幻想郷で旅立つ黒の剣士   作:エーン

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25話 伊吹萃香

彼女の最大の武器は拳だろう。だからこんな接近戦でも笑顔で迎えてくれるわけだ。

萃香は距離が近くなったと同時に徐々に右手を引く動作が見られた。やはり拳の技をやってくるようだ。

俺は咄嗟に右に体を傾け、萃香の高速な拳を華麗に避けていく。拳の速さは耳の近くの風をきる音さえ聞こえた。そして傾いた角度を利用し下からの剣を上へと左上へと斜め切りを放つ。

しかし萃香の足は思ったより速く、拳を止めたと同時に咄嗟に後へ避けたのだ。ここまで速く体を動かせるとはさすがに驚いてしまった。

後へと飛び着地する萃香。俺は振り上げた剣を腰元に戻す。

 

キリト「速いな、萃香」

 

萃香「そうかな?そういう君は私から見ると遅いよ。思ったよりもね」

 

何?あの速さで剣を振ったのに彼女から見たらそれはかなり遅かったのか。これはかなり強い。

剣を頭の横に位置して、萃香へと攻撃を仕掛ける。萃香は笑って拳を、ボクシングの選手のように構える。足を徐々に速く動かし、そして速度が乗ると同時に地を思い切り蹴って萃香へ一気に距離を詰める。

すると萃香は下がるどころか、俺の剣をはっきりと見ると腕を見せてきたのだ。籠手などの装備もなくはだけている腕を見せてどうするのか。だが俺は勢いを止めず剣を右上から左下へ思い切り振り下ろしていく。

しかし。

火花が散った。俺の振り下ろした剣はがっちりと受け止められてしまった。それも、受け止められたのは手首に巻かれている鉄の部分だった。あんな手首につける鉄部分で俺の剣を止めたなんて、信じられなかった。固い部分に当たる剣の重い振動が、俺の腕へと伝わった。

そして受け止めた萃香は鼻で笑った後。右足を後ろへ地面をこすりながら下げる。若干砂ぼこりが舞うと、即座にその足を俺へと振り上げられた。砂ぼこりはさらに舞った。

思わず体重を後ろへ避けようとしたが、萃香の右足は即座に俺の腹へと近づいていた。

重い衝撃が俺の腹を襲った。歯を食いしばったが、体から一気に空気が出るように口が開いた。

 

キリト「アガッ…!」

 

振りぬけた右足と同時に俺の体は大きく吹き飛ばされ、少し浮いた。そして地面へと強打するとその勢いは止まらず地面を横へ転がってしまった。タイミングよく地面に右手を付けてその右腕を伸ばし体をばねのように跳ねさせた。

地面に着地するや否や、俺は緑の帯を確認した。腹を手で覆いながら。

 

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キリト「…ハァ…あんな…」

 

萃香「どうした?まさかこんなものじゃないよね?楽しみにしていたのに全然楽しくないよ、剣士さん」

 

指を曲げて挑発をする萃香。笑みは消えていない。

 

キリト「まだだ…」

 

剣を後に、肩の上へともってきて腰を落とす。

萃香も一緒に拳を構える。

俺は足を動かし開かせる。そして剣は徐々に発光していき、緑の光が剣を包んだ。後の剣の光が俺の顔に影を出した。

萃香は一瞬目を丸くするが、歯を見せて笑った。

そして俺は右足を一歩だし、一気に速度を上げていく。萃香に対して速さで勝つならば、不意打ちだ。そして不意打ちに近い物。

近づくと、俺は腹元を見やる。そして剣は光りを一気に増していき萃香を少し照らしていく。だが萃香は全くぶれることなく構え続けていた。

突進技 《ソニック・リープ》を放ったのだ。

萃香は手を後ろにすると、突如腕を振るう。そして振られたと同時に手首に下げられている鎖の玉を揺らし始めた。俺は汗をかいた。

振られた玉は勢いをつけて、遠心力を利用して俺へと鞭のように振られたのだ。そう、武器は拳だけでなく、あの手首にぶら下げた鎖の玉。

玉は振られると、俺の左胸へと食い込むようにぶつけてきた。剣の勢いは強制的に止められて、地面へと体をたたきつけられた。

 

キリト「ぐはっ…!」

 

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ついに俺の緑の帯の色がイエローゾーンへと変色した。初めて。危険信号を出しているのだ。そう、生命の危機を伝えているのだ。この色だけで。

この世界で死んだらどうなるか、何度も考えた。実際死なないとわからないが、死んだら本当に死ぬのか。それはない。アミュスフィアなので脳へのダメージはないはずだ。

倒れた体から体を起こそうとすると、萃香はすでに拳をこちらへと振るっていた。

思わず目を見開き、右手を地面について一気に左へと避けていく。萃香の拳は地面へと突き刺さり、小さな、深いクレーターができてしまうほどに。

 

萃香「この手首に付けている鎖も武器なんだよね。油断していたかな?」

 

キリト「やられて油断なんてしているわけないだろ…」

 

剣先を向けるが、萃香は目を細める。すると手を即座に引き、鎖を後へ振るう。

 

萃香「おらぁッ!」

 

玉は後へと振られた後、遠心力を利用して俺へと振られる。玉は目で確認できるほどの速さではなかった。限界まで目で追って、俺は剣でその振られた玉を対処した。

玉は質量が重く、まるで金属が一気に積み込められたような、重い玉である。

剣では玉をはじき返すが、金属がぶつかるおとはこれまでとは違って音が耳に劈くようだ。なぜか、いやな予感しかしない。

二つの色の違う玉は遠慮なく俺へと攻め続けた。ガン!ガン!ガン!萃香は笑いながら俺へと鎖につながれた玉を振っていた。剣は悲鳴を上げていた。

そして、俺は思ってもみなかったことが起こったのだ。

刀身の腹へと向かってきたその玉を俺は、両手で剣を抑えながら防御した時だった。

剣が内側へ、中心に亀裂が入った。

そして。剣の中心が鈍い音共に、砕けちった。破片が飛び散る。

そう、アニールブレードは砕け散ったのだ。

即座に俺は距離を取る。

 

キリト「そ…そんな…」

 

俺は剣を見る。もともとあった刀身の中心からもう刃先がなくなっていた。綺麗に割れていたのだ。亀裂が入り、剣は原型を保っていなかった。

流石に、あんな重い攻撃をずっと受け続けたら剣にも負荷が重かったようだ。俺は折れた剣を顔の近くにもってきて、目を閉じた。

この世界に来る前から、オリジンで使用していた、最も使いやすい剣だった。そしてこの世界に来てもこの剣で戦った。魔理沙とも、妖夢とも、幽々子とも、フランとも。いろんな人とこの剣で戦った。

常に共に戦い続けたこの剣には、限界に達したのだ。だから今、その役目を果たした。

 

キリト「…ありがとう」

 

俺は剣を鞘にしまった。

 

萃香「あれ?剣が折れちゃったのかな?もしかして、もう攻撃手段がないって感じかな」

 

萃香は笑みを絶やさず、一人しゃべり続けた。

 

萃香「噂ほどでもなかったようだね。…それじゃあ、勇儀」

 

萃香に呼ばれて顔を合わせた。頷いた勇儀は一歩前に出る。

 

勇儀「この勝負、萃香の「待て、勇儀…」

 

俺は声を低くして勇儀に言った。

 

キリト「…試合を続行してもいいか」

 

勇儀「何言っているんだい、剣が無いじゃないか」

 

キリト「いや、剣ならまだあるぞ」

 

勇儀「…ふぅん。どうだい萃香」

 

萃香は不機嫌そうに俺に言った。

 

萃香「さっきより楽しませてくれるの?剣士さん」

 

俺は怒りを覚えてしまったようだ。

 

キリト「…俺はお前を楽しませるために剣を振るってるんじゃない」

 

そして、俺は指をスライドさせた。上からメニューが振ってきて、そのうちの装備画面をタップする。

武器を変更する。アニールブレードはまだ残っていた。武器はもちろん。あれである。

スライドさせると、そこにあった。俺の宝物の剣だった。

《夜空の剣》

早速で悪いが、出番だ。

剣の名前をタップすると、アニールブレードは光ったままインベントリに収納された。交代したように剣は光り、俺の背中に新しい剣が出現した。

確かな重さが、肩に伝わった。

 

萃香「…へぇ。またもろそうな剣だね。勝てると思ってるの?」

 

俺は無視して、剣の柄を握った。

金属音とともに鞘から抜かれたその剣は、この暗い洞窟よりも漆黒で染められ、それは夜空の様に輝く刀身だ。

そして、萃香の顔を刀身に移す。

 

キリト「…続行だ、萃香」

 

萃香「いいよ。勝てるわけないけどね」

 

勇儀は俺たちを見ると、再び言葉を発した。

 

勇儀「それでは続行する。はじめ!」

 

声をともに、俺は目を閉じる。

俺はなぜ、ここにいるんだ。ここにいる理由は、この世界を救うことだろ。俺だって、世界の一つくらい、救ったんだ。

そして、必ず生きて帰る。それが最後の目標だ。向こうの世界には、俺の大切な友人、そして…明日奈…。

剣よ。俺の思いに答えてくれ。

 

萃香「ん?」

 

突如。黄色の輝点が剣を中心に俺の周りに灯しだした。それは無数に、その輝点は俺の服を、肌を、髪を、剣を照らしていた。

輝点は輝きを増して俺を囲むように浮遊する。周りは薄暗くなるが、それが輝点を一層輝かせた。

そしてその輝点は次第に俺の剣へと吸い込まれるように、きん、きん、と入っていく。入っていくところの刀身部分が丸く黄色く輝き、次第に増えていく。徐々に黄色く染められていく剣。そして黄色に輝いた剣は俺を照らした。

そして色が一瞬水色か、青の色になって剣が巨大化する。刀身が伸びたのだ。

 

萃香「…何だ」

 

そして剣は色を黒色へと戻ると、俺の右腕に力が湧いてくる。それは体を伝って全身へと力を流していくようだ。

体が一気に覚醒し、俺はもう一度。剣を構えた。

それと同時に俺を囲む大きな風が発生した。風は俺を包み、どこから現れたのか。ギガスシダーから成る濃ゆい緑の葉も風に乗っていた。

俺の髪も揺れ、ブラックウィングコートも風共になびいてる。

 

萃香「…そうだよ。本気を見せてくれよ!」

 

萃香は腕に下げた玉同志を強くぶつけると、その玉は中心から赤く光り始めると、急に炎を灯した。燃え盛る二つの鎖の玉。だが、そんなのあれと変わりはない。

リーナ先輩の鞭を思い出すんだ。一気に勢いに付けられた線は、その方向を変えるよりも強くしていくのだ。そして俺は鍛えられたはずだ。リーナ先輩に。そして整合騎士とも戦ったはずだ。

ここで、負けられないんだ…!

 

【挿絵表示】

 

剣は青の光を灯し、その光は今までよりも輝いている気がした。

そしてスキルは俺の全身に伝わっていき、剣が震えている。

俺は一気に足を動かし、萃香との距離を詰める。

鞭だ。鎖といえど、鞭だ。

萃香は燃え盛る鎖の玉を俺へと伸ばすが、今の俺にははっきり見える。足を延ばし、左手を地面に付けた。走る勢いをスライディングに変え、それは速度を落とさない。

回転して立ち上がり、横から俺は詰め寄る。萃香は片方の鎖をガラガラと鳴らし、俺へと攻撃を仕掛ける。俺はリーナ先輩の無知を避けた時同様、走りながら勢いを殺さず飛び萃香へと一気に距離を縮めた。

そして剣は光りを一番輝かせていた。

 

萃香「こいよ!」

 

キリト「はああああああああ!」

 

萃香は腕を見せる。だが遅い。

剣は萃香の二の腕を斬り裂いた。俺の頬に血が付いた。

 

萃香「…は?」

 

呆気にとられながらも、切り替えるように俺に向き直る。だが俺のこの剣はまだ止まらないのだ。

萃香は拳を構えて、俺の剣の粉砕に目を付けるようだが、目が泳いでいた。

背中から俺は右へ体を動かし、剣は音速を超えるほどの速度で右へ切り裂いた。萃香の左腕が手首から肩まで一直線に切り裂いたのだ。

 

萃香「がッ…!さっきまでの速さとは…まるで…!」

 

キリト「まだ…だッ!」

 

地面に強く足をつけ、剣は一旦光りを無くすと今度は赤い、真っ赤な色で染められていく。光りの形はまるで爪のようだ。

萃香は拳を振るうが、俺はそれよりも速く、もっと。速く。

スキルコネクト 三連撃《シャープ・ネイル》

右に振られた剣は、その速度がまるで機械のように早く上へと上げられていた。

そしてその剣は萃香の腹へと降りて剣で裂いた。萃香は片目をつぶって、痛みに耐えようとしながらも一気に後ろへ下がった。

だが俺は見逃さず振り上げる二連撃目。剣で萃香の右足を切り裂き、残る上からの三連撃めで左足を切り裂いた。

切断までとはいかずとも、所々剣の傷があり血を流して苦しむ萃香。そして足がもつれたのか、力が入らなかったのか、後に転んでしまった。

 

キリト「…」

 

萃香「くっ…こんな…」

 

倒れている萃香に俺は言った。

 

キリト「まだやるか、萃香」

 

萃香「あたりまえだ!まだ…」

 

とは言えども、萃香の四肢には傷がひとつずつあり、腹にも一つの傷がある。

すでに傷は深く、戦えるようには見えなかった。

 

勇儀「…萃香。もうやめろ。お前じゃかなわないぞ」

 

萃香「なにいってるんだ!こいつはただの人間だぞ!こんなやつすぐに…!」

 

とはいえども、萃香は立ち上がることすらきつそうな状態だ。腕をつけて、立とうとする。

俺は近づき、剣を逆手にもった。そして萃香の上へ来る。

 

萃香「なッ…!」

 

キリト「今なら、萃香。お前の息を止めることができるぞ。今の萃香にはもう限界だ。立ってみろ、戦えるかわからないけどな」

 

俺は決して剣を萃香から離すつもりはない。刺そうと思えば刺せる。

 

勇儀「…諦めろ、萃香」

 

萃香「…わかった」

 

俺は萃香から剣先を離し、鞘へと剣をしまった。

鬼たちは唖然とし俺を見ている。パルスィだって口元に手をつけてびっくりしているのだ。

勇儀が一歩出た。

 

勇儀「この勝負、キリトの勝利!」




今回も朗読していただきありがとうございます。
自分はかなり自転車に乗るのですが、まだ花粉症で目がかゆいです。そして目が乾燥してしばしばします。ある意味涙が止まりません。( ノД`)シクシク…
見なさんも気を付けてくださいね、花粉には…って言ってもどう気をつけるんだ、って話ですね( ゚Д゚)
この土日で治ることを祈りましょう。では。

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