依頼者 :鎮守府
作戦領域:トラック基地近海
敵勢力 :財団
作戦目標:基地防衛
我々はACの陽動により、財団のトラック侵攻部隊をJ11海域に引き込みました。展開中の敵部隊を全滅させてください。
当該海域は障害物のない大洋です。海上で大量の部隊を相手にするには、艦娘の機動力が大きくものを言います。こちらの指示に従い率先して事に当たってください。多数の敵との消耗戦になると考えられますが、後方補給の準備は万全に整っています。憂いなく戦ってください。
我々は、ただ一人として犠牲者を出すつもりはありません。各部隊指揮官は生き残ることを優先とし、撤退判断を違えないようにお願いします。
現在の艦娘達は、候補生時代の座学と演習において「艦娘としての戦い方」を習ってきた。
単縦陣、輪形陣といった複数名による陣形維持及び陣形転換。夜戦雷撃突撃、長距離弾着観測射撃、戦爆航空機一体の航空攻撃。各クラスにおいて肝となる戦闘の理想系を教わってきた。過去、オリジナル達が構築してきたノウハウ。
調律された部隊編成ができない現在の艦娘達にとって有益なものではなかったが、鎮守府は義務と定義して教えてきたし、艦娘達は一通り頭に入れている。
鎮守府は、部隊制を維持したまま艦娘部隊を4つに大別した。
戦艦、重巡クラスを含む部隊を水上打撃部隊。
正規空母、軽空母を含む部隊を機動部隊第一群。
航空巡洋艦、水上機母艦などを含む部隊を機動部隊第二群。
軽巡、駆逐クラスで構成される部隊を水雷部隊。
海防艦、潜水艦を含む部隊を海上護衛部隊。
トラック基地に到着した部隊をそれらに振り分け、極短期ながら合同訓練の時間を作った。十分な鍛錬など望んでいない。最低限講義を思い出すための訓練だ。
2116年9月14日。
艦娘部隊はトラック基地を進発する。
現在の艦娘が経験したことのない、大海戦。
鎮守府司令の指示通り、輸送ヘリF21Cから艦娘達は次々に降下、編制され配置に付く。
「鎮守府より空母機動部隊第一群へ、艦上戦闘機発艦始め。J11海域の制空権確保に向かってください。続けて水上打撃部隊、水上偵察機発艦。弾着観測射撃用意」
鎮守府司令の指示で、艦娘達は動き出す。
在庫すべてを放出し搭載機更新を行った、空母の放った烈風戦闘機と、財団の飛行体とが空戦を始める。流星改雷撃機が鈍足の水上中型機を襲撃する。観測機が中型以上の敵を捕捉し、それを狙って戦艦が長距離砲撃を開始する。
距離を置いた準備砲撃は、やがて正面衝突へ。
「重巡、前面に展開開始。第一波、来ます」
戦艦の砲撃援護の中、重巡艦娘が射撃戦を始める。
せいぜい数機のACが紙やすりで削るようなそれまでとは違い、確かな組織力による艦載機と砲撃が敵先遣部隊の足を食い止めた。
そして足を止めた敵を、快速の水雷部隊が襲う。
「水雷戦隊各位、突撃開始。機動部隊第二群は搭載機にて水雷戦隊護衛を。損傷艦の退避を優先して支援してください」
部隊長の主導の下で駆逐艦娘が敵中に突撃し、雷撃を敢行。1部隊でダメなら2部隊が、2部隊でダメなら4部隊が、瑞雲水上爆撃機が同一目標へと放ち、撃沈し、離脱する。追撃する飛行体を、二式水戦が叩く。
敵の第一波を凌いだ艦娘部隊は、海上護衛部隊に守られた小型補給艦から燃料弾薬魚雷の補給を受ける為に下がる。損傷のひどい者は所属部隊のヘリに収容し、一度トラック基地へ帰参。応急修理で済む者は工作艦娘明石が現地修理する。第一次攻撃で予備待機となっていた部隊が、交代で前に出る。
敵は待ってくれない。続けて第二派が接近する。それを、ジャックの選定した傭兵が受け止めた。海上戦ではいくらもハンデを受けるACだが、対財団無人機においては、単純な火力で言えば艦娘よりも優勢だ。制限時間内の撃破数に応じた報酬をチラつかされた傭兵達が、自分の獲物とばかりに競い合う。競争が、戦果を生む。
弾薬と損害の限界点を見定めたジャックが後退指令。ACの攻撃により半壊した敵第二派に、補給と再編制を済ませた艦娘部隊がぶつかり、その戦力を削り取っていく。
後はこれの繰り返し。
そう、単純に行くわけもない。
艦娘部隊が5度目の攻撃を行った時、戦闘力を有して戦場に残っている艦娘は4割を割り込んでいた。
ことに攻撃を受け止め続けた重巡と、脆い防御性能で度重なる突撃を行った駆逐艦の損耗は激しい。損傷艦を早めに退避させる戦術は、補助艦艇の大量退避を引き起こしていた。高速修復材なるものにより戦線復帰が早い艦娘が再度戦列に並ぶが、戦力の逐次投入に近い形となり、小戦力を投入即損傷退避という悪循環となっている。全部隊が何かしらの行動中。戦術的予備戦力など、もはやない。
航空戦力も、雷撃機や水上爆撃機の多くが損耗し打撃力が低下。制空権が手から離れていく。防空艦は機銃や高角砲の砲身加熱に悩まされる。ACにおいては通常の兵器だ。補給修理換装に時間がかかる為、一度離脱すると戻ってこられない。
それに、両者共に人間だ。食事も休息も必要。積み重なる疲労は判断力の低下を招き、戦果は理想から遠ざかっていく。
防衛限界。
ジャックと鎮守府司令は、やむなしとの結論に至った。
「全艦娘部隊は後退してくれ。送付したラインで再編制する」
「まだやれるぞ」
戦艦娘日向が声を上げる。補助艦なしでも留まる気のようだ。
突破されれば、長距離ミサイルや大型砲を持つ無人機による、基地への直接攻撃が可能になってしまう。後方作業能力にダメージが入れば、戦力が回復しなくなる。ここで粘るべき、との考えだった。
ジャックもわかってはいるが、既に組織力は瓦解している。機動戦力で迎撃が不可能となれば、洋上基地NK-432を巻き込んだ総力戦に持ち込む他に手はないだろう。こんなところで防衛戦力を吐き出したくはないが、目を瞑るほかない。
と、通信に別の艦娘の声が乗った。
『こちら第31部隊。所定の任務を終了、J11海域へ移動中よ』
部隊長陽炎の声が耳に届いた。包囲機動を取っていた財団小部隊を任せていたのだが、そちらが片付いたのだ。背部追加兵装をつけた少女は言わずもがなだが、部隊単位で見ても戦闘力は優秀らしい。
黒い鳥。
撤退の時間を稼ぐどころか、一人で追い返すかもしれない。が。
「一人で戦う気か」
『一人?』
呼びかけられたと理解して声を上げた彼女は、心底不服そうだった。
直後。
レーダに現れた反応を、鎮守府司令が見咎めた。
「31tに続行する2機、IFFを切らないでください。誰の部隊ですか」
鎮守府司令が、何の信号も出していない飛行物体に向けて語りかける。二つの航空反応物は、前方を飛行する第31部隊のヘリに追従しながら、崩壊しつつある戦線へと直進している。
通信に対する返答はない。
だが、変化があった。
その飛行物体は、青マーカーで表示された。全員が接続しているはずの戦術システムが識別する、緑色ではない。同時に、まったく別の信号を発した。
鎮守府の戦術システムが、記録されたデータを参照し、三つの文字をモニタへと表示する。
6sd
「‥‥‥第六水雷戦隊? どういうことです」
それまでで最も困惑、いや、大きく動揺した鎮守府司令の声。今の鎮守府は部隊番号による振り分けのみであり、戦隊単位など存在しない。
望遠カメラに映るヘリの姿をジャックは眺める。それは現行型ではなく、既に多くがスクラップとなっている旧式。
「どうしてその信号を発しているんです。どうして、部隊の信号記録が鎮守府に残っているんです。あの部隊は」
『こちら、第六水雷戦隊コマンダー代行。鎮守府オペレーターへ。失礼ながら、あなたのサーバーへ我々の情報を再登録させていただきました』
「データベースに潜り込んだ? 誰です、あなたは」
『「私」は第六水雷戦隊戦術指揮支援システム「アンジェリカ」。鎮守府オペレーターへ報告します』
彼女達は、戦地に到着する。
『艦隊、帰投しました。ただいま』
「‥‥‥!」
『現時刻を持って、部隊指揮権を鎮守府へ返還。別命あるまで友軍撤退支援を行います。オペレーティングシステム起動。全ユニット、降下。攻撃開始』
戦場に舞い降りる。
8人の、黒くも、カラフルな少女達。そして今一人、年長の女性。
「第六水雷戦隊、到着なのです!」
「さぁ、行きましょう」
そして彼女達は、同じく降り立つ黒い鳥とその仲間達を伴いながら、財団の集団へと向かっていく。
「鎮守府防衛」
「今度は参加させてもらうっぴょん!」
基地危機に至り、彼女達も決めたのだ。
彼女達の到来はジャックにとって僥倖だった。一つの戦隊と一人の出向者そして一つの部隊の13名の娘達が、水雷部隊としてはありえない速度で手近な敵を粉砕していく。落胆の戦況にあって勇気付けてくれる姿。強化艦娘計画は伊達ではないようだ。
通信に、彼女からの声が乗る。
「私達には、共に戦ってくれる姉妹がいる」
絶対の信頼から来る、弾んだ声が。