その日、楓はいつもより不機嫌であった
「まぁまぁ、そんなカリカリしないでぇ」
「絶対にあの男だけは許さない・・・」
まるで般若のような表情になって呟く楓に、帝はなだめるが一切聞こえていない様子だった
「よーっす」
すると、タイミングの悪いことにそこへ秋雨が生徒会室に入ってきた
「!!」
楓は秋雨の顔を見た瞬間に足刀を顔めがけて放った
「危なッ!!」
その蹴りを横にステップを踏んで避けた
「何だよ急に・・・」
「あんたが変なコトしたせいでまだまだ寒いこの時期に屋上で小一時間放置されて次の日風邪を引いたのよ!!」
「えぇ・・・お前が無鉄砲に向かってきたのか悪いと思うけど・・・」
秋雨は面倒臭そうに顔を引きつらせると
「あぁん!?存在を忘れて放置したのはあんたでしょうが!」
まるで爆発したかのように怒りをあらわにする楓の元に一人の生徒会役員が手紙を渡してきた
「何これ?」
「なにやら他校の生徒が楓さんに渡せと」
「わぁお、流石は生徒会、モテるねぇ」
楓を小馬鹿にしたかのように秋雨がそう言うと
「っるさい!」
楓は役員の持っている手紙を奪うように取ると
「どうせくだらない内容よ」
ため息を吐いて中身を見ると
「えーっと、生徒会役員の楓に次ぐ、生徒会が匿っている二道 秋雨を差し出せ?」
「なんで俺が匿われてる事になってんの?」
手紙を覗き込む秋雨に楓が
「多分、会長があんたと交わした約束が一人歩きしてるんじゃない?」
「にしたって一人歩きしすぎだろ、国外まで行ってるレベルだぞ」
「それにうちとしても君を匿ってるつもりはないからねぇ」
その場の全員の頭の上には?マークが浮かんでいた
「取りあえずあんたを差し出せばいいって事よね?」
「ヒドいなぁ」
「流石に生徒会がうちの生徒をどこの馬の骨かもわからない人間に差し出したなんて話が出回れば信用が落ちてしまうから早々簡単に判断はしかねるね」
帝が椅子から立ち上がり手紙を手に取った
「少し調べてみようか、僕としても少し気になるからね」
「つっても、調べるってどうする気だ?」
「生徒会には色々な委員会の委員長が所属していて、その中に通称【情報屋】と言われる広報委員会が在るんだ」
帝が誇らしげにそう言っていると、役員の一人が走って生徒会室に入ってきて
「た、大変です!!」
切羽詰まった顔でそう言うと
「どうしたんだい?少し落ち着いて」
帝は落ち着いた様子でそう言うが、表情は一切変わらず
「こ、校門まで来てください!!」
「校門?またなんで?」
「と、とにかく急いで!」
三人は取りあえず言われたとおり校門の方へ行ってみると
この学園とは違う制服を着た生徒がなにやら騒いでいた
「何だあいつ」
秋雨がそう言うと、他校の生徒はこちらを向いて
「見つけたぁぁ!!」
いきなり叫びだし、静止する教員を突き飛ばし秋雨の前に立つ
「貴様があの二道 秋雨だな!!」
男はいきなり指さしそう言った
「おいおい、いきなり表われて自己紹介もできないのか?」
「あぁ、自己紹介が遅れたな。俺様の名は『
虎王 仁と名乗る男はそう言うと大きな声で
「貴様が二天流の現師範代の二道 秋雨だな、この俺と今ここで戦え!!」
藪から棒にそう言うが、秋雨は心底嫌そうな顔をした
「なんで俺が初対面の奴とやり合う必要があるんだよ。しかも、生徒会長の目の前で騒ぎを起こしたら色々面倒なんだよ」
「何!?貴様まさかそこまでこの学園に飼い慣らされているとはなぁ、最強と言われた二天流も地に落ちたものだぁ!!」
秋雨は大きくため息を吐いた
「つぅかなんで俺の名前と流派を知ってるんだよ」
「ふん、知れたことを・・・貴様の道場まで行ってきたからに決まっておろう!まぁ、ただの門下生ごとき俺様の相手ではなかったがなぁ!!」
その言葉を聞いて秋雨が少し反応した
「道場まで、ねぇ・・・」
秋雨は手を振り、力を抜くと仁の目を見た
「これでも師範代って肩書きを持ってるからよぉ、門下生のケツは俺が拭かなきゃならねぇんだわ」
仁はその瞬間に秋雨の雰囲気が変わったことにすぐさま気付いた
「ついにその気が出てきたと言うことか?」
「安心しな、殺しはしねぇ、ただ、二度と俺に関われないようにしてやるよ」
その尋常じゃない殺気に楓が止めようとするが、帝に腕をもたれる
「会長!」
「まぁ、君も見てみるといい、彼の本気を」
帝の表情はいつもと違って真剣な表情だった
「面白い、その言葉、ただの虚勢じゃない事を願うぞ」
「来い・・・」
秋雨は構えると、仁がいきなり攻撃を仕掛けた
「ホァ!!」
その奇声とも言える気合いと共に素早い縦の拳を放つが簡単に避ける
「ジークンドーか?」
「流石だな、虎王拳はジークンドーをベースにした拳法だ」
そして、目にも止まらぬ素早い攻撃に対し、風に煽られる綿のようにその場から動かず最小限の動きだけでスルリと避けていく
「それが二天流の天門か!?」
「何言ってやがる?ただ避けてるだけだ」
秋雨は余裕そうに喋りながら避けていく
「で、これがただのパンチだ」
避けると同時に腹部に拳をめり込ませた
「ゴフッ!」
無防備になってしまった腹部を腰の強烈な回転を加えながら殴られたことにより後ろに下がりながら腹を抱えた
「っ!やるな」
「まだやるか?」
「当然だ!!」
一切懲りることなく秋雨に飛び込んでいく虎王に帝は一言
「彼の負けだねぇ」
そう言うと、秋雨はさっきまでとは違う構えを取ると
「二天流 鬼門『殺法』」
まるで機銃で乱射するかのように強く荒々しい打撃が仁の体の急所に的確にめり込んでいく
「決まったね」
「っ!!」
楓は反射的に走り出し秋雨を掴み止めた
「やめて!!そこまでしたらそいつが死んじゃう!!」
「あぁ?全部触る程度で止めてるから死ぬどころか傷すら付かねぇよ」
「へっ?」
秋雨のラッシュが止まったことで仁は距離を取った、その表情は死ぬ寸前で生存できた人間の顔そのものであった
「ハハッ・・・こ、今回はこれくらいにしてやる、しかし、これだけで済むと思うなよ!!」
噛ませ犬のような捨て台詞を吐いて仁は逃げていった
「ふぅ、流石に本気ギリギリで止めるのは疲れるな」
「さっきので手加減?ば、化け物過ぎるでしょ」
「久々に見たよぉ、君の本気をぉ」
帝はニコニコと笑いながらそう言って秋雨に歩み寄った
「手加減したっつってんだろ、あんな素人丸出しの相手に本気なんか出すかっつの・・・」
「なるほど、腐っても武道家としての精神は忘れていないと」
「勝手に腐らすな」
秋雨はため息を吐きながら服を整えていると、楓の顔が真っ青になっていた
「ん?どうした?」
「なんか、私が相手にしてたのってこんな化け物だって事を理解してなんか・・・」
「怖くなってきたか?安心しろよ、この学校でやり合う気なんかないし、そもそも女を殴る趣味は無ぇ」
そう言って、秋雨は教室の方へ向かう、その姿を見て少し前の自分ならあの背中に蹴りの一つでも入れようとするのだろうが、今は恐ろしくて足すら動かないことに本能で気付いている自分がいた
「ホント、情けない・・・」
楓は自分の姿を客観的に見た瞬間、少し涙ぐんだ