十数名の少女達と、同程度の人数の大人が、一つの会議室に集まっている。
よしんばドミナントがいたとして、ドミナントを加えたチームを構成して大事に当たればいい。ここに集ったのは、大淀と協議して集めた、そのための人材である。
少女と語らって予定より少しばかり遅れた男を、皆は黙って迎え入れる。
教壇に立っていた人物は粛々と、部屋の明かりを消した。
「アディと申します。では、ミッションを説明しましょう」
ファットマン社所属のその男性は、こんな時代でも化石のように残っていたプロジェクターを動かす。映像が投影される。
「依頼主はジャック・O。目的は財団の大型機動兵器、パルヴァライザーの妨害となります」
画面に、一つの機体が映し出される。
赤と黒を基調にした、ACのようであり、機械的鳥類のようでもある。EXUSIAと呼ばれる中型無人兵器の発展型と思わしきそれは、財団からは「BlackBird」のコードを与えられていた。
艦娘間で語り継がれる伝説、黒い鳥。その名を冠しているあたりがあからさま。ジャックの目にしたパルヴァライザーも、ACの姿を取っていたのだ。艦娘のいるこの世界では、この姿こそが最強であるという結論なのであろう。奴らを驚愕させたドミナントは艦娘。なるほど、飛んでいればいくつかの攻撃を無効化できる。
先の強行偵察部隊が撮影した、これまで出会った事のない膨大な火力を有する個体。発見報告はこの一機。
「敵パルヴァライザーの主兵装は、大口径の長距離エネルギー兵器です。最強を嘯く歪な結晶に過ぎませんが、豊富な火力、重厚な装甲、桁外れの機動力は、いずれも侮れません」
二人にドミナントとしての力を振るってもらうならばこの限りではない、かもしれないが。
「また、護衛の無人兵器を何重にも配置しており、シンプルで、それゆえに強固な防衛網を構築しています。これと正面から戦うのは賢いとはいえません」
海上と言う見通しのよすぎる奇襲の効かない場所では、正攻法しかない。戦力を削り合っては被害は拡大、チームも損害を受けた状態でパルヴァライザーと当たってしまう。
わざわざ愚直に当たる事もない。
「その為、ファットマン社からはVOBの使用をご提案頂いています」
「VOBとはなんだ?」
「ヴァンガード・オーバード・ブースト。機体背部に追加接続する大型ブースターでして」
「待て。今、機体背部にって言ったか」
「言いましたが?」
「それ、艦娘用の装備なんだろうな」
無論そんなわけがなく、対アームズフォート用のネクスト追加装置。
国家間での戦争が比して少なく、アームズフォート撃破を傭兵にやらせるということもしないので使用実績は皆無だが。財団がラインナップに上げていた品となる。
「4型ACに追加装備として存在しているパーツです。プロの方が使うと、4000km/h程で飛翔可能です。今回は、あなた方の為に小型化改造をしました」
「マッハ3、って」
そんな圧力を生身で受け止めたら。四肢がちぎれることはないにしても、血液の循環だとかいろいろとある。一応、生身で音速を突破した人類というのはいるそうだが。
あくまで、スピード狂のリンクスが専用に組んで構わずぶっ飛ばした場合の数値であり、通常飛翔でそんな速度は出ない。生身用に速度も調整した。しかしそれは語らず、アディは顔を引きつらせる少女を平坦に見つめ返し。
「さて、説明を続けましょう」
「おい!?」
「確かにVOBの超スピードがあれば、防衛陣を突破し万全の状態でパルヴァライザーと対峙する事が出来るでしょう。すばらしい作戦です」
状況ができた所で最後方から一挙に距離をつめて、であれば、少なくとも燃料弾薬の心配は要らなくなる。ことに適合者としての艤装を扱う艦娘は、もとより稼働時間が短い。
仲介人は続けて語る。
まず無人機であるu-ACが突入、損害構わず戦線を切り刻む。次に傭兵達有人機が、傷口を広げ突破、突入路であり退路の確保。この護衛の下、艦娘部隊がタワーに突入。中枢機能破壊後、爆薬を取り付けて離脱。破壊。遊撃部隊は、これらの行動がパルヴァライザーに阻害されないようにするインターセプターとなる。
「タワー破壊を完了するまで、あなた方はパルヴァライザーを撃破してはいけません。消滅を確認次第、タワーで生成されてしまいますので」
それが、この場に集ったメンバー。
選抜AC部隊はハイエンドACを駆るリンクスを中心としている。高い機動性を持ち小回りが利き、火力と防護力に優れる兵器を、旺盛な士気を持つ人間が扱う。傭兵に、連携などという言葉はない。だが、何でもこなすのが傭兵だ。彼らならば、飛び込みでも役割をこなせる。
「とはいえ、タワー破壊時点で遊撃部隊の戦闘能力が喪失している公算が大ですので、敵パルヴァライザーの完全撃破については追って指示を出します。タワー破壊にて任務達成とし、無視して離脱する事も考慮し行動してください。源であるタワーがなくなれば、最強など空虚な戯言でしかありません」
「‥‥‥」
「説明は以上です。我々はこのミッションに注目しています。くれぐれも、宜しくお願いしますね」
映像がブラックアウトし、代わりに蛍光灯が部屋を照らす。
少女達の表情は、硬い。
恐らくは自分達を解析し動きを知っている敵と、不利な環境で戦わなければならない。成長し続ける兵器を相手に、手加減をしながら。いくら支援防御の友軍がいるとて、乱戦は必定だ。
ジャックは彼女たちに対しても、「依頼」と言う形を崩さなかった。逃げてもいい、諦めてもいい。それでも戦うかと。
「質問はありますか」
アディの問いに、誰一人として声を上げる者はいない。それでも彼はしばし待ち、それでも何もないことを確認し、「それでは」とブリーフィングの全工程を終了しようとした。
一人の少女が手を上げたのは、その時だった。
「再来」。いや、第31部隊所属の駆逐艦娘、長月。
「どうぞ」
「ミッションプランに、もう一つ段階が足りないと思った」
「窺いましょう」
一体どのようなことを言い出すのか。
‥‥‥彼女の言葉を聞くまでもない。ジャックも、傭兵達も、既に承知している。
「全員で生きて帰る」
「自分が何を仰っているのか、理解していますか」
仲介人のきつい視線に、少女は頷いて返す。
損害構わず前進し、自爆上等でタワーを爆破し、帰還を考えずパルヴァライザーを叩きのめす。この前提ならば、具合良く勝機がある。だが、任務を達成した上で死も許されない完全勝利となれば難度は跳ね上がる。
目的の為に手段を選ばないという選択肢を彼女達は自ら放棄し、より困難な道を選ぶ。皆で戦い、皆で勝ち、皆で帰る。
ジャックは目を閉じる。
やはり。
やはり君達は面白い、と。
楽しさは、傭兵こそ望むところ。
「いいだろう」
「依頼主より許可を頂きましたので、人的損害ゼロについても目標とします。撤退作業の仔細は既に詰めていますので、本日はこれにてブリーフィングを終了します」
「んじゃ、第31部隊は依頼受諾っと」
「第27部隊、依頼を受けます」
「第六水雷戦隊、依頼を受諾するのです」
艦娘達の依頼受諾を、アディは事務的に処理していく。詳細の日程を彼女達の端末に送信し、受け取った少女達は解散を許可された部屋から整然と出て行く。
扉を閉め、戦人艦娘として最低限の規律を終えると、彼女達は少女として友人たちと会話を始めた。扉を閉じていてもわかる、廊下の少女達の黄色い会話。
どうやら、艤装の点検をして訓練をした後、連れ立って町の温泉に行くつもりらしかった。戻ってこれないかもしれないという不安からの別辞とも取れるが、そんな悲愴な気持ちを抱いてするわけではないだろう。彼女達は、必ず戻ってくるつもりなのだから。
士気高揚や景気づけに、口出しは野暮。
彼女たちが必ず帰ってくると言うのなら。必ず返してやるのが、ジャック・Oの責務。
責務。
いや。
「欲求、希望。か」
「生きて戻れと要求されるとはな」
呟くのは一人の男。テルミドールと呼ぶべきか、オッツダルヴァと呼ぶべきか。
金を払ったんだから死んで来い。それが傭兵。
生きて帰ろう。
犠牲なき解決。
甘い言葉だ。幻想だ。
「私は、こんなに甘い傭兵だったか」
だが。悪くはない。
彼は、そう考える事ができるようにもなっていた。