眼を覚ますと、病院にいた。
右腕以外はすべてギブスが巻かれていて、点滴を打つ為か左腕も一部開放されいている。
「零司君!」
ずっと近くにいてくれたのか、楯無さんは僕が起きたことに気付いて飛びついて来ようとしたようだけど、僕が怪我人だという事を思い出してくれたようで思い留まってくれた。
「零司君、大丈夫?」
「……これが大丈夫に見えます?」
どこも怪我だらけだし、身体も上手く動かせない。
「……その」
「そんなことより、早く完成させないと……」
「何言っているのよ、そんな身体で―――」
「完成させなければ意味ないんだ!!」
そうだ。あんな女がいる以上、こっちだって黙っているつもりはない。
たった一週間。それでも一週間だ。人間が24時間生きられないという足枷を背負っている以上、無駄な時間を過ごすことはできない。
僕は僕の身体に付いている機器を外すと、ドアが開いて誰かが入って来た。
「な、何やってんだよ!?」
「………何の用?」
「お見舞いに来たんだよ。それより、その格好でどこに行く気―――」
僕は緑色のクリスタルを出して砕き、煙を体に纏わせる。
すると全身の痛みが引き、動かせるようになったのでギプスを取った。
「ちょっ、何をして―――」
「このままじゃ動けないから取ってるの。見てわからない?」
すべて壊した僕は外に出ると、どうやら様子を伺っていたらしく織斑君の取り巻きがいた。
「な、何故動ける!?」
「ありえませんわ?! あの怪我じゃ普通は動くこともままならな―――」
ともかく無視だ、無視。相手にしていたらキリがない。
急いでいつもの場所に向かおうとすると、知った顔が僕の前を遮る。
「………まだ……続けるの……?」
「もちろん。そのために行動しているんだけど?」
「………もう止めて。そんなことをしたらまた―――」
「―――女の分際で僕に説教かよ」
まさかそんなことを言われないとでも思ったのか、簪さんは驚いた様子で僕を見た。でも、もう興味ない存在に時間をかける気はないのでそのまま無視した。
どれくらい眠っていたのかくらい、聞いておけば良かったかもしれない。
僕らが作っていた場所は荒れ果てていて、時間的には開発している時間のはずなのに誰もいなかった。唯一無事なのは、念のために仕込んでいたバリアのおかげでどの装置も無事だったということだろう。
(……やろう)
あれだけのことがあったんだ。誰も戻ってくることはない。
だから後は一人でするしかないって思い、僕は早速作業に取り掛かる。
まずはフレームの作成。そして次にそれを覆う外殻の作成に入ろう。一人でやるには時間がかかるかもしれないけど、本気を出した僕にならできる。
「―――こいつはおどれぇた。まさかもうここまで動けるとはな」
すぐさま砲台を展開して装備。声がした方に向けるとそこには開発部の人たちがいた。
「何の用ですか?」
「………小僧、一つ聞きたい。テメェ、あんな目に遭ったって言うのにまだ続けるつもりか?」
「当たり前でしょう? むしろそうしない方が疑問ですよ。それとも、あなた方はここで逃げるつもりですか?」
いっそのことそれでも良いと思うけど。どうせ最初から大した期待はしていなかったんだ。今から離脱したいならしたいで構わない。
「そうか。よくわかった―――舐めんなよ、小童ァッ!!」
50歳を超えた怒声が工場に響く。僕はもちろん、みんなを纏めてきたおじさんの周りも驚いて耳を抑えた。
「こちとら妻子はいるがはっきり言って今の現状は我慢ならねぇ!! ましてやあんな状況で「女のやったことだ諦めろ」と言われて「はい、そうですか」と納得できるか!!」
「……………」
突然の激怒ぶりに僕は心から動揺した。え? どうしたの?
「お、落ち着いてください大将! 血圧上がりますよ!」
「悪いな少年。今回のことでちょっとテンション上がっちまって………」
「いえ。それは構いませんが………で、どうするんですか?」
「ともかくやらせろ!! 今ここにいる奴らは、全員そのためにいるんだ!!」
大声で叫ぶ大将さんに合わせるように男たちが声を合わせる。
「女性なんてぶっ殺せ!!」
「男が弱いだぁッ!! 調子乗ってんじゃねえぞダホガァッ!!」
「ぜってぇ許さねぇ!! 俺たちの力で見返してやるぞァアアッ!!」
どいつもこいつも野蛮だった。まぁでも、いないよりマシか。
「……問題があるとしたらパイロットだな。ここにいた奴らは全員逃げてしまったんだ」
「ああ。それなら問題ありませんよ」
むしろいなくなってくれてよかったとも言える。下手な奴を1か月みっちり鍛えるよりはるかにマシだ。
「ともかく、僕はこれよりこの空間とあなた方の住居周辺に特殊な陣を敷きます。後は、舞崎さんですが―――」
どうやら周りにいないようだ。後で話をするしかない、か。
なんて思っていると舞崎さんが入って来た。
「……君たち、どうして……。それに平坂君、君は全く動けないほどの重傷なはずじゃ―――」
「あの程度の傷、重傷に入りませんよ。それよりもどうしたんですか? 暗い顔をしていますが、何かありました?」
「………すまない。逃げた人たちを引き戻すことはできなかった」
ああ、そのことか。確かに動ける人間としてはそういう所は気にするかもしれないけど。
「別に構いませんよ。残り3週間でしょう? だったら問題ありませんよ」
「………そう、なのかい?」
「ええ。問題ありません」
僕が完全に本気を出せば良いだけのことだ。
「………わかった。ならば、進めてくれ」
「わかりました」
少し暗い顔をする舞崎さん。何かあったのか聞きたいけど、今は開発の方が優先だ。
■■■
『計画を凍結してほしい?』
「はい。それができずとも、せめて平坂君が動けるようになるくらいまでの期間の延長をお願いします」
舞崎晴文は零司の容体を聞いた後、すぐに上司に掛け合っていた。このままでは計画に支障が出る、故の変更を、と。
しかしその上司は鼻で笑うと同時に晴文が何も知らない事を思い出す。
『残念ながらそれはできん。そちらはあくまでも囮だからな』
「………はい? お、囮ですか?」
『まさか君は、本当に1学生程度の指揮でどうにかなると思っていたのかね? 確かに平坂零司君は優秀な開発者かもしれないが、所詮は16歳の子ども。まともな物ができるわけがない。君が見せた資料はどれも親が手伝った物だろう?』
「お忘れですか!? かつて篠ノ之束も15歳でISを発表したではありませんか!!」
『彼女は特別なのだよ。だが彼は違う。君の役目は平坂零司という囮を最大限に活かすことだ。良いな』
はっきりと言う上司に晴文は自分の立場的にこれ以上は何も言えなかった。
ならせめて、他の人間―――特に欧米人などパイロット候補生やメカニックには戻ってもらおうと掛け合ったが全員が拒否。とりあえず戻って零司にこれまでのことを報告しようとした騒がしかったので覗くと、何故か回復し動いている零司と日本人開発者の面々が騒いでいたのだ。
(………もう、訳が分からん………)
あり得ない事の連続に頭を抱える晴文。囮として利用されていることを知らせたくても知らせられないこの現状に呆れながら考えることを止めたくなった。
2人の女生徒の間を足が通る。勢いよく通ったその足の主の瞳から光は失われていて、見る者すべてを震え上がらせるほどだ。まさしく、更識楯無は暴走状態にあると言っても過言ではないだろう。
だがその従者である虚も本音も止めようとしない。したら巻き添えを食らうのは必須だし、止める気が全くないのもある。
「実際、祭りの時って結構警備が手薄だって言うのあるわよね。警備に付く全員が全員、味方ってわけじゃないんだし、それは仕方ないかもしれない………でもさ―――」
―――随分と舐めた真似してくれたじゃない
ちなみに今の楯無は、完全に彼女らに八つ当たりしていた。
零司が早々に復帰したのは喜ばしいことだ。喜ばしいことだが、あの日の翌日、楯無が部屋に戻ると零司の荷物がすべてなくなっていた。晴文に聞くと、今は残った開発員らと寝食を共にしているのだと言う。
これまでほとんど戻って来なかったとはいえ、今まではそうだったこともあってたまには戻ってくると信じずっと待っていた楯無にとって、これほど不愉快で残念で悔しいことはない。あの後本音に向かわせた時も、本音と目が合ったのにも関わらず舌打ちされたと聞いた瞬間に怒るよりも先に殺意が起こったほどだ。
「はっきり言ってね、今の私の立場ってとてもウンザリする程なの。勝手に変なレッテルを貼られて、何でもかんでも私ができるって勘違いされてさ。本当は零司君と年頃の女の子みたいにイチャイチャしたいしデートしたいし、少し進んだ関係にもなりたい。………でも、あなたたちが余計なことをしてくれたおかげでそのチャンスすらも奪われたのよ」
「………お、お言葉ですが、会長にはもっと相応しいお方がいます!」
「そうですよ。例えば織斑君とか―――」
「つまりあなたたちはこう言いたいわけね。届かない恋心なんて捨てて、手頃な男子と子どもを作れって?」
「そ、そんなこと言ってません!! それに織斑君は―――」
「残念ながら弱いわよ。私が知る限りもっとも弱いわ」
なお、比べる相手が人外級なので一夏が可哀想になるが、残念ながらこの場にそんな同情をする者は誰一人としていなかった。
「お嬢様、今聞くことはそう言う事じゃないでしょう?」
「…………ああ、そうだったわね。私としたことは、この2人をどうやって殺そうかとしか考えていなかったわ」
「拷問だったら任せてよ~。ちょうどさっき面白そうな蛇を見つけてきたから~」
そう言って本音は毒蛇を出した。
「………本音、それをどうするつもり?」
「どっちかの口の中に入れたら良いかなぁって」
呆れる虚に楽しそうにうねうねさせる本音。
そんな混沌な雰囲気を消し飛ばすようにドアがノックされた。
「どうぞ」
「…失礼する。お取込み中すまないが、我々のリーダーから通達がある」
入ってきたのは晴文であり、小さな小包を抱えている。
「何かしら?」
「………即刻、捕虜を解放してやってほしいとのことだ」
その言葉に3人が驚いた。
「どういうこと?」
「その言葉通りの意味だ。今すぐ解放しろ、だということだ。ただしこれを相手に渡してもらいたいとのことらしいが」
そう言って晴文は1通の手紙を出した。
「……これは……」
「こちらからの手紙だそうだ。君たちの大将に渡してもらいたいとのことだ」
それを受け取った女生徒らはすぐに部屋から出ていく。同時に楯無は銃を抜いて晴文の背中に銃口を当てた。
「どういうつもりですか?」
「さぁな。むしろこちらが聞きたいぐらいだ。一体どういうつもりで―――相手を招待するという考えに至るのか」
その意外な言葉に3人は驚きを露わにした。
そんなこともあったが、結局開発は順調に進み、披露日前日に完成した。だが、前日のギリギリでなのでまともなテストをする時間もなかった。
その日は交代で見張りをし、誰にも手を出させないようにして夜を明かした。
「―――で、パイロットはどうするんだよ!?」
完成したは良い。しかし結局パイロットは見つかっていないのだ。
簡単な試験運用は終えたとはいえ、実戦で出せるほどかどうかで言えば誰もが疑問を抱える。
「おい、テスト経験がある奴らが行くべきなんじゃないのか?」
「でも俺たちは正規のパイロットじゃないだぜ!? 死んだら困る!!」
「だったら一体誰が―――」
「―――何を騒いでいるの、君たち」
ドアが開くとほぼ同時にそんな声がCピット内に鳴る。全員がそちらを向くと漏れなく驚きを露わにした。
「り、リーダー!? その服は―――」
「僕用のパイロットスーツだよ。機動兵器と言っても絶対防御とかはないんだから着た方が良い」
「で、でも、一緒に作り上げた俺たちにはわかる! アンタは天才だ! そんな奴が出ていくなんてマズいだろう!?」
「問題ない。むしろ天才だからこそ僕が行くべきだ。それに―――僕ならコックピット内で爆発が起ころうとも無傷で生還できる」
零司は自信満々にそう言い、パイロットスーツのリストを押して圧縮させてサイズをフィットさせる。そしてディスプレイを展開して対戦相手を確認する。日本人という事もあって織斑一夏が出て来ていた。
(可哀想な奴だ……)
同情しつつも、零司の顔は笑みを浮かべている。
「良いのか? 俺が出ると言う手もあるんだぞ?」
「あなたはこれが終わったらその金で妻子に家族サービスをしてくださいよ、大将」
「だがなぁ―――」
「それに相手はIS。カトンボとは言えすばしっこい。ならばこちらは反射神経の高さでカバーするしかない。安心してください。100%の上50%オーバーでこちらの勝利ですから」
画面を切り替え、続々と入ってくる観客たち。中には政府の人間もおり、今回晴文はそっちの相手をしている。
「………わかった。だがな、出るなら絶対に無事で帰って来い!!」
「わかりました」
零司は白銀の機体に乗り込み、電源を入れるためのスイッチを押す。機体を立ち上がらせ、臨時で換装した機動兵器用のカタパルトに脚部を接続した。
『カタパルトオンライン。進路クリア。発進どうぞ』
「平坂零司、
カタパルトが自動で動き、ISよりも巨体である白鋼を動かす。最終地点に出ると同時に放出され、白鋼は着地した。
『あれが俺の相手か………相手にとって不足はねえぜ!』
(………何言ってんだか)
フィールド中央にカウンターシンボルが現れ、カウントが0になると同時に2機が動いた。