艦隊これくしょん VERDICT DAY   作:水崎涼

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The Perfect Rose

 

 

 

「説明を要求しよう」

 

 すべての疑念をただひとつその言葉にまとめて、ジャックは帰還した吹雪と五月雨を含めた女性三名に向いてそう述べた。

 もちろんそのような短い単語で彼の真意を察せるほど彼女達は全能ではない。三名は顔を見合わせ、そして年少二人は彼女達の責任者である由良に向き、その由良は困ったような表情をジャックに向けて浮かべた。

 

「えぇと、一から順を追っていただけると」

「ACを懸架できるほどの大型ヘリを所有し、女子供だけで扱い、水上に立つフロート技術を持って得体の知れない物体と戦う。君達は何者だ」

 

 そこまで噛み砕いてもらって、ようやく由良は、彼が自分達の存在そのものを知らないという事を理解した。

 

「私達は艦娘です」

「そのカンムスという組織は」

「組織ではなく、艤装を持って水上を走る、私達の存在というか職業と言うか、そういうものを指す言葉です。そして先ほどの敵は深海棲艦。一言にしてしまえば、私達の敵ですね」

「聞いた事のない兵器だな。君達の所属はどこの企業だ」

「鎮守府といいます。企業ではなく、国でもない。PMC(民間軍事会社)みたいな物と思っていただければ」

「武装勢力か。それでその君達が私を確保する目的は何だ」

「えぇと。私達は、鎮守府を通して依頼を受け取り動きます。今回は、あなたとあなたのACの回収が依頼でした」

 

 傭兵派遣組織、レイヴンズアークのようなものかと、ジャックは納得はしがたかったが理解はした。生身の女子供を派兵する組織など、少なくとも彼の記憶にはなかったが。

 ではこの鎮守府とやらの組織はどの企業が噛んでいるのだろう。この大型ヘリも彼には見知らぬ型だった。

 

「このヘリは」

「F21C/G型。ストークと呼ばれています、艦娘用の大型ヘリです。私達はこれに乗って、戦地に飛ぶことになります」

「本当に君達しか乗っていないのか」

「操縦は脳内スキャンを出来るヘッドセットを使えば簡単なんですよ。この通り、オートパイロット機能も充実していますし」

 

 ヘリの操縦は、通常は訓練を十分に行わなければできない。だが操縦席から離れたまま応対する由良に、ジャックも首を縦に振らずにはいられない。

 

「私達には、一部隊につき一機のヘリが与えられています。搭載数の関係もあって、一部隊は最大6名程度ですね。私達は第11部隊になります」

 

 そうすらすらと答えられても彼にとって疑念は尽きないのだが、どこからか通信が入ってきたことによって会話は中断された。

 ヘリが下降していく。モニタにはガイドビーコンが写し出されている。特に彼女達が何をするでもなく、ヘリは指定された航路を飛んで。

 外の景色へとジャックは目を移す。窓の外には大海原ではなく、広大な土地が見えた。アスファルトで舗装された、ただっ広いヘリポートだ。サイドバイサイド型の大型ヘリが何機も駐機している。あたりは海で、山は殆ど見受けられない。どこかの島のようだった。

 

「到着しました」

 

 そして由良は、微笑む。

 

「鎮守府―――トラック本拠へようこそ」

 

 

 

 □

 

 

 

「第48部隊、離陸準備完了」

「サベージビースト、いくぜ!」

「おいばか、そっちは艦娘の駐機エリアだ、戻れ!」

「バレットライフ、A52ガレージに入りました」

「ストリートエネミーのスタティックマン出撃用意だ、急げ!」

 

 そこは別の意味で戦場であった。どこもかしこも慌しい。

 破損甚だしいAC、フォックスアイを下ろし、改めてヘリポートへと進入した第11部隊のヘリは、その大地に降り立った。

 

「随分慌しいのだな」

「戦争ですから」

 

 それだけ述べて、由良はヘリの元までやってきた人間と会話を始める。

 ジャックは見知らぬその土地を眺める。広大なヘリポートには、着陸前に見た大型ヘリ。間近で見ると改めて良くわかる、異質な大きさだ。下手な輸送機ばりの大きさのヘリは、AC一機程度は余裕で運べる力がある。むしろ、その為に作られたかのようにすら彼は感じた。

 鉄柵の向こう。愛機フォックスアイの残骸を下ろした方向には人の形を模した、二足歩行の鉄の塊。姿の違う人型が何機も、並んでいる。

 あまりにも見慣れた。見慣れすぎた。

 アーマード・コア。

 

「なるほど。鎮守府と言うのはレイヴンを囲っているのか」

 

 レイヴンの質にもよるが、これならば体裁以上の力があるだろう。やはり彼にとって腑に落ちないのは、これほどの規模を有していながら、自身が今までこの武装組織の存在を知らなかったという事だったが。

 ジャックは一度目を離そうとして。

 そして、それまでで最も信じがたいそれに目を奪われた。

 彼が見ていたのは一機のACだ。オレンジと緑を基調とした、武器腕の中ニ脚型。

 バーテックスの一員であり、ジャック個人としても親交のあったレイヴンのAC。

 

「ウコンゴ・ワ・ペポ‥‥‥?」

 

 その機体名を口にして、ありえないとかぶりを振る。

 彼は、ンジャムジは戦死したのだ。ドミナント候補であった奴と、ドミナントたりえずと切り捨てた自身の依頼によって。

 アセンと塗装が似通ったならまだよし、モリ・カドルのような品のない模倣者であればいっそ粛清してやる所だが。今は自身もそれどころではないと、会話を続ける由良に目を向ける。兎に角彼にとっての重要事項は、サークシティを初めとした守るべき都市達の無事の確認と、この武装勢力についての詳細であった。

 そしてその武装勢力の一員である由良の話相手が、自身にむけて呼びかけていることに始めて気づいた。

 

「そこの」

「すまない、余所見をしていた。私に何か用事か、あなたは」

「マギーさんです。ヘリの修理や補給をしてくれます。AC乗りでもあるんですよ」

 

 にこりと微笑み紹介する由良に、無愛想なマギーと言う女性は会釈もしない。

 AC乗りとの説明だったが、ジャックはにわかに信じられなかった。女性だからではない。彼女の左腕は、既に肉体としての役目をなしていなかったからだ。まるで動かないのか、だらんと垂れ下がったまま。

 その彼女は静かに。

 

「死に損ねたわね」

「そのようだ」

「機体はもうガレージに送ってあるから、好きにしなさい。あなたとの縁はそれで終わり。小娘に面倒を見てもらいたくなかったら、次はうまくやることね」

「ガレージ?」

 

 こんな見知らぬ土地の見知らぬ武装組織の中に、自分のガレージがあると言うのか。

 そもそもだ、とジャックは思う。由良の言葉を信じればだが、彼女達は自分の回収が依頼だったと言う。鎮守府と言うこの組織が自身のことを知っているのは、有名税という事で理解できる。では何の為にとなる。客人にしては待遇がよく、バーテックス創始者として何か影響力が欲しいというにしてはあまりにも扱いが粗雑である。だいたい、自身の意識が途切れた地殻の下にあるインターネサインから、どうやって彼女達はACもろとも運んだと言うのか。

 これは、と悩んでも、思案するには材料が不足しているのだから進まない。

 

(まずは探りを入れるか)

 

 幸いにして自分にはガレージがあり、つまり居場所が用意されているらしい。そこに向かうのはひどくたやすいことだ。そんなものはいつでも調査できる。なれば、今この状況を利用した何かを行えないか。

 「シャトルバスが来るまで待ってて」とマギーが由良たちに声をかける。

 シャトルバス。向かう先は彼女達の寝床か、あるいは。

 

(依頼達成の報告の為、本部に立ち寄るか)

 

 それはよい。一挙に組織の根元に辿り着ける可能性がある。

 

「マギーといったな。私の資金はどれくらいあるか調べてもらえるか」

「なに?」

「機体が大破したのなら修理費がある。武装も変更したい」

 

 でっちあげの理由に納得したマギーは、端末を操作してジャックに投げ渡す。

 通貨単位は見知ったもの。通貨価値も同じであるなら、量は十分だ。修理武器購入どころか、複数のレイヴンを抱えて都市ひとつを占拠運営できる程度には。つまり、バーテックスを立ち上げる直前の状態である。

 

「ふむ。由良」

「はい、何でしょう?」

「救助してもらった礼がしたい。シャトルバスに同行してもよいか?」

 

 言葉に由良はきょとんとし、そして脇の吹雪と五月雨はというと両手を挙げて飛び跳ねた。

 

「いいんですか? やったぁ!」

「では、ご好意に甘えますね」

 

 ジャックもほくそ笑む。少々の出費で、あれこれ調べて回れる。彼は適当に話を合わせながら、借りた端末をマギーに手渡した。

 だがマギーは受け取らない。それにジャックがいぶかしんでいると。

 

「昔話をしてあげる」

「‥‥‥何?」

 

 問い返すも無駄で、マギーはそのまま語り始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

神様は、人間を救いたいと思ってた。

 

 

だから、手を差し伸べた。

 

 

でもその度に、人間の中から邪魔者が現れた。

 

 

神様の作ろうとする秩序を、壊してしまう者。

 

 

神様は困惑した。人間は、救われることを望んでいないのか、って。

 

 

そいつは、黒い鳥って呼ばれたらしいわ。

 

 

何もかもを黒く焼き尽くす、死を告げる鳥。

 

 

 

 

 

 

 

 

 短い歌のような。

 神。黒い鳥。

 

「それが?」

「それだけよ」

 

 つまらなそうに述べて端末を受け取ったマギーは、やはり身勝手にその場を立ち去っていく。

 

「初対面の人にはいつも言うんです、マギーさん」

 

 由良は困ったような笑みを浮かべて。

 やってくるバスへと目を向ける。

 

「さぁみんな、行きましょう」

 

 

 

 □

 

 

 

 シャトルバスの中で和気藹々とする女性陣に対して、ジャックの注意はそのほかに向けられていた。

 まずは居並ぶヘリだ。馬鹿のような大型ヘリは格納庫部も含め、30機は余裕で保有しているだろうと推測できる。要塞砲に対空ミサイルシステムも配備されているのがジャックの目にしっかりと捉えられていた。柵の向こうはレイヴン用の敷地のようで、こちらも馬鹿のように格納庫が並んでいる。見えるだけでも50機分、加えてそれを輸送する為のヘリや輸送機及びその滑走路。これらは既に、レイヴンズアークのガレージ規模を超えている。そこらの武装勢力ごときが保有していい戦力ではない。

 次に目に付くのは、そのヘリポートで作業している人員。

 作業員らしい服装の人間はいい。だが、相席している由良達程度の女子供が、相応数見えているのはどういうことか。

 ヘリポートを走るバスの先には、建屋が見えてくる。ガレージのような質素なものではなく、赤レンガを使用した立派な作りだ。経年でややくたびれた様子は窺えるものの、隠す気のない堂々とした建て方は、秘密裏に運営している様子はないことを示している。

 建物に到着し、ジャックはひとまず由良達に従う。依頼に対する報告は既に通信によって終えており、ジャックが期待した、十分な地位を持った人間との面会は叶いそうもなかった。

 そして。

 

(ここにも子供か)

 

 成人もしていないような「女の子」が、建物内を自由に歩いている。由良たちへのお礼としてスイーツを送る流れになったのだが、案内された食堂は、厨房に女性が二人。やはり若い。

 

「子供ばかりでは大変だろう」

 

 なぜこんなに女子供ばかりなのかという率直な疑問は飲み込んで、適当に振る。

 

「そうでもありませんよ。皆さん、よくしてくれますし」

「そうか。しかし先ほどのは驚いたな」

「?」

「私はまだ、レイヴンになってから日が浅いのだが。君達の戦う姿をじかで見るのは初めてでね」

 

 先ほどからみる娘達が、由良達の「同業」であると推察して。ヘリの中で晒した醜態分は回収不可能なので、ジャックは始めて見たという事にしておく。

 それに、由良は納得したような様子を見せた。

 

「あぁ、だから知らなかったんですね」

「生身で戦う姿は驚きだ。怪我とかはしないのか」

「えぇ、まぁすることもありますが。艦娘の艤装、背中に背負っている装置ですね。粒子装甲とかエネルギー障壁、防護フィールドと呼んでいますが、あれは周囲にエネルギーを安定還流させる機能があり、あらゆる物質の接触を阻み軽減します。ただ、被弾の衝撃で艤装にダメージが入るので、そうなると能力が落ちます」

「その状態で被弾すれば、か」

 

 生身で戦える理由は、そういうことらしい。そのような知らない技術が惜しげもなく注がれ小型化していることの驚きは、胸のうちに。そういう事として納得しておかなければ、驚いてばかりでは心が持たない。

 席に付いた四人は各々にメニュー表から好きなものを選び、注文。文字もジャックが読めるものであったのは幸いだ。

 

「君達は望んでこの仕事をしているのか」

「はい。志願制ですから。そして、適性試験があります。なりたくてもなれない子達を思えば」

「どうも君は経験者のようだな。艦娘をして長いのか」

「私は三年目になります。この中では五月雨ちゃんが一番短くて、半年ですね」

「それにしては良い動きだ」

「えへへ、ありがとうございます」

 

 世辞の句だったが、青髪の少女は額縁通りに受け取ったようで照れたように笑う。

 

「ヘリの中で、部隊は最大6名と言っていたが、他にも部隊員が?」

「いえ、第11部隊はこの3人です。ヘリに積める艤装が6名分前後というだけで、実際に充足させている所は少ないですよ。稀にですが、単独の所もあります」

「統合はしないのだな」

「好きに組んで、好きに戦っていいとなっていますからね。でも最近は財団騒ぎのせいで、くっつくところが多いようです」

 

 いい具合に由良が漏らしてくれたことに、ジャックは内心でほくそ笑む。その財団なる存在が、この近辺の情勢についての重要な話であるのは疑いない。

 

「そう、その財団だ。私も詳しいことは知らないのだが、あれは一体どういう話だったのか」

 

 ジャックが適当にとぼけて見せるだけで、由良はどんどんと情報をジャックにもたらしていく。

 

「私も、表に出ている話しか。世界に輸出されていたユーナックを初めとした財団無人兵器が、一斉に暴走。人類海軍、深海棲艦、そして私達いずれにも攻撃を加えていて、財団からの声明などは特にない。マギーさんの話だと、無人機のロジックパターンに時限式のウイルスが含まれていたと言う話で」

 

 鎮守府、深海棲艦ともうひとつ、人類海軍なる組織がある。

 ユーナックなる物が財団の主力製品である。それが暴走、三勢力を加害している。 

 三大勢力。現れる無人兵器が破壊をもたらす。

 そう。それはまるで。

 

(財団というのは、旧世代の遺物と関係が?)

 

 恐らく旧世代の遺物を三勢力がユーナックと呼んで使用しており、しかしそれが財団のコントロールによって破壊活動を行っている。インターネサインのような装置が世界に複数ある可能性は確かに否定しがたいのもだ。そしてそれがあるのなら、パルヴァライザー、あの破壊者の模造品がいる可能性も。

 もしもあるとするならば。それは破壊しなければならない。人が人である為に。

 ジャックの脳に浮かぶのは二人のドミナント。今度はいちいちバーテックスのような存在を立ち上げて、などという手間は要らない。持てる資金力で彼らにもう一度依頼し、この地区の人類の未来を救ってもらえればそれで済む話である。

 ならば。ここは一体、自身のいたサークシティから見てどこにある海とその島なのか。連絡を取るにもそれがわからなければ。

 などと考えている間に、テーブルに商品が届けられた。パフェに最中に。ジャックが必要な情報はそれらの味ではなく、このような商品が提供できる程度に物資は豊かである事実だ。

 もちろん、喜んで頬張る年少二人の姿には、彼なりに思うところはあったが。

 

「‥‥‥うまいか?」

「はいっ! ありがとうございますジャックさん!」

「礼はこちらの台詞だ」

 

 悪い気分はしないが、とジャックは考えて。

 と、その時だった。

 何かの電子音が鳴り響く。由良は左腕を掲げると、腕輪型の装置を弄って空間にモニタ表示を出す。

 

「どうした」

「鎮守府待機中の部隊に依頼のようですね。敵水雷戦隊の撃破。二人とも、行く?」

「はい!」

「やります!」

「じゃあ申請を出して、と」

 

 とんとん拍子に話は決まり。

 ジャックは考える。

 まだまだ自身の状況が飲み込めていない現状において、彼女達は非常に「扱いやすい」そして「便利な」相手だ。話せる程度の縁もできたのだし、折角の状況を利用しない手もない。

 

「その依頼、私も同行しよう」

「え?」

「命の礼がデザートひとつと言うのも物悲しい。分け前を奪う気はない、報酬は君達が手にしてくれ」

 

 そして、ジャックは吹雪に向いて。

 恐らくこの中で一番、実直で扱いやすそうだと判断した娘に向いて。

 

「君達と一緒に仕事がして見たいと思ったのだが、どうだろうか」

「どうぞ! 一緒に行きましょう!」

 

 無邪気に、吹雪は笑う。

 

 

 

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