IS-KaRaKuRi/Knight-   作:reizen

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ep.5 零司の本音

 僕は人間がそこまで強い存在だと思ったことはない。

 権力や圧力にはどうしても逆らえないし、逆らえるとしてもそれは―――常識破りの異常者たちぐらいだろう。以前、僕は僕でやらかしているけどそれでもまだまともな事はしていたと思う。

 

「零司君、だーいすき」

 

 少なくとも、自分にとっても姉とも言える存在が幼児退行しない程度には。

 そう言えば、あの後はいつも起こしに来てくれたりしてたっけ。と少し懐かしく思っていると、そろそろ時間なので僕は楯無さんの身体に触って揺らした。

 

 

 

 

 

 やっぱり視線を感じる。そりゃそうだ。僕は本来ならIS学園の食堂で食事をするような人間じゃない。増してや、楯無さんみたいな人と一緒にいたら誰だって気になるか。

 

「はい、あーん」

「あ、あーん………」

 

 そして僕は何故か楯無さんに食べさせてもらっていた。ダメだ。それだけで周囲から殺意が籠った視線を感じる。もしかしたら楯無さんに恋愛感情を抱いている人がいるかもしれない。レズとかは所詮空想の産物と思っていたのに、こんなところでお目にかかれるとは。

 

「ところで楯無さん、僕の荷物漁りました?」

「どんなエロ本があるか気になって」

「そんな理由で漁られるとは思いませんでしたよ」

 

 ますます殺気を帯びる視線。たぶん、食堂から離れたら僕を殺そうとする人たちが出てくるかもしれない。

 

「なぁ、ちょっといいか」

「ん? 何? えっと……確か、クズ斑ワンサマー?」

「誰だよ!? 合ってるの「斑」しかないじゃないか!?」

「ごめん。他人の名前って覚えるの苦手なんだ。確か、織斑いっぴーだっけ?」

「もはやあだ名!?」

 

 それにしても視線がキツイなぁ。ちょっとふざけただけなのに鋭い視線が一気に増えた。面白いことに、金魚の糞たちからだ。

 

「じゃあ、僕はもう行くよ。仮にもリーダーだから先に行っておかないと」

「え? どういうこと?」

「たぶん技術力だと他の国単位で僕に敵う存在がいないからじゃないかな。リーダーの役目は他の人に任せたから問題ないけどね」

 

 そう言って立ち上がり、僕はある存在を素通りして食堂を出たところで誰かに手をかけられたので咄嗟に銃を抜いて相手の腹部に押し付ける。

 

「僕の背後に立つと死ぬよ?」

「ちょっ!? た、タンマ!!」

「………何だ。織斑君か。どうしたの?」

「いや、まだご飯を残してるだろ。全部食べろよ」

「………ああ、あれね。いらないよ。そもそも僕は朝はあまり食べないんだ」

 

 口に付けるのは精々レーションとかそんなものだろう。そっちの方が効率が良いし。

 

「なに言ってんだよ。朝から食べた方が力が出るし、作ってくれた人に失礼だろ」

「どうでも良いかな、そういうのは。僕は娯楽に付き合っただけ。それにさ―――どうしようと僕の勝手でしょ。いくら何でもお節介が過ぎるよ、織斑君」

「でもよぉ―――」

 

 僕は織斑君から離れてそのまま仕事場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから「止めた方が良い」って言ったじゃない」

「そうですけど………」

 

 楯無にそう言われて落ち込む一夏。

 

「にしても驚いたわね。本当に一夏以外の男子が編入してくるなんて。まさか偽装とか?」

「それはないわ。入学前にちゃんと確認したし………それに、今気にするところは性別じゃないと思うけど?」

 

 楯無に真面目に返されたことで鈴音は驚く。最も、驚いたのは鈴音だけではないが。

 

(え? どういうこと……?)

(今のは少し、楯無さんらしくなかったというか……)

(………)

 

 ただ一人、簪だけはその変化に気付いていた。

 

(……お姉ちゃん、流石にそれはマズいんじゃ……)

 

 周りからはその優秀さ故に尊敬と慈悲を向けられる楯無だが、本人はそんな人間じゃないと思っている。ただ、自分が生まれた家が特殊でそれに合わせただけであり、中身は普通の女でもある、と。だが、周りはそれを容認せず、それを知っているからこと楯無にとってストレスでもあった。それを唯一忘れさせてくれるのは零司だった。

 零司は過去の弱い自分を知っている。だからこそ優しくしてくれるし甘えることを許してくれる。だからこそ数年経って自分に振り向いてくれなくても零司の事を思えたと楯無は思っている。

 

「でも、大丈夫なんでしょうか? ここには大人しいとは言え女性が多いですから必然的に狙われるのでは……」

「その心配はないと思うわよ。零司君はここにいる人たちと違ってI()S()()()()()()()()()()()()()()だから」

 

 IS学園とはいえ、原則的には指定された敷地内でしかISの使用は許可されない。もしそれを犯せばいくら女性とはいえ簡単に出所はできないし、下さられる判決も並なものではないのだ。

 

「何を馬鹿な。ISより劣るとはいえどの兵器もかなりのモノだ。そう簡単に後れを取るわけが―――」

「まぁ、普通ならそうでしょうね。普通の人間なら、まず兵器を向けられて動けなくなる。けど………零司君は違うわ。って言うかむしろ、あの子と戦って死人が出そうな気がするんだけど……」

 

 それを聞いたその場にいた全員が内心笑った―――

 

 ―――しかし、事は既に起こっていた

 

 一人の生徒が廊下を飛ぶ。もっとも、飛ばされた側で自らその力を制御できず100mの地点で背中から落ちたが。

 

「この、男風情が!」

「ISに乗れない癖にIS学園に来てんじゃないわよ!!」

 

 既に零司は6人に囲まれており、各々トンファーや金属バットを装備している。対して零司が装備しているのは自身が製作した戦闘用グローブ程度で、銃も装備式の砲台も展開していなかった。

 

「………こんなところ、別に来たくて来たんじゃないけどな」

「だったら今すぐ出て行きなさいよ!!」

「でもここじゃないと作れないって言うから来たんだよ。邪魔しないでよ」

 

 ため息を吐く零司。その態度に苛立った生徒たちは零司に攻撃しようとした時、この状況で聞きたくない声がした。

 

「貴様ら!! 何をやっている!!」

 

 生徒たちの動きが止まった。しかし零司は止まらなかった。

 一番近い生徒の懐に潜り込んで勢いよく腹部に掌打を放つ辛うじて窓ガラスではなく枠に背中が当たり、廊下に倒れた。

 

「この、男ふぜいあああああああああッッ!!」

「恵ッ!! この、野蛮じぃいいいいい―――がっ?!」

 

 一人は目を潰し、もう一人の胸を思いっきり掴んで後頭部から落とす。

 

「……そんな……」

「おい貴様ら! その場から動くな!!」

 

 織斑千冬の叫びによって生徒たちは震える。ただ一人、例外として零司だけはウザったいとしか思っていないので目標を織斑千冬に設定して殺そうと動いた。

 

「止めて!!」

 

 突然、後ろから抱き着かれた零司はその動きを止める。

 

「………楯無さん」

「もう止めて、零司君。こんなことは……もう……」

「………わかりましたよ」

 

 戦闘態勢を解き、グローブの展開も解く零司。教員たちも騒ぎを聞きつけて次々と現れる。中には担架を持って現れる人もいて、負傷した生徒を次々と運んでいった。

 

「何故こんなことをした? 状況によっては貴様とてただでは済まんぞ」

「向こうから喧嘩を吹っ掛けてきたんですよ。僕はそれを返り討ちにしただけです。それとも何です? 家畜程度の存在価値しかない奴らのサンドバッグになれとでも言うのですか? 高がIS程度で優勝した程度の人間が、この僕に?」

「ちょ、零司君!?」

 

 まさかの発言に場が凍り付いた。

 

「…………別に私のやったことを気に入らないと言うのは構わんがな、それとこれとは話は別だ。それに貴様は負傷していないようだが?」

「まさか、初撃を後の先でぶちのめしただけですよ。負傷して作れないとなったら馬鹿らしいですし。それとも何ですか? 喧嘩を売ってくるような人たちと話し合いで解決しろとでも言うおつもりですか?」

「そうは言っていない」

「じゃあ今すぐ睨むのを止めていただきません? はっきり言って、子孫を残すことを放棄するようなゴミとこれ以上会話するつもりはありませんから」

 

 零司は再びグローブを展開し、裏拳を放つ。後ろには一夏がいて諸に攻撃を食らった。

 

「な、何しているの!?」

「テメェ、訂正しろ!!」

「…………ああ、君か。訂正? 何が?」

「千冬姉をゴミ呼ばわりしたことだ!!」

 

 それを聞いた零司は噴いた。

 

「まさか君、僕と同じ男なのに女というものを信じているの?」

「当然だ! みんな俺の大切な仲間だ!」

「………ああ、そういうこと。おかしいと思った。まともな思考を持つならある程度の認識はしても本質的に信じるなんてありえないし。だから楯無さん、君ももう僕の部屋に来ないでね。はっきり言ってウザいから」

 

 そう言って零司は窓から飛び降り、最短ルートで仕事場に向かった。様々な遺恨を残して。

 しばらくして楯無が部屋に戻った時、零司が持ち込んだバーやゼリーがすべてなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝からそんな事件があと、生徒会室は陰険な空気が流れていた。原因は言わずもがな楯無である。

 楯無がどれだけ零司の事を好いていたか知っている虚と本音は声をかけずらかったが、それが昼まで続くとなれば話は別のようだ。

 

「いい加減にしてください、会長。いつまでいじけているおつもりですか!?」

「……………零司君に捨てられたから」

「それが理由になると?」

「零司君に好かれていないとか生きてる意味ないもの」

「それ、本気で言っています?」

(あ、これは長くなりそう………)

 

 そう思った本音は冷蔵庫からケーキをホールごと取り出し、フォークとお皿を包んで生徒会室から脱走した。

 中身はイチゴが乗った普通のケーキで、零司が好きなものでもある。彼女はすぐに零司がいる場所に向かった。

 

 たまたま晴文がいて、零司を呼んでもらったが出てこない。だが、呼び出す方法を知っている本音はケーキを開けてわずかな匂いをうちわで扇いで飛ばす。すると零司が現れて本音に抱き着いた。

 

「も~相変わらずスキンシップが激しいなぁ。もしかして、後悔してる?」

「うん。ちゃんと女の定義を語っていなかったなって思って」

「女の定義って~?」

「女には2種類いて、存在する価値がないゴミ―――これはISの登場によって自分たちが強いと勘違いして威張る女たちのことで、遺伝子を残す必要性がない奴らの事を言う。もう1種類は本音みたいな愛玩動物で、愛でたりするのが一般的で、場合によっては性行為などを行って遺伝子を残しても良いと思えるような存在の事を言うんだ」

「えっち~」

 

 それでも零司は抱きしめるのを止めない。

 

「まぁでも、楯無さんがウザいってのは本音かな」

「それ、本人に言っちゃダメだよ?」

「むしろあの人はスキンシップしにくいんだよね。年上だしどうしても遠慮するって言うか………」

「じゃあ、朝言ったことは冗談だとか言って会長の機嫌を直してよ~」

「…………あ、それは困る。だって今日からずっとこっちにいるつもりだし」

「あ~そういうこと~」

 

 本音はその会話から零司の真意を読み取ることができた。

 あの場にいた本音も最初は簪にフラれたことによって女性を信用できないと思ってしまった、そういうわけではなかった。返り討ちにした女たちにはそれはあれど、単純に楯無に対しては接し方がわからなかっただけだということは理解できた。

 

「まぁ、かいちょーの体型って下手すればアウトだもんね」

「本音みたいに生ける屍もとい生きるヌイグルミみたいなものならともかく、あれって完全に女性の体型だしね」

 

 そこでふと、本音はあることが脳裏に過ぎった。

 

(そう言えば、れいれいってずっと引きこもっていたよね………)

 

 一応、更識との交流ある平坂家だが、ある時期を境に零司が出席しなくなった。楯無たちが様子を見に行ったが、いつも何かに夢中になっていて作り上げていた。つまり―――一般的な女性に対してあまり交流を持ってこなかったのだ。

 故に零司はまともな女性を知らないし、未知と化している楯無(の体型)に戸惑っているのである。

 

「一応私も胸はあるんだよ~」

「……………」

 

 そっと本音を自分から離す零司。彼の顔はこれまでにないほど赤くなっていて、状況を見守っていた大人たちは零司の反応に温かい目を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから順調に作業は進んでいった。

 僕が僕自身の力を生徒に見せつけたという事もあるし、何よりIS学園では「体育祭」が存在する。みんなその準備にかかりきりなんだろう。余計な干渉を受けずに僕らは順調に作業を進められた。

 

「エンジン区画はどうします?」

「このコアを使用するつもりだ」

 

 OSの開発は終了し、本格的にフレーム作成に取り掛かり始めた。残り3週間しかないけどそれでも成し遂げるしかない。

 

「みんなー! 徹夜の許可が降りたぞ!!」

 

 その声に全員が雄たけびを上げる。全員が全員、ロボに情熱を捧げる男たちなのだから当然と言えば当然だろう。

 

(………できれば、悠夜にも来てほしかったけど……)

 

 舞崎さんにも頼んだけど、どうやら僕の親友―――桂木悠夜は行方不明らしい。

 住んでいた場所も既に引き払っていて、引っ越し先も不明なんだそうだ。条件の1つ……というか連れてきてほしいと頼んだけど無理なものは無理なもので、僕は仕方なく諦めることにした。

 

(……五反田とか御手洗とかには羨ましがられるけど、この際無視だ無視……)

 

 よし、みんなの士気も大分上がって来たし、三徹内でやれるところまでバリバリ進めるぞ!

 

 ―――と、勢いに乗っていた僕らに珍客が現れた

 

「―――今すぐ動くのを止めなさい!!」

 

 そんな声に全員が驚きを露わにした。この現場には似つかわしくない女性の声。女性禁制のその現場に女が現れるなんてことはまずありえない。

 

「何なんですか、あなたたちは」

 

 近くにいた舞崎さんが対応すると、突然殴られた。

 

「黙りなさい。下等な分際で我々女に反逆するための兵器を開発していると聞いたわ」

「何を馬鹿なことを!? 我々は政府の命令で開発しているだけです!」

「それをIS学園で? 馬鹿としか言いようがないわね」

 

 僕は近くにいた人たちに作業を中断させ、撤退指示を出す。

 その間に嫌な音がしたので確認すると、奴らは僕らに向けて銃を向けていた。

 

「ど、どういうつもりですか、それは……」

「―――あら、これは珍しい人がいるわね」

 

 僕は指揮する女性に見覚えがあった。いや、知らないはずもない。その女は―――悠夜を退学にした女だ。

 

「まさか子どもが指揮しているとは聞いたけど、まさかあなたとはね。まぁいいわ。やりなさい!」

 

 銃声が響く。でも銃弾はどこにも当たらず空中に制止するだけだった。

 

「何の対策もしていないと思われるとは心外ですね」

「驚いたわ。流石はその若さで抜擢されるだけはあるわね。でもね―――邪魔なのよ」

 

 障壁はある。でも僕が持つものはすべて相手を1撃で消せるものしかない。

 もしここで誰かを殺したら最後、僕はここには戻れない。だから、耐えるしかなかった。

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