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依頼者 :ジャック・O
作戦領域:未定
敵勢力 :フォックスアイ
作戦目標:訓練補助
以前の件では世話になった。謝礼の意味も込めて、依頼を用意させてもらおう。
機体の動作確認の為、私の訓練に協力して欲しい。君達には標的役を頼む。こちらからの攻撃を可能な限り回避してくれればいい。お互い、より実践に近い緊張感を保つ為、そちらが迎撃と回避に成功した攻撃の数に応じて支払わせてもらう。目的は私の機体調整だが、君達がどれほどの額を稼ぎ出すのか、非常に楽しみだ。
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第31部隊。
現在の第31部隊はおよそ1年前に、第57部隊より独立する形で部隊長陽炎、部隊員不知火にて編成。現在も事務処理上、部隊員は二名のまま。トラック基地を中心に活動。主に受ける依頼は深海棲艦水雷部隊の駆逐。
駆逐艦陽炎。
陽炎型駆逐艦一番艦。艦娘としては三代目にあたる。艦娘候補生第56期。およそ3年前に艦娘登録し、第57部隊に在籍。相応以上の腕前を持つ駆逐艦として多少の有名税を支払っていた。後、独立して第31部隊を編成し部隊長となる。
駆逐艦不知火。
陽炎型駆逐艦二番艦。艦娘としては二代目。艦娘候補生第57期。陽炎より半年遅れで艦娘に登録され、第57部隊へ編入。この部隊で陽炎と親交を持ち、後、陽炎に付き従う形で第31部隊へ移籍。陽炎との協同戦果を多く挙げる。
「不審点を見つけろというのが無理な話だ」
端末から目を離して、ジャックは目の前の鉄柵、その先に広がる艦娘用へリポートに目を向ける。
この時点において、既にジャックは鎮守府に対する疑念を持っていた。艦娘に制限される依頼の数々、部隊番号を消したまま飛行を続ける第31部隊のヘリ、データにない第31部隊の構成員。
依頼を絞っているのも、ヘリの修理管理を監視しているのも、データの管理を杜撰にしているのも、それはすべて鎮守府だ。少なくとも『再来』と呼ばれるほうの黒い鳥について何かしら情報を握っていておかしくはないはずだ。となると、その存在を隠そうとしているのは鎮守府の意向である可能性がある。事務処理の怠慢は、こうして調べてもわからなくする為の欺瞞であるのだろう。
もちろんそれが単独かどうかは、また話が変わる。すなわち、黒い鳥を隠そうとしているヘリ同乗の人物や黒い鳥本人が、鎮守府からの指示を受けているか、それとも隠れたい黒い鳥と隠したい鎮守府で利害一致して自然とそうなったかどうかということだ。
これ以上は、推測という名の妄想でしかなくなる。語る価値のない話だ。それよりもやるべきことは。
黒い鳥との接触。
第31部隊のヘリ。注視しているそれが、離陸しようとしている。
「お待たせしました」
急いでやってきたらしい由良達が、多少息を乱しながらジャックの元へやってきた。挨拶もそこそこに、五人は自分達のヘリのところへ向かうと乗り込み、離陸体勢に入る。
艦娘のヘリは私物ではない。よって、依頼を受諾しなければ離陸許可も出ない。そしてそれは黒い鳥、第31部隊も同様だ。どの部隊がどの依頼を受けたのか、これを確認する方法はないが、直近で由良達に渡されていた依頼一覧から、この時間でどれが消えたのかは見つけられる。依頼がなくなったという事は中断して取り消されたか、誰かが受けたという事だ。なくなっていたのは近海哨戒の依頼。彼女達がトラック基地を基点としているのは僥倖であった。おかげで、彼女達の離陸を待ってから動くことが出来る。
‥‥‥それもこれも、基地で第31部隊の面々と直接面会することが叶わなかった為だが。そんな偶然、なわけがなく、完全に避けられている。
では聞き込みをとしたが、ここでジャックはひとつ驚愕することとなった。
艦娘達は、驚くほど他部隊への関心が薄かったのだ。
それは仲が悪いというのではなく、純粋に、互いが顔を合わせる機会が少ないことから来ているようだった。同時期に基地に帰還し、食堂で顔を見ればやぁやぁと親しげに話す者もいるが、不定期な依頼を受けて飛ぶという関係上、その時間がどれほど取れるか。また、依頼では複数の艦娘部隊で協同して、ということもない。同じ艦娘だけど、それだけ。陽炎と不知火の画像データを捕まえた艦娘に見せてみても、そんな子いたっけ、顔は見た気がするけど所属部隊は知らない、会えばよく話すけど連絡は取り合わない、もちろん彼女らの行動予定なんて知らないとの返答ばかりであった。
成人もしていない少女達が横を見向きもせず、ただ戦い続けている。
由良や吹雪、五月雨のように、同部隊の面々とならば関係はかなり良好な様子である。だからこそ、他所の艦娘は知らないと語る彼女達の異質さがジャックにはより目立って見えた。彼女達は確かに艦娘と言う存在に多大な誇りを抱いているのかもしれない。しかしその動機以外、彼女達にはないのだ。傭兵ならばそれでいいだろう、だが彼女達は艦娘だ。君達はそれでいいのか、とジャックは思わずにはいられない。
兎に角、謎の第三の第31部隊所属者を探すどころではない。全艦娘登録者からひとつひとつ可能性のないものを除外、としようとしたが、届出受理されているはずの夕張が未だ艦娘未登録扱いと言う始末である。
ならばと、ジャックは手を打ったのがこの尾行。由良達を指名した偽の依頼を鎮守府を通して用意して、彼女達に受けさせた。もちろん偽の依頼である以上、それを実行する必要はない。
離陸。
由良達は、第31部隊の後を追う。
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「やはりな」
そうジャックは満足に呟く。
あれほどの力を持つ人間が、危険性のない哨戒任務などと言うもので終わらせるわけがないのだ。
第31部隊のヘリは規定通りの哨戒依頼を済ませると、基地とは別の方角へと進路を取った。これ自体は、「艦影らしきものを発見した」とか「次の依頼を続けて受けたいので先に移動する」等、口八丁で鎮守府オペレーターを丸め込めばどうとでもなる。
そして基地とは違うあらぬ方向へ飛行するその様子を、追加装備で搭載した前方長距離レーダーで捕捉しながら、由良達も後を追うことにした。目的は本当に黒い鳥が乗っているのか、その確認と、その活躍をもう一度目にするためである。伝説の再来といわれるその力をもう一度見たい。そしてその正体も。
今度は何が起こってもいいように、由良は自分達の武装を更新増設したほか、ヘリにも多目的誘導弾や空対空誘導弾のポッドを搭載していた。先の件もあり、彼女達はかなり奮発をした。
「また黒い鳥の戦いが見られるんですね。私、楽しみです!」
「録画しましょう、由良さん!」
「本当に? 本当に黒い鳥に会えちゃうの?」
すっかり観光気分のような吹雪と五月雨、夕張ははしゃぎまわる。それは由良も同様だった。飛び跳ねるような真似はしないが、この行動に乗り気なのがわかる。
「御伽噺と言っていた君も乗り気なのだな」
「実際に目にしては否定は出来ません。それに、通信に出た彼女の頑なな態度も気になります」
確かに。ただ目立つのが嫌だった、というような温い反応ではない。
ヘリは順調に飛行した。向こうの動きも変わらない。ヘリは丁度、トラックから南西方向へと飛び続ける。
そしてどれほど経っただろうか。
唐突に、レーダー反応は小さくなり、そして消えた。
「探知外に出たか?」
「いえ。山の陰とかに隠れたような感じでしたが、でもこのあたりは」
消失地点に向かいながら地形情報を呼び出す。あたりは小島があるだけで、姿を隠せるような激しい起伏はない。元々F21Cはかなりの大型ヘリで、ステルス性能など勘案されてもいない。すぐに完全に隠すのは不可能だろう。
レーダーが役に立たなくなったので、望遠カメラや各種センサーを使用して探索に乗り出す。しかし反応は見えない。由良達5人はさらにいぶかしみながら、とうとう肉眼まで使用して消失地点付近を飛び回る。
だが見つからない。
「これは‥‥‥撒かれましたかね」
「尾行に気づいて何かしたか」
「えぇ~!」
「そんなぁ」
「まぁ、そうよねぇ」
後部席の少女三人があからさまにがっくりと肩を落とす。
このまま収穫なく帰ろうか、という案も持ち上がったが。
「しばらく待ってみましょうよ」
提案してきたのは夕張だ。
急いで帰還する理由など何もないのだ。ヘリの燃料も十分。そういうことで、しばしその場でホバリングしつつセンサーを回すことにした。
だが、待てど待てど、機械はうんともすんともいわない。持ち込んだ音楽プレイヤーだのトランプカードだので時間を潰し待つが、やはり何もない。
これは分が悪い。そう、皆が帰還を考え始めた頃。
アラート
「え、えっ、何です!?」
「IRデコイ発射!」
思考スキャンを反映しての迅速対応及び音声認識で、ヘリがデコイをばら撒きながら急浮上を開始する。同時に吊り下げた30ミリチェーンガンを起動。だが幸いなことにアラートは途切れ、誘導弾の類も飛んでは来なかった。
その緊急事態に。
由良は、笑みを浮かべる。ジャックも同様だ。
「あの、由良さん、ジャックさん?」
「当たりだな」
「そうですね。待って正解だったみたい」
言いながら、由良はモニタを操作してあるスイッチを押した。
それは、外部スピーカーのスイッチだった。彼女の声が直接、ヘリから海へと響き渡る。
「こちら第11部隊。エンジントラブル発生」
「ゆ、由良さん?」
「救難信号を出して、救助を待ちたいと思います‥‥‥さぁ、どうなるかな?」
「いい判断だ」
これにはジャックも、物腰に似合わず大胆なことをする娘だと脱帽だ。
もちろんそんな故障はしていない。付近には深海棲艦も財団兵器も反応はない。だから、ロックオンしてきたのは黒い鳥たちであり、また彼女たちは放送の聞こえる範囲にいて様子を窺っている、そう推測しての行動だ。
もしも救難信号を出せば、由良達の回収のために他の誰かがここに来ることになる。それでもいいのか、と。
しばし無言が続く。
やってきたのは、あの時最初に通信をして来た娘のやや平坦な、事務的な態度の声だった。こちらも通信ではなく、スピーカーだ。見える小島のうちのどこかに設置してあるらしい。
「いつぞやのか。何をやっている」
「その質問はそのままお返しするわ」
「この場で一番手間のない方法は何だと思う?」
再度、アラート音。由良とジャック以外の三名に緊張が走る。
「こちらのヘリにも、お前達の棺を入れるくらいのスペースはある。相席するか?」
「誠意を支払う用意はありますよ」
「ストーカーが紳士気取りか、笑わせる」
皮肉の応酬。
由良は、不敵な笑みのまま反応を待つ。今は言葉は要らない。次に語るべきは相手なのだから。
鳴り響くアラート音が、止まる。
「誓え」
静かな、単語。ジャック以外の皆が、わからずに困惑する。
「え、あ、あの、何をです?」
「我々の尾行については許すから、こちらももそれ以上余計なことをするな。つまり、この場所の事も自分たちのことも口外するな、ということだ」
「なるほど」
ジャックのの解説に、五月雨が感心して拍手などを送りつつ。
そして吹雪と五月雨、そして夕張も大きく片手を上げて。
「はい、誓います!」
「誓います!」
「誓いまーす」
二つ返事である。
このまま手ぶらで帰るのもジャックにとって得がない。毒を食らわば何とやら、乗りかかった船がうんとやら。
「わかった。誓おう」
「信用はしていないが、言質はとったぞ」
不機嫌気味の声と同時、ヘリに航路データが送付されてきた。行き先はこの小島のうちのひとつ、比較的木の生えている島を示している。どう見てもこの大型ヘリが着陸できそうには見えないが。
「第11部隊由良機へ。マーカーをセットした、誘導に従って着陸せよ」
「由良了解」
躊躇いなく、由良は機体を操作する。