艦隊これくしょん VERDICT DAY   作:水崎涼

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Just Tuned

 

 

 

 黒い、セーラー服の少女達が居並んでいる。セーラーに、三日月型のアクセサリー。

 ジャック達も、少女達も、お互いに困惑顔だ。顔の知らない女の子がそんなに出てきては当たり前だし、相手としても勝手に基地機能を掌握されたことも困惑だろう。

 

「あ~、えっと、こんにちは?」

 

 とりあえず夕張が挨拶してみるものの、黒い少女達はお互いに顔を見合わせるばかりだ。

 

「えっと、あの」

「あんたらぁあああああああ!!」

 

 そんな中、肩を怒らせてやってきたのはやはりと言うべきかこの少女、陽炎だった。怒るのも道理であり、手にはやはりと言うか何と言うか、ショットガンである。

 ずかずかと格納庫内に入ってきた陽炎は、夕張ではなくジャックに銃口を向けてきた。彼が年長であるからだったが、謂れのない扱いに、ジャックは思わず両手をホールドアップする。

 

「どこ触った、何やった、あぁん!?」

「待て、私達は何も」

「何にもしないで勝手に権限書き換わるわけないでしょうが!」

「それはもっともだが」

 

 どうしようもないのはどうしようもないのである。引き金を引きかねない勢いの陽炎に気圧されたジャックが夕張に目をやるが、彼女も乾いた笑いをするしかない。

 そんな中、黒服の中から一人の少女が動いた。やや赤みかかったショートボブの子が進み出て、ヘリの天井を仰いだ。

 

「アンジーさん、説明を求めるのです」

『発言の意味が不明です。何の目的が? 睦月』

「詳細の確認を取りたいの」

『了解。個体認証をすべてクリアし、夕張を認識。基地への帰還と判断し、過去夕張の指示で凍結された権限を、解除移行しました』

「アンジーさん。夕張さんは、もう、いないのね」

 

 悲しそうに語る、睦月と呼ばれた少女。

 夕張の艤装が海から回収されているということは、そういう意味なのだ。だがアンジーなる機械音声はただ淡々と。

 

『発言の意味が不明。コマンダー夕張とは長期間接続していませんが、私からは、ここに夕張を認識しています。艤装信号も正常に受信。彼女は存在しています』

「う、うぅ~」

「これは時間がかかりそうね」

 

 羽根飾りをつけた長髪の娘が、睦月と呼ばれた子の肩に手を置く。

 そしてジャックに向く。

 

「ごめんなさいね。その、そちらの女性に移管されてしまった権限を元に戻したいから、席を外していただけるかしら?」

「あぁ、わかった」

「ほら、ぱっぱと動け」

 

 陽炎に銃口でつつかれつつ、ジャックと夕張はヘリを降りた。そして夕張は少女達に連れられて通路のひとつへと招かれて姿を消し、一方ジャックはと言うと陽炎に睨まれながら広大な格納庫ブロックで「しっしっ」と手で払われながら単独にて放り出されることになった。

 見張りのつもりなのだろう。陽炎は自分達のヘリの元までいくと、そこでショットガンを肩に担いでふんすと息を吐き、じろりとジャックを睨む。監視である。その気もなかったが到底彼女達の持ち物に近づける雰囲気ではなくなったので、ジャックは仕方なく離れた場所へ行って適当に端っこを見つけると、そこで腰を落ち着けた。

 しばし。

 陽炎の見張るヘリの中から、不知火が箱を持ち出して台車に積んでいく。するとその様子に我慢できなかったのか、吹雪と五月雨が寄って行くと何事か話し始めた。最初こそ鋭い眼光で返していた不知火だったが、やがて了承したのかもう二つ台車を持ってくると、三人で荷運びを始める。鎮守府内で見ることになった艦娘同士のドライな関係の後では、まぁ、微笑ましい光景だ。ここで止まっているよりはとジャックも腰を上げようとしたが、やはりというか陽炎がしかめ面を向けてきた。少々、自身に対しての対応が冷たくはないだろうか。まぁこれも男に生まれた運命だと思うことにして、ジャックは体を休めることにした。

 無論、脳を休めるほどジャックは気楽ではない。

 この基地は一体何の為にあるのか。アンジーと呼ばれた人工知能は一体何なのか。そして何より、あの黒服の娘達は。黒い鳥。あの規格外の強さを見せた艦娘は、睦月と言う少女を初めとした黒い少女達の中の誰かなのだろうか。あるいは、全員がそうなのか。

 わからないことが、包んでいる。

 また陽炎が、ジャックのほうを見て怖い顔をしてくる。今は何も動いていないのに。

 やれやれ。彼がそう思っていると。

 

「おい」

 

 と、すぐ傍から女の子の声で誰かに声をかけられた。

 振り向く。ジャックが呆けている間に近づいていた人物は、二人の少女だった。珍しい白髪セミロングの少女と、珍しすぎる緑髪セミロングの少女だ。二人とも、もはや当然のごとく黒のセーラー服を身につけている。その制服は、ヘリの前で出迎えてきた少女達と同じようだった。艦娘の衣服は自由に変えてよいと、由良に聞いていた。だから彼女達は、意図して同じ制服で統一しているという事だろうか。

 

「そこで休憩か?」

 

 緑髪の少女のほうが、尋ねてくる。二人ともやや眼光は鋭めだが、陽炎のような敵意は見られない。そういう目つきの娘らしい。

 

「そうだな。ここだけを見せられても仕方あるまい」

「それもそうだ」

 

 口端を吊り上げる少女。到底女の子の笑いではない。

 

「大方、陽炎に強く言われたんだろう」

「どうやら嫌われたらしい」

「あいつは優しいんだ。自分のことにも他人のことにも、全力でやる」

 

 彼女はジャックの横に立ち、壁に背を預ける。一方で白髪の少女のほうは何も語らず、腕を組んでその場で見守ってくる。

 

「私も暇なんだ。話相手になってくれ。何なら質問も受け付けるぞ」

「陽炎は、ひた隠しにしたいようだったが」

「多少ならな。暇潰しの駄賃と思ってくれ」

 

 非常に男の子臭いが、随分と寛容な少女だ。

 質問ならばいくらでもある。それこそ分厚いレポートでも提出できそうな勢いだ。しかしその中で、彼女が答えてくれそうな内容で聞きたい事と言うと。

 

「あの子達は、何者だ」

「誰の事だ?」

「黒いセーラー服の何人か」

「姉妹だ」

「姉妹?」

 

 問い返しに、緑髪の少女は頷く。

 

「私の姉で、妹だ」

「大家族なのだな」

「たとえ知らなくても、血が繋がっていなくても。どんな絶望でも、命を張って共に戦ってくれる仲間」

 

 少女は自身の髪に手をかけ、そこにある三日月の髪飾りを指でなでた。

 

「お揃いの、姉妹の誓いだ」

 

 語りながら、彼女はそれはうれしそうに微笑む。確かに、あの子達は皆、服か体のどこかしらに必ず三日月の飾りをつけていた。

 あまりにも髪の色がカラフルすぎるし、姉妹の誓いという言葉からして、血縁としての姉妹ではないのだろう。しかしそれ以上に。それは、戦友と言う言葉以上の何かであり、正しく表現する言葉はない。だから、姉妹。家族と言うくくりの。レイヴンにはない、強い繋がり。

 佇む。

 目の前で少女達が荷運び作業を続けている。あの子達もこの娘も、艦娘。

 そして少女は、手を伸ばしてきた。

 

「長月だ。第31部隊、睦月型駆逐艦八番艦になる」

「ジャック・O。レイヴンだ」

 

 レイヴンとして名を名乗る。バーテックスを立ち上げてからなくなっていた、懐かしい名乗り。

 しかし彼は感慨にふける前に、今の少女の言葉に対する疑問を投げつけた。

 

「第31部隊の所属者は、陽炎と不知火だけになっていると聞いたが」

「そうなのか? 届出は出しているんだがな」

 

 自分自身のデータベースを調べるなどという行為は行うはずがない。従って本人が知らないのもまた然り。

 

「どうせ鎮守府の不手際だろう。いつだか見た部隊なんかひどかったぞ、部隊長含めて丸丸メンバーが違っていた。お前達もだ。ここに招く前に調べたが、夕張は第11部隊にまだ登録されていなかった」

「頻繁なのか」

「財団騒ぎの後は特にひどいらしいな」

 

 これはやはり鎮守府の謀りなのか、混乱の中本当に手が回らないのか。

 それは、ジャックにとっては後回し。

 

「私はドミナントを探してここへ来た」

「ドミナント?」

「君達が黒い鳥と呼んでいる存在だ。由良達を助けたあの力。あれがあれば、財団止められるやもしれん」

「世界を、個人に委ねると言うのか」

 

 それまで黙っていた白髪の少女のほうが初めて、そう口を開いた。長月ほどの快活さは見えない少女だが、武人のような雰囲気を出している。

 そんな少女にジャックは目を向けて。

 

「強者には、世界を見る権利と義務がある」

「‥‥‥お前もか。その言葉、二度と口にしないでくれ。腹が煮えくり返る」

 

 本当に気分を損ねたその証拠に、彼女の視線が厳しくなる。

 お前も、という、過去に少女に対して発言した人物がいるらしいことは気にかかる所ではあったが、それに思い巡らせる余力を与えないほど、彼女が続けた言葉はジャックを揺さぶった。

 

「お前の言うドミナントとやらは、いわゆる最強の存在。そんな者に権利があるとするなら、それはただ好きなように生きる権利だけだ。誰かが勝手に定めた権利と義務とやらに、なぜ従う必要がある。黒い鳥に権利と義務を強制する者は一体何だ。この世の神か? 理念を振るいたければ自分でしろ」

「通信に出ていた娘は君か。中々辛辣なことを言う」

 

 声の質からそう判断して、ジャックは吐息を漏らす。

 理念を振るうには、弱きは罪。

 

「弱者には権利すら与えられない。私も弱者。降り注ぐ恐怖と立ちはだかる破壊者を前に、膝を折るしか出来ない。だがドミナントは違う。彼らは好きに生きて好きに死ぬことが出来る。その力を持ちながら、崩れ行く世界を諦観する。生きる権利があるのに、生きる場所を見捨てるなど本末転倒だろう」

「違うな。許されない、そう言いたいのだろう?」

 

 本来あまり喜怒哀楽を表に出さない娘なのだろうが、白髪の少女は最早不機嫌どころではなく、その瞳には憎悪とすら呼べる激しい感情が見て取れる。

 その彼女は腕を組み、侮蔑するように続ける。

 

「黒い鳥の話の最後を知っているか?」

「行方不明とは聞いたが」

「そうだ」

 

 一つ頷き。

 

「たった一人中部太平洋に向かって、行方不明だ」

「そういう依頼か命令だったのだろう」

「だったら鎮守府の戦闘詳報に正しく乗るはずだろう」

「ないのか?」

「ないから、今も黒い鳥が誰だったのか不明なんだ。なぜ向かったのか理由すらわからぬ」

 

 混乱期とはいえ、動きを把握していないなどということはないはず。

 

「そして、わかるか。当時の艦娘は黒い鳥だと呼び騒ぎ立てておいて、誰一人として手伝いもしなかったんだ。見捨てておきながら、自らを賭して鎮守府を救った英雄だとご満悦。オリジナルが全滅するほどの戦いだ、あるいはそれだけの余力がなかったのかもしれない。それでもできることはあっただろう」

「弱者を連れては、足手まといになる。ものの分別が来ていたとも言える」

「どうだかな。勝手な推測だが、奴らはもしも黒い鳥が何か失敗したならば、役立たずと罵っただろうさ。何もしない癖に、義務を果たさなかったと裁く」

 

 まさかこんな年端も行かぬ少女とこのような会話が出来るとは、ジャックとしては想定外だった。どこかで肝を舐めなければ、このような考えは持たないだろう。

 そうだ。ドミナントには生きる権利がある。そして依頼を受ける権利、受けない権利、傭兵を続ける権利、やめる権利もある。依頼主の立場であるジャックは、金と言う報酬と傭兵と言う相手の立場から、ミッションの成功を義務付けることはする。

 いや、義務などではない。義務とは、「誰かの何かの取り決めを行わなければいけない事」だ。傭兵は依頼を受けた瞬間に、成功することを期待されている、して当然と見られる。だが成功させて欲しい、というのは、あくまで依頼者の願望でしかないのだ。失敗や裏切りによる、「果たさなかったことへの罰則や彼らを裁く機関」などないのだ。傭兵に忠節を求めることが間違っている。何にも組しないワタリガラスを束縛するようなことは、誰にも出来ない。

 強いから期待される。期待の思いが、強いのだからやって当然と変質する。彼女にその言葉を言ったのが誰かは知らないが、そいつも随分と勘違いしているようだ。

 そして白髪の少女は、かぶりをふる。

 

「援助も無しに戦場に投げ込み、戦果を出して来いと突き放す。国家がかつて艦娘にしたことを、艦娘が同じ艦娘にするのか。お前も同じ事を言うのならば、話にならぬ」

「失礼した。君達の艦娘と言う立場への誇りは、驚くほど高みにあるな」

「お前もレイヴンなら、レイヴンとしての誇りがあると思っていたが。艦娘の誇りなど、それとさして変わりはないさ」

「なるほど。そうか」

 

 自身がレイヴンとして在ろうとしたように。

 確固たる意思。この若さで。

 

「面白いことを言う娘だ。名は?」

「菊月だ。睦月型駆逐艦九番艦」

 

 ジャックは握手を求め、菊月もまた応じた。

 艦娘は金では動かない。例えここでドミナントを見つけ出し、財団の中枢を見つけ出し、それの破壊依頼を法外な金額に乗せても絶対に動かない。彼女達が戦う理由は、金や名誉ではないのだ。自身がサークシティで取ったような行動は、ここでは通用しない。もっと別のアプローチでなければ、彼女達を動かすことは叶わないだろう。

 

「君達とはまた話がしたいものだ」

「この基地を見ての通り、こちらにも事情がある。それは覚えておいて欲しい」

「その事情と言うのは、彼女達のことですか?」

 

 不意に。

 それまでヘリに篭っていたはずの由良が、端末を手に場にやってきていた。

 由良は真摯な表情で、長月と菊月を見つめる。

 

「睦月型駆逐艦娘12名。長月・菊月を除いた10名については喪失発表、現在も行方がわかっていないことになっているはずです」

「あぁ、そのようだな」

「じゃあ、彼女達は」

 

 言葉を切る。

 

「オリジナル、なのですね」

 

 

 

 □

 

 

 

 オリジナル。

 最初の艤装使用者。艦娘の始祖とも呼ぶべき、そして今では象徴である。

 オリジナル達は戦い、そして提督と共に出奔。トラック拠点を新たな母港として再興した。そしてサルベージと適合者捜索による二代目艦娘と共に、深海棲艦による大侵攻を戦い。

 オリジナルは、全滅した。

 そう、ジャックは由良から学んだのだ。

 

「どういうことだ、由良」

「言葉の通りです。彼女達は、先ほどヘリに集合していた黒いセーラー服の少女達は、全員がオリジナルなんです」

 

 述べて、由良は抱えていたタブレットをジャックに渡す。

 映し出されているのは艦娘の登録情報。厳密には紙媒体書類の画像コピーである。そしてそこには艦名、登録日付や配置、除籍日、そして何よりも顔写真が添付されている。見覚えがあった。短髪の睦月と呼ばれた少女、その少女と語らっていた羽飾りの少女。紫髪や眼鏡の娘も。先ほどあの場に居並んでいた少女とまったく同じ顔が、そこにあった。

 

「睦月型駆逐艦12名は大侵攻前、泊地移動中に襲撃を受け全艦戦没。先ほどの通り、あなた達二人以外の艤装は今現在もサルベージされていません。当然、鎮守府に登録されているはずもありません。存在しないんですから」

「大侵攻の話は何十年も前の事だろう」

「オリジナルは、年をとらない。有名な話だ」

 

 語るのは白髪の少女、菊月。

 オリジナルは人間ではなかった。その話をジャックは思い出す。

 

「多少の成長はあったが、永年姿が変わらなかった」

「えぇ。もし生きているとすれば、やはり往年と同じ姿であるはずです。そして、まったく姿の一致した少女達がここにいる」

 

 睦月型駆逐艦。

 タブレットを見る。睦月型駆逐艦を中核とするとある部隊は大侵攻より少し前、軍事訓練の為輸送船を伴ってラバウルへの移動中に通信途絶、作戦行動中行方不明。大侵攻に先駆けた深海棲艦の予備作戦によるものと推察され、戦没との判断で登録抹消されたとのことだ。その部隊所属艦娘13名のうち、現在無事に回収された艤装は3名分。

 長月。

 菊月。

 そして。

 

「夕張‥‥‥では、先ほどのごたごたは」

「サルベージした夕張の艤装に、アンジーが反応したんだろう。確かに夕張には違いない」

「私達第31部隊は縁あって知ることになり、こうしている。それが私達の隠したい事だ」

 

 菊月と長月が語る。

 ジャックにはあまり実感のないことだが、これは鎮守府をも揺るがす大事件だ。全員戦没したとされた艦娘の象徴オリジナルが複数名、今も存命している。

 

「なぜ、隠すんです」

 

 由良が、睨むに近い視線で姉妹を見つめた。

 言葉は、熱い。

 

「彼女達が黒い鳥なんでしょう。かつての大侵攻、深海棲艦を跳ね除けたのは黒い鳥の力。黒い鳥がいたからこそ皆奮起したと。彼女達なら何とかしてくれるのでしょう、彼女達が生きていると鎮守府が知れば」

「で?」

 

 その熱を凍り付けにするように、菊月が短く冷たく言い放つ。

 

「祭り上げ、期待し、押し付け。お前達はまた何もせずに見殺すのか。それが艦娘のやることか」

「‥‥‥」

「先ほどジャックとも話したがな。お前達のような輩から私達は守っているんだ」

「ごめんなさい」

「謝罪を求めているわけではない」

 

 言葉の真意を理解したのか謝罪する由良に、望む答えをもらえなかった菊月はまだ憤り足りない様子であったが、見かねた長月が話を持った。

 

「睦月達はオリジナルの艦娘で、ここは睦月達のための基地。それが秘匿理由だ」

「これだけの基地、個人で作れるものではない。誰かが望んだのか」

「そう思ってもらっていい。何にせよ、こちらからは後は一言だ」

「外部に漏らすな、だな」

「うむ」

 

 それさえ叶えてくれるなら彼女達としては問題ないわけで、逆に言えばそれだけは厳守しろという事なのだが。

 この基地がなぜ存在するのか。鎮守府に帰還せず、完全に独立行動をしている理由は。彼女達第31部隊はなぜこのことを知るに至ったのか。そして黒い鳥は。それら疑問はもちろんあるが、彼女達が何か意思を持って行動している以上、口出しは野暮。

 ならば、お互いにこれ以上語ることもない。

 

「長月~、菊月~」

 

 少女の呼ぶ声が格納庫に響く。陽炎だ。そして彼女の元には、いつの間にやらまた黒服の睦月型達が揃っていた。手を振って招いているので、用事があるらしい。呼ばれた二人はジャック達に断りを入れて、駆けて行く。そして円陣を組んで、なにやら相談を始めた。

 その様子を、由良とジャックは眺める。

 

「オリジナル、か」

「すみません。あの子を怒らせてしまいました」

 

 気にするなと声をかけ、ジャックと由良は少女達の輪を見つめる。長月菊月の男の子っぽい態度も大分気になりはするが、それ以上に、同じ背格好をしている黒服の少女達は、話が事実なら一世紀を生きた人生の先輩であるわけだが。到底そうとは感じられない振る舞いだ。

 子供のように笑顔で、邪気もなく。

 基地にどれほどの人員がいるのかは不明だが、この基地に住んで鎮守府と隔絶した生活となれば困難も伴うだろう。そこまでして彼女達が優先していること。一体、何なのだろうか。

 ジャックが思う間に、一団が話を終えてこちらにずらずらとやってきた。そして短髪の少女、睦月がさらに一歩前に進み出る。

 

「お話は伺ったと思います。睦月型駆逐艦、睦月です」

「改めまして。第11部隊由良です」

「ジャック・Oだ」

「申し訳ないのです。夕張さんの件で、どれくらい時間がかかるのかめどが立たない状況なのです。なので」

 

 言葉を待つ。

 と。

 睦月は、笑顔になった。

 

「あの。日も傾き始めている時間なので。よろしかったら、夕食をご一緒しませんか!」

「‥‥‥はい?」

 

 きょとんとする由良。もちろんジャックもだ。

 改めて彼女達を見る。持っている空気は、まったくもって剣呑なものではなかった。そして、果たして半世紀以上を生きてきたのかと思うほど少女らしい屈託のないものだった。

 

「招かざるだが、客人は客人だからな」

 

 述べて、長月は笑った。

 

 

 


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