IS学園から帰ってきて数日が経った。
僕はしばらく時間を無駄にしていたけど、自分がするべきこと―――したいことを思い出した。だから僕は授業中はともかく休み時間の大部分をそれに充てていた。
「まぁ、元気になった良かったけど………さっきから何を描いているんだよ」
「モデルかな。どういうものを作りたいかっていう設計図。これがないと意味がないからね」
と言っても、作成中に所々弄るからあまり意味はないかもしれないけど。
パンを左手に持って作成していると、スピーカーから放送部がいつもしているラジオではなく連絡が流れる。
『1年3組 平坂零司君。至急、応接室に来てください。繰り返します。1年3組 平坂零司君。至急、応接室に来てください』
………応接室?
これまでの授業態度が悪くて呼び出されるのはわかるけど、何故応接室なのだろうか?
疑問に思いながらも五反田と御手洗に挨拶してからパンを呑み込み、口の周りを拭いて移動する。
(一体何なんだろう………?)
そこまで怒られる謂れは……あるけど、成績含めて問題は起こしていない。だとしたら呼ばれるとしたら………
(どうしよう。心当たりがない)
いや、一つだけある。僕がIS学園に行ったことだ。
もしそれで気に入らない女性がいたなら、それは女にとってメリットもあるのだからと説得するしかない。そう思っていたけど入ってみると―――予想外の人たちがいた。
「平坂零司君、ですね。初めまして。私は日本政府の者です」
「…………は、初めまして………」
―――日本政府?
え? どういうこと? 一体何がどうなって日本政府が出てくるの?
「あの、政府の人が一体何の用でしょうか? 僕は他国をクラッキングして不利益を与えたとか、そういうことはしていませんよ?」
「いえ、そういう話ではありません。ただ、我々のプロジェクトにご協力いただく思い、ここに訪れました」
よく見ると、ここにいるのは理事長と学園長だけで担任はおろか学年主任もいない。一体何がどうなっていると言うのか……?
「平坂君のこれまでのテストや、先日行われた全国テストの内容を拝見させていただきました。どれも素晴らしい答えを導き出していて、特に全国テストでは誰にもない発想をなさっていた。故に―――我々はあなたを誘いたい。我々のプロジェクトに」
「…………プロジェクトに? って言うか、一体何をするんですか?」
まだ何も聞いていないからどう答えれば良いのかわからない。
「失礼。まだ説明をしていませんでしたね。我々のプロジェクト。それは―――この世に人型兵器を生み出すのです」
「……………な、何を言い出すかと思えば………この世に人型兵器を作るって………そんな………」
ダメだ。笑顔が隠し切れない。
僕の顔が笑っているのがわかる。だって仕方ないじゃないか………そんなのさぁ。
でもまずは、ここで冷静にならないといけない。もしここで舞い上がってしまったら自分に不利になる。
軽く深呼吸をして、僕は冷静になって口を開いた。
「で、その話を受けるにあたって、僕に何かメリットはあるのでしょうか?」
「そうですね。現段階で判明していることですが、まずは前金として100万円を振り込ませていただきます」
「!?」
高校生には過ぎた額でしょ!?
前金100万円はいくら何でも高すぎる……。それほどまで、僕の能力を知っているのかそれだけの価値があると思っているのだろうか。
「先に言っておきますが、会社の技術は使えないと考えてください」
「ええ。それはわかっております。あなたはただ、全力を出してくださればいいのです」
………少し引っかかるけど、今は黙っておこう。
「話を続けますね。契約期間はまずはお試しとして1か月。仕事はIS学園でしていただきます」
「………IS学園って、あの……?」
「はい。4月に織斑一夏君が入学したIS学園です」
しかしどうしてそんなところで―――ああ、そういうことか。
この人は―――いや、この人を使いとして寄越した人はISに勝てるような兵器が欲しいのだろう。もしそのロボットがISに勝つようなことがあれば、女性優遇制度を無くすことができる可能性を考えたかもしれない。
「………なるほど。では次に質問ですが、作業者は日本人だけでしょうか? もしこのことが公になれば、間違いなく各国は黙っていないと思いますが」
「良い質問ですね。当然ながら、このことは既にアメリカをはじめ、各国に通知し参加を呼び掛けております………ですが、今のところ他の国の参加は難しいようで………」
「まともに動ける経験があるならばともかく、こちらに言わせてもらうとロマンを求められない人が来たところで邪魔ですからね」
理事長が何かを言いたそうに口を開くけど、僕はそれを腕を上げて制した。
「ところで、設計図はどういうものがあるのでしょう? 指定する全長とかを知りたいのですが」
「……設計図はまだできていないのです。ただ、全長はできれば5mから最高でも10mで収めて欲しいというのがクライアントの要望でして……」
「……………待ちたまえ」
口を挟んだのは理事長だった。
「さっきから聞いていればおかしなことばかり。君の言うクライアントとはまさかISで戦わせる気かね!? 一学生の彼にその手を担わせると?! もしそれで彼の命が狙われたら君たちはその責任を取れるというのか?!」
「それに関しては問題ありません。万全の警備網を敷き、全力で彼を守ります!」
「だが……それに平坂君、まさか君はこの話を乗る気じゃないかね!?」
「乗る気ですよ」
あっさり答えると理事長は呆然として僕を見る。信じられない、という言葉が顔に書かれているように見えた。
「あなたとしてはその方が良いかもしれませんが、僕には僕の目的があるので条件が合うならば話を受けようと思っています」
「な、何だ………その目的というのは………」
「ISを超える兵器を作ること」
ISは確かにすごい。そのスペックは確かに他の兵器を圧倒していると言えるだろう。
だけどそれはさらなる不完全な社会を生み出した。
「ISが兵器としての価値を失えば、時間がかかるとはいえ世界は本来あるべき姿に戻るでしょう。おそらくあなたが言うクライアントは今の社会を良しとしないと思っている。それもそうでしょう。理不尽な理由で貶められて、尚且つ無罪をいくら主張しても理不尽な証拠を突きつけられて犯罪者となるのは嫌ですから」
過去の資料を漁れば、明らかにおかしい点は存在している。むしろ何故詰問しなかったのかという証拠が。だっておかしいでしょう? 最初から痴漢している現場を撮影しているなんて。
「それにロマンに犠牲はつきものですよ。もっとも犠牲になるのは僕じゃありませんが」
とりあえず、僕は理事長と学園長には退場してもらった。そうじゃないと後から色々と言われる恐れがあるし、正直なところ邪魔だ。
「よろしいのでしょうか? 彼らに退場してもらうというのはあなたにとってはかなり不利に―――」
「なるならなるで構いません。社会勉強、させてもらって良いですよね?」
大人がいなくて不利になるって言うなら、僕の器はその程度というだけのこと。だけど―――
「ですが、私以外に色々な面倒が絡みながらも確実的な利益が出る存在はあるでしょうか? 政府の人間だと言うのなら、私の背景も既にご存知でしょう?」
「………ええ。ですがこれは賭けでもあります。もし一か月でできないのであれば先に断っていただけると―――」
「可能ですよ。僕の技術力と僕の下に付く度量を持つ人間が50人程いれば。要望通り、10m以下の者を。ですが、それをする前にまず私の親と話をつけなければいけませんので、すみませんが随伴していただけないでしょうか?」
何せ一部は会社のものとして扱われるものがある。その許可を取るためにもこの人はもちろん、もしくはこの人以外に事情を把握できる人が必要だ。
政府の人は僕の頼みを聞いてもらい、平坂コーポレーションに付いてきてもらった。
父に会いに来た理由は技術の使用許可はもちろんのこと。だけどそれ以上にあることが必要だ。
僕は政府の人の話と併用して、あることを頼みに来た。
「ということです。父さん、IS学園に転校させてください」
そう。息子として、そして何より学費を出してもらっている関係として筋を通す必要はあるのだ。
IS学園に通うにしても、そしてそれが偽りだとしても一部は出してもらう必要がある。なので、そのお願いをしに来たのだ。
「………そんなことだ。話は軽く聞いていたが、まさか本当に零司が選ばれて本人が乗り気だとは……」
「………父さんの言いたいことはなんとなく想像つくけど、僕が今したいことはISを超える兵器を作り出すことなんだ」
それを聞いた父は噴き出した。
「失礼。……良いだろう。IS学園に転校することを許可しよう。そしてコーポレーションで使用されている技術が零司が携わるモノに使われていたとしても、少しは目を瞑ろう。だが、息子の安全は保障してくれるのかね?」
「ええ。それはもちろん。責任を持って息子さんを守らせていただきます」
その返事を聞いた父は満足そうに頷いた。
「結構。では今日のところは―――と言いたいが、零司、席を外しなさい。彼に少し話がある。会議室の一室を確保したのでそこで待っていなさい」
「わかりました」
父さんからのメールでその会議室のマップが渡される。僕はそこに先に言って待っていると、少し顔を青くした政府の人が現れた。
「お待たせしました」
「その様子じゃ、とても面白い話をされたみたいですね」
すると政府の人の口がわずかに動いた。彼にとってはとても面白くない話だったに違いない。
「ええ。とても為になるお話でした」
「そうですか。では、僕から頼みがあるのですか良いですか?」
「何でしょう?」
僕は笑顔を浮かべ、はっきりと言った。
「もし女性がISを使用して襲撃した場合、撃退時に確保したコアを私が保有すること、そしてプロトタイプを作り上げた後、僕専用の機体を作る許可をください」
まるで地獄に叩き落とされたような絶望感を漂わせる政府の人。どうやらこればかりは予想していなかったのかもしれない。いや、もしかしたら父の話の通りになってしまって焦っているのかもしれない。
もしかしたら話自体がなくなると思ったのは杞憂で、もし要求期間内に機体が完成させられなかったら賠償金が発生することになると言う話になり、さらに前金が70万に減額になったけど僕専用の機体開発とコアの所有権の移譲は許可された。
■■■
零司から政府の人と呼ばれた男性―――舞崎晴文はため息を吐いた。
苦労して卒業したレベルの高い大学から官僚職につけた―――と思ったら最初の仕事が兵器開発ができる人間を探し出して、ISを超える兵器を生み出させるというものだった。明らかに罠じゃないかと、自分の立場を危うくする人間の仕業かと考えた。
実際、ISの登場から10年経ったがその間に各国は秘密裏に人型兵器を開発しているが、それを実現させたところはいない。晴文は諦めたある日、とある噂が耳に入ったのだ。
―――藍越学園に、天才がいる
それも篠ノ之束に匹敵するほどだと聞いた晴文はダメ元でその噂の少年を調査した。聞くところによると、日本の中でもトップクラスの技術力を持つ倉持技研ですら放棄したマルチロックオン・システムを完成させたということを聞きつけた時は是が非でも引き入れたいと思った。
第一印象は、高校1年生の平均身長を下回る小柄さだった。少し不安になったが、平坂コーポレーションという、世界的に有名な大企業の息子だという事で上手く行けばその技術力の手に入れられるかもしれないという思いで頼んでみたが―――その父親に言われて呆然とした。
「実は、我が社の技術力の90%はあの子が生み出したものなんです。あの子は優しいが容赦のない残虐性を秘めている。なので、あまり敵に近付けさせないでください」
―――死人が出ますよ
その死人第一号は自分ではないかと思った晴文は、できる限り上に善処させようと心に決めた。
例えば期間だ。いくら晴文でも一か月やそこらで人型兵器を開発できるとは思っていない。二か月……いや、三か月ほどの期間を見て再申請しようと考えた頃に、零司に呼び出された。
「………これは何でしょう?」
「10年前に作ったコックピットですよ。まぁ、最初は簡単なものだったんですけど、父が僕に甘くていつも欲しいものを聞いてくれるので、ついつい甘えちゃって」
試しにさせたもらった晴文だったが、一瞬で負けてしまった………のだが―――
「すみません。難易度を「リアル」にしたままでした」
「……そのリアルというのは?」
「実際の戦場を想定しています」
最高記録に「評価S」が見えていたが、夢だと思いたかった。
だが晴文は同時に思う。自分とは違い、普通よりも優遇された人生を送った人間が戦場の何を知っていると言うのだろうか、と。
その顔を感じたのか、零司は笑みを浮かべた。
「確かに僕は実際に人が死んでいく姿を見たことがありません。このリアルの設定も所詮は空想上のモノでしかない。………じゃあ早速挑んでみますか? このゲーム超難易度の物を」
「………いや、いい」
だが晴文は思い知るのである。早坂零司が見えたものは―――ほんの序の口でしかないという事を。