薄暗い廃倉庫の中で
ピンク色に蜘蛛のステッカーが貼られた金属バットから
血が滴り落ちる
血は秋雨のものである
秋雨は額から血を流していた
数時間前
広報委員会の部屋にて
「何のようだ、あんまりお前とは関わりたくないんだが」
「まぁ、そう言わずに
そうだ、何か飲みますか?
一応お茶くらいなら出せますよ」
麗は含みのある笑みを浮べながら
紙コップにお茶を注ぐ
秋雨は麗に急に呼ばれ少し警戒して周囲を見ている
「何もあなたを襲おうとは思ってないですよ
二天流それについて色々お聞きできればと思いまして」
「話せる訳ないだろ
話はそれだけか?
なら、帰る」
秋雨がそう言って部屋を出た瞬間
秋雨の側頭部にめがけて金属バットが振り下ろされた
「っ!!」
秋雨はギリギリで金属バットを掴む
「て、てめぇは確か青葉だっけか」
「来やすく呼ばないでと言いましたよね」
「そうだったか?
今度から気を付けるわ」
秋雨はバットを手放し距離を取りつつ身構えた
「麗先輩とやりあったそうですねぇ」
青葉はニコニコと笑ってはいるが
その表情は明らかに好意的なものではなく
殺意のこもったものだ
「誤解を招くような言い方するなっつの」
「そんなことどうでもいいじゃないですか
私ともやり合いましょうよ」
「嫌っつっても無理そうだな」
「こっちです」
青葉に連れられて秋雨と麗は
現在は使われていない体育館の中へ入った
「ココなら気兼ねなく暴れられますよ」
ニコニコと笑いながら金属バットを握りしめる
「武器在りでやるのか?」
「女の子相手にハンでなしでやるんですか?
わぁ、何て紳士的なんでしょうか
武器を持たれてだと負けるかもしれないから
素手同士でやらせようと強要するなんてねぇ!」
憎たらしい表情で憎まれ口を叩き
秋雨に挑発をするが
秋雨は涼しい顔で
「いや、自由にしたら良い
俺はお前より大人なんでな」
「な、何か凄い険悪なムードね」
楓は麗に呼ばれて二人の喧嘩を二階の通路で見ていた
「あはは、青葉は私や文には懐いているんですけど
それ以外の人にはどーも噛みついてしまうみたいで
特に、私が個人的な理由で秋雨さんに喧嘩を吹っかけたのが
気に入らないみたいですね」
二人がそんな話をしていると
ガァンッ!
と、金属製の物が地面にぶつかる音が鳴り響き
顔を向けると青葉が秋雨のいたところに
金属バットを振り下ろし
それを秋雨が避けたため
地面に金属バットが叩きつけられたようだ
「そう言えば、青葉ちゃんって
何か格闘技の経験ってあるの?」
「いやぁ、青葉は空道っていうのをやっているんですよ
そんな中でも武器術に長けていて
特にバットを持たせたら敵無しだと思いますよ」
「やり合ったことがるって言い方ね」
「さぁ、どうでしょう」
二人が呑気に話している中
秋雨と青葉の戦闘が激化していた
「ほらほらどうしたんですか
避けてばかりでは勝てませんよ!」
激化してはいるが現状は
青葉が一方的に攻撃をして
それを秋雨が避け続けている状況である
「ちょこまかと逃げて
いい加減ゴキブリみたいに潰されてもらえませんかネェ!」
(クソ、何だコイツ
ただ振り回しているようで隙が無い
下手に前に出たらこっちが一撃もらっちまう)
「流石の洞察眼ってところですかね」
「どういうこと?」
麗は柵にもたれながら話し始めた
「あの子は私達よりも相手の実力を計ることが出来るんですよ
なのですぐに相手の弱点を見つけることが出来るんですよ」
「へぇ、じゃあ、何の考えも無しに喧嘩を吹っかけた訳じゃないってこと?」
「あの子は技術面では私にも匹敵するレベルですので
筋力面や身長では叶いませんし」
楓は麗にそう言われ
青葉を見ると
(そういえば、あの子一年生にしては身長が低いような)
「まっ、事情はまた今度話すとして
そんなわけで技術を磨いて今では
筋力に頼らずとも自分の一、二回り大きい相手でも吹っ飛ばすくらいは出来ますね」
「技術だけで底まで出来るもんなの?」
「えぇ、なので腕でバットを防ごうものなら
骨折は免れないでしょうねぇ」
麗の言葉通り先ほどから
秋雨は青葉の攻撃を一度として
腕では防がず避けるのみである
しかし、それ故に次第に追い詰められていく
「大分間合いが詰められてきましたね」
「それにいい加減壁に追い詰められるわね」
二人が話していると
とうとう秋雨の背中が壁に付くかという瞬間
「そこだ!」
青葉の攻撃の隙間を縫い顔面に向けて正拳突きを放つ
そして、青葉の顔面に拳が伸びて
ゴゥン!
体育館の中に鈍い音が鳴り響いた
そして、秋雨が壁に背中を付けた
「ふふ、私の勝ちですよねぇ
こうなったら・・・」
秋雨の正拳突きに合わせたカウンターで
側頭部に金属バットを振り抜いた
「クソが・・・遠慮もなく殴りやがって・・・」
秋雨の額から血が流れ
目が虚ろに光っている
「おや?もしかして、まだ負けてないって言うわけですか?」
「あぁ・・・まだ、終わっちゃいねぇ・・・」
あまりの衝撃に瞳が痙攣し
壁に寄りかかりながら立つのがやっとという状態で
秋雨は青葉を睨んだ
「はぁ・・・なら、二度と立てないように
頭がヘコむくらい滅多打ちにしますかねぇ」
青葉がバットを振り上げ
全身の力を込めて
バットを振り下ろした
ガキンッ!
体育館の中に金属同士がぶつかり合う音が鳴り響いた
「!!!!?????」
青葉は驚愕のあまり声が出せなかった
金属バットを振り下ろしたと思ったら
秋雨が腕で防いだのだ
「よぉ、お前さ、プロレスって知ってるか?」
「は、はぁ?」
「プロレスってよ、以外と演技力が必要なんだよ
ダメージを受けたように見せて観客を興奮させるわけだ」
「今まで避けてたのも演技ってこと?」
「いえ、恐らく避けているのは本気でしょう
青葉の攻撃は基本的に強力ですから」
「じゃあ、どうやって」
「あれは剛体術ですね
筋肉を締めることにより体を金属より硬くすることが出来る技です」
麗はポケットから手帳を取り出して
何かを書き込みだした
「まぁ、可能性としてはあるとは思っていましたが・・・」
「?」
先ほどまで後手に回っていた秋雨が
途端に腕でバットを防ぎ
青葉は一瞬動きが止まり
秋雨の言葉に耳を傾けていると
「二天流は意外と不便でな
だから、それ以外を学ぶことにしたんだ」
そう言うと金属バットを右手で掴み
左腕を伸ばし青葉の腹部に拳を当てると
「歯ぁ食いしばれ」
そう言うと
一瞬秋雨の筋肉が膨張し少し動いたかと思うと
青葉はまるで糸で引っ張られたかのように後方に吹っ飛んだ
「な、なにあれ!?」
楓は身を乗り出して驚愕を顔に見せた
「あれは、中国拳法の
器用な人ですね」
青葉は一瞬何が起きたのか理解できず
ただただ、目を丸くしながら地面に背中を付けていた
「まさか、あの状態から体を曲げて威力を殺すとわな
流石にオレもビックリだ」
青葉は寸勁を放たれる一瞬で後ろに飛び威力を抑えた
だが、コレはあくまで青葉が条件反射で動いただけであり
意図的に動いたわけではないため
青葉もどうして後ろに飛んだのか理解できていない
「さて、どうする
お前の大好きな金属バットはこっちにあるぜ?」
秋雨にそう言われ手を見ると
金属バットが手の中にないことに気づき
即座に立ち上がり秋雨を睨みつけた
「なんです、もしかして私が武器なしでは戦えないとでも?」
そして、青葉は身構えるが
「いやいや、そういう意味じゃないんだがな
さっきのくらって立てるのかなって」
青葉は秋雨が言っていることに疑問を感じていると
いきなり青葉の足から力が抜け膝を付いた
「なっ!?へっ!?」
青葉の脳は何度も理解できないことが起きて
まともに声を出すことすら出来なくなっている
「諦めることを勧めるが、どうする?」
立つことが出来ずどうすることも出来ない
そんな中怒りに身を任せ攻撃を放とうと思うが
「これ以上無様な姿を晒すわけにもいきません
いいでしょう、今回は負けておいてあげます
ですが、次は・・・その顔を歪めますから」
「おぉ、威勢が良いことで」
そう言って、秋雨は体育館を後にした
「まっ、こんなものですかね」
麗は手帳を戻した
「あなた、以外とやることえぐいわね・・・」
楓は若干引きながら麗の手帳を見ながらそう言った
「はてぇ?何のことでしょうかぁ?」
「青葉ちゃんが秋雨に喧嘩を吹っかけるように仕向けた訳ね・・・」
「そんな人聞きの悪い、助言してあげただけですよ?」
麗はそう言うとさっさと体育館を出て行った
「アイツ、ただのトラブルメーカーじゃない
秋雨も面倒なのに目を付けられたわね・・・」