艦隊これくしょん VERDICT DAY   作:水崎涼

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Lament Over The Howling Age

 

 

 

 巧妙だった。

 樹木に覆われ島の特定角度からしか見えない、F21C一機分のヘリポート。見つけられないのも道理だ。

 着陸には、懸架しているACが邪魔だ。フォックスアイがまずは単独で降り立ち、そして改めて向こう側からの誘導によって、ヘリは難しい着陸を終えた。直後、着陸したその地面ごとヘリは下降を始めた。着陸した部分は、地面ではなく巨大なエレベーターだったのだ。エレベーターによってヘリは地下へと運ばれ、そして一つの空間に出る。

 駐機する、数機のF21C。被弾痕、正しくはそれを模したペイントで機体番号を消した一機と、元から機体番号のないものが三機。実際にはそれ以上の機数を格納できるスペースがある。全体は確かに簡素な空間ではあったが、一昼一夜でできるような基地ではない。

 

「うわぁ、これって秘密基地っていうのですよね!」

「あの三機、もしかしてB型!」

 

 人間は二種類いる。始めて来る地下設備に驚く者と、はしゃぐ者だ。由良と五月雨は前者で、吹雪と夕張は後者であった。

 降りきったエレベーター。五人はヘリから出ることとした。

 そしてそこでは少女が二人、出迎えてきた。ジャックもデータで確認した二人、第31部隊のメンバー陽炎と不知火だ。当たり前だが、到底友好的とはいえない顔だ。どころか、二人の手にはあろうことが銃器があった。ポンプアクション式のショットガンだ。殺傷目的、ではなく、ゴム弾などを使った鎮圧用であろう。

 改めて二人に向かい、由良は一歩前に出て礼をする。

 

「こんにちは。第11部隊由良以下5名、お招き感謝します。先ほどの通信は申し訳ありませんでした」

「第11部隊は計3名のはずだけど?」

「夕張は先日候補生から編入されました。こちらの方は、AC乗りの同席者で」

「まぁいいわ」

 

 オレンジ髪をセミロングにした少女陽炎。声的に、以前の通信をしてきた一人の内、快活そうであったほうであろう。だが彼女は不快を示しながらそう述べる。年齢的には由良のほうが年上であるようだが、そんなことはもちろん関係ない。

 すると、陽炎は銃口を天井に向けて、カチカチとトリガーを数回引いた。弾は出ない。そして彼女は、銃を乱暴に放り投げた。

 

「雑に扱わないでください、陽炎」

「いいじゃん別に」

 

 オレンジ髪の少女は嘲笑し、もう一人のショートボブの茶けた髪の不知火は睨みすえる。

 

「で、こんな辺境に何用でございますかね」

「ちょっと、ご挨拶を」

「それでストーカー? やだやだ、だから助けるのやめようって言ってるのに、あいつったら」

 

 仏頂面を作る陽炎のこの愚痴で、ジャックの推測は証明された。彼女達は黒い鳥を人目に晒す事を好まなかった、だが由良たちの救助を進言した人物に従わざるを得なかった。それは発言力が高いであろう、黒い鳥。この二人は由良たちの直衛に入った娘たちなので最初から除外だ。だからこそ、陽炎達がこうやって表立って応対をしているわけなのだから。

 陽炎は人を食ったような笑顔を貼り付ける。

 

「察してもらわなくても結構だけど、うちらとしてはさっさとお帰り願いたいわけよ。もちろん、口外禁止ね。ここを知ってるのはうちらとあんたらだけだから、漏れ出た場所なんて一発よ。そん時は、後ろから砲弾が飛んでくるかもしれないけど」

「誠意は見せますよ」

「そう願いたいものね。まぁそんな前置きをしておいてと」

 

 陽炎のほうはすこぶる不機嫌で、これ以上は口を聞きたくないといった風情である。

 口を噤んだ陽炎に代わって、不知火が話し始める。

 

「あなた方もこのままお帰りでご不満でしょう。どうぞ、基地を見学していってください」

「いいのか」

「代わりに誠意を履行してください、ということです。ただし、当基地に関する一切の質問には、ご期待に添えかねます」

 

 それでは意味がないだろう、とジャックは思うが致し方ない。本気でミサイルだのを打ち込まれるよりは万倍いい。

 用件はそれだけとばかりに、不知火も銃を下げて。

 

「では」

「はい、あの!」

 

 元気に手を上げたのは。

 夕張である。

 それに、不知火はギロリと凄みを増した眼光で睨み。

 

「何か」

「あれ、F21C/B型でしょ! 見ていいかしら」

 

 言って、第31部隊所属機ではない別のヘリを指差す。

 そして彼女は自身の慎ましやかな胸を抱いて語り始めるのである。

 

「F21C/Bといえば大侵攻の際に主力だった型式。初期型のA型にはなく、今の形が確立されたD型以降にもない追加装備が施されたカスタム機。しかもあれはただのB型じゃないわ。全体に増加装甲を巡らせて、コクピットも明らかに意図した装甲化! B型の多くは量産の為に簡易設計にされたはずなのに、あぁ、なぜこんなに手の込んだ防御型にしているのかしら。いいわよね不知火ちゃん!」

「はぁ。構いませんが」

「やった。もう現物のない旧型を触れるなんて、あぁ神様!」

「あの、誰も触っていいとは」

 

 咎める不知火の言葉も聞かず、夕張は踊るように向かっていってしまった。本格的にあの娘はダメかもしれない。ジャックが彼女の経歴をリサーチャーに依頼したところ、機械オタクが高じて工学学校に入り、艦娘に進んだと言う異色の人物であった。レイヴンにもおかしな経歴の人間はいるが、そういう人物と同じと言うことだ。

 夕張を追っていく不知火。残された由良達はその後姿をしばし見つめて。

 

「ま、お好きにどうぞ」

 

 陽炎は、やはり素っ気無く答えるのだった

 

 

 

 □

 

 

 

 基地内自由行動を許された由良達は、それぞれに動いた。夕張はヘリの見学へ、由良は機体チェックをするといってヘリに引っ込み、吹雪と五月雨は連れ立って格納庫の探検に乗り出した。

 自由行動と言っても、別の区画に接続しているであろう通路には銃器を携えた陽炎が待機しており、自由と言うのはこの空洞の中だけ。ジャックはしばし考えた末、ヘリに残っても仕方なく、吹雪と五月雨の仲良しの輪には入れないという事で、何とはなしに夕張の後を追ってみることにした。

 夕張は、ヘリの周りを回りながら真剣な眼差しを注いでいる。口頭注意をしていた不知火は、用件を済ませると陽炎の見張る通路から格納庫の外へと出て行っていた。

 そして夕張はと言うと、先ほどとは一転かなり真剣に視線を注いでいる。

 

「この子、ただのB型じゃない。プロトC型とも呼ぶべきね。でもこれは」

 

 外装だけでそう言い切る夕張に、暇を持て余したジャックは声をかける。夕張もまた、邪険にせずに応対した。

 

「外装だけでわかるものなのか」

「丸型初期型頭をそのままに、更新された各種センサーの取り付け位置が変更され、種類も増加しているのがB型です。ですが角型風防に、着地脚の形状。規格化された各種装備を付け替えできるようにもなっている、これらはC/D型の間に行われた改造なんですが、この子に施されています。何と言っても、最大の特徴があります。機体下部が見えますか? ここはACを懸架する部位ですが、それが廃されている。厳密には、そのオプションが付いていない」

 

 該当部位を指差しながら、夕張は続ける。なるほど確かに、由良達のヘリにあるACロックのアーム部分がない。

 

「F21Cは、アジア諸島連合で行われた次期多目的輸送ヘリトライアルに落選したストラトフォード社のヘリを鎮守府が買い取ったのが最初ですが、設計思想段階において、この時期台頭してきたサインズのACを懸架できるよう設計された機体です」

「サインズ?」

「ファットマン社の改名前の呼称です。トラック基地に本拠を構えてからは艦娘と提携していたのですが、ACとの協同も視野に入れていた鎮守府は、艦娘用の改造を施すと同時、量産したF21Cはすべてその装置をつけさせています。鎮守府所有のものでそれをあえて外す改造をして投入した、という話は聞いたことがありません。急造型のBブロック5でさえしなかったことです」

「ご高説はいい。結論を述べてくれ」

「C型プロトタイプあるいは技術試験機を現場で使えるようにした。B型をベースにした改修試験個体。いくつか考えられるけど、言える事はひとつ。間違いなく、この子は量産型ではありません」

 

 ヘリをこの子呼ばわりする彼女は、さらにずらずらと説明してくれる。比較対象が由良や黒い鳥が乗っている現行型しか目に付かないので、初期型の話をされてもジャックにはわからないが、彼女にしてみると、この機体はありえないことだらけだという。さらにその装甲は外装モジュール型なのだが、どうも、比較的新しい型式を取り付けているという。

 量産型ではないヘリを複数所有しているというのは、有益な話だ。この基地はどこからか接収したのではなく、初めからこのヘリとパッケージされて用意されたと考えられるからだ。

 

「状態はいいようだが」

「えぇ。でも多分、共食い整備でしょうね。正規のものは受けていないのかもしれません」

 

 格納庫の端で山となっている何かを覆う、ブルーシートへと目を向ける。見える部分には工具類が置いてある。

 

「底の厚みは同じだけど、開くようにはなっている、か。コストダウンか、製造が間に合わなくて未搭載になっただけか。それとも、懸架装置を外してやりたかったことがある? 答えは格納庫部ね。あぁ見たい、この子のお腹の中見たいです! ハッチオープン!」

 

 

 

 ウィィィィィィィ

 

 

 

「なんちゃって‥‥‥はい?」

 

 唐突にヘリの後部ハッチが開いたのを見ながら、夕張はきょとんとする。

 F21Cには音声認識機能がある。電源さえ入っていれば、音声に反応して動いてくれる。手軽なので由良も良くやっていることだ。ただし認証の何かがあるのか、ジャックが言っても反応はしない。

 それなのに動き出したヘリを見て。

 舌なめずりして、ステップを刻んで後部ハッチへと向かう少女が一人。

 

「これは合法」

「あの娘に怒られるぞ」

「アクセス権をフリーにしてるほうが悪いんです」

 

 鼻息交じりで進んで、格納庫部を覗き込む。

 ジャックも後を追ってみるが、特に変わったところは見受けられない。というか、違いがわからない。しかし彼女の目にはしっかりと映っているようで。

 

「うんうん、やっぱりストラトフォード社のA型降下装置ですねぇ。使い古した感じがたまりません。そして。これが答えね。普段はお腹の中にいれて運搬して、下部ハッチから下ろせるようになっている。確かにこれをしたいなら、ACの機外懸架なんてできないわね」

 

 現行型にはない格納庫部のアームとウインチ部分に視線を注いで。

 

「何をだ?」

「それはわかりませんが。そう、あれとかどうでしょう。黒い鳥が背部につけていたチェーンソー」

「あのよくわからない兵器か」

「私には、あれが普段から艦娘に装備される品であるとは思えません。というか、正規の兵器であると思えません。でも存在している以上、何かの目的の為に誰かが作ったのは間違いない。であればですよ。この基地はあの兵器の開発製造工場であり、またこのヘリは、あの兵器を必要時に渡せるようにしていたのではないか。多少の無茶をこなす為に、手の込んだ防弾性能を付与している。それが運用思想だった、私はそう考えます」

「ほう」

 

 機械畑とはいえ、このあたりの察しのよさはさすがと言うべきか。

 

「すると後の疑問は、このヘリが最近まで使われている様子があることですね」

「誰がだ?」

「誰って、それは黒い鳥が」

「彼女達はあの機体に乗っていた」

 

 機体番号の消された、現行型のヘリをジャックは指差す。

 3機も旧型ヘリを保有して、しかも今見ている機体は使ってメンテもしている痕跡がある。何よりこの広大な格納庫。

 一体誰が、何の為に。

 

「‥‥‥コンソール、少し弄ってみましょうか」

 

 知的欲求に逆らえなかった夕張が格納庫部に踏み入る。ジャックは待機する所存だったが、夕張に手招きされてしまったのでついていくことにした。

 その時。

 

『通知、停止してください』

 

 機会音声と共に、ハッチが急速に閉じる。二人は、格納庫部に閉じ込められる格好となった。

 電子音声は続く。

 

『システム、パイロットデータの認証を開始します』

「あ、やばいかも」

「認証できなくて通報される」

「イグザクトリー」

 

 人差し指を立てて明るく語る夕張。こんな状況でもノリノリであるのはいっそすがすがしい。

 格納庫に設置されたカメラが動く。後はもう警報が鳴るなりして、そして陽炎あたりがまたショットガンを担いで怒りにくるのだろう。甘んじて受けるほかはない。

 だが。

 予想だにしない音声がやってきた。

 

『認証完了。夕張、オンライン。おかえりなさい』

「え?」

 

 夕張とジャックが二人驚く中、コックピット部への扉が自動で開かれる。

 

『凍結、及び一時移管された全権限を軽巡夕張に譲渡。処理完了』

「夕張、何かしたのか?」

「そんな! この通りまだ何も触っていませんよ」

 

 ぱたぱたと、夕張は両手を振る。まだ、と言ったあたりこの事態は遅かれ早かれであろうが。

 その間にも電子音声は遠慮無しにアナウンスを続ける。

 

『コマンダー。コマンダー不在期間のイベントについてレポートを生成しました、ご参照ください。通知。基地システムの63%とアクセス不能の状態です、調査及び修復を提案します』

 

 唖然とする中、機械音声は淡々と続けてくる。完全に、夕張を基地司令か何かと認識しているようだ。

 感想など、ただ一言だ。

 

「どういうこと?」

『発言の意味が不明です。教育モードをオンにされますか』

「いや、しなくていいけど」

『了解。報告。No.4、No.5、哨戒任務より帰還。艤装停止処理正常終了、補給作業中。コマンダー、夕張艤装とのリンクにエラーが発生しています、自動修復不能です。物理的損傷を疑います、高速修復材による艤装修理を提案します』

「す、ストップストップ、報告ストップ!」

『了解。失礼しました』

 

 ようやく、場に静寂が戻る。

 逡巡してから、夕張は先へと進んだ。さすがに触ることまでは躊躇われたのか、夕張は眺めるに止めている。

 しかしこの音声。誰かが通信を介しているというには、機械的な対応が耳に付く。人工知能、という単語がジャックの頭をよぎったが、あまりに高度すぎる。少々の機械的処理を除けば、自由意志を持っているかのような。

 

「権限譲渡ってどういう事?」

『意味のない質問です、夕張』

「どうして私に権限を譲渡したのかを説明しなさい」

『発言の意味が不明です。何の目的が?』

「あぁんもう、賢いのか賢くないのかよくわかんないなぁ!」

『夕張不在期間は私、及びNo.1が指揮代行を行っていました。ご不明な点はNo.1に聞かれてはどうでしょう―――失礼、一部訂正します』

 

 後方から機械音。一度は閉ざされた後部ハッチが、再び開かれていく。

 目の前には、少女達。

 

『ご不明な点は、睦月にお尋ねください』

 

 黒い衣服の少女達が、そこに並んでいた。

 

 

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