艦隊これくしょん VERDICT DAY   作:水崎涼

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依頼者 :鎮守府
作戦領域:ラバウル訓練海域
敵勢力 :u-AC
作戦目標:選定試験

 各艦娘に伝達します。鎮守府より、選定試験のご案内です。
 本選定試験は、クライアントからの要請に基づき、より危険度の高い依頼を請け負っていただけるだけの、実力ある部隊を選び出すことを目的としています。
 試験の内容は、無人型AC、u-AC5機と1機ずつ勝ち抜き形式で戦っていただき、その中で優秀な戦績を収めた方が選出対象になります。本選定試験で選出された方々には後ほど、参加していただく作戦の内容をお知らせいたします。そのつもりでお願いします。

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Vanishing

 

 

「お、お~!」

 

 ファットマン社敷地の格納庫前で、幾人もの少女が群がっていた。

 ゆっくりと、ACの腕が持ち上がる。膝、腰、胸部、頭部を過ぎてなお腕部は上がっていき、少女達の歓声は最高潮となる。

 艦という出自から海に縛られる艦娘達は今、ライウンが操るACストラックサンダーに抱きかかえられて、10メートルの空から眺める景色と風を存分に満喫していた。

 兵士やMT乗りの強さの象徴としての憧れ、人型機動兵器も、彼女達にかかれば高級な遊具でしかないようであった。戦う事を使命とするには随分とふわっとしている。

 その隣では、ウコンゴ・ワ・ペポの肩に何人もが腰掛けて、ACの頭部と共に記念撮影していたり。操縦手の彼は極めて会話の苦手な人物なので、外部スピーカーからも困惑交じりの単語ばかり流れてくる。

 そんな光景を保護者気分で眺めてから、ジャックは、手元の資料へ視線を落とす。

 

 

 

 第27部隊。

 残存白露型駆逐艦にて編成。第一次トラック基地奪還作戦時の所属者は、部隊長オリジナル村雨、部隊員オリジナル夕立の二名。

 作戦失敗にて総退却中、追撃してきた駆逐棲姫が指揮する部隊に対し、友軍援護の為夕立は単身前進。味方離脱に貢献するも通信途絶。救援の為、村雨は消失地点へと急行する。そこで、呆然とへたり込んでいた春雨を発見し回収離脱した。艦娘夕立本人の安否は確認できず、捜索中として除籍保留。後、大侵攻終結宣言に合わせ正式に除籍される。

 この夕立という同型の艦娘が、春雨を「救出」中に横槍を受け力尽きたというのが、彼女の現在を作る発端らしかった。駆逐棲姫‥‥‥春雨は、その光景を見せられた衝動で、わずかに足りなかった艦娘化を半ば自力で成した。

 この経緯から、夕立を撃沈した「主任」なる人物に復讐とも呼ぶべき感情があり、当時は精神的にかなり不安定だったという。瞳が青くなったり、髪の色が白色になったりと身体的変質も時折見られ、村雨や大淀以外は知らぬほうがよいと半隔離扱いを受ける。

 しかし時局は彼女が去る事を許さず、また参加志願もあり春雨は第27部隊へ編入。部隊長クラスの喪失を嫌われて村雨がヘリ待機になる中、春雨は初陣から単独で戦い始めた。

 

「そして、ことごとく生き残り伝説と呼ばれるようになった」

 

 良質艦娘の合流、また彼女の存在の為に深海棲艦との共同歩調が取れるということで、ジャックとしては不満なし。加えて語るならば、財団騒ぎが終わった後には艦娘深海棲艦間は単なる敵同士ではなく、何かしらの展望もありえなくはない。

 かように異質な春雨だが、ジャックが期待する真のドミナント、いわゆる全能ではないようだ。ジナイーダのような、特定のアセンを極めるタイプのイレギュラーだ。

 最たる例は背部大型兵装グラインドブレードである。現所有者が普通に扱い、また少数量産配備する予定だった兵器ならと、本当に試しに触らせてみた。が、この春雨。まったくと言っていいほど白兵適正がなく、「無理です、これは無理です!」と推進滑走に絶叫をあげながら目を回す始末であった。

 なお、その逆も。春雨の機動を長月にコピーさせようとすると、「付いていけるかあんなもの!」と汗だくで喚きぐったりと倒れる。

 

「彼女、春雨は昔から実力派だったのか」

「いえ。以前は、最前線任務よりも輸送護衛を得手にする子でした。同じ子でも個体差自体はよくある話ですが、ここまで極端であるとですね」

 

 脇に待機させていた大淀の言にふむふむと小さく頷きかけ、ジャックは驚きに見やる。

 個体差。ここでは個人の実力を論議しているのだから。

 

「‥‥‥すまない。その言だと、沈む前の艦娘と復帰した同じ艦娘がまったく違う性質を持つか、あるいは大淀一号二号三号と、複製コピーが居るように聞こえたのだが」

「ご存知ありませんでしたか?」

「どちらの意味でだ」

「両方ですよ」

「何だと」

 

 艦娘とは変な機械を操れる特殊な存在だが、所詮は人の子女の子。とのジャックの認識が、前回の深海棲艦との一件からずっとちゃぶ台返しされて二回転位している。

 

「私達は複数の私達と同時に存在することが出来、また複数の私達は思考を並列することはなく、個体差があります。一度沈没し再復帰したとしても、完全には性質を受け継ぎません。不思議ですよね。同じ私のはずなのに、よく被弾する私とか、よく狙撃する私とか居るんですよ。艦娘が気味悪がられる要因のひとつですね、ふふ」

「世の理に触れる話を、楽しそうに語らないでくれ」

「嘘ですよ?」

「嘘か」

「本当です」

「茶目っ気が出てきたな、君」

 

 人として良い変化なのだが、固いくらい職務に忠実な敏腕事務官、とのジャックが持つ印象が音を立てて崩れていく。

 彼女の変化。数ある理由の一つに、オリジナルの艦娘達がこの基地に合流してくれたことが挙げられる。深海棲艦の偽装侵攻とその迎撃戦により、古のオリジナル達が鎮守府に復帰を始めていた。それは長い時間を耐えて迎えた再会である。いろいろな意味で、大淀は気が抜けたのだ。

 いつかの母港に帰りたがっている深海棲艦を、今の艤装適合艦娘達が救助に行く。本気で滅ぼす気がなくなった者と、本気で倒す気がなくなった者によるプロレスと言えなくもないが、空洞のようだった本拠は活気を取り戻して来ている。

 艦隊規模も増して煩雑になってきた為、鎮守府司令の大淀とは別に、艤装適合者の長門型戦艦長門、オリジナルの赤城型航空母艦赤城をそれぞれ任命した。現場指揮については両名に一任する。

 ここで、ジャックには一つ疑問がある。

 

「深海棲艦を艦娘化させる事が可能であるのはわかったが、それ以外はどうなるのか」

「それ以外とは?」

「艦娘の始祖、『最初の五人』と呼ばれた者についてだ」

 

 人類発生と共に艦娘が生まれたわけでもないのだから、深海棲艦の艦娘化というルールに反している者がいるわけである。

 吹雪、叢雲 漣、電、五月雨。

 彼女達は、深海棲艦の登場に合わせる形でその姿を現したという。記録を読み漁る限り、その実力は五名全員、良くも悪くも常識的駆逐艦娘。特殊な力を持っているということもなかったようである。そのうち、吹雪と五月雨の継承者が第11部隊にはいるが、やはり普通の駆逐艦、普通の娘。

 

「その五名、軽巡洋艦の大井を含んで六名とする場合もありますが。今の春雨さんも最終的にはその手段だったようですし、自力で艦娘になる事も可能なのでしょう」

「今鎮守府で把握している以外にも、世界のどこかで艦娘が再発生している可能性はあるのだな」

「可能性の話ならば、あるとは言えるでしょう」

「居るとするならば当然、彼女達は鎮守府をも見捨てたわけではなく、こちらに合流できない状況と事情に身を置いているだろうな」

「‥‥‥ジャックさん。あなたはどこまで」

 

 言わんとすることを理解して返答をしようとして、大淀は言葉を切る。一人の艦娘が席にやってきたからだ。

 彼女はジャックに詰め寄る。

 

「おい」

「どうしたか」

「どうしたじゃない」

 

 以前から訴えられていた彼女の悩みなど些細に過ぎるのだが、声をかけられては相手にしないわけにもいかない。

 彼女、第31部隊所属、適合者の駆逐艦長月は、AC型アトラクションに列を成す和気藹々とする艦娘達の横を見るように促す。

 そこでは白髪セミロングの少女と白銀髪ロングの少女が、互いに達観のような雰囲気を出して見つめ合っていた。

 

「似ている‥‥‥私に‥‥‥」

「似過ぎだ‥‥‥私と‥‥‥」

 

 確かに、似てはいる。

 前者は第31部隊所属二代目菊月を拝命する適合者。向かいに居るのはつい昨日鎮守府に再合流を果たした、オリジナルの菊月。

 

「何をしているのだあの二人は」

「妹の将来がたまらなく不安になる時がある。いや、話したいのはそれじゃない」

 

 言えた義理でもない女っ気の少ない姉は、訴えを続ける。

 

「いい加減にこう、何かしないのか」

 

 それまでいた適合者艦娘と、深海棲艦が艦娘化した同名のオリジナル艦娘が、今現在同時に存在している状況。これがまた不思議なもので、髪の色が違ったりなどの差異あれども、生き別れの家族でも通じそうなほどどこかしら似たものがある。艤装もまったく同じで、サルベージ品とオリジナルが再び持ってきた同一物とが二つある。

 それの何が問題かというと。

 こうなる。

 

「陽炎も言ってくれ」

「なぁに、長月」

「どったの?」

 

 呼びかけに二人の「陽炎」が同時に振り向いたのを見て、長月はダンッとコンクリートの地面を踏み鳴らした。

 

「紛らわしい!」

 

 憤る彼女を見て、二人の陽炎は顔を見合わせて笑うのであった。

 適合者艦娘は、サルベージした艤装の元の持ち主の艦名を自らのTACネームとして使っている。廃して別の名前でも名乗らせればいいのだが、続けていた伝統をいきなりやめろというのは。一度貰った名前をこれからも使い続けたいという思いがあったし、オリジナル側からも自分の艤装を大切にしてくれるならむしろ嬉しいと思っている。

 とはいえ、混乱は招く。

 

「どうにかしろ、ジャック」

「それは君達の問題だ」

「事務処理上問題はありませんよ」

 

 ジャックも大淀も、我関せずである。

 長月は口をぱくつかせて、頭を掻き、そしてため息を吐いて黙った。そんな彼女の肩を叩く手があった。長い緑髪をしたオリジナル「長月」がそこにいる。妹が妹なら、こちらのオリジナルも武人気質の娘だ。血は争えないとか、類は友を呼ぶのだな、という生産性の無い感想をジャックは飲み込んだ。

 彼女は、笑う。一緒に遊ぼうと言われては、悪い気などしない。お揃いの三日月の飾りをつけた彼女達は、連れ立って格納庫エリアを後にしていった。

 その戦闘能力はイレギュラーであるのかもしれない。事を成すには力が必要なのも間違いはない。

 だが、オリジナルだと萎縮する者も、強すぎる強さの持ち主と持ち上げる者も、そこにはいない。敬愛する先代であり、自身の名と艤装を大事にしてくれる後輩であり、友達であり仲間である。こうして人の中に入れれば皆同じだ。

 

「このままでも良いと思うのだが、そうもいかんか」

 

 幸いにして、深海棲艦の矛先が明確に財団へと向いたことで、各基地が財団から受けていた圧迫が減っている。これは国家側も恩恵を受けており、各国対財団も、初撃の混乱から立ち直りつつあり組織的活動による押し返しが始まっている。

 ただ。どうにもよろしくない事情が、複数の政府筋から鎮守府にリークされてきた。

 万全を待っている時間は、ないようだった。よって。

 

「タワーへの威力偵察ですか」

 

 ジャックの提案に、大淀は思案する。

 世界各所に散っているタワーへ、有力戦力を切り崩して長躯遠征させ、偵察する。

 

「財団は、何かの意思で調律して部隊を送り出している様子だ。統御するという事は必ず大元、発信源がある。この世界にあるタワー7つすべてが該当するのか、それとも統御しているのがひとつなのか。そもそも発信源はタワーなのか。調査隊はある程度精強である必要がある。犠牲を出さない為にはな」

 

 この役目は、広域探査を可能にする電子装備を搭載できず、また一発でも致命弾を受けたらアウトな艦娘にはまったく不向きな仕事となる。偵察の為に迫る脅威を実力排除できる、それでいて最悪未帰還となってもいい、知らなくていい事は身の為にも首を突っ込まない、傭兵がよい。

 ただ、ファットマン社単独であると、直接契約関係も通信連絡もない国家や、対話不能な深海棲艦から要らぬ攻撃を受けかねない。友軍信号持ちとして、艦娘部隊を多少混ぜておく。

 

「ひとつの場合はまだ何とかなるかもしれませんが、すべてが該当する場合は?」

「どの道すべて破壊するが、逐一作戦を立てて出向くしかあるまい。が、その可能性は低いと見ている」

「パルヴァライザー」

 

 単語に、ジャックはひとつ頷く。

 

「無人機の戦闘データを蓄積し、自らも戦うことで成長し続ける兵器。ここにもいるものと私は仮定している」

「青く発色する機械。こちらの調査では、過去に遡ってもそのような兵器があったとは確認できていませんが。いるのでしょうね」

「N-WGIX/vといったな。わざわざ、黒い鳥と再来がいる場所へやってきた。あれこそがドミナントを殺すための兵器であり、この地区でのパルヴァライザーであるのではないか。そしてパルヴァライザーは、同時に一体しか存在しない。それを統御するのもまた一つ」

 

 何者も抗えぬ、すべての頂点である為に。

 

「手に負えなくなる前に、ですね。もしもタワーに接近しても最強の盾が現れなければ、そこはメイン施設ではないということですか。調査は、まずは中部太平洋を?」

「我々にとって最も条件の良い場所だ」

 

 最も鎮守府から攻め易い立地のタワー。ここやイースター島のタワーが外れであると、とんでもない距離を派遣しなければならなくなる。というより、最も近い二箇所ですら、鎮守府輸送手段の主力F21Cヘリの足では足りない。

 そこで今回は、F21CでF21Cに補給をする荒業で無理矢理飛ばし、残りはベタ足で接近する手段を取る。このジャックの提言に、大淀は「あぁ、ブラックバック作戦ですか」と納得了承。鎮守府の燃料備蓄に深刻なダメージが入るが、これが鎮守府単独の限界である。

 偵察はこれでよいとして、問題は本攻略。

 帰還など考えず、何十人未帰還となろうと、敵が倒れるまで殴り続ける。艦娘と傭兵の士気意識の高さならこなせる。それが一番勝率が高い‥‥‥ジャックは、自身が経験した道に連なるこの手法を封印した。封印した以上、どこかにしわ寄せを受けてもらわねばならない。犠牲ゼロという甘い幻想を叶えられるほど、こちらは優位ではないのだから。

 この問題は、幸いにしてジャックの溜飲を下げる手段があった。

 

「FFAのほうは任せてよいな」

 

 フォーミュラフロント。3型ACを用いた、AIメカニカルバトルの興行である。

 無人操縦研究の一部が、学生や技術者によるバトルロボットの超拡大版として興行に発展した。人型兵器が人命の危険もなく、激しく動き回り戦う姿というのはまさにロマンであり、人々にとって娯楽価値があったのだ。どれだけパーツが壊れようと、格安価格で財団から買い付けられたのが発展の理由だという。

 無人兵器は死兵として運用が出来る。発生するはずの犠牲を負担させ、結果的に人的資源喪失のリスクを取り払う。

 ジャックは個別にフォミュラチームに接触し、偵察隊選別の為の標的役を依頼した。素行の悪さからリーグ追放処分中のチームでありながら実力もあり、具合が良かった。それどころか、チームに影響力を持つメインアーキテクト、ディアボリクは、ジャックがデータのバックアップを持ちかけると、財団戦への技術投入を快諾した。彼にとって実践とは、自らの理論を証明する遊戯場以上ではないようだった。

 もっとも、体裁的に兵器ではないとしているので、取り仕切る運営局からは頑なな態度を取られている。ここを口説き落とせれば、優秀なACを操るアーキテクト達を多数得られるのだが。

 

「フォーミュラフロント運営局へは、こちらで引き続き対話を行います。あなたが悪役を任ずるのはその後で。他には何をしましょうか」

「基地の防衛システムを手厚くして欲しい所だが、ない袖は振れない。君はよくやってくれている」

 

 実際にして、大淀の事務処理能力はジャックをして唸らせるレベルだ。鎮守府に関するものは、大淀に聞けばすべて欲しい返答が返ってくる。何ならば言われる前に話を付けたり、資料を持って来てくれる事さえある。

 優秀な補佐官だ。

 だが彼女も、一人の艦娘だ。指揮官ではない。

 

「君達オリジナルは、国家のことをどう思っている」

 

 大淀はジャックを見つめてしばし黙し。

 視線を落とした先のクリップボードを、指でなぞる。

 

「国家の盾であり剣として建造された戦闘艦。その出自たる私達は、やはり国家に属し献身すべき存在であると思います。軍規に照らしても、私達の脱走は処罰されて然るべきです」

 

 胃薬の処方が必要な程度には、模範的で理性的な返答だ。

 提督の下で優秀な部隊として稼動していたのは事実だろう。しかしそれは、誰もが認める多大なる功績を残したとしても、提督と言うたかだか一基地一艦隊司令が私物化私兵化してよいという意味にはならない。なぜなら提督は階級を与えられた国家に従う一軍人であり、艦娘はその指揮下にいる軍人となるなのだから。

 軍属であり軍規がある以上、従う義務が発生する。軍隊とはその性質から規律秩序が第一だ。どのような理由があろうとも、彼女達がやった事は、軍そして国からの脱走。最終的に艦娘を軍人として扱わず自らも出奔した提督と、それに従い私兵の道を歩いた艦娘達の行動そのものについては、擁護が難しい。

 

「このお話となると、艦娘部隊の損害拡大を問題視してくださる方々がいます。お気持ちはありがたいのですが、私達自身直面して悲しみもしますが。軍人とは、そういうものです」

「君と理性的な話をすると進まんようだ。では問いを変えよう。国家は嫌いか」

 

 大淀は数瞬沈黙し、しっかりと顔を上げて、続ける。

 

「大好きです」

「‥‥‥」

「私はあの時に失意し、我侭を押し通して今ここに居ます。ですが、彼らの組織体制を非難したり、人々を見限ったつもりはありません。それは他の艦娘も同じでしょう。国と民は、私達の誇りです。ですが」

 

 だからといって。

 

「私達は心を持っています。心を、持ってしまいました。偽りなく意思があります」

 

 だからといって、盲目的に上位者に従い続け、無意味なる死を待なければならないのか。苦しい時に、自分を信じて付いて来てくれなどと言われればほいほい付いて行きたくもなる。

 大淀が語るには、特にこの「想い」というのが彼女達艦娘の根幹に関わるという。

 深海棲艦の艦娘化然り。艤装の防御機構も、理論上障壁で防ぎきれない即死級の攻撃であっても、それ単体では沈む事すらないという。駆逐艦海防艦クラスでも、被害ゼロが達成できる所以だ。ただしボロボロの状態で進撃指示、つまり上位者によって「明確に見捨てられる」と、まるで力尽きたかのように些細な被弾で艤装が停止し沈んでしまう。

 避けられる損害を前に死んでこいの命令を出す上位者の元に、なにくその精神で戻りたくはない。そういうことなのだろう。

 

「国家と司令。私達はあの時、どちらを取るべきだったんでしょうか。自分の選択が間違いだった、と思いたくはありませんが」

「この現状ではな」

「ジャックさんは、我々は国家に戻るべきだと?」

 

 核心を、大淀は言葉に乗せる。

 ジャックは自らの思考整理の為に一拍置き、迷う少女を見据えた。

 一人の強力なリーダーシップにより最善最高の制御も可能になるワンマンだが、上位者の判断ミスで理念もろとも吹き飛ぶのもワンマンだ。提督がこの世から吹き飛んだ結果が、今日という日である以上は。

 対して多数の意思による組織は、決して最善は取れず手続きにより対応も遅く時に方針さえぶれるが、一人が倒れても他が支え、後身が引き継ぐ事が可能である。掲げた目標の自浄長期間維持が見込める。

 彼女達艦娘が求めるのは、深海棲艦の血や金や名声ではなく、一秒でも長い平穏のようだった。そこに愛が加われば言う事はない。ワンマンと組織、どちらがその願いを叶えてくれるかとなれば。

 

「その選択肢を熟考すべき、だな」

「‥‥‥そう、ですね」

「『あなたにならわかるでしょう。国家の支配する世界に、未来などありません』、などと言われたらどうしようかと思っていた」

 

 大淀が苦笑いを浮かべる。

 安易には承服できない話だし、向こう側の受け入れ態勢も必要になる。

 この問題だが、存外にも分の悪くない見込みがある。

 

「国家指針の変化は、君ならば理解しているだろう」

 

 数ヶ月前までは、財団事変以前は、どのようにして鎮守府の機嫌を取り篭絡させるかの議論が盛んであった。

 二百名足らずで地球の反対側まで救援できるような、対深海棲艦能力に特化した集団。艦娘部隊を手にした者が、海の財産と航路を支配できる。依頼の優先受諾権を得るだけでも僥倖、自ら管理できるならば至高。

 その思惑がわかっている鎮守府側としても、自分達の為に平等に受け入れ突っぱねるしかないという、首の回らない状況がこれまでだった。

 しかし。

 無人機を相手取る混乱の中でその声は小さくなり、別の二つの勢力が伸び始めている。

 一つは、新しい闘争の時代へと向かう者達。

 もう一つは。

 

「進んで手をつけた以上、私は、君達の未来に対して責務があると思っている。鎮守府アドバイザーとなる依頼でもあるのでな。君達に具体的な望みがあるならば、それを叶える方向で行きたい」

「もしも国家に戻る望みがあるならば、ですか」

「良く悩む事だ」

 

 そこまで語って、ジャックは改めて食堂を見回す。

 適合者と、オリジナル。広場には最初の黒い鳥、春雨の姿もあったが、大勢の中に溶け込んでいて、彼女の温和な姿はまるで異能性を感じさせない。

 自分の為に他者を蹴落とし続ける傭兵とは、やはり違う。

 ジャックの選べなかった道が、そこにはあった。

 

 





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FBCニュース:お騒がせ「オーガ」に下された判断は

 AI盗用問題で、フォーミュラフロント管理局(FFA)より無期限活動停止を言い渡されているフォーミュラチーム、オーガCF・デュエリング(オーガ)が先日、艦娘及び有人型ACと「模擬戦」を行った問題で、FFAはFFA本部において、今回のオーガの行動に対する、FFAとしての見解と対応を発表した。
 FFAは「興行品であるu-ACとそのチームを持って対人演習を行ったことは真に遺憾」としながらも、「フォーミュラリーグへの影響はなく、またリーグ外におけるチームの行動に管理局として口を挟むことは出来ない」とし懸念表明に留め、オーガは実質不問という形となった。
 FFAの発表の後にはオーガ・コンストラクション・ファーム社の会見も行われ、ゴース=メイス・オーガ代表は「これはAI研究の一環であり、議論にはならないものと認識している。しかし、想定以上の反響を呼んだ事実には申し訳なく感じている」と述べた。
 なお、オーガのメインアーキテクトであるディアボリク氏は、体調不良を理由に姿を現さなかった。
 今回の騒動は果たしてどのような影響を及ぼすのか。今後が注目される。
 
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FBCニュース:プラントで火災。どうなるリーグ戦

 17日正午過ぎ、セムリートプラントにて大規模な火災が発生。10時間に及ぶ消火活動の末、消し止められた。作業員数名が軽い火傷を負うなどした。
 出火したセムリートプラントは、現在開催されている第57期フォーミュラフロントエキスパートリーグの次回会場。出火場所は、プラントを管理している企業ネオニアEPCのフォーミュラチーム、ネオニアが機体と弾薬を保管していた建屋で、警察では事件の可能性も視野に出火原因を調べている。
 炎は風に煽られいくつかの建屋に延焼しており、現在フォーミュラチームの受け入れが難しい状態にある。ネオニアEPCは「早期の復旧を行う」としているが、開催は間近に迫っており見通しは暗い。これを受けてフォーミュラフロント管理局FFAは会見を開き、「安全が確保されるまで、リーグ戦を延期する可能性がある」と言及し「多くのファンを悲しませないよう管理局も全力を挙げるつもりだ」と述べた。

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