艦隊これくしょん VERDICT DAY   作:水崎涼

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Stardust

 

 

 

 有力なレイヴンを抜き取られた正面は、打撃力の低下を免れなかった。タワーへの道は、いまだ切り開かれていなかった。

 ジャックはオペレーターに要請して残存のu-ACをかき集めると、無停止進撃を指示した。初撃より出ずっぱりであったu-ACは既に弾薬を使いきったか、稼動限界までわずかという有様であったが、ただただ浸透したu-ACに釣られた敵を傭兵は確実に落とし、戦線を刻んだ。

 これ以上の遅延は許容できないと、艦娘の空母機動部隊は艦載機発艦を下令される。制空用の艦上戦闘機のみを出して、財団の飛行物体をレシプロ機が追い回していく。上空支援にて戦線は大きく動き、そして十分に制空権を確保した所で、ここが投入のし時と艦娘本隊が戦列に参加した。先鋒は水上打撃部隊。疲労を迎えた傭兵を追い越して躍進攻撃。艦砲で進路上の敵を叩き伏せる。

 そして、開いた空間に予備待機していた傭兵達が浸透する。戦術が、戦力差を跳ね返し。

 届いた。

 

「進路を確保しろ」

 

 到達報告を受けて、水上打撃艦隊が二分して両翼を広げ、その中央で空母機動部隊が輪形陣を構成し防備に入る。水雷戦隊が突入し、戻ってくるまでの間、この場所を堅守するのが仕事だ。

 温存していた武器腕や肩部グレネード持ちACを押し出し、タワー外壁に向けて発射。特に、この為に本隊に随行させたネクスト、雷電の背部グレネードが、圧倒的な爆発と共にタワーの外壁破壊に大きく寄与した。

 開いた大口へ、まずはジャックが護衛として連れてきたバーテックスの面々が突入する。

 内部にまで用意されていた自衛システムの砲台を一台ずつ、確実に破壊していく。それら処理を確認すると、ジャックは艦娘部隊を迎え入れた。

 突入する艦娘は水雷戦隊と、引き抜いた長門型戦艦娘を二名。

 背中を仲間に任せ、水雷戦隊は内部へと侵入を果たした。

 

「これが。タワー、ですか」

 

 第11部隊の吹雪が、呆けたように声を上げる。

 初めて見上げるその全貌。彼女達はその空間に驚き、それ以上に肩透かしした。

 上層構造物や海中の地下部分がどうなっているかは不明であるが、一階と呼んでいいその場所は表現するならば、水没したドーム型闘技場といったところか。所狭しと兵器製造ラインで埋め尽くされているか、あるいは人が使うビルの内部のようなものを想像していた彼女達は、威圧的な構造物の中身がこのような空洞であることに困惑した。

 艦娘が機動できつつも、ACは水没を免れる程度の水深。

 まるで。

 艦娘が入れるようにしたように。

 

「呆けている時間はない。作業に入ってくれ」

 

 付き添ってきたジャックの言葉に、艦娘達は弾かれるようにしてその目的を思い出し、それぞれに動き出す。

 海上に無理やり立てた高層建造物ということで、タワーには欠陥とも呼べる構造的な無理が指摘されていた。要所の柱へと、艦娘達は担いできた爆薬や搭載魚雷を取り付けていく。建物の爆破倒壊そのものは、もう二度と誰にも利用されない為の措置だ。確実に中枢のエネルギー炉を破壊し、機能停止を確認すること。爆破はその後の話。

 作業の間、バーテックスの面々はさらに奥へ。ほどなくして分厚いゲートを見つける。ACがそのまま入れる大きさだ。財団兵器の規格を初めとしてそのOS電子情報は、フォーミュラチームのプログラマが解析していた。一時的にコントロールを掌握しゲートロックの開放位は行える。

 

『基幹部へのロックを解除しました』

 

 電子音声と共に、重厚なゲートがゆっくりと開放されていく。完全開放をじっと待ち、そして電子回路をハイレーザーライフルで破壊する。物理的に遮断してしまえば、もう誰にもゲートを閉じることは出来ない。

 ジャックは愛機を駆り、さらに奥へ。

 廊下のような通路。そしてその奥に、ゲートが一つ。ここまでこれ見よがしだと罠を疑いたくなるほどであったが、壁面に砲台が隠してある様子は見受けられない。

 彼は一つ息を吐いてから、通信で艦娘達を呼び寄せた。それぞれの作業を終えた者からフォックスアイの元へと集まり、少女達は点呼代わりにお互いの顔を確かめ合う。

 

「揃ったな。図面から、この奥が中枢だ。君達は」

「ジャック」

 

 ライウンからの呼びかけに、返答を待たずして彼は元来た空洞へと向いた。レーダーに熱源反応が一つ。外の艦娘部隊が瓦解して敵の内部進入を許したとは、経過時間的には考えにくい。念の為に艦娘達を奥へと移動させてからブースターを吹かし、ジャックは空洞で待機していたライウン達と合流する。

 そして、目を見張る。

 

「馬鹿な」

 

 そこにいたのは、一機の機械兵器であった。ジャック達3型ACよりもはるか大きい。

 財団の量産型である目玉飛行体ではない。登録済みの中型以上の高脅威標的でもない。アーマードコアでもない。いくつかの機械的触手を取り付けた異形の浮遊体。

 蒼く発色する、青い機械。

 それはACではなかったが、紛れもなく。

 

「パルヴァライザーだと。では」

 

 では。

 表の遊撃部隊が戦っている赤黒いあれは、何だ。

 問答無用とばかりに、ライウンが肩部の大口径レーザーキャノンを起動し、放つ。だが着弾の瞬間、パルヴァライザーが前面に展開したエネルギーシールドのようなものによって阻まれた。ACの持ちえる最高クラスの火力が、たやすく防がれる。

 

「ジャック!」

 

 適合者の長門と陸奥が、ただならないと理解し支援すべく動いた。

 だが彼女達の進路を、ジャックの操るフォックスアイが阻む。

 パルヴァライザー。

 だから何だというのだ。

 やるべき事は変わらない。

 

「この場は引き受ける。その為の我々だ」

「しかし!」

 

 私達も戦いましょう。水雷戦隊の面々が、そう口々に進言する。操縦席のモニタには、訴えたがっている適合者由良の姿も映し出していた。

 彼女達にとって切り札たる魚雷はすべて爆薬として設置済み。この閉所では機動も難しい。水雷戦隊としての強みを失っても、ACの大火力砲を阻まれたのを目の当たりにしながら、なお恐れず一部の艦娘などは許諾を待たずパルヴァライザーに向かうべく動き出した。

 しかし少女達の行動はいずれも、ゲート前でフォックスアイが吹かしたブースターの圧力で挫かれた。

 

「君達の帰りを待っている者がいることを忘れるな。成すべき事を成せ」

「っ‥‥‥了解した。これより中枢破壊に向かう。各位、彼を信じ前進しろ。急げ!」

 

 なお食い下がる駆逐艦達は長門に叱咤され、不承不承に、そして振り払うように全力で動き出す。破壊されれば再生産される。機能を破壊してからでなければ、パルヴァライザーの撃破に意味はないのだ。

 奥へと消えていく彼女達の姿が見えなくなるまで、ジャックはジャックはカメラの映像を見つめ続け。

 正面、ではなく、脇へとカメラを向ける。

 搭乗者によってウコンゴ・ワ・ペポと名付けられたACが、彼の傍らにはいた。

 自身が切り捨てたはずの者。目的の為と使い潰して来たはずの者達。

 生きていることなどありえない。これは、夢だ。

 自身は選択をしたのだ。

 選択を、なかった事になどしてはいけない。

 

「ンジャムジ」

「ドウシタ、ジャック」

 

 呼びかければ、返してくれる者がいる。

 自身が捨てた選択肢。

 この道の存在を彼女達に教えて貰えた事が、この夢を見させて貰えた事が、前払いの『報酬』かもしれない。

 報酬を得た傭兵がやる事は、ただひとつ。

 

「行くぞ」

 

 正面に、向かう。

 彼女達が自らが示し選んだその道を行く事が、鎮守府に雇われた傭兵として、自らがこの世界で生きた証。彼女達が歩めるように、いかなる依頼をも遂行する傭兵として。

 用意された幕引きの場。それでも、好きなように生き、好きなように死ぬ為に。

 

 

 

 フォックスアイのハイレーザーライフルが、終わりの始まりを告げた。

 

 

 

 

 □

 

 

 

 

 艦娘と傭兵が出払ったトラック基地は、静寂であった。

 オペレーターも強襲揚陸艦に搭乗し、運搬役たるストーカー達は輸送機に乗って支援に向かった為、この基地に残る人間とはファットマン社整備部門や警備部門の「AC乗りではない人間」と、「決戦に生き残る見込み薄しと振り落とされた傭兵」、そして「依頼を拒否した傭兵」であった。

 もっとも、その中でも気概のある者は、各々依頼を受けて基地を離れている。依頼ならば、既存のものから、タワー攻撃の側面支援まで幾多ある。今この場に残る傭兵とは、ジャック・Oが心底に軽蔑する弱者であった。

 静まり返ったトラック基地。

 その埠頭から静かに、一人の女性が海へと降り立っていた。

 女性は、大淀と言った。鎮守府司令であり、艦娘でり、オリジナルであった。

 彼女は戦うことをやめたのではない。ジャックから、鎮守府司令としての責務を果たすようにと、艦娘本隊への随行を許諾されずに留まらざるを得ない者だった。何度も嘆願したが、それでも容れられなかった。

 鎮守府司令という責務として港を守る。母港を母港たらしめる。それが彼女が背負った、役割としての責務であった。

 その彼女は、艤装を身に纏って海上にいる。

 

 

 

 多数の飛行物体が、鎮守府に向けて飛来中

 

 

 

 その報が前線よりもたらされたのが、つい先ごろ。

 体当たり攻撃を仕掛ける、爆薬を搭載した特攻兵器が基地を襲撃するかもしれない。ジャックが、その出立前に警告として残した言葉が、現実になろうとしている。

 

「あんた、何してるんだ」

 

 男性の声が、埠頭から大淀へと向けられる。

 何をするのか。決まっている。

 

「戦うんです」

 

 守る為か攻める為の違いはあっても、艦娘が海に出る理由は、他にはない。

 

「こんな兵器が飛んでくるという事は、皆さんの攻撃は失敗したのかもしれません」

「なら」

「それでも、ここは私達の帰るべき場所なんです。皆さんを信じて、戦うことが私達の生きる道だと。そう、信じています」

 

 この基地は、皆が戻るべき場所である。彼女達の家である。戻るべき港は、何の心配もいらず安心して戻れる、安全な場所でなければならない。だから戦うのだ。

 報告では、飛翔体のその数は把握できないほどだという。海上レーダーも同様に、誤作動を疑うほどの数を検知している。トラック基地にはその防備として高射機関砲が用意されていたが、決して十分な数ではない。そこにたった一人の艦娘が加わったとことで何が変わろうか。

 それでも戦うのだ。

 

「NK-432、沈黙。敵到達予想時刻、1142」

 

 鎮守府待機となっていたオペレーターからの報告。このような事態の為の基地であったが、同時に、それがどれほどの効果を及ぼすかも知れたもの。

 トラック全土に、空襲警報が鳴り響く。

 小さなレシプロ機のエンジン音が響き始める。対深海棲艦用の局地戦闘機雷電や飛燕、前線部隊から下ろされた紫電改二だ。ロケット推進らしい特攻兵器を相手とするにはあまりに非力だが、与えられた防空任務を果たすべく、順次空へと上がっていく。

 ふと、レトロなエンジン音の中でブースターの唸る音が耳に届いて、大淀は守るべき鎮守府へと振り返る。

 青い鋼鉄が、上空で待機している。この基地に残った数少ない4型AC。その搭乗者である男性が、緊張交じりの笑いを含んだ声で語りかけた。

 

「な、なぁ。セレブリティ・アッシュって知ってるか」

「はい。あなたの機体の名前ですよね」

「コミックヒーローでさ」

 

 一度は戦うことをやめた傭兵が、憧れる英雄の名をつけた機体の中で不器用に笑おうとして、情けない乾いた笑いになった。

 彼の勇気に大淀は一つ微笑んで見せて。

 

「ミサイル迎撃なら、ACに任せてくれって。ほら、フレアもあるんだ、一応」

「知っていますか。ヒーローは、絶対に死なないんですよ」

「は、はは。このくらい俺達の敵じゃないぜ」

 

 言うほどに自身の腕を信用していない彼は、しかし女性の手前冷や汗もので強がる。

 

「‥‥‥お?」

 

 強がる彼が、横を向く。合わせて機体の頭部も同じように動いた。

 何事かと大淀は視線をやり、大いに驚き。

 かっと頭に血が上った。

 それは少女達だった。幾人かの女性が、背中に装置を背負って埠頭から海へと出て行く。

 

「あなた達、何をしているんです!」

 

 大淀が強く咎める。

 彼女達は艦娘だった。正確には、適合試験だけをパスした艦娘候補生だった。教練が間に合わず基地待機となっていた卵達が、年長達の音頭で教科書通りの輪形陣を構築しようとしていた。彼女達はオリジナルと違って、過去の記憶など持っていない。陣形はあまりに不恰好で、傍目にも不安を誘う。

 

「候補生は基地内に戻り避難しなさい」

「私達も戦います!」

 

 無茶だと、大淀は表情を歪める。実戦どころか、航行練習の段階の者達だ。挙句に、優良装備はすべて前線部隊に回された為、彼女達は工廠に残されたジャンク装備を引っ張り出し携えていた。

 だめだ。犠牲を出すだけだ。そんな事は許容できなかった。だが大淀が何を言っても、彼女達は聞き入れない。軍人ではない艦娘の統率限界だった。

 なお説得を試みようとしていると、あたりに重々しい鋼鉄の歩行音が響き始めた。数メートルの鋼鉄が鳴らす、重厚な音。

 アーマード・コア。

 それが決戦に声のかからなかった中堅所であれば、まとまった依頼が来たと無視したであろう。しかしアリーナに価値を見出す傭兵や、第一世代から更新できない新参傭兵も多く混ざっていた。

 いかな理由があろうとも、彼らは傭兵だ。そこに依頼と対価がなければ動かない。

 そのような依頼、大淀は出していない。

 

「そんな。誰が」

「不参加の傭兵に、ジャック・Oって奴が送信してたぜ」

 

 決戦に呼べる腕もない、呼びかけても無言と言う依頼拒絶をした登録傭兵すべてに、基地防衛の依頼を配った男がいた。

 一人海へ出て行く女性や、そこへ向かう自らの同類たる傭兵の青いACを見て。釣られるように。内実は情けないものではあったが、彼らもまた闘いの中に身を投じることを決めた。それは確かな意思であった。

 戦ってくれる者達がいる。たった一人の軽巡と駆け出し艦娘だけではできない事も、彼らとなら遂行できるかもしれない。

 うれしくて、泣いてしまいそうになる。

 

「‥‥‥部隊はこちらの指揮下に入っていただきます。これより艦娘部隊は第三港湾へ移動」

 

 安全な場所などないが、敵の標的はまずは防空網、主要地上施設、そして高脅威兵器ACのはずだ。多少は生残性の向上が見込める。

 

「轟沈は許可しません。私が退却号令を出したら、7番水道を通り金曜島南部へ退避します。絶対に私から離れないでください」

「了解!」

「集った傭兵各位に伝達します。生きてください、それが私からの依頼です」

 

 次いで、大淀はセレブリティ・アッシュに現地点の防衛を依頼すると、候補生達を連れて移動を開始した。

 しかし、今からの移動で間に合うのか。着弾時刻の10時42分はもうすぐだ。考えたその時、遠くからロケット推進の噴射音が響いてきた。いくつかの白煙が高速で、局地戦闘機のさらに上空へ舞い上がる。同一の方角を目指して尾を引き、見えなくなり、遠くで炸裂するのを見た。

 別の方角からも、噴進音と共に飛翔物が現れる。それらは最初の一撃に導かれるように同じ空へ向かい、やはり炸裂した。

 それらは彼女にとって馴染みのあるものではなかったが、確かに知っている兵器だった。

 

「艦対空誘導弾‥‥‥」

 

 鎮守府もファットマン社も、軍艦は保有していなかった。壊滅が予想できたNK-432基地にはどの艦艇も張り付かせていない。基地海域に進入を許可した中で、艦対空ミサイルを撃てる通常艦艇は。

 先日燃料輸送にやってきた石油タンカー、その護衛の混成駆逐艦隊。

 さらには艦艇用近接防御火器システムが唸る。

 

「ミサイル駆逐艦ヴードゥシシィ他五艦より、鎮守府宛に電文。幸運を祈る。以上です」

「‥‥‥同じ言葉を、彼らに伝えてください」

 

 これ以上の会話が記録に残ると、特に相手には不都合も生じる。今は、これだけでいい。

 稼いでもらった時間で、候補生の移動が終了した。

 ACが空を見上げる。トラック基地の各所に配置された最終防御の35ミリ高射機関砲が、降り注ぐ雨に向けて火を噴き始めた。

 

「総員、対空戦闘をお願いします!」

 

 下令した彼女も、噴進砲を放つ。

 

 

 

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