さらなる敵もどこかのパイナポーみたいに華麗に撃退した………のは良いんだけど、僕はさらなる問題を呼び寄せていた。
「……………」
「あの、簪さん。とりあえずその首輪は外そう。流石に誤解が生まれると思う」
「………だい……じょうぶ……」
「大丈夫じゃない。大丈夫じゃないから」
簪さんに「首輪はないか」と聞かれたので彼女に合いそうな首輪を見せたんだけど、まさかひったくられて自分で着けるとは思わなかった。というか、考えてみれば僕はこの子に八つ当たりしているし、大分無理しているんじゃないかな? あの時はいくら何でも酷すぎたと反省しているけど、ちょっと余裕なかったんだ。
………もしかしたら、これはその仕返し!?
「……簪さん」
「………何?」
「ごめん。実はあの時は、ただ本当に女というのが憎くて仕方なかった―――」
説明中にドアが開く。今度は一体誰が―――
「な、何だこれは!?」
「これは一体……って、箒、アレを見て!」
えっと、誰だっけ?
たぶん知り合いじゃなかったはず。それにしても、何でこの2人はISを展開しているのだろう………あ。
「ちょっと待って! これは誤解だ!」
「誤解も何もあるか! どう見ても襲っているではないか! 首輪まで着けさせて……不埒な!!」
「……いくら僕でも弁解の余地はないと思うなぁ……」
「どっちにしろISは解除しろ!!」
というか何で一々制裁にISを使うの? 馬鹿なの? 頭がおかしいとしか思えないんだけど!
とはいえ、叫んだのにどっちもISを解除する様子は見せない。という事なら、こっちもその気だ。
■■■
「おせえな、小僧」
「また何かトラブルに巻き込まれたりして」
その頃、いつもの仕事場ではお疲れ様会の準備が行われていた。作業員は全員揃っているが、肝心の代表こと零司がここにいないので始めるに始められない。
「揃いも揃って何をしているんですか?」
「おお、舞崎の旦那。小僧がどこに行ったか知りませんか?」
「……ああ、平坂君ですか。大方、逢引きしていた少女とお楽しみだったりして」
「そりゃあ呼べねぇな。じゃあ悪いがそろそろ始めっか! 腹も空いてきたしよ」
「「「おおっ!!」」」
そんなこんなで賑やかになる仕事場。晴文は気を利かせたつもりだが、それは色々と裏目に出ていた。
簪にとって平坂零司という男は趣味が合う幼馴染……という認識しかなかった。
というのも零司は昔から能力が周りとは一線を画しており、さらには長いこと籠ることもあり、所謂引きこもりという印象もあった。というより、簪もまた大きな勘違いをしていたのだ。
零司は更識家に行くたびに大体楯無がいて、大体楯無が抱き着き零司もまた顔を赤くしていた。だからこそ簪は妙な敗北感もあったが大して気にしていなかった。
そして紆余曲折あったが、一夏と行動を共にする。零司が現れるのも予想外だったし、その時にはもう零司の力をあまり当てにしていなかった。決して見限ったというわけではなく、これから藍越学園の方も忙しくなるし時間は取れないという点からである。だからこそ、転校してきたと聞いた時は心から驚いた。
「………か……返して……」
簪は今、かなりのピンチに陥っていた。
零司が暴れた時に簪は後ろからナイフを持って強襲したのだった。
「…………なるほど。そういうことか」
零司は頭を抱えている。というか、心から呆れている。
「正直さ、来てくれた時も僕に冗談とはいえ服従するって言ってくれた時も嬉しかったんだ。やっと元に戻ってくれるって。あんな奴から離れてくれるってさ。あんな奴と恋愛を続けていればどうなるかなんて簡単に予想できたし。なのにその行動の正体がまさか、こんなことをするためだったとはね………」
それは零司が悠夜に頼まれて隠していたものだ。
「……………ごめ―――」
「良いよ、もう」
零司はナイフに力を入れると、刃が一瞬で粉々になり、宙に舞う。それを見た後、何かを思い出したのか懐から取り出した。
「そうだ。これ」
懐からメモリカードを出した零司は簪に押し付けるように渡した。
「………これって」
「マルチロックオン・システム。って言っても結局は虚お姉ちゃんが完成させてくれたけどさ。僕はもういらないから、あげる」
「…………あ……ありがとう」
受け取ったのを確認した零司はそのまま無言で外に出ていく。もちろん、2人から奪った紅椿とラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡのコアは返却せずに、だ。
「遅かったじゃねえか!!」
ゆっくりと歩く零司を見つけた作業員は声をかける。すると零司は持っていた瓶を奪って飲んだ。もちろん一気飲みである。普段は飲酒喫煙は絶対にしない零司だが、今回ばかりは無礼講のようだ。
「おぉ! 良い飲みっぷりじゃねえか!!」
「こっちにもビールはあるぞ!!」
既に出来上がっている大人たちは構わず勧めるが、零司に関して言えば未成年飲酒だ。
「何やってんだテメェら! 未成年に酒飲ましてんじゃねえ!!」
「…………構わねえ」
「「「え?」」」
酔いが回るのが早かった。
別に零司は常識がないとか、そういうわけではない。ただ物凄く自分を解放したい気分になっていた。
「おい晴文! 料理をもっと頼め!! 寿司もピザもだ!! おいテメェら!! 料理が足りねえぞ!!」
「え、いや、でも―――」
「今日はそういう気分だ! それに、今日という日のためにテメェらに無茶をさせたのは事実だからな! 吐くまで騒げや!!」
普段では感じられないそのテンションにその場にいた全員が察した。深く突っ込んではいけないと言うこと。
「大将」
「………だな。最初にチューハイを渡してその後にジュースに切り替えろ」
結局、この酒盛りは昼の12時から夜の8時まで続き、零司は楯無が引き取られるまで普段では考えられない量の食事をしていた。
元々身長差が零司がわずかに高い程度で楯無とはあまり差がないこと、楯無もISの補助機能を使って持ち上げている。
(………なんだか懐かしいなぁ)
昔は何度もこうしてしたなぁと思いながら歩く楯無。昔に戻れた気がした彼女は嬉しく思い、周りが零司に対して嫉妬の眼差しを向けているのに無視して部屋へ移動。鍵を開けて中に入る。
「着いたわよ零司君」
「………ん」
楯無は零司を離すと独りでに楯無から降りた零司は風呂を入れてその間に着替えの準備をする。しばらくして、ちょうどいい湯加減になったことを確認した零司は先に入った。本来ならレディファーストで楯無を先に入れるが、かなり寝惚けている零司にその余裕はない。むしろ、80%は寝てるであろうその状態でどうやって思考しているのか疑問に感じるほどだ。
さらに時間が経ち、零司は満足そうな顔を浮かべて出てきた零司はそのままベッドに入った。確認した楯無は風呂に入った。
しばらくして楯無が風呂から出ると、零司が完全に寝息を立てている。気を遣った彼女もすぐに寝ようとベッドに入る。だが自分のではなく零司の方に入るのは年頃の女子としては如何なものだろうか。
だが零司もこれまでの無理もあって完全に疲れているのか、楯無が入っても何も言わない。
(こういうのも久しぶりね)
普段は思い立ったら一直線で自分の体調もいとわずに完成するまで平然と籠って作業をする科学者としての面に加え、戦闘になったら冷静に相手を見定め容赦なく敵を倒す冷徹さ。大人とも渡り合う技能を持っているが、寝てみれば普通の子どもというギャップを持っている。
(あーもう。この寝顔可愛いわ……あら?)
楯無はふと、零司の顔に違和感を感じて零司の顔を触る。そしてそれを理解した楯無は不可解に感じた。
(………涙?)
模擬戦闘の後、政府の人間とひと悶着があったことは楯無もすでに耳にしている。だが、涙を流すまでは至っていないはずだというのが彼女の認識だが、それでもすべてを把握はできなかった。
そう、楯無が把握できたのは―――寝言だった。
「………簪の……バカ……」
普段、その家族以外は未婚の更識の女子を名前で呼ぶことは禁止されている。だからこそ零司もみんなの前では「さん」を付けて呼んでいるのだ。つまり今は、零司は楯無が近くにいることを知らない。
「……何で……あんな男のところに行くんだよ………」
そう漏らした瞬間、楯無はあの場で何があったのか大体察した。
時刻はまだ午後8時。よほど疲れたことをしていない生徒なら普通は起きている時間である。
その頃、一夏の部屋に1年の専用機持ちたちが集まっていた。言うまでも今回の騒動である。
コアを奪われた箒は沈み、シャルロットは代表候補生と言う立場と元々男装していたこともあって顔が真っ青になっている。
「………俺、やっぱり零司に行って来る」
「一夏……」
「でも、平坂君はISコアを狙っているみたいだし、返してもらえないんじゃないかな」
ほとんど涙声で言ったシャルロット。だが一夏は勝算はあるようではっきりと言った。
「大丈夫だって。話せばきっとわかってくれるさ」
「…………」
その言葉に簪はただ沈黙を貫いた。
誰も反対しないこともあって一夏は早速零司の部屋に行こうとすると、ドアがノックされる。
「誰ですか?」
『織斑君、そこに簪ちゃんはいないかしら?』
その声は簪の耳にも届いていて、立ち上がって玄関に向かう。既に一夏がドアを開けており、楯無と対面する形になった瞬間、簪は察した。
―――怒っている、と
だが簪にも心当たりがあり、怯まずに対峙する。
「………何?」
「簪ちゃん、零司君に何かした?」
「………」
沈黙を保ったまま頷く簪。楯無は違和感があったが構わず次の質問をした。
「何をしたのか言ってもらえるかしら?」
「…………箒とシャルロットがコアを奪われた後、零司君にナイフを向けた」
「…………どういうこと?」
「どういう事も何もない。ただ、私が2人を選んだだけ」
「…………そう」
一夏は反応した。しかしそれよりも早く楯無の拳が簪の左頬を捉えて殴り飛ばす。
「簪!? た、楯無さん! 一体何を―――」
「どういうつもりよ!?」
楯無は殴り飛ばした簪の胸倉を掴み、怒りを露わにして怒鳴る。普段から考えられないその形相に誰もが怯んだ。
「あなたも事の重大性は理解しているでしょ!? ここにいる人たちよりも零司君を宥める方が重要だって!」
「ちょっ!? それってどういうことよ?!」
「いくら何でも酷すぎますわ!!」
楯無の物言いに鈴音とセシリアがそう反論すると、楯無が言った。
「酷すぎる、ね。それはあなたたちのことでしょう? 不必要なISの展開ばかりしているみたいだけど……ところで箒ちゃん、あなたISはどうしたの? 待機状態は左手首にかけていたわよね」
「そ……それは………」
顔を逸らす箒を見て楯無は怪しむ。すると一夏が―――
「箒は、シャルもですけど零司にISを取られたんです」
「…………どういうことかしら? まさかと思うけど、邪魔だからという理由で排除して返り討ちにあった、なんてことはないわよね?」
「ち、違います! ただ、簪を襲っていたように見えたので………」
シャルロットの言葉に楯無は心から呆れた。
「自業自得よ」
「………じ、自業自得って……」
「そもそも相手がISも兵器も使っているわけじゃない。それなのにISを展開することが間違いなのよ」
はっきりと言われて全員が口を閉ざす。
「特にあなたたちは専用機持ちだと言うのに使用規則を全く守らない。いくら国に保護されている立場って言っても限界があるという事を忘れないでもらいたいわね。そろそろ退学もあり得るから」
「た、退学って……」
何でそこまでと言いたげな一夏に対して楯無は厳しく言った。
「本来ならそこまでする必要があるからよ。特にあなたも含めて一切の反省もないし、特に織斑君はまともな向上心がない。他の人達も恋愛にかまけてまともな練習もしていない。少しは自分の立場を自覚しなさい」
そう言って楯無は部屋を出ようとすると一夏が止める。
「待ってください! じゃあ箒とシャルロットに専用機を諦めろって言うんですか!?」
「………掛け合ってはみるわ。でもあまり期待しないで。最悪、データが奪われているという事は覚悟して」
「う、奪われているって……そんな!?」
「だったら最初からISを使うな!!」
怒鳴られたシャルロットは涙目になる。しかし楯無は遠慮なく言った。
「わからないなら言ってあげるわ。ISは兵器よ。たった一発で、たった一薙ぎで人を殺せるの。いい加減に自分たちがその力を持っている人間だという事を自覚しなさい」
楯無は部屋から出る。
自分の好きな人がその創造主だという事も自覚している。なのだが、零司はその自覚はあるし楯無は心配ないと思っての言葉だ。
(………零司君は大丈夫。それに……何かあったら私が守らないと……)
そう心に決めた楯無。しかしこれから戻ってすることは―――その対価である癒しだった。
この時、楯無は知らなかった。零司があることを既に決めていた事を。
この話はもちろん、これから少し虚しいというか辛い話が続きます。