IS-KaRaKuRi/Knight-   作:reizen

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ep.13 交換条件

 リニアの方は絶望的な状況にあった。もし零司の判断に従わず、楯無が少しでもあの場に留まっておけばスピード超過によって線路を離脱。大事故に繋がっていただろう。

 なんとか零司が用意したアンチウィルスによって事なきを得た。だが、

 

「我々はもう帰らせてもらう」

 

 藍越学園側は荷物を纏めさせてすぐに京都を離れる意向を示した。しかし、零司がまだ戻ってきていないのだ。

 そのため教員が一人残ることになり、他の人間は先に離れることになると思われた。

 

『息子の事は構いません。先に戻っていただいて結構です』

 

 保護者にそう言われた。何度か抵抗したが、それでも校長や理事長からのお達しとなれば、流石に引かざる得ない。形としては見過ごすことになるが。

 とはいえ、例え死んだとしても訴えないと誓約書まで書かれてしまってはもうどうすることもできないのは事実だ。それにこれ以上留まっていてもこれから起こるであろう戦いに巻き込まれれば死亡必須だ。

 それに、零司を見捨てると言うのはある意味正しい選択でもあった。

 もはや零司の存在は、「一般人」としての枠組みを遥かに超えている。しかもそれを亡国機業に知られてしまっては今後狙われることがあるからだ。そうなれば、一般人しか在籍していない藍越学園にいると他の生徒にも被害が及ぶ。

 そのため、藍越学園の生徒の避難は早急にするべきでもあった。そして戦力にならないという観点はIS学園の生徒たちにも当てはまるため、別ルートを通じて彼女らも避難させられた。2校は近い場所に建てられてはいるが、藍越学園の生徒たちが嫌がったのである。

 

「おいおい、女の癖に逃げるのかよ」

「アイツら、戦力にならないからって逃げてんだぜ?」

「日頃威張ってる癖にさ。どうせISなければ男に勝てないんだろ」

 

 周りから嫌らしいような、侮蔑するような視線が彼女たちに向けられる。傍から見れば酷いことになるが、女性はほとんど日常的に男に同じようなことをしているのだ。だからと言ってしていいかと問われれば否定されるが。

 

「何よアイツ。ちょっと殴ってくるわ」

「落ち着いて、鈴。そんなことをすれば問題になるよ」

 

 その護衛をしていた鈴音が飛び掛かろうとするが、シャルロットに止められる。

 しばらくして藍越学園、IS学園の生徒の避難が完了した。京都の住人たちも現時点で各々避難を開始しており、あと30分ぐらいで終わる予定だ。

 千冬は軍に要請し、平坂零司と更識簪の両名を捜索させている。そして一夏たち他の専用機は別室で待機させらえていた。一夏たちは不満そうだったが、

 

「お前たちは戦って体力を消耗している。今は体力を回復することを務めろ」

 

 そう指示して今は抑えているが、正直臨海学校で女子たちが勝手な行動を起こしている。今回もまたしないとは限らない。とある存在が一夏たちを抑えているが、千冬もあの女は苦手だ。

 

「それで、一体どうする予定ですか?」

「ここで一度、迎え撃つのもあるかとは考えているがな」

 

 不安要素は更識簪の行方だ。一夏たちの証言から男の操縦者が連れて行ったという話だ。下手に動くと最悪の場合、更識簪の無事は保証されない。

 

(………ここで放置すれば、今度のIS学園の生徒に被害が合う、か)

 

 一瞬、自分の機体のことを思い起こす千冬だが、それこそどんな状況に陥るか、そもそも動くかすらわからない。さらに言えばその機体は今学園の地下にある。学園から支援物資は届いているが、今の零司の立場が藍越学園にある以上は協力を得ることはできないだろうと予測する。

 

(…ああは言ったが、本当は戦わせたくないんだがな)

 

 軍と共同で作戦を立てるかと千冬が考えてしまったそんな時だった。

 

「織斑先生、付近に人の生命反応があります」

「すぐに確保し、軍に渡せ。そこからなら避難させてもらえるはずだ」

 

 教員にそう指示した千冬。だが、オペレーターとして残っていた本音が小さく「違う」と言って外に出た。

 

「おい、布仏! ……まさか」

 

 千冬は報告した教員にその映像を拡大させると、画面には全員が知る顔が映っていた。そう、平坂零司が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 襲って来た奴らは打ち止めだったのか、僕はそいつらに対抗しうる武器を手に入れたこともあって返り討ちにして残骸を集め、量子変換してから戻って来たんだけど………。

 

(………なんか疲れた)

 

 それもそうか。対IS用の兵装とか自分の体力と引き換えに発動する大空間を展開したりとかしたんだから。ちなみにあの結界はどちらも僕の体力を展開する機械だから、決して魔法じゃない。それに……使ったら体力の消耗って激しいんだよね。

 

(帰ったらシャワー浴びて、それから寝よう。たまにはちょっと甘えても………恥ずかしいから無理だ)

 

 一瞬で現実に思考が戻ってしまう。まぁ、仕方ないよね。一瞬抱き着いて寝てしまうことを考えてしまったけどさ。だって僕も男の子だもん。

 旅館のドアを引いて開けると、急に楯無さんが抱き着いてきた。

 

「れ……零司君……」

「良かった。無事だったんですね」

「バカ! それはこっちのセリフよ!」

 

 涙を浮かべる楯無さん。でもま、ISを相手に戦っているのだから最悪死ぬよね。

 抱き着いて離れない楯無さんの背中を叩いて離れさせる。その理由は―――本音が温かい目を見ながら僕らの状況を眺めているからだ。

 

「でも良かった。あなたが無事で……」

「とりあえず中に入って寝ていい? ちょっと疲れた」

「良いわよ。そう言えばさっきコンビニのお弁当だけど調達したの。食べる?」

「もらおうかな。今の状況じゃ体に悪いとか言ってられないしね」

 

 特にさっきまで殺し合いをしていたわけだし、なんて思っていると急に身体が重くなり、僕は膝を付いた。

 

「………あれ?」

「ど、どうしたの……? ちょっと、零司君!?」

 

 どうやら楯無さんと談笑したことで緊張の糸がほぐれたようだ……あれ……? なんだか眠く……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから零司は仮設の医務室に運ばれた。

 見た目通り、大した怪我は追っていなかった。しかし零司はいざという時のために戦闘データを取っていたため、様々な情報が持たされることになった。

 

「ほとんど人型サイズのISに、所属不明のIS。第三勢力が出て来ている、というのは厄介だな」

「………どうしますか、織斑先生」

「……そうだな。敵の兵力や使用してくるモノの目処は大体わかったが、やはりな」

 

 うるさかったので気絶させているが、こちらにも「オータム」という人質はいる。どうにかして交渉できないかと考える千冬。

 すると仮設されたIS学園用の作戦司令室の中にある大型ディスプレイから映像が流れた。

 

「こ、これは……」

「は、ハッキングです! どうやらこちらの通信に紛れ込んだようで……」

「対応は?」

「ダメです。解除できません」

『そりゃそうだ。こちらのメッセージを無視されたらお互い困るでしょ?』

 

 男の声。それが司令室に留まらず、館内すべてに響き渡る。

 

「こ、この声はさっきの!?」

『やっほー、専用機持ちの諸君。元気かな? 元気かね? 元気だよね? まさかまた別ルートで襲撃されてるとか間抜け展開とか俺やだよ? 時期に館内の放送は止めるから、全員作戦司令室においでよ。あ、オータムも連れて来てね。一応、話をしたいからさ』

(………まるで束だな)

 

 と、内心思う千冬。ちなみに箒も同じようなことを思っていた。

 専用機持ちが全員司令室に集まる。それをカメラを乗っ取って見ていたのか、男が画面に現れた。その姿を見た楯無、そして箒は驚きを露わにする。

 

「か、桂木悠夜!?」

『久しぶりだね、篠田箒……いや、今は篠ノ之箒だったかな?』

「知ってるのか、箒」

 

 桂木悠夜―――それは零司の親友の名前であり、そして篠ノ之箒がかつて剣道で戦った相手の名前である。

 あの時はお互い全国優勝者ということもあり、接戦で悠夜が勝ち、箒はいずれ再戦を希望したが―――当時の悠夜は言ったのだ。

 

「アンタが俺のレベルに達したら、ね」

 

 あの時、その言葉を聞いたほとんど全員が訳が分からないと言う顔をしていたが、たった一人、観戦していた人間はその言葉を理解していた。

 そのことを説明すると、悠夜が言った。

 

『だって、あの時の俺は3割程度しか力を出していなかったんだ。でもさ、俺は前みたいなギラギラとしていた篠ノ之の方が好きかな。なんていうか今のアンタは前よりも弱くなっているって感じがしてるな。やっぱりそこにいる織斑一夏って雑魚のせい?』

「黙れ!!」

 

 箒が立ち上がる。他の1年専用機持ちたちも立ち上がろうとするが、それを制止したのは千冬だった。

 

「座れ、貴様ら。それで、貴様の要求は何だ?」

『人質交換かな。こっちにいる更識簪とそっちにいるオータムを交換。もちろん、お互いIS付きで』

「……その要求が通ると思っているのか?」

『じゃあ、こっちの子を見捨てるんだ。生徒に対して情は厚いって話は嘘だったかぁ』

「貴様………」

『まぁ、更識の決定的にはぶっちゃけどっちでも良いだろうけどさ、人の命をそう簡単に粗末にするのは許せないと思うけどなぁ。ましてや、それがそちら側の悪魔の贄になる資格のある女だったら尚更だ。ブリュンヒルデと言えど、流石にオバンじゃ相手は無理だろうし』

 

 その言葉にとある20代が舌打ちをした。

 

『ちなみに場所はここだ。今は誰も使われていない工場跡。そこで取引と行こうか』

「………その必要はないわ」

 

 全員が楯無の方を向く。

 

「その取引にこちらは応じない。その子は煮るなり焼くなり犯すなり好きにしなさい」

「な、何言ってんだよ、更識さん!?」

「そうですよ。捕まっているのはあなたの妹なのに―――」

 

 箒の言葉を遮るように楯無は言った。

 

「それがどうしたの?」

 

 楯無が箒に向けた瞳はとても冷たいものだった。

 普段から―――それこそ、一夏たちに見せていたものとは圧倒的に違う。それこそ―――殺戮者の瞳とも言えるそれを一夏らは気圧される。

 

「先程、本家から連絡があったわ。最悪の場合、更識簪を見捨てろとね」

「……じゃあ何か? アンタは家の命令だからって自分の妹を見捨てるって言うのかよ!?」

「そうよ」

 

 冷静に告げる楯無。すると一夏は言った。

 

「この……人でなしが! よくそんなこと言えたな!」

 

 そう怒鳴るように一夏が言った時だった。

 

『―――じゃあ、篠ノ之箒やセシリア・オルコット、凰鈴音、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒがアンタに恋をしているというのに一向に好きという感情に気付かないアンタは何様なんだ?』

 

 突然の暴露にほぼ全員が顔を赤くした。一夏に至っては何を言われているのか理解できないと言う顔をしている。

 

「ちょ、ちょっと何を言っているのよ?!」

「そ、そうですわ!! 一体何の話をしていますの?!」

「じょ、冗談はよしてよ!!」

「? 何を照れているのだ?」

「………き、貴様ぁッ!! 隠れていないで出て来い!! 今すぐ斬り伏してやる!!」

 

 ラウラは平常運転だったが、他の4人は慌てる。当然だ。突然第三者によって自分の恋愛感情が暴露されたんだ。冷静でいられるはずもない。

 

『そう言えば、弾の妹……確か五反田蘭だっけ? そいつも好いているしお前を追いかけてIS学園に入ろうとしているのに安請け合いしたとか。いやぁ、ホント―――冷静に考えてありえねぇ。普通、友人の妹を破滅の道に入れようとする? しかも自分の立場もわからずに未だに友人の家に出入りするなんてさ―――あたかもそこを狙ってくださいって言っているようなもんじゃん。いやぁホント―――頭悪すぎ間抜けすぎだよ、織斑一夏』

「テメェ、何でそんなことを知ってるんだよ!?」

『ああ、弾に相談されたから。妹のIS学園の入学を諦めさせるにはどうしたらいいかってさ。あ、先に言っておくけど、俺は元々藍越学園生で弾や数馬、それに零司とはクラスメイトだったんだよ。ああ、そうだ。って言うか今の話はどうでも良いか。それよりも取引だよ、取引。そっちの都合は良いから、朝の8時に指定する場所に来てくれ………いや、行かせろよ』

「………行かせろというのはどういう意味だ?」

 

 ラウラの質問が悠夜に飛ぶ。悠夜は笑みを作って言った。

 

『連れてくるのは平坂零司の一人で、だ』

「待って。今の零司君は藍越学園の生徒よ。このイザコザに巻き込めないわ!」

『仕方ないじゃん。織斑千冬は司令官ぶってて話にならないし、たぶんブランク酷くて相手にならない。そこに隠れて様子をうかがっているアラサーには興味ないし。って言うか零司じゃないとこいつを誘拐した意味ないんだって』

「………どういうことかしら?」

 

 楯無の問いに、悠夜はハッキリと言った。

 

『俺の本当の目的は、平坂零司とガチバトルをすることだから。それにぶっちゃけ、オータムもこの女の子もどうでもいいしね』

 

 平然と答える悠夜に、全員は同時に「危険」だと思った。

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