艦隊これくしょん VERDICT DAY   作:水崎涼

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依頼者 :ファットマン社
作戦領域:パラオ東方
敵勢力 :不明
作戦目標:AC回収

 我が社AC部隊の所属AC一機が、パラオ東方にて連絡を絶った。
 状況から推察するに依頼に失敗し、大破し身動きが取れなくなった可能性が非常に高い。しかし現在、回収作業のできる我が社管轄のヘリの手配が難しい状況だ。そこで、鎮守府に依頼することにした。至急現場に向かい、機体及び搭乗者を救助してもらいたい。作戦の障害となるものは、すべて排除してくれ。
 なお、依頼達成が困難な場合、後日他人に回収される危険を考え、出来る限りACを破壊しておいてくれ。その場合も報酬を支払おう。よろしく頼む。

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Begin In Your Coming

 

 

 彼が気づいた時、体は軽い浮遊感に包まれていた。

 意識を取り戻した彼は、戦場を忘れて久しい彼は、それでも戦場に立っていた身として、寝起きのような朦朧さではあったが状況を確かめようとした。

 室内にしては無骨すぎる景色と、感じる浮遊感は、陸ではないどこかだと理解する。

 随分とやかましい。ヘリのローター音だろう。

 

『こちらコントロール。回線接続を確認。第11部隊、応答願います』

 

 機会越しの、女性の声。

 

「こちら第11部隊由良。音声良好です、どうぞ」

 

 若い女性の、いや、若すぎる。由良と名乗る肉声。

 

『第11部隊、現在G8空域を東に向けて飛行中で間違いありませんか?』

「G8、間違いありません」

『了解しました。それではデータを転送します』

 

 会話は、続く。

 そのまま眠ってしまいたい衝動にも駆られたが、声に導かれて目を開く。意識も、自分を個として理解していく。

 

『G6海域に、深海棲艦の駆逐艦を中核とする小部隊侵入を認めました。第11部隊、余裕があればこれの撃破を要請します。緊急の依頼ですので、この場での依頼受諾を認めます。後はあなた方の判断です。いかがしますか』

「こちら由良、敵の詳細をいただけますか」

『確認された敵はイ級駆逐艦エリート3、ロ級駆逐艦2となります。敵増援の可能性は否定しません』

 

 その知らせと同時、女性の声の会話が彼の耳に届き始めた。3名ほどだろうか、直の肉声だ。

 依頼を受けるかの相談を終えた彼女達は、また静かとなる。

 

「第11部隊、依頼を受諾します」

『第11部隊の依頼受諾を認証。敵部隊との邂逅予定地点までマーカーをセットしました。それでは、お気をつけて』

「ありがとうございます、イェルネフェルトさん。それでは。交信終了」

 

 丁寧に挨拶して、そして会話は切れた。

 直後、彼の体が揺れる。床が傾いたのだ。

 

「ぬ」

 

 よろけて、そして彼は頭を何かやわらかいものにぶつけた。

 うまく動かない腕をそれでも伸ばしてみる。何かが触れるがわからない。ただ、とりあえず、やわらかいものだった。

 

「きゃ」

 

 先ほど交信していた女性とはまた違う、もっと若い声。ここまで来ると最早子供という表現が正しい。

 そして、伸ばしていた手を握られる。

 

「あ‥‥‥あ! 由良さん、由良さん!」

「どうしたの、吹雪ちゃん」

「目が覚めました!」

 

 元気なのはいい事だが、傍で大きく声を上げられて彼はしかめ面をする。

 状況を脳で認識するに至った彼は眼を開いた。まず最初に視界に入ったのは、自身の手を握る黒髪ポニーテールの、女の子。その横には青髪の少女もいる。

 そして奥からやってくる、別の女性。セミロングの髪。その女性が寄って来て、声をかけてきた。

 

「気分はどうですか?」

「あぁ‥‥‥」

「体のほうは、異常はないみたいだけれど。起き上がれますか?」

 

 問われて、彼は体に力を込める。多少の痛みこそあったが存外体のほうはすんなりと起きられた。

 それに、通信で由良と呼ばれていた女性はにこりと微笑む。

 

「大丈夫みたいね」

 

 彼は辺りを見回す。金属製の壁と天井、おしゃれとはいえない無骨な電灯、鳴り響くローター音。

 かつて彼が愛した操縦席ほど狭くはないが、決して広いともいえない場所。

 

「ここは」

「ヘリの中です。現在、あなたを移送中‥‥‥少しだけ、寄り道をしますが」

「移送?」

「えぇ。あなたを救助して、病院まで運ぼうと」

 

 自分は病院に担がれるような人間らしい。体に変調はないが、少なくともそう扱われるべき存在だと彼は理解した。

 女性はタブレット端末を弄りながら、混乱する彼に問いかける。

 

「失礼ですが、お名前を伺ってよろしいですか? 照会をしますから」

 

 問われて、彼は止まる。いずれの質問もしっかりと答えることが可能だ。ただ、見知らぬ相手にあっさりと渡していい情報かどうかを悩んだのだ。

 しかし渡したからと言って何か問題が発生するとも思えない。彼の記憶が確かならば、すべては終わった話であり、そのような情報は例え自身の敵であろうと最早意味を成さないものだ。判断した彼は口を開いた。

 

 

 

「バーテックス所属、ジャック・O」

 

 

 

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