『方位3-3-4、新たな敵部隊が接近。小型飛行タイプ、数47』
「うっへぇ。多いよ~」
そう皐月がうなだれる。
現在、戦場に残っているのは第31部隊と第六水雷戦隊、そしてこの時間担当となった傭兵が参加しているが、その数はやはり少ない。この戦力で、総員撤退した艦娘部隊が再建されるまで耐えてくれというのがジャックからの指示だった。艦娘部隊は、防衛システム圏内で体勢立て直しを行っている。
一緒に戦列に加わっていた第31部隊の艦娘、陽炎と不知火そして菊月だったが、艤装改造を施した熟練と異質の鳥にはついていけず、損傷拡大によりヘリに引っ込んでいる。今日まで睦月達に寄り添っていた夕張も、悔しながら後退し残る面々の戦いを眺めるしかない。
そして改めて黒い鳥の再来、そして第六水雷戦隊の腕前に唸らされた。
「やばいわあいつら。まだ殆ど怪我してないじゃない」
「足を引っ張らないようにするのが精一杯でした。我々では、この程度ですか」
「頼もしいけどね、申し訳なさのほうが前に来るわ。あ~! 私ももっと強ければなぁ~!」
わしゃわしゃと、陽炎は自分の髪をかき混ぜる。
睦月達は、従来の艦娘の枠を出るほどのポテンシャルを有した上で艤装と繋がっており、望外な機動力を発揮している。アンジェリカからの電子支援、マーキングした敵に対する擬似射撃ロックオン・敵からの攻撃警告・機銃自動迎撃が行える。目視と脳内計算で行う他艦娘とは比較にならない高精度であった。
しかし決定的に違うのは、その戦い方だろう。
彼女達は陣形を使いこなす。通常時は睦月がリーダーを務めて単縦陣を組み火力集中、航空兵力がやってくれば輪形陣で防御、大型兵器が来れば二名一組の小隊単位に分散し包囲。高い独立行動とすばやい結合で自在に形を変えつつ、崩れることなく相互連携を怠らない。同隊内ですら連携の怪しい現在の艦娘との差は明らかで、彼女達が個々の戦闘力以上の次元で戦える原動力になっていた。
だが、それとて限界がある。
残エネルギーの厳しさから射撃が散発的にならざるを得なくなり、アンジェリカによる艤装機銃弾幕も止まっていた。
『警告、方位3-0-1より新たな敵集団が侵入』
「まだ来るかぁ~」
『解析。グレイロータス型飛行兵器4、及び強化レディロングレッグ型歩行兵器1を確認』
空中で回転するふざけた大型飛行物体、そして赤色の多脚歩行兵器が投下されて参戦してくる。小型無人機ならば装甲も相応である為まだダメージが通るが、その大きさはもはや、等身大の人間が操る艤装でどうにかなるものではない。
「これは‥‥‥」
「う~ん、どうしよう」
三日月と皐月も思わず唸る。
「ACなら、いけるでしょうか」
「こちらシューティングスター、後は任せろ!」
『ACエスペランザ、L.L.L.への牽制依頼を受け前進開始』
娘達に触発された傭兵が、その鋼鉄で敵を阻むべく動き始める。小さな投影面積と高い機動力で回避するしかない駆逐艦娘に代わって、その巨体と火器が敵増援をその場に拘束し進撃を止めさせた。
しかしこちらの機動が止まれば、敵は包囲機動をしてくる。
『対空支援、グレイロータス子機の優先撃墜を提案します』
「了解なのです。お願いアンジーさん」
『シューティングスター支援位置へマーカーをセットしました。第六水雷戦隊、艦隊編制プリセット四、第三警戒航行序列。防空指揮卯月』
「任せるぴょん! 対空射撃用意!」
射出され無秩序に襲ってくる分離体を、輪形陣を組み卯月が中心となって叩き落とし、傭兵達の撤退路を保持する。
逆に言えば、それが精一杯であった。小口径主砲では役が不足している。装置を持つ長月を護衛して送り出す、と言うことさえ困難だった。
壁になっていたACの傭兵達が、損傷拡大で一機また一機と撤退していく。分散されていた負担が、なお戦場に残る者達へと集中し、押し潰しに来る。
「こちら鎮守府。艦隊の状況を報告します」
その時、鎮守府司令の通信が彼女達にもたらされた。
「主隊は防衛ラインの構築を完了しつつあります。よく支えてくれました。お礼を申し上げます」
「じゃあ下がっていいんだな?」
「えぇ。送付した座標まで後退を」
『警告、如月、8時70度』
通信に気を取られ防空を突破した目玉無人機が、レーザーを打ち下ろそうとしていた。
擬似FCSのロックを待っていられない。卯月が主砲を向け、発砲。だが、咄嗟射撃されたエネルギー弾は逸れていく。アンジェリカが如月艤装の機銃を再起動するが、小指ほどもない口径では対通常兵器相手に有効射が出ない。如月も主砲で狙うが。
間に合わない。
敵の無人機が蒼く光り。
無人機が、爆散した。
「え?」
驚く間もなく、異変は続けて起こった。
周囲の無人機が、飛来した大量の砲弾により撃ち抜かれ、機械の金切り声を上げながら海中へ没していく。
続けてきたのは飛行物体だ。飛来した白くそして赤い、球体。密着する球体に財団兵器は文字通り「噛み砕かれて」破壊されていく。すべての法則を無視した生物的な球体が、財団兵器を狙って追い掛け回し、食らっていく。
ジャックは彼女を救ったそれの存在を知らない。だが、知っている彼女達は、故に彼以上に驚愕していた。
「猫艦戦‥‥‥!」
残っていた鎮守府の海上レーダーが、側面からやってくる大量のそれを検知する。無秩序な熱源反応ではなく、陣形を組んでいる多数の戦闘団を。そしてそれらは、財団の側面を突くように突撃していく。
戦闘エリアで大部隊と大部隊とがぶつかり合い、個別識別が困難なほどに入り乱れる。チューク諸島への直進行動を行っていた財団部隊は、横合いからのより強力な敵対者に対応すべく戦力を切り崩していく。包囲されかかっていた第六水雷戦隊は、同じく撤退に入るエスペランザら傭兵と共に、残った財団兵器を蹴散らしながら無事に離脱することが出来た。
しかし彼女達の動揺は続いている。
「防空棲姫2、空母棲姫6、戦艦棲姫4。後ろにまだいるにゃし」
「トラックに侵攻しようとしたら、財団部隊と喧嘩になったとかかな?」
「でも、さっきの」
弥生の提言で、皆が黙る。
対水上戦とは思えない角度で飛んできた砲弾。今なお自分達を無視し続ける、深海棲艦の飛行隊。この混戦の中、一発たりとも艦娘へ至近弾すら飛んでこない事実。
「ねぇ、睦月ちゃん」
「うん。今ならあのL.L.Lを倒しにいけるかも」
「いいえ。あなた方はそのまま後退してください」
この戦場においての難敵処理を考慮する彼女達に、鎮守府司令は撤退命令を出した。
「長時間の戦闘で疲労しているはずです。燃料もそろそろでしょう」
「でも」
「財団と深海棲艦は敵対関係かもしれませんが、彼女達の砲口が突然こちらに向かないとも限らない。後方に下がり、休息を取ってください。あなた方の撤退時間は、ファットマン社レイヴンが稼ぎます」
「‥‥‥了解なのです。第六水雷戦隊、これより戦域を離脱します」
自分達が撤退を完了するまで、傭兵には戦場に残ってもらう事になる。これを長引かせるのは、要らぬ負担だ。
睦月達は反転、基地への進路を取る。修復完了したACの新たな予備部隊と交換し、自分達の為に残ってくれた残置ACの後を託す。そんな彼女達を追いかけるほど、財団も深海棲艦も余力があるわけではないようだった。
「第六水雷戦隊の皆さん、ありがとう、お疲れ様でした。そして改めて‥‥‥おかえりなさい」
「その声、やっぱりあなたは」
「その先は、語らないでください。あなた達に合わせる顔がないのです。それに我々には、まだやらなければならないことがあります」
補給、休息、次なる戦いに備えること。そして。
最終防衛ラインに集った艦娘部隊とACは、しかし一夜を無為に海上で過ごすこととなった。
基地レーダー及び彩雲偵察機から、財団部隊は殆ど駆逐され、また深海棲艦部隊もそのまま退却してしまったことが知らされたのだ。
手放しで喜べる条件ではないにせよ、当面の危機が去ったこと。それは何よりも喜ばしい報であり、艦娘達は沸き立ち、そしてジャックも次の手を考えるという行動が出来るようになった。
鎮守府司令からジャック宛に提案がもたらされたのは、興奮冷めやらぬその翌日であった。