諸島連合軍の艦艇に、老骨の揚陸艦が二隻あった。
対潜哨戒ヘリを載せることを前提として建造された貸与再就役艦。二隻は当初の役目を果たした後、所属国家の威容とノウハウ維持の為延命され続けた。港で静かに余生を過ごしていたが、事変後は一転、陸戦隊やACを乗せられる数少ない船として注目を浴び、老体に鞭打ち働きつめる。
そんな二艦が今、艦娘達を分乗させ中部太平洋へと向けて航行している。
艦娘が足とするF21Cヘリだが最大航続距離は知れたものがあり、中部太平洋のタワーまでは届かない。ファットマン社輸送機もAC用にパンクしている今、出撃の手間も考えた数百規模の人員を運ぶ手段として、揚陸艦の使用以外に手がなかった。
二隻の直衛艦も、これまた一世代前の装備を持つ中古駆逐艦が二隻と給油艦が一隻。かろうじて艦隊を名乗れる船団は、進む。
このような脆弱艦隊が抵抗を受けずに来れたのも、突貫し続け財団を損耗させた深海棲艦と、残った財団主力を側面陽動で拘束した数個の任務群の働きあってこそ。
タワー。
財団の建造した巨大海上構造物は、もう見えている。
砲声が響いている。深海棲艦の部隊が、財団と交戦していた。
揚陸艦の平甲板の上で、艦娘が誰とはなしに空を見上げる。幾多の輸送機が、彼女達に先んじてタワーへと向かっていく。
午前10時。
「定刻だ。ミッションを開始する」
ジャックの号令で、艦娘達が艤装を立ち上げる。揚陸艦後部から一人また一人と出撃し、海上で整列を始めた。
時を同じくして、先行した輸送機からは、人型機動兵器が投下された。
第一陣は無人アーマードコア、u-AC及びファットマン社が有償貸与しているUNAC。空挺降下しながら、機械的に、手当たり次第に敵をロックオンしては銃火を噴いていく。アーキテクト達に手塩にかけられた無人ACは、有象無象を跳ね飛ばしていく。積載してきた大火力の火砲で痛打を与え、ある機体は空中で散りある機体はエネルギーを使い果たし、役目を果たして沈んでいく。
文字通りの捨て身で戦列を破壊した所へ、勇名を轟かせる有力チームのu-ACが無秩序に、しかし確かに浸透し押し出して戦線を構築した。戦力を使い潰し最高効率で漸減する。
艦娘の整列が完了。最終点呼を開始する。
続けて第二陣の輸送機からアーマードコアが空挺降下。傭兵が自らで駆る愛機達だ。戦火ただ中ではなくわずか後方に無事に降り立たせ、それぞれに課せられた依頼通りに動き始めた。
指定地点の制圧及び艦娘部隊の突入路確保。u-ACに並んでさらに浸透していく。
「アパシー、N33クリア」
「こちらジョーカー、S16を制圧」
戦闘行動不能となった傭兵は、艦娘部隊の為に自らが生成した「安全な通り道」を使って後方へ。空挺降下をした彼らをすぐに回収する手段はない。退避した者は、巡航モードで海上待機する。
整えた戦線をさらにタワー側へと押し込み、傷口を広げていく。合わせて、深海棲艦側も残存姫級を投入。圧迫を強めた。
海上でハンデを背負う傭兵達はそれでも戦果を上げていく。
そして。
「エリアW29。コードネーム、ブラックバードを確認」
パルヴァライザー。
報告を受けて、待機していたネクストが一挙に前進。ブラックバードの取り巻き掃討を開始する。安易に撃破してはいけないことのほうが、よほど枷に感じる機体とリンクスだ。掃除はかなりのペースで進み、乱戦の戦場に確かな闘技場が出来上がっていく。
ジャックは一つ息を吸い、静かに吐き。
「出撃」
号令。
艦娘部隊が、ジャックが指導する部隊を護衛として前進を開始した。護衛AC部隊は、バーテックスを構成したジャックの中核メンバー及び彼本人が勤めた。
そして今ひとつ。最後方にいた強襲揚陸艦の平甲板上もにわかに騒がしくなる。
即席の射出機をつけたさらにその上で、艤装背部にロケットブースターを取り付けた艦娘達。
射出機の点検を行っていたファットマン社の搭乗員が下がっていく。
二人の黒い鳥が、両脇へと視線を向ける。共に戦ってくれる部隊の仲間が、姉妹達が、そこにいる。
甲板上では、揚陸艦の乗員とファットマン社の作業員が見送りに並んでいた。彼らに片手を掲げて、もう一度その目で仲間達を確かめて、戦場へと向く。
「遊撃部隊。聞こえているか」
通信に、男性の声がやってくる。
彼女たちに一つ道を示した個人、ジャック・O。
「信念など、それだけでは何も生み出さん」
「‥‥‥」
「だが、信念なくして事は成らん」
「かも、な」
「生きて戻れ。それが、君達が自らに課した責任だ」
どのような困難でも、必ず戻って来いと。
『ミッション開始。出撃』
ただ一機運んできた大型ヘリ、搭載された戦術指揮支援システムアンジェリカが、上空から号令する。
ロケットに点火。
最大噴射。
わずかな滑走の後、まず第六水雷戦隊の少女達が空へと飛び立つ。
続けて第27部隊。そして第31部隊が羽ばたく。
ぐんと加速していく。どこまでも。
「ひゃっはー!」
「商船改装空母!」
「隼鷹でーす!」
「お前ら余裕だな!?」
遊び始めた陽炎・村雨・睦月の各部隊長に、長月が唖然として叫ぶ。
「間宮さんが、とっておきのサラダを作って待ってくれてるんだよね」
「実は私、基地に恋人がいるのよ。戻ったらプロポーズしようかなって」
「聞いて如月ちゃん。私、気付いちゃったの。ゲームに勝つ方法っていうのを」
「フラグを立てるんじゃない!」
今だからこそ気を使って提供される会話と共に。
鳥達は力尽きたu-ACを越え、傭兵達の頭上を越え、追いすがろうとする無人機を振り切り。共に戦ってくれる仲間達が整えてくれたアリーナへと一気に。
『作戦領域に到達。パージします』
VOBが切り離され、分解。少女達は慣性でなお飛び、重力に従って。
着水。
周囲に展開している選抜部隊が、周囲の有象無象を押さえている。用意されたアリーナに、それはいた。周囲のAC部隊に手を出さず、飛翔する彼女達をその砲で迎撃することもせず、彼女達の到着を待っていた。
赤黒い鳥。機械の鳥。
所詮は機械に、威圧というものは感じるはずがない。しかし彼女達は恐ろしいと感じた。逆らえない何かに睨まれているかのような圧迫感。
強敵から目を離さない。
主砲のグリップを握りなおす。
陽炎が、部隊長として奮い立たせる為に声を上げる。
「行くわよ!」
『第一遊撃部隊、攻撃開始』
守る為の力を、敵に向ける。