爆発音を聞いたのは、当然ながら零司たちだけじゃなかった。
敵を見つけるために分散していた箒と真耶、そして鈴音とセシリアもまた感知しており、旅館に向かっている道中で4人は合流していたところ、強襲された。
「この先は通行禁止だぜ!」
「その声……やはり更識さんの言う通り、ダリル・ケイシーさんなんですね」
「そう言う事だぜ、山田先生」
黒い炎を辺りに展開して放つダリル。4人は回避するが濃密な弾幕に徐々にダメージが減らされる。
「逃げられるものならば逃げてみな!」
先に放出された黒い炎よりも純度が高くなったものが放出され始める。鈴音は回避するが炎の玉が爆発して鈴音に当たった。
「鈴さん!」
「鈴!」
「大丈夫。かすり傷よ」
そう言って宥める鈴音。しかしシールドエネルギーは大分消耗しており、今すぐに補給する必要があるほどだ。だが、鈴音はそんな状況に関わらず
『それよりも、箒と山田先生は今すぐここから離脱して旅館に向かってください。ここはアタシたちで食い止めます。やれるわね、セシリア』
『もちろんですわ!』
『……わかった。山田先生、行きましょう』
『………はい。お二人とも、くれぐれも無茶はしないようにしてくださいね』
真耶は教師として本当は残ろうと考えたが、これまでの彼女らのことを考えて任せることにした。
とはいえ、この炎の弾幕から逃れる術は今はない。おそらく、生徒3人ならば何の打開策もなかっただろう。
『篠ノ之さん、私に考えがあるので上に乗せてください』
『わかりました』
真耶はかつての一夏のように箒の上に乗ると、自身が駆るラファール・リヴァイヴ・スペシャル「
「今です! 加速してください!」
真耶の指示に従った箒は紅椿を加速させると弾幕を無理矢理突破する。
それを確認した鈴音は防ごうとするダリルに向けて衝撃砲を撃った。
「チッ。まぁいいや。オータムもたぶんアラクネを回収しただろうし」
内心「また捕まるんじゃねえかなぁ」と思ったダリルだが、今は目の前の2人に集中することにした。
■■■
「簪、先に打鉄弐式で向かってくれ!」
「……わかった」
僕から距離を取り、打鉄弐式を展開した簪は先に旅館に向かう。あの軽やかな動きは本当に凄いなって思ったりする。僕なんてマジックコアに頼りきりだからなぁ。
言われた通りの場所に向かっていると、銃弾が飛んでくるので前方にシールドを張る。
「待て! 坊主だ!」
「……大将、あなたたちも来ていたんですか」
「ウチのボスの指示でな。無事合流できてなによりだ。それよりもだ。あそこにお前さんの目当てのモノが寝かせてある。プレゼント付きでな」
「わかりました」
返事をした僕は指示された方向に移動すると、僕を待っていてくれたのか見知った顔が手を振った。
僕は素早く移動してトレイラーの中に入る。聞いた通り、確かに機体は寝かされていたのでコックピットには背中から入る必要がある。
(それはそれでワクワクするけどね)
不謹慎だけど、笑みを浮かべる。パイロットスーツは来ていないけどこの際仕方ない。
機体を起動させてエネルギーが機体すべてに行き渡るのを待つ。あと5……3…2…1…起動完了。
そこで僕はようやく気付いた。白鋼が―――本来の姿になっているのを。
(………プレゼントってこれか)
そう言えば設計図はすべて渡していたんだった。僕が戻るのをずっと待っていてくれたんだ。
「………ありがとう」
僕は遠隔操作でトレイラーのハッチを開き、上昇発進させるためにハンガーを移動させる。そして―――
「平坂零司、白鋼、行きます!」
ハンガーから分離させると同時に上昇させ、ウイングスラスターからエネルギーを放出させて移動した。目指すは―――簪のいる場所だ。
■■■
簪が目的地に着いた頃、既にその場には箒と真耶が到着していた。しかし2人はオータムと戦っておらず、別の存在と戦っている。
(…零司から聞いた、人型でもIS反応を発する存在………)
荷電粒子砲《春雷》で人型ISを破壊する。それで2人は簪の存在に気付いた。
「更識さん、無事だったんですね!?」
「大丈夫か? あの男に何もされていないか?」
「………うん。それよりも、本音は―――」
施設の一部が吹き飛ぶ。その音の方を向いた簪は打鉄を纏った本音が倒れているのを見つけた。
「本音!」
「かんちゃん! ダメ!」
本音の方へと向かう簪。しかしそれは本音を仕留めようとする人型ISが阻もうとする。
「くっ!?」
「簪!」
簪に取りつこうとする人型ISを箒が《穿千》で破壊する。
「大丈夫か!?」
「私は大丈夫。それよりも本音を―――」
「布仏は山田先生が―――何っ!?」
箒が真耶の方を見る。確かに既に本音の前に出ていたが、何故か苦戦を強いられていた。
「オラオラ、どうしたぁッ!! どいつもこいつも弱えゾォッ!! 最高だなぁ! このマルチロックオン・システムって奴は!!」
「………まさか」
アラクネは第二世代型ISの中でも特殊な存在だ。BT兵器のように4本のISが独立的に稼働し、ナイフや銃で攻撃する。それがマルチロックオン・システムでさらに強化されているのなればとんでもないことになる。
しかもそれは―――
「まさかそれ、USBから―――」
「おうよ。とんだザルセキュリティだったぜ」
簪は冷や汗を流す。
零司は簪に使わせるために渡したと言っていた。そのためセキュリティレベルを敢えて下げていたのだろう。それがまさかこんなところで敵に回るなんて……。
(………使っておけばよかった……)
だが、今ここでそんなことを後悔しても遅いし、敵はせっかちだという事もあってゆったりしている敵を見逃す気はない様だ。
オータムは1人はボロボロとは言え4人が相手だと言うのに引かない。
「しかも搭載されている武器はどれもこれも強力だ。気に入らねえが、スコールが平坂零司を欲する理由がわかったぜ」
レールガンを展開して攻撃する。真耶はいち早く前に出て3人を庇った。
「死ねッ死ねッ死ねッ!!」
装填が早く、尚且つ威力が高いこともあって3人は攻撃に転じれないその時―――別の場所で爆発が起こった。
威力と音が大きい爆発に5人全員がそっちを向く。ハイパーセンサーが爆発した機体とその破片、そして落下していく搭乗者。それは―――零司だった。
それを確認したオータムは瞬時加速でその場から離脱する。
「逃がすかッ!!」
箒がオータムの後を追う。だが簪は別の指示をした。
「箒! オータムよりも先に零司を確保して!!」
「! わかった!」
箒も薄々気付いていたのだ。零司が自身の姉と同等の存在かもしれない、と。それをオータムが確保した場合、自分たちにとって大きなマイナスになるということを。
故にすぐに簪の指示に従った箒は零司を助けるために向かった。
■■■
目の前には黒い炎の弾幕が迫って来た。僕はそれを回避すると、さらに僕を追って炎群が迫ってくる。それを回避する。
(どうやらこれを突破しないといけないみたいだ)
面倒な存在だけど、簪の反応は既に旅館に近付いているから大丈夫だろう。だから僕はダークグレーのISに攻撃を仕掛ける。
「白鋼!?」
「君たちは後方支援を。特にそこのチビはボロボロだから無理しないでね」
「誰がチビだ!!」
「大丈夫。チビにだって需要はあるから。何なら僕の知り合いに紹介しようか? オールナイトで帰れても白濁まみれかもしれないけど」
「それは嫌ぁッ!!」
心から叫ぶおチビちゃん。迫ってくる黒い炎を相殺すると攻撃してきた女に舌打ちされた。
「………またテメェとか。今度は変な結界張らないんだな」
「いやぁ。あれって結構消耗激しいんだよ? だからやらないし、やる必要もない―――かな!!」
僕の周囲にさらなる機体反応が現れる。
「そんな、あれは―――BT兵器!?」
「舞え、《サーヴァント》」
10基のビットが僕の思い通りに舞う。相手もかなり驚いているけど、学園のビット使いは雑魚か何かだろうか。
「どうなってんだ。前まではただのロボットだったはずだろ!?」
「どうして僕が雑魚に本当の白鋼を見せなきゃいけないのさ!!」
大体、最初から自分たちで作れば良いのに。材料があるのに作れないなんておかしいとしか思えない。
「墜ちろ!!」
「当たらないよ。僕らはね!」
《サーヴァント》を戻して迫りくる弾幕を回避する。こうした方が楽に回避できるからだ。別に同時回避ができないわけじゃない。
「厄介な存在だな。テメェは!!」
「ISとは違うんだよ、ISとは!!」
炎の弾幕を盾を使って抜け出した僕はまた《サーヴァント》を飛ばして攻撃させる。当然、自分もビームを撃って攻撃する。
「そんな………わたくしとは圧倒的にレベルが―――」
後ろで何か言っているけど気にしない。
ある程度接近したのでビームサーベルを展開して攻撃するが、回避された。
「機動力はあるようだね」
「当然だ! 雑魚共と一緒にするな―――」
「それはこっちも同じだ」
相手は黒い剣を展開して斬りかかる。それを回避した僕は相手の動きを先読みして攻撃するけど、反応が良くて攻撃が当たらない。相手のレベルは相当なものだということか。
「もらった!!」
また弾幕か。でも、そんなものは僕には通じない。
迫りくる火球を回避し、牽制の中に本筋を入れても相手に通じない。戦い慣れしているタイプか。それに相手は炎を操るミューゼル。なら、こっちも出し惜しみはなしだ。
操縦と同時に氷のマジックコアを使用しようとしたところで、それは起きた。
気が付いた時には、僕は落下していた。
コックピットから出たわけじゃない。確かいきなり、機体にアラームが発生したんだっけ。
追加でウイングスラスターを装備したのが問題だったのか………? いや、そんなはずはない。あの人たちの技師としての腕はかなり高い。そんな些細なミスをするほど落ちぶれていない事は知っている。じゃあ、だとすれば何だ? 当たったってわけじゃないし、コックピットにビームが直撃しても、1発や2発じゃ破れないようになっている。
考えている間に僕の落下する感覚はなくなった。
「………捕まえたぜ」
バイザー越しに嫌な顔を浮かべられる。
「ざまぁねえなぁ。まさか機体が爆発するとは思わなっただろうよ」
「………どうして……それを……」
聞き返した僕に対する答え。それが―――
「だってそれはこのオータム様が爆弾を仕掛けさせたからだ。感謝しろよ? スコールのために生かしてやったんだからなぁ!!」
………爆弾を、仕掛けた? しかもこの女が………?
たぶん戦闘のゴタゴタでの出来事だったんだろう。意外にこの女は頭が良い。
「君の評価を改めてあげるよ、オータム」
「オータム様だっつってんだろうが!!」
「曲がりなりにもこの僕を出し抜いたんだ。そのずる賢さは十分に評価に値する。でも―――」
オータムの顔を殴った僕は怯んだ隙に蹴りを食らわせて離れる。
「テメェ!! ぶっ壊してやる!!」
おそらく足か、それとも腕か。どっちにしろ、スコール・ミューゼルの命令で動いている以上、僕を完全に壊せない。
落下する僕を追ってくるオータム。下降するスピードを緩めた僕に驚いたオータムは慌てて機体を止める。その隙に僕は剥離剤を使ってオータムから機体を分離させた。
「なっ!?」
「何を驚いているのさ? これくらい、ISを相手にするなら持っていて当然でしょ」
するとオータムは手を挙げて高らかに叫んだ。
「戻って来い! アラクネ!!」
だがアラクネは剥離剤から分離しない。当然だ。そんなこと、ありはしないのだから。
「な、何でだ。織斑一夏は戻せたのに!?」
「君の使い方が荒かったんじゃないの?」
冗談めかして答えた僕はオータムを掴んで滞空した。
「は? 何で浮いて―――」
「風魔法なら飛べるよ。ま、使えるのは僕だけだけど」
とりあえずまだ戦闘が続いている区域に放り込んで戦闘を中断させるか。チビと金髪はレイン・ミューゼルと交戦しているし、手っ取り早く終わらせるのはスコール・ミューゼルを黙らせるしかない。
そう判断した僕は織斑たちの戦闘区域に移動する―――と、信じられないものがあった。
「―――白騎士?」
何故かそこには白騎士がいて、黒い機体と戦っている。データ共有した時にみたサイレント・ゼフィルスに見えるけど、かなり様子が変わっていた。
(………まぁいい。今はスコールを探さないと―――)
スコールは既に見つかっていた。楯無さんと直接戦っており、僕は加速して2人の戦いに割って入った。
僕の三又槍はISと同じ素材で使われているし、それ自身がビットとして動くので止めるのに最適だ。
「零司君!?」
「平坂零司。それにそれは―――オータム?」
「スコール、もう撤退してくれない? この女は返すから。それとも―――今すぐ殺して良い?」
今僕らがいる高度は300m。重力魔法を使えば時速1000㎞のスピードでオータムを殺すことができる。
後ろで楯無さんが何か言いたそうにしているけど、意外にオータムを人質にしたのが効いたのか「わかったわ」とスコールは答えた。
「………え?」
「交渉成立だね」
実は僕も結構動揺している。今度攻めて来たら真っ先にオータムを人質に取ろうと思った。
とりあえずオータムを返却すると僕は突然誰かに押された。
(しまった。油断し―――)
反転して攻撃態勢を取ろうとした瞬間、僕は目の前の光景を疑った。
何故なら攻撃を受けたのは楯無さんで、彼女はそのまま下へと何の抵抗もせずに落下したのだから。そして僕はその犯人を見た。その犯人は―――白騎士だった。
―――力の資格が無い者は、死ね
■■■
「楯無さん!!」
落下した楯無さんの傍に零司が降り立つ。ISの展開は解除されている。零司は脈を図ったが正常でどうやら気絶しているようだ。
しかし零司は安堵することはしない。半ば放心状態でどうすれば良いかという考えがすべて飛んでいた。
「零司! お姉ちゃん!」
簪に箒、セシリアが着地する。簪は楯無に駆け寄り様子を確かめる。
「零司、一体何が―――」
簪は楯無が無事だったことに安堵し、次に零司に触れようとした瞬間、伸ばした手を止めた。
「………れい……じ……どうしたの……?」
「……僕は……勘違いしてた」
その言葉を皮切りに、さっきまで黙っていた零司は話し出す。
「2人を守るためには、ただ現れた火の粉だけを払うだけで良いんだって思ってた。でも、違った。IS学園も、女権団も、亡国機業も、そして世界すらも壊さなきゃいけなかったんだ」
「おい、何を言っている」
「―――そして、ISすらも、壊さなきゃ………いけなかったんだ」
すると、零司の胸から漏れる。独りでに零司の服の中からネックレスが浮かんできた。
―――じゃあ、私を使って
その声は3人に聞こえなかった。
「………何を―――」
―――私は、あなたの力。あなたが望む最強を示す力
「僕の望む最強を……示す……力……?」
「さっきから何を言っているんだ、お前は―――」
零司に近付く箒。すると力が箒を拒絶し、箒の手を弾く。
「っ!? これは……一体……」
「―――箒ちゃん、離れて!!」
条件反射というものだろうか。
箒は言われた通りその場から離れる。すると誰かが零司を蹴り飛ばし、その衝撃で零司からネックレスが分離する。
「大丈夫、箒ちゃん?」
「姉さん! いきなりなんですか!?」
「ちょっと邪魔者を排除しようと思ってさ」
そう言って束は零司のネックレスに触れようとすると、ネックレスから棘が生え、束の手を貫通させた。
「篠ノ之博士!?」
「姉さん!!」
「大丈夫だよ。にしても、まさかこいつもアンチISコアを持っていたとはね」
「アンチISコア?」
「うん。どこの誰が開発したのかわからないけど、対IS用ISだってさ。それがあればISとも対等に渡り合えるって話だけど、人格そのものを破壊するって危険なシロモノなんだよ。ま、馬鹿な人間たちにはお似合いの偽物―――」
「―――残念ながら、偽物じゃありませんよ」
その声の方を向いた箒は唖然とした。何故ならその声は楓であり―――束とうり二つなのだから。
「…………お前」
「初めまして、
楓はそう言うと、徐々に分離を始める。
「死ねッ!!」
「残念ながらこれは幻覚。あなたがどれだけ攻撃を加えても意味はありませんよ」
「って言うかどういうことだよ!? まさかこの束さんが知るコアが他にもあるとでも!?」
「マジックコア、そして―――今あなたが破壊しようとした平坂零司のRコアですね」
束が振り向くと、零司が倒れた場所には何もなかった。零司は既に立ち上がっており、ネックレスを回収している。
「……誰だ、お前は―――何故姉さんと同じ顔をしている!?」
「ご本人にお聞きください。ただ私は忠告をしに来ただけですので」
―――死にたくなければ、今すぐここから去りなさい
簪の身体全体が震える。簪は知っているのだ。この恐怖は誰からのモノかを。
「―――簪」
名前を呼ばれた簪は零司を―――まるで懇願するように見る。
「………なん……ですか……」
「彼女を頼む。ここから南に行ったところに戦闘前に呼んでいた医療船があるはずだから。このパスを使えば彼女を治療してくれるはずだ」
「…………わかり………ました………」
投げ渡されたパスを受け取った簪は楯無を抱えてすぐに離脱した。
楓も既に消えている。束は嫌な気分になったが、今は零司を優先して潰そうとした瞬間―――信じられない光景が目に入った。
「………何で……男のお前がISを―――」
零司は答えない。目の前に敵がいる。彼にとって―――それだけで十分すぎる理由なのだから。
「………消えろ」
激突する2人の前に現れた零司。白騎士は即座に敵と判断し、攻撃する。
しかし白騎士が付き出した《雪片壱型》は折られた。
「………何故―――」
「当然だ。僕は―――生まれながらにして最強なんだから」
そう言って零司は白い球体を右手に生成し、それを白騎士にぶつけた。
何故零司がISを動かせるのか、たぶん次回!