ふと、私の視界が揺らぐ。このまま倒れると頭から行ってしまうと思っていると、誰かが私を抱えてくれた。
「大丈夫?」
「………うん。平気」
シャルロットだった。
私は彼女の腕を使って立ち上がり、離れる。
「あまり無理はしない方が良いぞ。別に休んでいても―――」
「大丈夫」
ラウラが話しているのを遮るように断言する。そうしないと、意外と面倒見が良い彼女はさらに言って来るということはここ数日で学んだ。
「たぶん…この戦いは見ておかないといけないから……」
気のせいかもしれない……でも、なんだかこの試合は見ておかないといけない気がする。
そう思っただけで確証はないけど……さっきから胸がざわついてしまう。
「……なら良いが、あまり無理はするなよ」
「……わかった」
そう返事をして、また試合に視線を戻す。
一夏の相手は誰かわからないパイロット。でも動きは明らかに素人じゃない。たぶん、零司君のシミュレーターで鍛えられた人。あのシミュレーターは本格仕様と言っても過言じゃない。
攻撃後は少し硬直するし、その間に攻撃を食らうとか、ともかく「本格仕様」という四文字熟語並に油断できない。それで鍛えられたのなら、間違く強い。
『くっ……このっ……逃げるな!!』
『…………』
―――フッ
耳に聞き覚えのある声がする。え? そんな………まさか……
「……ありえない………」
「どうしたの? 何があり得ないって?」
……もしこの声が私の聞き間違いじゃなかったら、
「……一夏が負ける」
「な、何を言っているのだお前は!?」
急に胸倉を掴まれた。篠ノ之さんだ。
「あり得ません! 一夏さんはわたくしたちと共に様々な困難に立ち向かって来たのですわよ!? そんな人がポッと出のパイロットに敵わないなんてことはあり得ませんわ!!」
「そうだ。訂正しろ! 今だって一夏は相手の出方を伺って―――」
2人の意見を遮るようにスピーカーから聞きたくない声が聞こえてきた。
『―――飽きた』
その声は流石に聞き覚えがあるようで、さっきまで私の意見を否定していた2人も驚く。
「今の声……まさか……」
「ですが彼はメカニックでしょう!? もしかしたら別の場所から音声を送っているだけ―――」
『な、何が飽きたんだよ!?』
『君と戦うことだよ、織斑一夏』
今度こそ、否定できなくなる2人。その声はどうやらこちらの声も届いていたようで、ため息を吐く。
『それに君の取り巻きって馬鹿ばっかだしさ。現実を直視できないとか頭おかしいんじゃないの?』
『みんなの事を馬鹿にするな!! みんなだって―――』
『無理な話でしょ』
そう、無理な話だ。
何故なら零司君は白騎士事件が起こった前後から既に頭角を現していた本当の意味での天才。たぶん私たちの存在なんて最初から歯牙にかけていない。
『こっちは6歳の頃からずっと発明し続けていたんだから。小学生の時なんてまともに話せる奴がいなかったからそりゃ地獄だったよ』
そう言った零司君は一夏に向けて蹴りを放った。
■■■
話が合わないなんてことはよくあった。
面白そうだから読んでいた本も、表紙がエロいとかなんとかって理由で馬鹿にされ、敬遠された。変態だ何だと否定され、「こういうものはまだ君には早すぎる」と没収された時もあった。
些細なことからの口論。それの末に喧嘩に発展したけど僕は周りよりも強いという自覚はあったから一切攻撃せずに避けたら額を切る大怪我に発展した。そのことで親が呼び出されたこともあったし、その兄が仕返しということでその友人らと共に僕を袋叩きにした。理由を聞くと勝手に大怪我を負ったクラスメイトの復讐だとか。
―――心から馬鹿にした
帰っていくそいつらの位置を確認して立ち上がり、クソ兄貴に対して飛び蹴りを放った。
そいつはそのまま近くの木に腹からぶつかる。そして、避けないとはどういうことかを教えてやった。取り巻きの股間を蹴って全員に頭部に踵落としで地面にキスさせた。
―――違和感を感じたのは、小学5年生の時だ
姉のように慕っていた人が誘拐された。
僕はすぐに準備をして潜入。というか、わざと捕まった。今にも泣きそうになっている姉が少し可愛かったけど、僕にとってはまさしく好位置。相手は大人ということもあって遠慮しなかった。しなかったけど、あっけなかった。
全員の四肢を完全に凍らせただけで無害になった。本当に呆気なかった。そこで僕はようやく理解したのだ。僕は天才すぎるんだと。
誰にも作れなかった奇跡。まるで魔術のように作り上げる力。異常とも言えるその力を僕は受け入れた。
「はっきり言って僕は君のことを過大評価していたよ、織斑君。君に襲い掛かった火の粉を全て払いのけたのだから多少はやるかもしれない。そう考えていたけど―――そうでもなかった。ただ何も見えていないだけの雑魚だ」
『ふざけるな! こっちだって、伊達や酔狂でこれまで生きてきたんじゃない!』
「いくら君が猪武者だと言ってもその口ぶりは許せないな。死ね」
僕はビームライフルを展開し、ロックオンをせずに目視でディスプレイに出ている移動するターゲットマーカーが重なるタイミングで織斑君に攻撃する。
織斑君はランダムで回避するけど、一部自分で当たりに行ったりしてダメージを食らっていた。
『クソッ!? 何で―――』
「その程度の回避運動で本当に僕に勝てると思っているのか、君は」
心から馬鹿げているとしか言いようがないな。
『何か打開策は―――』
「あるわけないじゃん。どうせ白式のシールドエネルギーもさっきの攻撃をまともに食らっているから100前後でしょ? まぁ、普通なら死んでおかしくない状況なんだから当然と言えば当然だよねぇ」
『まさか、そこまで計算して―――』
「猿でもできる計算式だよ!!」
ビームサーベルを抜いて一気に加速する。止めは相手の得意なもので、だ。舐めプしても弱いとはこれ如何に。
「終わりだ」
相手がブレードで防ごうとするけど、ブレードに当たる前に相手の胴体を切った。織斑君の胴体が真っ二つにならないのはまさしく絶対防御のおかげと言ったところか。
【試合終了。勝者、平坂零司】
当然の結果がスピーカーから流れる。カメラから織斑君が悔しがっているので慰めてあげることにした。
「ま、悲観することはないよ。本来の君の相手は僕ではなく取るに足らない雑魚だからさ」
『…………こんなんじゃ俺は………まだ俺には力がないのか………これじゃあ……みんなを守れないじゃないか………』
え? 今、この男なんて言ったの? みんなを………守る……? まさか……そんなことを本気で……言ってるの……?
「…………君……それを本気で言ってるの……?」
『………ああ、本気だ。悪いか!』
「ああ、ごめん。正直滑稽だなんてレベルじゃない。正気じゃないよ、君」
自分の命すら守れないのがわかり切っているレベルで、まさか他人を守るだなんて………。
「身の程を弁え―――何?」
唐突に機体からアラートが発せられる。アンノウンが接近中?
素早く位置を把握する。数は―――10。
『逃げろ零司! そいつはヤバい!!』
「………いいや、逃げないよ。一体どこの勢力かは知らないけど、僕に喧嘩を売るとは織斑君と同レベルと見た」
ISは普通、全身を覆い隠すと言うことはしない。絶対防御というバリアが存在するから肌がどれだけ露出していようと問題がないのだ。現に楯無さんの機体も防御もアクアクリスタルというナノマシンを帯びた特殊な水を使っているから装甲がほとんどない。
(生命反応は……なし? まさか本当にISの無人機が存在するとは。それができるのは―――篠ノ之束クラスの天才。いや、本人か)
笑みを浮かべて待ちに待った獲物を僕は織斑君戦で課していた制限を解除。ロケットブースターを点火して加速する。相手は陣形を組んで攻撃してきた。盾でビームを防ぎながらビームライフルで攻撃する。
『零司君、今すぐ―――』
「来るな。邪魔だ!」
『そういうわけにはいかない。こっちにだってやることが―――』
「ひっこめ!!」
通信相手にそう怒鳴る。
「全IS操縦者に告ぐ。援護は不要だ。出撃することを禁止する! もしこれを守らず出撃した場合、こちらに対する援護ではなく敵対行動とみなし機体を破壊、そして僕にのみ許可された権利を行使する!」
そう宣言した僕は迫りくる敵機の攻撃を回避した。
■■■
「な、何を言っているんだ!?」
一夏は驚きを隠せなかった。相手は10機、そして今戦闘可能なのは零司ただ一人。
だがその零司は出撃していた場合、落とすと宣言した。
『織斑君、今すぐこっちに戻ってきなさい』
「え? いや、その―――」
『私が行く!』
その声がするや否や真紅の機体がAピットから飛び出す。一夏の所へと真っ直ぐと飛んだその機体は一夏を回収するとすぐに離脱し、ピットに戻った。
そのほとんどすぐだった。白鋼が地面に着地したのは。
「零司君!?」
『やっぱり未完成の白鋼じゃこの辺りが限界か……』
そう呟く零司。その声に専用機持ちは一斉に展開しようとするが、突然の雷で全員が動きを鈍らせる。
「雷!? そんな、織斑先生、これは一体どういうことですか!?」
『上空を守るシールドが何者かによって解除されている。既に対処しているが処理が追いつかん』
「そんな……!」
ISを展開しようとする楯無。だがそれを止めたのは―――晴文だった。
「待て、更識楯無。出るな」
「あなたは……何を言っているんですか!? このままだと彼は―――」
「……………君は彼から彼が持つ権利を聞かされていないのか?」
「……そう言えば、言っていましたね。何ですか、零司君だけが持つ権利って……」
1年の専用機持ちたちが揃って唾液を呑む。それほど緊張感のある雰囲気が2人から出ていた。
「平坂零司が持つ権利。それは―――襲って来た相手の機体とコアを独占できることだ」
「………嘘。じゃあ、これは―――」
「今、彼が最も望んでいた状況とも言えるな」
そう言った晴文の言葉のすぐに、零司の声がスピーカーから聞こえてくる。
『―――ターゲット、マルチロック』
今、各所に設置され120度範囲に映し出されるディスプレイには自分を見下ろすISを次々とロックしていく。
すべての機体がロックされた瞬間、白鋼の右肩に設置されているポッドからミサイルが発射された。
「そんなもの、当たるか!」
全10機を操縦している女はそう言い、回避行動を取らせてミサイルを破壊させる。が、爆発する瞬間に違和感を感じた。
次々と画面が消えて行き、すべての画面が光りを放つ黒いディスプレイとなった。
「え!? ちょ、どういうこと?!」
女は投影されたディスプレイを操作するが、ウンともスンとも言わない。それでも忙しくキーボードを叩く女に帰って来たのは、外部から聞いていた音声だけだった。
『ミッション完了。12個のコアを確保した。驚くほどに計算通りだったよ』
―――や……やられた……
女の口から発せられたわけではない。だが、すべてが計算外だった。
「―――だから言っただろ、アイツは容赦がないから止めておけって」
「………何の用だよ」
「敢えて言うなら見学と言ったところか。で、完全敗北した気持ちはどうだ?」
いきなり現れた男にそう尋ねられ、女は癇癪を起こすが男はすべてを回避、もしくは防ぐなどの手段をとる。
「落ち着けって、束。ここで怒ったところで相手にはノーダメだぜ」
「うるさいうるさいうるさい!! って言うか!」
束と呼ばれた女は男の後ろで椅子に縛られている少女を指差して怒鳴った。
「何でくーちゃんを拘束しているんだよ!!」
「これから起こることはグロいからな。幼気な少女には酷なものになる」
「は? 一体何を言って―――」
「だってさっき、零司は
「………え? あ、そーいえば……」
その男の言う通り、今IS学園では―――処刑が行われようとしていた。
すべてが順調のつもりだった。
既に完成した機体を襲う部隊がいて、彼女らはそれに参加して徹底的に破壊しようとしていた―――なのに、自分たちはどういうことかISを解除されていて、一緒にいた連れは既に―――鉄球を顔に食らって動かなくなっている。そして自分は――すでに両手がなくなっていた。
「ねぇねぇ? どうして―――どうして生き恥を晒せるの?」
以前倒したはずの男は普通に立っていた。おかしい、全治2か月はかかる怪我なのに。
だから、こうして立っている事自体がおかしい。異常事態だ。
「ま、待ちなさい。私たちは私たちの義務を―――」
「あ、そう」
そう答えた男は私を蹴り、壁に叩きつけた。
「………た……たす―――」
「僕ってさ、結構心は広い方なんだよ。でももう無理―――」
その瞳は、もはや人間がしていいものじゃなかった。
明らかにその目だけで人を殺せるような、そんな殺気が私にぶつけられる。
「幸い、ブリュンヒルデとかどう見ても雑魚だからぁ、ここにいる生徒を捕まえて治安の悪いところで解放しようかなぁって。そして、生徒を捕まえた奴らが悲惨な目に遭う姿をネットで中継してもらうってのは面白いよねぇ」
「…………な……なん―――」
「え? だってさぁ―――」
―――息されることもウザいじゃん?
もう心が壊れていると言っていいじゃないかと思った瞬間、その男は私に近付いて宣言したのだ。
「ああ、君も君の娘も生かしてあげるよ。特等席で面白い映像を見せてあげる。だから―――絶望しろよ」
それから私は―――強い衝撃を食らわせて意識を失った。
大分狂っていますが……
機体説明
白鋼(しろがね)
政府からの要請を受け、零司を中心に(ロマン的に)アツい男たちが作成した機体―――だが、今回はあくまで政府の依頼という事で、抑えられている低出力の機体と簡易バックパックを装備した姿となっている。
頭部は1本角のアンテナにツインアイが装備されており、それらをはじめとしたカメラが機体各所に備えられているため、一般的な3面ではなくまるでその場にいるような空間型ディスプレイタイプとなっている(フリーダムとかジャスティスとか)
外側はage-2 spのような塗装となっている。
武装はビームサーベル、ビームライフル、振動刃タイプのアーミーナイフと言った簡易的な物しか積んでいないのは時間がなかったため。