もふもふは正義である。   作:波美

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引き続き駄文ですがよろしくお願いします。
好きなキャラの若干の贔屓はお許し下さい…。
分御霊(周辺調査)→分御霊(第5階層)→本体の視点で書いていきます。


ナザリックのNPCたち

セバスとナーベラルを連れナザリック地下大墳墓の地表まで移動したミーシェ(分御霊)は、目の前に広がる光景に驚き目を見開いた。

 

地上に広がる夜風に揺れる草原。

遥か頭上に輝く満天の星空。

頬を撫でるひんやりと冷たい夜風。

鼻孔を擽る雄大な大地の匂い。

 

見たことのない光景、五感で感じれる世界、それは通常"有り得ない"ことだった。

 

「(まるで、仮想現実(ゲーム)現実(リアル)になったような……)」

 

呆然と立ち竦むミーシェの耳に、自身の名を呼ぶセバスの声が届いた。

 

「セバスさん、ナザリックの周辺は毒の沼地……だったよね?」

「はい、私もそう記憶しております。……時にミーシェ様、発言の許可を頂いても?」

 

突然のセバスの言葉にミーシェは首を傾けながらも続きを促した。

 

「先程から私の事を"セバスさん"などと敬称で呼ばれておりますが、私ごとき一介の下僕に敬称など不要です。どうぞセバスとお呼び下さいませ、ミーシェ様」

 

完璧な執事としての姿勢だが、些か威圧感がすごい……とミーシェは感じた。そういう所もそっくりだから、つい敬称をつけてしまうのだが。

まぁ、本人から不評であるなら止めることにしよう。

 

「わかった。……じゃあ、セバスはわたしと一緒に周囲に知的生物が生息しているか捜索しよう。ナーベラルはわたしが〈完全不可視化〉をかけるから、〈飛行〉で上空から周囲の地形や、人工建造物等がないか確認してほしい」

「「了解いたしました」」

 

それぞれ行動に移し移動する。さくさくと踏みしめる草原に罠なんてものはなく、夜空も異常性は感じない。空気も澄んでいて心地が良い。

現実世界の汚れきった環境の有様とは雲泥の差だ。いや、嘗ての在り方と言うべきか。

 

「……二人だけじゃ時間が足りないかもな。《分身体》および《眷属召喚》《下位妖狐作成》、狐に《変化》」

 

ぼふん、と白い煙を上げて目の前に現れたのはどこにでもいる狐に変化した数十体の白狐や玄孤、野干達。自身の《分身体》ならば視野共有できるし、眷属達とも意思伝達はできる。

 

「わたしたちの探索範囲は1キロ。みんなはそれ以外の範囲の探索をお願い。野生の狐に化ければ、大抵のものは誤魔化せる」

 

そう言って周囲に拡散させ、ミーシェは探索という名の散歩を再開する。

見たものは全てモモンガの側にいる本体に映っているし、その情報からいろいろ推察するのは彼に任せてしまおう。元の世界ではないこと、今が現実であること、その2つが理解できていれば問題ない。

一通り見て回ったが、周囲にはモンスターも人間もおらず、小動物や昆虫程度しか生き物がいない。

 

「(魔法の確認をしてるモモンガさんが〈伝言〉を使えたんだから……)ナーベラル、聞こえる?」

『はい、ミーシェ様』

「地上に何か建造物や、上空に天空都市とかそういうもの…あった?周辺はずっと草原?」

『周囲に建造物は見当たりません。上空もです。草原は広範囲に渡って広がっておりますが、その先に森があるようです』

 

頭の中で響くようにして伝わる会話の内容から、やはり何も見つからなかったようだった。ナーベラルから聞いた森のある方向に一部の分身体と眷属を向かわせて調査させるとしよう。

 

「ナーベラル、ご苦労様。セバスも同行ありがとう。後は眷属達に任せて、モモンガさんに報告しに戻るとしようか」

 

歩き出しながら、リアルタイムで流れる映像と会話を繋いでいく。

 

「(もう一人の分御霊(わたし)は、コキュートスに会えたみたいだな……)」

 

全てを共有しているため、離れていようとも実際に会って会話したも同然だ。

不思議な感覚を覚えながら、セバスとナーベラル達と共にミーシェはナザリックに帰還した。

 

* * *

 

玉座の間から退出したミーシェ(分御霊)は、先を行く伝令係となったルプスレギナとソリュシャン達に追いつくと、第四階層まで一緒に行こうと提案した。

至高の御方の一人であるミーシェの供をできるなどなんと光栄な事かと、二人は喜んで了承した。

 

「(改めて動いてる二人を見ると……美人だなぁ)」

 

内心そんな事を思っているミーシェは、無意識にじっと二人のことを見つめ過ぎていたらしい。二人が少し戸惑うように「ミーシェ様?」と首を傾げた。

 

「あ、ごめん。二人がとっても綺麗だから、見惚れてた」

「み、見惚れるだなんて!そんな、照れちゃうっス…です!」

「お褒めに預かり光栄ですわ、ミーシェ様」

 

慌て過ぎたのか素の話し方になりかけたルプスレギナと、完璧な笑顔でお辞儀をするソリュシャン。対照的な二人だが、見ていて楽しかった。

ふふ、と楽しそうに笑ったミーシェに、笑ってくれた事が余程嬉しいのか益々笑みが深まる(ルプスレギナなど尻尾が出ていれば全力で左右に振られていたことだろう)二人。

 

「こうして二人とお話しできて、嬉しい」

「わ、ワタシもです!」

「はい。私もミーシェ様の笑顔を拝見する事ができて、感動に打ち震えておりますわ」

 

ゲームでは設定された動作くらいしか表現されていなかった為、こうしてくるくると動く表情や肉声はより彼女たちをリアルにしていた。

 

「ルプスレギナ、せって……普段はもっと砕けた口調、だよね?わたしは姉妹達じゃない、けど…気にしないで話していいよ」

「そ、そんな!至高の御方に対してそんな話し方をしたら不敬にあたります!」

 

あー、やっぱりそういう認識なんだ……。とちょっと辟易するが、セバスさんに拒否され分此処は了解を得たい所だ。ミーシェは話す事は得意ではない。ならば、素直にお願いするしかあるまい。

 

「でも、わたしは普段のルプスレギナの話し方も…好き。ありのままで接してほしい、し……その方がルプスレギナらしくて可愛い」

「かわっ…!」

 

本来狡猾な面も見せるルプスレギナのわたわたと慌てる様が可笑しいのか、一切助け舟を出さないソリュシャンはにこにこと笑顔で見守っている。

 

「んー…ルプスレギナのこと、ルプーってわたしも呼びたい。から、それを許す代わりに、口調の件を許す…のは、どう?」

 

呼び方など、ミーシェにならどう呼ばれても構わないのだが、対価を示す事でルプスレギナが頷き安くしようとしているのだろう。むしろ、此処まで気を遣わせてしまったことを侘び、大人しく受け入れるべきだ。

 

「は、はい……。それでは…それじゃあ、よろしくお願いします…っス」

 

ぎこちない、が直ぐに直せというのも酷だろう。正直、話せるだけでも嬉しいのだから。

 

「うん、ありがとう…ルプー。ごめんね、我儘言って」

「とんでもないっス。むしろもっともっと我儘言ってくれていいんスよ?ミーシェ様の我儘を叶えるのも下僕でありメイドであるワタシらの仕事なんスから!」

「ルプスレギナの言う通りですわ、ミーシェ様。至高の御方にお仕えするのが私達の誇りですから」

 

奉仕精神、というやつだろうか?彼女達がそう言うのならば、甘えてみるのもいいかもしれない。

 

「(ここ最近じゃあ、モモンガさんとしか話してなかったし…それか、返答しないNPC達相手にわたしが独り言するかだったし……おしゃべりは得意じゃないけど、楽しいな)ねぇ、ルプー、ソリュシャン。もうひとつ、わたしの我儘…聞いてくれる?」

「「何なりと、ミーシェ様」」

「あのね……手を、繋いでほしいの」

 

彼女達にもうひとつ頼み事をした。それは我儘とも言えないささやかな願い。しかし、下僕の身には身に余る行為だ。

それでも、彼女達はミーシェの願いを叶えてくれた。掌から伝わる温度は、彼女達が今此処に確かに生きているのだと感じさせた。優れた耳を済ませば、両隣からしっかりとした心音も聞こえる。

それらに感動と共に安堵を感じる。自分一人ではないのだと、仲間が…家族が側にいる。その幸福に浸るように、ミーシェはそっと掌に力を込めた。

 

そうして、第八階層の荒野を抜け("あれら"の事はひとまず置いておいて、ヴィクティムには挨拶をした。エノク語?だっただろうか……言葉の羅列は不明だが、不思議と何を言っているかは理解できた)、第七階層の溶岩に着いた。

 

「(ここは、ウルベルトさんの作ったNPC…『デミウルゴス』が階層守護者だったはず)」

 

デミウルゴスに伝言を伝えるのはソリュシャンの役目だが、せっかくだし彼にも挨拶をしていこう。そう思ったミーシェは彼の悪魔の定位置である神殿に向かおうとしたが……その必要はないようだ。

 

「第九階層の守護を命じられているプレアデス達が、なぜ此処に?至高の御方の命に背くとは何事か!」

 

ばさり、という羽音と共に頭上に人影が現れた。背中から悪魔の羽を生やしたデミウルゴスが眼下の二人にきつい口調で問い質す。

 

「それを許可したのはモモンガさんとわたしだから、何も問題ないよ。異常事態が発生してね、各階層の確認と守護者に第六階層に集まるよう伝言を彼女達に頼んだの」

 

二人の間からひょこりと姿を表したミーシェに、デミウルゴスは丸眼鏡の奥で宝石の瞳を丸くさせ、慌てて下降した。

 

「こ、これはミーシェ様。御前にも関わらず大変失礼を致しました」

 

地面に降り立つとそのまま片膝を付いて頭を垂れたデミウルゴスに、アルベド達と同様に敬服しているのが見て取れた。

 

「気にしないで。さて、じゃあ改めて。こんばんは、デミウルゴス。第七階層の守護ご苦労様、いつもありがとう」

「っ…!階層守護者として、このナザリックにお仕えする下僕として当然の事をしているまで、労いなど勿体無きお言葉でございます。ミーシェ様、ようこそ第七階層へおいで下さいました。このデミウルゴス、ミーシェ様の来訪を心より歓迎致します」

 

ミーシェが口にしたのは、此処を訪れた時に話しかける常套句だ。一方的に言葉をかけるだけの自己満足。しかし、今は違う。こうして返事を返してくれる事が何よりも嬉しかった。

 

「ああ……、ようやく御身に応える事ができる。なんと喜ばしいことでしょう。2日と18時間振りでございますね、ミーシェ様。お変わりなくお過ごしの様で、このデミウルゴス安心致しました」

「あ、うん……(そんな細かい時間まで記憶してるんだ……)デミウルゴスも相変わらず?みたいでよかった…」

 

内心ちょっと引いてしまったが、基本彼女は無表情だ。ミーシェのポーカーフェイスが崩れる事はなく、デミウルゴスに頭を上げさせる。

話があるからと(いつまでも傅かせるのもあれなので)立ち上がらせると、隣に立つソリュシャンに目をやる。頷いたソリュシャンが与えられた役目を果たす為、モモンガからの伝言を伝えた。デミウルゴスもしっかり頷くと了承した。

 

「わたしはコキュートスに会いに行くから、もう行くね。挨拶は、モモンガさんも一緒の時に改めて。…でも、こうして言葉を交わせて…嬉しかった」

「そうでしたか、お時間を取らせてしまい申し訳ありません。しかし、こうしてミーシェ様とお言葉を交わす幸福を得られた事を喜ぶ愚かな我が身をお許し下さい」

「ふふっ、デミウルゴスって、そんなこと考えてたの?でも、嬉しいな。またひとつ、あなたを知る事ができた。また、お話ししよう。今度は、もっといっぱい」

 

嬉しそうに頷いたデミウルゴスに別れを告げ、ルプスレギナを連れて上へ上がり、第六階層に到着する。

此処の守護者であるアウラとマーレは今円形闘技場の方でモモンガさんと一緒にいるみたいだし、挨拶は後にしよう…と考えたミーシェは自然豊かなジャングルを抜けて、ようやく目的である第五階層の氷河に辿り着いた。

 

「それじゃあミーシェ様、此処までお供できて楽しかったッス!第二階層の自室におられるシャルティア様に伝言をお伝える為、名残り惜しいっスけど此処で失礼するっス」

「うん。一緒に来てくれてありがとう。シャルティアによろしくね」

 

パタパタと手を振りながらルプスレギナは上の階層へと上がっていった。

 

「(よし……。行くか!)」

 

氷で覆われた白銀の世界。第七階層でもそうだが、ミーシェは熱や冷気、その他に対する耐性をもつスキルや指輪を所持している為、極寒のこの階層内でも問題なく行動できる。

踏み出した足は、そのまま駆け足となる。半人半孤の状態では遅すぎる。もっと早く、速く彼の元へ。

その思いのまま《変幻》し、四足の獣となったミーシェが目指すは彼の住居である大白球。

 

「コキュートス!」

 

氷の大地を踏みしめて大きく跳躍する。空中で半人半孤の形態になると両腕を広げて彼の元へ飛び込んだ。彼ならば必ず受け止めてくれるという絶対の信頼から。

 

「ミーシェ様!」

 

ライトブルーに輝く四本の腕にそれぞれ持った武器を即座に投げ捨て、その腕を伸ばすと彼女を抱き留めた。武人と呼称される彼が何よりも大切にし、誇りを持つ物を咄嗟に手放してでも自分を優先させた。

それは彼に設定されたものが正しく存在していることの証明だ。もちろん、疑いなど欠片もなかったが。

 

「突然飛ビコマレテハ危ナイデスゾ」

「大丈夫。コキュートスなら、ちゃんとキャッチしてくれる」

「ムム……」

 

その言葉通り、しっかりと四本の腕で支えてくれている。ミーシェは彼の腕に抱かれながら楽しそうに笑い、ふわりと尻尾を揺らした。

そうして、獣の姿では伸ばすことのできない二本の腕でしっかりとコキュートスに抱きついた。

 

「ミ、ミーシェ様!ソノヨウナ……」

「ひんやり冷たくて気持ちいい……。声は硬質だけど、なんだかコキュートスらしいや……」

 

わたわたと慌てている心情を表すかのように忙しなく動く尻尾も、触れる感触や温度、カチカチと鳴る下顎から溢れ出る声も、此処にコキュートスが存在している事を伝えていた。心のままに自由に動く、彼が。

 

「ね、コキュートス。名前を呼んで」

「ミーシェ様……?」

「ふふっ、ありがとう。こんばんは、コキュートス。第五階層の守護ご苦労様。会えて嬉しいよ」

「トンデモゴザイマセン。守護者トシテ、マタ武人トシテ、オ仕エスル至高ノ御方ノタメ日々精進スルノガ務メトイウモノ」

 

返してくれる言葉も、彼の思いそのままだ。ああ、本当に彼が喋っているのだと、ミーシェは感動した。何度彼とお喋りしたいと思っただろう。その願いが今目の前で叶っているのだ。

 

「ヨウコソ、我ガ守護階層デアル氷河ニオイデクダサイマシタ。心ヨリ歓迎イタシマス。私モミーシェ様ニオ会イデキ嬉シク思イマス」

 

会えた喜びも勿論あっただろう。しかし、どういった用件で来られたのか?というコキュートスからの疑問に、ミーシェは抱きついていた体を少し離し、腕に支えられながらそのままの体勢で話しだした。

 

「今、ナザリックは原因不明の不測の事態に陥っていてね、いろいろと確認しているんだけど……。モモンガさんが、守護者を集めて話をしたいから、第六階層の円形闘技場に来るように……という、伝言を伝えに来たの」

「ナント!ワザワザミーシェ様ニゴ足労イタダクトハ、申シ訳アリマセン」

「ううん、気にしないで。伝言はついでで、本当はコキュートスに会いに来たかっただけだから」

 

これは本音だ。階層を上がることによって各階層や守護者の確認をとれたのも僥倖だった。モモンガさんも、少しは安心するだろう。

 

「ね、コキュートス。集まるまでまだ少し時間があるから、お話ししようよ。それから、一緒に円形闘技場に行こう」

「承知イタシマシタ、ミーシェ様」

 

そうして二人は、暫しの間語り合った。言葉を交わせることが何よりも幸福だと言わんばかりに。

 

* * *

 

さて、分御霊がそれぞれの役目を果たす中、モモンガの元に残った本体はモモンガが言った"確認したい事"について少々意見の相違があった。

 

「まぁ、確かにモモンガさんが言うように、ユグドラシルじゃ禁止になっていた行為……を、試すのは手っ取り早くて確かな行動です」

 

ユグドラシルでは18禁…下手をしたら15禁に触れる行為は厳禁だ。違反すれば警告どころかアカウント停止という厳しい裁定が下される。

ミーシェが小狐姿でギルメンから撫でられたりモフられている行為すらギリギリだったのだ。尻尾に抱き着かれた時はひやっとしたがセーフだった(それ以上はさすがにアウトだろうし、それを試す猛者はいなかったが)。どこまでが範囲内なのかは明確にされておらず、運営の基準は不明だがさすがにモモンガがやろうとしていることはアウトだろう。

 

「胸を触るのは……ちょっと。譲歩して抱き着くぐらいですかね。それでも垢バン必須行為でしょうけど」

 

ミーシェが言っているのは自身の事ではなく、モモンガが残らせたアルベドに対して行うとしている内容だ。なぜミーシェではないのかと言うと、さすがに年下の少女相手に頼むのは…とモモンガが躊躇ったからだ。しかし、これは必要な事とモモンガは敢えてミーシェに訴えた。

 

「アルベドはギルメンであるタブラさんが作ったNPC…いわば仲間が残した娘のようなもの。たとえギルマスであるモモンガさんでも……セクハラ、ダメ絶対」

 

いくら確認の為とはいえ、アルベドが拒否しなくとも(むしろ目を爛々と輝かせてスタンバっているが、そこは目を逸らす)譲れない想いがミーシェにはあった。しかし、この確認が重要であることは理解していた為、抱き着くくらいなら許すと言ったのだ。

 

「いいですね?」

「ハイ………」

 

一言も言い返さなかったモモンガは素直に頷いた。うむ、とひとつ頷いたミーシェは待機していたアルベドを呼んだ。

 

「そ、それではアルベド…いくぞ」

「はい!モモンガ様!」

 

両腕(腰から生える漆黒の翼も心無しかピンと伸び切っているように見える)を大きく広げて満面の笑みで迎えいれるアルベドに、モモンガは少し躊躇ったもののミーシェに尻尾で押されてたたらを踏むように抱きついた。

柔らかな感触と良い匂いにモモンガは、骨の指を動かしてさわさわとアルベドの体を確認するように触れた。その度にピクピクと体を震わし小さく吐息を溢すアルベドの様子に、静かに見守っていたミーシェは首を傾げた。

抱きつかれているためアルベドの表情はわからないが……微かだが痛がっているのが勘でわかった。そしてハッとする。

 

「モモンガさん!負の接触(ネガティブ・タッチ)!」

「え?……あっ!」

 

ばっ、とモモンガがアルベドから離れる。まさか同士討ち(フレンドリイ・ファイア)が解禁されているとは思わなかった。痛みからか興奮からか、未だ体を震わせているアルベドにモモンガは慌てる。

 

「す、すまないアルベ…ド?」

「ああ、ここで私は初めてを迎えるのですね?」

「「………え?」」

 

モモンガも、ミーシェも、言葉の内容が一瞬だけ理解できなかった。

顔を上げたアルベドの表情は、痛みからではなく、明らかに興奮からくる恍惚とした顔でモモンガを見つめていた。その金の瞳たるや、獲物を狙う肉食獣のようである。

じりじりとアルベドがモモンガに迫り、モモンガは怯えるように後退していく。ミーシェもそっと二人から離れた。アルベドが捉えているのはモモンガだ、こちらにまで気を回しているとは考えにくい。

 

「よ、よすのだ。アルベド!ミーシェさんも、逃げないでください!というか助けてくださいよ!」

 

髑髏の空洞な眼下で揺らめく赤い灯火がこちらに向く。スキルを使用してまで姿を隠匿して距離を取っていたのに目敏いな、と思ったミーシェだが、さすがにこれ以上放っておくのはモモンガに悪いため行動に移した。

 

「今はそういう行為をしている暇はない、から……落ち着こうか、アルベド」

 

尻尾でアルベドを拘束し、モモンガから引き離す。もふもふに包まれたアルベドはそれはそれで嬉しそうな顔をしたが、かけられた言葉にハッとした。

 

「も、申し訳ありません!何らかの緊急事態だというのに、己が欲望を優先してしまい」

「よい。諸悪の根源は私である。お前の全てを許そう、アルベド」

「まぁ、種族的に欲望に忠実なのはいいことだと思う、よ?TPOを守れば、だけど。まぁ……後でご自由に?」

 

モモンガからの許しに感謝し、そしてミーシェの口から放たれた言葉にモモンガはおい!と顔を青くし(そもそも骸骨だから色なんて変わらないが)アルベドは花が咲きほころぶように顔を輝かせた。

 

「とりあえず、確認も終わったし第六階層に行きますか」

「はぁ………そうだな」

 

もう何度目かもわからない沈静化を受けたモモンガが疲れたように溜息をつくと指輪の力を使ってその場から転移した。

 




前回描写をいれていませんが、はてさて、モモンガさんがアルベドの設定を書き換えたのかはご想像にお任せします。
感想で指摘を受けましたが、モフモフがアウトかは……捏造ですがセーフとします。撫でたり抱えたりするのはさすがに15,8禁じゃないと思いますし……。疑問はあると思いますが、お許し下さい。

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