぁ、我とて万能ではないからな。そのような方法、あれば神を越えておろう」
「そんじゃあ、探しにいきますか」
「ないかもしれんというのにか?」
はっ、そいつは愚問という奴さ。
「―――神様だろうが何だろうが、やってもないのに否定はさせねぇ。果ての果てまで探したか? 隅から隅まで探したか?
千変万化のこの世界、地図などあてになりゃしない。
この目で見たもの耳聞いたもの、それらだけが真実さ。
「それ」を見たことないのなら、果ての果てまで見に行こう。
いざや進まん旗本集い、意気揚々と旅に出よう。
……てなぁ具合だよ。
どうだい師匠、俺は「それ」を探しに行くんだが、一緒にいくかい?
今なら旗印にぴったりの男がいるし、セットで行進曲もついてくる。つまらない旅にはならなそうだぜ」
「……そうまで言われて、断るのは少々癪というものだな。よかろう、丁度ここいらで山に帰るつもりだったのだ。それが十年二十年延びようが構うまい。
だが、旗というならもっと立派になって貰わんとな。今のままでは貧相に過ぎるわい」
こりゃ厳しいと額に手を当てて、眩しさに目が眩みようやく日が昇ったことを理解した。
もう思い残すことはない。
ここでのことに全てケリをつけたなら、大冒険を始めよう。
△ △
と、いうことがあったのだ。
あれからまた色々とあり、俺の処遇についての話し合いで揉めて卒業まで時間が掛かったというところなのだが。
まあこれも、思い残すことの一つではあったのかもしれないのでよしとしておこう。
クラスの連中とは相変わらず打ち解けることはできなかったが、もうしょうがないことだと納得するしかない。元から違う年代の人間なのだから、このクラスの雰囲気に合わなかったということなのだろう。
そうしてクラスの連中に遠巻きに睨まれつつの卒業式を終えて、俺は自分の身元引き受け人のところへと足を進める。
あの後、親戚との話し合いで人間に化けた師匠が一喝して、やいのやいのと言い合う連中を押さえて俺の義理の父ということになったのだ。
これが妖怪のパワーなのかと軽く感心する俺を尻目に、あとは流れでそういうことになっていた。
俺はここを卒業して、他県へと行く。
表向きは都会の受験に合格したからだが、本当は日本全国を巡る旅に出るからだ。
まずは色々なところを見てみないと何も分からない、どこまで悪魔が蔓延っていて、そいつらの何割が悪事を働いているのか。
天使は、堕天使は?
そういったことを理解しないまま、ただ方法だけを探すなんて絶対に無理だろう。
だからこそ、各地を見て回って、人として成長していかなければならないんだと思う。
できるのかって?
―――俺を誰だと思ってる、太鼓の戦士は、頑張り次第で奇跡を起こせるナイスな男なんだぜ?
そんな奴が諦めるなんてことしてちゃあ、両親に顔向けできねぇよ。
何の因果か転生なんてことを経験したんだ、それなら思いきり生きなきゃダメだろう。
―――さあ行くぜ異世界、タイコの戦士が殴り込みだぜ!!
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