「そうだ。零司に面白いものを見せようと思ったんだ」
そう言って悠夜は端末を零司に放る。零司は受け取り、それを確認した楓は簪を連れてそこから逃げた。
ちなみに端末にはさっきの映像が流れていて、今度は簪のモザイクが取れているタイプのものだ。
「………悠夜……これ……見た?」
「ああ。にしても驚いたぜ。まさかあの嬢ちゃんがお前を裏切った理由って言うのは―――」
瞬間、悠夜は顔を逸らすと熱線が通り、余波がオータムの鼻先をかすめた。
「なるほど。………見たんだ」
零司は端末を放り、展開した銃で破壊する。
「………零司?」
「死ね」
さっきのモノとは比べものにならない出力が悠夜に連射された。
零司と悠夜が出会っていた頃、IS学園の専用機持ちたちは2人1組で行動をしていた。箒と鈴音、シャルロットとラウラ、セシリアと真耶、そして一夏と楯無。さらにアリーシャがIS学園が陣取っている旅館の周囲を警戒しており、4組はそれぞれ個別に行動していた。
「こちら更識。早速遭遇したわ」
楯無の視線の先にはスコールがいて、彼女もまた楯無を見つけIS「ゴールデン・ドーン」を展開する。
「見つけたわよ。オータムを返してもらうわ」
「何の話かしら? そちらの要求通りオータムは返したわ」
「………どういうこと?」
スコールを疑問を浮かばせる。そして、その犯人がスコールの脳裏に過ぎり、舌打ちをする。
「なるほど。あなたたちも踊らされたということね」
「どういう意味だ!?」
「桂木悠夜が勝手に算段を整えたということよ。こちらにも何の連絡もなしに、ね」
すると指定した場所に爆発が上がる。
「あれは!?」
「確か言っていたわね。平坂零司と戦いたいって」
その言葉に不安が過ぎった楯無。彼女はただひたすら、零司の無事を祈りたいが先にすることがある。
スコールに攻撃を仕掛けようとした楯無。しかし先に楯無たちの下にビームが降り注いだ。
「―――見つけたぞ、織斑一夏」
「お前は………何だ、それは!?」
声からして以前に出会った「織斑マドカ」と名乗った少女と思った一夏。それは確かに正解だが、彼女が駆っている機体はイギリスから強奪した「サイレント・ゼフィルス」ではなかった。
「貴様の力を見せてみろ、「黒騎士」!」
その言葉に応えるかのように「黒騎士」の装甲が光りを放つ。一夏と楯無の所にシャルロットとラウラが合流した時、突然陽気な声が聞こえてきた。
「にゃーん。せっかくの「黒騎士」の華々しいデビューを邪魔させないよ☆」
「あなた……」
驚く楯無を余所に束は右手に持つステッキを回す。
「きらきら☆ポーンっ♪」
すると楯無とシャルロット、ラウラのISが動かなくなった。
「………これは……重力……」
「くそっ! ここまで強力なのか!?」
3人はなんとか動こうとするが、ピクリとも動かない。
「にひっ。束さんの最新作、空間圧作用兵器試作八号こと《
してやったりという顔をした束。。そして―――
「ついでだから、ISのコアを頂いちゃうよん」
無力化だけでは飽き足らず、IS自体を奪おうとする束は楯無の方に近付く。楯無が相手だからか、束はこれまで楯無が感じたことがないほどの濃密な殺気を放つ。
まるで命を刈り取られるのではないかというイメージを見せつけられた楯無。束があと一歩という所に近付いた瞬間、何かにぶつかった。
「―――ぴぎゃっ!?」
予想外の衝撃に混乱する束。瞬時に受け身を取った束はぶつかったものを確認すると、見たことがない存在はそこにいた。
今まで小石程度でこかされたことが束はその行為に苛立ちを覚え、普段は聞かせない声のトーンでその存在に話しかけた。
「おい」
しかしその存在は束の方を振り向こうとしない。どうやら自分が呼ばれていることに気付いていないみたいだ。
その存在は左腕に装備している砲台を自分の正面に向けて短刀サイズの両刃剣を展開する。
「―――とりあえず、死ね」
もし、この場にいるのが楯無ではなく簪ならば、全員に警告していたかもしれない。だが今この場にいるのは楯無なので、そうはならなかった。
「―――ホーリーレイ」
砲口から白い熱線が飛び出す。それは突然現れた円を通ると砲口を転換し、ある存在を狙う。しかし狙った相手が攻撃を察知し、同様の攻撃で相殺する。
「―――チッ。やっぱり倒せないか」
「―――ねぇ」
予めわかっていたのか、その存在こと平坂零司は舌打ちをすると後ろから掴まれた。それがまずかった。
反射的にトンファーを展開した零司は素早く束に攻撃した―――が、束はそれを防いで反撃した。
「この束さんに喧嘩を売るなんて、随分と間抜けだねぇ」
「零司君!」
「…………あれ?」
ようやく零司は現状を把握したのか、辺りにISがたくさんいることに気付いた。
「零司君、大丈夫?」
「うん。って言うか楯無さん、危ないから下がってて」
「今この状況で言うセリフじゃないからね!?」
「………まさか今ので無事なの?」
束はかなり力を入れて攻撃したが、ピンピンしている零司を観察する。それに彼女が気に入らないのは、自分の事を無視して話を進めていることだ。次第に怒りはじめ、もう一度、今度は零司に対して《王座の謁見》を行使した。だが、さっきの3人みたいに跪かない。
「な、何で!? あり得ないよ………まさか、故障?」
「何の話をしているのかわからないけどさ、たぶん機械の故障じゃない。あなたが何かをした時に瞬時に見極めて相殺する能力を使ったわけだよ」
零司の説明が終わった瞬間、束の上から刃が降ろされる。束は回避するが肩をかすめた。
「やぁっと来たね、ちーちゃん!」
現れた千冬は零司を庇うように降り立ち、安否を確認する。
「大丈夫か?」
「………見つけた」
そう呟いた零司は姿を消すとどこかに向かった。嵐のように去っていった零司にその場にいる全員が呆然とさせる。ちなみにその上空では一夏とマドカが戦っている。
「でも良いの、ちーちゃん。今頃あの旅館にいる人、襲われてるよ」
「何を―――」
まるでその言葉を証明するように、さっきまで千冬たちがいた旅館が爆発した。
悠夜は逃げた。ひたすら逃げた。
何故零司が殺気全開で自分を殺そうとしているのか理解していないが、それでもたった一つ理解していることはある。
―――殺される
故に、悠夜はひたすら逃げた。例え何と言われようと逃げ出した。
「―――見つけた」
そんな声が聞こえたため、悠夜は足を止めた。
「……零司」
「さて、悠夜。死ね」
「待て零司! さっきから何に怒ってるんだ!?」
心当たりがないため、生き残るため零司に直接質問する悠夜。零司は殺気の濃密度をさらに高める。
「………何にって……決まってるじゃないか………君が、簪の裸を見たことだよ!?」
「至極誤解だしテメェの好きな相手の裸を見るほど馬鹿じゃねえよ!!」
「まぁいいや。疑わしきものは惨殺って言葉もあるし。IS学園から4人は助けた後に全員に消えてもらうとして」
「洒落になってないことを言うのは止めろ!!」
悠夜は直感した。ちゃんと理由を説明しないとこの世界は終わる、と。
「落ち着け零司。もうお前だってわかってると思うが、俺はお前に話があって呼んだんだ」
「そんなのとっくに知ってるよ。でも死ね」
「だから見てねえしそれらしいものは見たけどちゃんと加工されていたから!!」
「…………ほう。僕が受け取った時にはされていなかったけど?」
「―――それはたまたまあなたが受け取った時に動画があなたに見せるための無修正タイプに進んだからでしょう」
悠夜はその声に焦り、現れた少女に頭を抱える。
「………ロリコン?」
「いえ。ただ私は悠夜様にとって手頃な物というだけです」
「零司と同じで天才なだけだから。中二病を理解できるってだけだから」
楓が現れたことでさっきまでのギスギスした雰囲気は一変し、和やかなムードになっていた。
簪が場を伺いながらゆっくりと現れる。零司はすぐに感知し振り向いた。
「………れい……じ……」
「………簪」
零司は簪に近付き、腕を伸ばせる。簪は零司にハグしようと近付くが、零司が先に彼女の両頬を抓った。
「………いひゃい」
「当然、だろうが! 何で僕が渡したデータを無駄にしてんの!? あのシステムにはマルチロックオン・システム以外にもスペック強化のプログラムも仕込んでたんだよ!? 耐衝撃とかその他諸々が!!」
「……使ってない」
「使えよ!! 何のために作ったかわからないじゃないか!!」
「………アンチバリアウイルスと即効性の睡眠ウイルスが仕込んでいたので効くのは当然ですが?」
そうなのだ。悠夜が攻撃した時、打鉄弐式にはこれまで開発されることがなかった特異なウイルスが仕込まれ、簪はすぐに眠ってしまったのである。そのためあっさりと捕まり、抵抗しなかったのだ。
「仕込んであったんだけどなぁ……」
彼方を見る零司。そんな彼に楓は端末を渡した。零司は受け取って言われるがまま再生すると、楓が素早く零司の耳にイヤホンを入れてプラグを刺して彼にのみ聞こえるようにした。
それによって零司は徐々に顔を赤くする。次第に鼻血を流すが零司は視聴するのを止めない。簪は必死に止めようと行動するが、零司はまるで見えているのか攻撃を回避して最後まで見終えたと同時に地面に倒れた。
「まだだ……まだ終わらんよ!!」
そう叫びながら立ち上がろうとする零司。致死レベルの血を流しているが、そこは例の回復コアで回復する。
「とりあえずだ。簪が僕をどう思っていたのか正直色々と処理し切れていないけど理解した」
「……それは俗に「理解していない」と言うのでは?」
「こいつの場合、理解しているが本当に思われていたことに処理が追いついていないんだ」
悠夜が楓に説明すると、零司は真剣な顔で聞いた。
「で、話って何?」
「…………何のことだ?」
「純粋に戦いたいなら時期を見て攻めれば良い。だけど君はわざわざ簪を誘拐して僕をおびき寄せたという事は、他の奴らには聞かれたくはないってことでしょ?」
「……ご名答だ。だがそれは―――」
悠夜は簪を見る。零司は悠夜の意図を察して簪に離れてもらおうとすると、爆発音がした。
「………旅館が爆発している?」
「オータムか。そう言えば放置してたな」
「完全に存在を忘れていましたね」
「………でも、IS学園の教師は全員何らかの武術の心がある。そう簡単には―――」
その言葉で零司はある存在を思い出す。
「……ISの反応を持った人型兵器か」
「ああ。俺たちから離れたオータムが呼んだんだろうな。篠ノ之束も面倒な物を作る」
呆れを見せながら悠夜はそう言った。そしてあることを思い出して零司に告げる。
「零司、お前の機体を乗せたトレイラーがここから北東に行った場所にある。お前は機体を受理しろ」
「………悠夜、君は敵なんじゃ―――」
「目的のために亡国機業に入っただけだ。ま、実力で入ったけどな」
さらりと凄いことを言った悠夜は零司の背中を押した。
「行け」
零司は少しふらつきながらも体勢を立て直してそこに向かう。
「更識簪、これを」
「……打鉄弐式」
その待機状態である指輪を受け取った簪は一度会釈してから零司の後を追った。
「………それにしても、説明しないで良かったのですか?」
「面倒なのは目に見えているからな。今は合流して亡国相手にも立ち回れることを証明させた方が良い。………それに」
「それに?」
「説明しようがしまいが、どうせ零司は暴走しない限り自分から乗らないからな。というか仮に暴走したら―――たぶん俺以外の誰にも手を付けられない」
確固たる自信をもって答える悠夜。楓はまるで甘える猫のように悠夜にすり寄った。
「………死なないでくださいね」
「死にやしないさ。ただ近畿地方を中心に日本が割れるのが最小被害だ」
「………それは困ります」
悠夜の右手の中指に嵌められた黒い翼が鉱物を囲う姿を象った指輪が光った。
合流する途中、零司は追いついた簪に一つだけ頼みごとをしていた。
「悠夜と会話していたってこと、秘密にしておいてくれないかな」
「………もちろん」
頷いてから簪は零司の腕を取り、自分の方に引き寄せてキスをした。
不意打ちだったこともあって零司は反応が遅れる。そして、さっき自分がしたことがそのまま帰って来たので楯無が思ったことを理解していた。もっとも、零司は楯無に好かれていることに全然気づいていないが。
「と、とにかく、今は旅館の方だ」
「………教師の事が心配?」
「本音以外は興味ないかな」
そう言いながら旅館に仕掛けたカメラで状況を観察する零司。そこには―――打鉄を纏った本音とアラクネを纏ったオータムが戦っていた。