艦隊これくしょん VERDICT DAY   作:水崎涼

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Life in Ash

 

 

 女性陣で一番の年長である彼女は、端末を操作しながら丁寧に応対していく。

 

「ジャック・O、フォックスアイ‥‥‥確認しました。それでは鎮守府までお送りしますので、おやすみになられてください」

「鎮‥‥‥? ところで何と言ったか、娘」

 

 鎮守府。

 どこぞの武装勢力のことだろうかとジャックは思案した。ああいう情勢だ、わけのわからない勢力が台頭してきてもおかしくはない。知らない単語はとりあえず置いておくとして、ジャックは己の分身の事を尋ねた。彼が語る前に由良が口にしたフォックスアイと言う単語、自分の機体がどこかにあるという事であると察したからだ。

 問いかけに、彼女は微笑み。

 

「由良です」

「由良。私の機体はどうした」

「機外懸架で運んでいますよ。ただ損傷がひどいので、戦闘行動はできないと思います」

「そうか」

 

 彼の機体フォックスアイは、喪失した左腕を初めとして戦闘行動不能なほど損壊していた。

 だが無事ならばそれでいい。いかほど愛していようとも、所詮は工業製品の塊。壊れているなら修理すればよいだけの話だ。

 そして、ジャックの疑問は別へと向けられる。

 記憶。

 ドミナント仮説を信じてバーテックスを立ち上げ、ジナイーダともう一人、ドミナントの可能性を秘めたレイヴンを見つけ、そして二人にインターネサインの破壊を依頼し。

 ジナイーダがそれを達成した時点で、バーテックス創始者としてのジャック・Oはその存在意義を全うし、同時に世界から不要になった。ジャック・Oと言う存在の終着。世界に、自身の居場所はない。だからこそ彼は望んだ。レイヴンとしてのジャック・Oを。レイヴンとして生きたジャック・Oを。だから、遅刻してきたもう一人のドミナントに挑み。

 他の誰でもなく見込んだ人物に、レイヴンとして負けたのだ。それは彼にとって至福と言って差し支えないほどの満足。

 こうして見知らぬ女性達に助けられてしまい、レイヴンとして終わるつもりが終われなかったことは、あからさまに誤算ではあったが。

 ACとは、各部関節のマニビュレータや電子回路、装甲、各内装装置にFCSを初めとした電子機器、ブースター、ミサイル迎撃の胸部機銃やイクシードオービット、ハンガーユニット、それら武装の弾薬。そのすべてを数メートルの全長の人型兵器につめるわけだ。ACは究極の汎用性を盛り込んだが故に余裕がなく、脱出機構は良質とは言いがたい面があり、機体の大破は自身の絶命と同義になることもしばしばだ。だから、こうして生きていることはある意味で幸運ではあるのだろう。

 どうであれ生きてしまった以上、世界に対して目を向けねばならないだろう。そう考えてジャックは問う。

 

「インターネサイン破壊について、アライアンスの反応は知っているか?」

「えぇ、と、アライアンスというのは存じなくて。すみません」

 

 申し訳なさそうに由良は頭を下げたが、ジャックは気分を害さない。何十日も機体の中で眠り込んだわけでもないだろうことは体の具合が教えてくれている。恐らくインターネサインを破壊してからそう時間は経過していないのだと。

 

「ふむ。まぁパルヴァライザーさえ実際に止まってもらえば、奴らの争いなどたいしたことではないが」

「パル?」

「サークシティを初め、都市への被害状況は?」

「えぇと、あの。ジャックさん。私、専門的なことはわからなくて」

「無学は怠惰だが無関心は罪だ。君は」

「は、はいっ、吹雪であります!」

 

 視線をやった黒髪の少女が慌てて敬礼などを放つ。こちらもジャックは問い詰めるが、いずれの質問にも彼女達は答えることが出来なかった。

 さすがに思うところのあるジャックの鋭い視線を浴びてしょげる年少二人に、年長の由良が―――と言っても、こちらとてせいぜい中学生か高校生程度だが―――鳴り始めた報知音を耳にして、これ幸いと手をぱんと叩いて見せた。

 

「さ、さぁ吹雪ちゃん、五月雨ちゃん。今はお仕事をしましょう。艤装を用意して」

「は、はい!」

 

 直立するや、二人は後部へと続く扉を開いて、そして行ってしまった。由良もまた、ヘリの操縦席に納まる。

 

「何をするつもりだ」

「深海棲艦を少し駆逐してから帰ります」

「何?」

「深海棲艦です」

 

 鎮守府と並び、また知らない単語にジャックは内心で首を捻る。しかしこれも見知らぬ新興勢力の事だろうと思うことにした。どうせ、地方の弱小武装勢力の争いだろうと。

 

「ただ待つのも手持ち無沙汰ですよね。少し待っていてください」

 

 由良はジャックが居座っている小部屋の端を指差す。電源の落ちた液晶モニタだ。

 そして程なくして、映像が送信されてきた。左右に揺れている。

 

「これは」

「吹雪ちゃんのカメラです。見学していてください」

 

 何がなんだかわからないまま、ジャックはモニタを眺める。

 モニタ上では液晶パネルではなく、スクリーンレスの映像が映し出されている。あるいはこの時点で、彼は疑ってかかるべきであっただろう。空間HDD表示など、彼の乗るACに搭載するどころか、彼の知る世界ではそもそも実現できていないことを。

 

 

 

 

 

 

 

OS Ver6.1.2

CHECKING PILOT DETA

 

 

PLEASE WAIT

CONNECT

 

 

FUBUKI,WELCOME

 

 

No.011b

SYSTEM START UP

 

 

ENERGY OUTPUT OK

DRIVE SYSTEM OK

WEAPON SYSTEM OK

SHIELD SYSTEM OK

ALERT SYSTEM OK

LINK OK

 

 

COMPLETE

SYSTEM NORMAL MODE ACTIVATE

 

 

 

 

 

 

「戦闘モード起動」

 

 

 

 

 

COMBAT MODE

 

 

WEAPON

RARM :TYPE3 12.7CM DUALGUN

LARM :UNSELECTED

RBACK:-

LBACK:-

AA:TYPE92 7.7MM MG

 

TORPEDO:TYPE12 NORMAL

RLEG:SET

LLEG:SET

 

DEPTH CHARGE :UNSELECTED

 

DRIVE ENERGY :100%

ENERGY SHIELD :30/30

RIGGING ERROR :NONE

 

 

 

 

 

 

 

「通常投下用意。ハッチ開放」

 

 カメラが背後を向く。ヘリの後部ハッチが開かれていく。そして、緑のランプが点灯。

 

「目標地点に到達。02、03、出撃」

「吹雪、行きます!」

「五月雨、出撃します!」

 

 掛け声と共に、視界が後ろに下がっていく。丁度、輸送機から物資を空挺投下するように。

 空を舞い降りる視界は、やがて海面へと着水して止まった。吹雪の目の前に下りた五月雨の背中も映し出される。

 そしてここにおいて、ようやくジャックは異質を理解した。

 ここが海なのはまだいい。

 だが。

 見渡す限り広大な水平線が広がる海である事実よりも、それはジャックの目を引いた。

 五月雨の足。

 人間が、海面に立っている。

 そして、スケートで滑るように移動を始める。

 

「何‥‥‥?」

「オペレーティングシステム、戦闘モード起動します。リコン射出、敵位置情報を送信。オートナンバリング設定されました」

 

 カシュンと、ヘリ機体の横からリコンの射出音。すぐに、HDD内に赤く囲われた敵のマーカーが表示された。敵との距離、未来予測位置。

 

「同航戦、トラックナンバー02へ火力集中」

「了解です!」

 

 砲声。

 02と赤表記された敵にめがけて何かが飛翔していく。そしてしばしのち、マーカーが消失。

 向こう側からも応射が飛んできた。しかしそれは直後、カメラ画像が大きく横へスライドすることと引き換えに回避されたようだ。

 海面をスケートのように走っている。エネルギー弾のような何かを放っている。そして、ジャックの常識では考えられない空間画面表示や、敵が機械ではないが生物とも呼びたくない異形の姿をしていることをようやく理解して。

 こんな技術、こんな相手。聞いた事がない。

 

「五月雨ちゃん、接近しすぎているわ。距離を開けて」

「り、了解ですっ」

「吹雪ちゃん、左側面より敵接近」

「ありがとうございます!」

 

 指示が飛び、砲撃が飛び、敵影が消えていく。どうやら苦戦することもなく深海棲艦とやらを圧倒しているようだと、そこだけはジャックを落ち着かせた。

 画面が切り替わる。悪戯心で由良が切り替えた、ヘリからの望遠カメラの映像だった。そこでは二人の少女が、海上で踊りまわって黒い物体を翻弄している様子を写している。

 そして。

 動くものは、彼女達以外にいなくなった。

 

「全目標の消失を確認、探知圏内に敵影なし。システム、通常モードに移行します。吹雪ちゃん、五月雨ちゃん、お疲れ様。帰還してください」

 

 述べて、由良は静かに安堵の溜息を漏らした。

 

 

 

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