艦隊これくしょん VERDICT DAY   作:水崎涼

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Counterattack of the Warrior Spirit

 

 

 

 パルヴァライザーの誘引、生残重視の回避戦術。

 遊撃部隊は、確かに任務を果たしていた。作戦継続不能の脱落者も、途中までは十分に許容範囲であった。

 その均衡は、赤黒い敵によって砕かれた。手はず通りに退避とその護衛をしていた者へ追いすがって狙い、叩き潰しに来たのだ。

 彼女達の目的は、皆で生きて帰ることだ。だから、回避も防御も難しくなった損傷者を、何としてでも逃がすべく庇う。防御行動で回避が疎かになった者が潰される。それをさらに護衛する為に、戦力を切り崩す。ジャックがかつて夕張に語った懸念、切り捨てられないが故の弊害が起きていた。

 周囲で乱戦を繰り広げた財団兵器は確かに止まった。それを認識も出来た。

 だがこの時にはもう、十分に動ける者は片手で足りるほどまで撃ち減らされていた。

 

「くそっ」

 

 オーバードウェポン。彼女が背負うのは艦娘基準の兵装ではあるが、手にある豆鉄砲よりは目がある。

 違うのだ。

 そう唇を噛む。

 先頭を行く陽炎がレーザーに炙られ、艤装から黒煙を吐きながら落伍していく。その陽炎に向けて、鳥は多数の誘導ポッドを射出した。

 彼女を無視して翼を広げ挑みかかれば、撃破できる可能性はある。

 

「私、はっ!」

 

 反転。機銃弾を撒きながら、防護障壁を失くした自らの部隊長の前に出て庇う。防御こそ成功したが、睦月型艤装の低出力弾幕防御はすぐに突破され、障壁を剥がされ、艤装にダメージが入った。それが、駆逐艦娘としての限界だった。

 追撃にかかる敵との間に、最後の残存ACマイブリスが割って入り、盾として被弾。少女と世界の為にプライマルアーマーを使用できないただの大きなACは、糸が切れたように、空から追い落とされ大きな水飛沫を上げた。

 

「クソが、空気読みやがれよ‥‥‥!」

 

 あとは、こいつを倒すだけだったのに。

 残っていた春雨と弥生が前進、ひとまずは脅威を引き剥がす。だがそれは春雨を警戒しての行動であり、彼らの組織的抵抗力によるものではなかった。

 

『31t長月、大破。艤装耐久、残り8%。艤装システムダウン。再起動開始』

「マジで使う気なかったのね、背中のそれ‥‥‥あんがと。ごめん」

「動けるか」

「巡航くらいは」

 

 守ったが為に、倒す機会が失われた。

 いいのだ。艦娘登録をしてからずっと面倒を見てくれた隊長を、守れたのなら。

 

「そっちは」

『再起動まで、後30秒』

「ポンコツ艤装め。再起したら逃げるわよ」

「待て」

 

 長月はかぶりを振り、ある一点へと視線を向ける。機能を失い沈み始めているアーマードコア、マイブリスの崩れた姿があった。

 パイロット、彼らが言うリンクスが内部から脱出してくる様子はない。作業用メカの延長たるACには様々な戦闘装置を詰め込むが故、緊急脱出装置などという気の利いた人道装備はほとんど廃されている。傭兵もまた、真に力尽きるまで戦い続ける。リンクスから操作不能に陥っているか、あるいは、運命共同体とも呼べる愛機から出て助かる気がないかなのだろう。

 だが、助けてくれた者を見捨てて、逃げる事などできない。それが彼女達でもあった。

 

「あ、あぁもう! 春雨、弥生。どれくらい時間稼げる?」

「支えて見せます!」

「了解。また後でね」

 

 戦闘が長引いていて、艦娘は砲や機関の出力が落ち始めている。具体的な時間が提示されないということは、そういう事だ。

 今生の別れになりそうな気がして渋い顔をしつつ、陽炎と再始動した長月はマイブリスの元へと駆けた。他の残存艦娘も、それぞれに鋼鉄を目指していく。救助すべき傭兵はロイ・ザーランドだけではない。

 マイブリスに取り付いた二人はアンジェリカからテルスコアの詳細図を貰い、コア周りを調べ始める。外からの開閉装置は見つけたものの、被弾のせいか作動しない。

 ACが、ゆっくりと没していく。

 

「こんのっ、開きなさいよ!」

 

 

 

「離れてくれ」

『グラインドブレードが接続されました。使用限界まで、後70秒』

 

 

 

 重々しい展開音とアイドリング音へぎょっとして振り返る陽炎の目の前に、強者と呼ばれた者がいた。

 艦娘の砲や魚雷では弱すぎるが、この馬鹿みたいな兵装であれば、馬鹿みたいな装甲とはいえEN防御型のテルスコアを貫けるかもしれない。コア前面ならば駆動系を気にする必要もない。

 

「いやいや、中身もひき肉になるってば!」

 

 ブースターで爆発的にグラインドしながらチェーンソーで貫く。大味すぎる攻撃兵装で解体作業を始めようとする長月を陽炎が止めようとするが、沈んでいく仲間を前に彼女は意思を変えなかった。全員で戻るという、自らに課した責務の為に。

 

「コアの設計図は頭に入れた。頼むぞアンジー」

『31t長月の艤装制御委託を了承。追加推進装置への回路を焼き切り、ブレード作動中に強制停止します。最終確認。よいのですね?』

 

 グラインド用推進装置を事実上破壊して滑走を止め、ブレード駆動もACを破壊しすぎないように強制停止。グラインドブレードは、一から作り直しを必要とするほど壊れるだろう。少なくとも、この戦闘では二度と使えなくなる。

 機械の鳥を自らの手で倒せる、その可能性を放棄しても良いのか。

 

「あぁ」

 

 個人の可能性に頼らない。全員で生きて帰る。

 それが、尊大な男と交わした約束。

 

『了解。推進装置への回路切断を完了しました。合わせます。どうぞ』

 

 コアに密着した彼女は、すべてを焼き尽くす暴力を、助ける為に叩き付けた。

 コア表面で盛大に火花を散らし、外装を破壊し内部へ。中ほどまで突き立った所で、心得たアンジェリカが駆動強制停止をかける。六枚の刃は回転を止めながら広げた指のように広がり、内部を押し開き、そこで完全に駆動を止めた。

 刃を引き抜く。モニタや操縦系統の電装の向こう側に、呆気に取られる男がいた。再び艤装が休憩に入った長月に代わり陽炎が乗り出して手を伸ばすと、ロイは電装を払いのけて艦娘の手を取った。

 

「愛機と一緒じゃなきゃやだって、駄々こねると思った」

「美人の涙が最優先さ」

「だったら最初から出て来い」

 

 引っ張ると、そのまま肩を貸して海上へと戻る。直後、リンクスの脱出を待っていたかのようにACマイブリスは脚部基部が折れ、海上から姿を消していった。

 他の傭兵と艦娘の間でも、類似の事が起こっている。小隊長同士が確認や脱出に関する合議をする中、オーバードウェポンの為にまたしても動けなくなった長月は、グラインドブレードを艤装との接続解除と共に後部ラックから切り離すと、折れた翼を海へと棄てた。役目は果たした。この力は、もういらない。使わないと決めた。

 

「ありがとう」

 

 自身と仲間を幾度となく助けてくれた仮初めの翼に感謝の言葉をかけ、姿が見えなくなるまで見送る。

 

「ごめんなさい!」

 

 通信から、涙声の謝罪が告げられた。

 燃料欠乏状態であった春雨がとうとう被弾大破。弥生一人ではもはや押し留められず、赤黒い機械鳥が長月達の元へと向かってきていた。

 唯一主砲が生きている陽炎が迎撃に撃つも、小さなエネルギー弾は装甲表面で虚しく炸裂するだけ。最前線に近い陽炎達を支援するべく睦月達が駆けつけるが、艦娘の小口径砲がいくつ増えた所で、鳥を止めることなどできなかった。

 強者の腕が動く。ボソンドライブ。充填して射出するエネルギー火器が起動する。

 翼を棄てた艦娘は、ただ見上げる。

 

「ここまでかな」

「うんにゃ」

 

 陽炎が否定し。

 

「勝ったのは、私達かもよ」

 

 彼女達の目の前に、四人の女性が現れた。

 彼女達、タワーから戻ってきた第11部隊は主砲を鳥に向けて一斉射。そしてすぐに、自らの両耳を手で塞いだ。

 直後、後方からさらに一人の女性が現れ。

 

 

 

 轟音。

 

 

 

 彼女が放った46センチ主砲の「三式弾」が、命中直前に時限信管を作動させ炸裂した。

 最大の熱量を持った焼夷弾が次々に降りかかり、黒い鳥の障壁をかき消す。ひるむ様子を見せた鳥は、第11部隊から改めて砲を向けられたことを認識して飛び去った。逃げる為に。

 逃げ出す鳥を、今度は音速の飛翔体が追尾。命中炸裂し爆発を起こす。直撃を貰った鳥は建て直しも許されず、ようやく到着した烈風航空隊に襲撃を受けていた。

 強者の盾を破壊した艦娘は、隣の由良と危機が去った事を確認し合い、合流に来た春雨と弥生を迎えながら、背にした彼女達に向く。

 

「ぬが~‥‥‥」

 

 大型主砲の衝撃を知らない第31部隊の面々とロイが、鼓膜直撃した耳を抑えて悶絶していた。

 三式弾を撃った彼女はやってしまったと慌てた後、その中でやってくる睦月を認めて、姿勢を正した。近代兵装を増設し整備された艤装を持つ戦艦娘は、ボロボロに傷付いた彼女達を見て、眉を落とす。

 武装組織鎮守府に登記されていない艦娘が、新兵装をもって艤装万全の状態でいるとするならば。

 どこかに、所属しているという事。

 

「国に、直接戻っていたのですね」

「二月ほど前に。気付けば目の前に港があって、そこで」

 

 続けようとした言い訳の言葉を切って。

 

「あなた方には、苦労を強いました。叱責は、後で受けます」

「いいえ。こうしてまた会えて、うれしいのです」

「‥‥‥ありがとう。私もです」

 

 睦月の誠意に、46センチ主砲を搭載した茶髪の戦艦娘は謝罪の言葉を飲み込む。

 別の集団を救援していた艦娘も合流してくる。いずれも、現在鎮守府に登記されている娘ではない。艤装は磨かれて、一部は機銃ではなく20mm近接防御火器システムが搭載されている。その人数は二個艦隊分12名とささやかな部隊だったが、睦月達にとっては懐かしの制服と懐かしの顔ぶれ。

 その中に、自らが慕う赤目の同型四番艦がぱたぱたと手を振る姿を見つけて、春雨はぱっと表情を明るくさせた。

 

「あの時の士官さんが艦娘だったなんて」

「秘匿義務があったので。ごめんなさい」

 

 由良と戦艦娘が苦笑いを浮かべた。

 

「こっちの本隊も来たし、そっちの通常戦力もいるし。共同戦線って事でいいのかしら」

「何となく現場判断で協力することになった、という事でお願いします」

「ここに至ってまだ体裁かい」

 

 もちろん陽炎は苦い顔。

 

「後ろからミサイル撃っちゃいるけど、先陣で艦娘部隊だけ出したのもそういう事でしょ。ねぇ、国の為に命を懸ける理由があるの? 絶対使い潰されるわよ」

「それでも、派遣を決めてくれた方々に望みをかけてみたいと、思っています」

「‥‥‥ま、何かあったらうちに来なさいって言えるか。好きにして」

 

 両者で何かしら話は付いたのだろうと思うことにして、陽炎は改めて戦場を眺める。

 羽虫も同然に落とされるレシプロ艦載機だが、見れば、彩雲に誘導を受けたFw190T改やRe.20005改が戦列に参加しており制空権を維持している。ドイツとイタリアの艦娘が鎮守府再合流してたっけと陽炎は問い、あれじゃないかと長月は外縁を指差した。

 東の方角、ハワイ方面にも異形ではない人影があった。深海棲艦深部海域を通り抜けさせてもらった、ということなのだろう。ミニチュアレシプロ機だけではなく、ジェット推進の通常戦闘攻撃機も見えた。

 レシプロ機の投下爆弾と異形の砲弾、通常艦載機の誘導弾と残存ACのライフル弾が次々直撃し、黒い鳥は苦しそうにもがき始めていた。四機編隊の通常艦載機が、その中に混ざって空対空誘導弾を放っている。

 今なお対抗し続ける財団兵器はやはり異質だが、確実に損傷は与えている。艦娘の手を離れた物量による戦争は、負傷者を抱えた20名程度の部隊戦力が今更に必要とは思えないくらいには優勢に見える。

 

「私はさ。この戦争も、あんたみたいな個人による英雄譚になると思ってたんだけど。最後は飽和攻撃。どうなのよさ」

「絵には、ならないな」

 

 力の限り、ただひたすらに暴力をぶつけ合う。異能も英雄もいない戦場は、こんなものだ。

 

「それにさ。手柄の横取り的な感じで、私は若干気分が悪いわ」

「なら、今から行って倒して来たらいい。あの鳥、ミサイルを相当食らって弱ってるぞ。武勲艦として英雄になれる」

「ご勘弁を。私は、艦娘を続けたいわ」

 

 活躍をしたい。戦果は欲しい。戦果や賛辞は、自らが責務を果たしたことを教えてくれるわかりやすい結果だ。しかしその賛辞には、次への期待と責任が乗る。面倒事だ。自分で背負いきれる責務と、自分が満足できる賛辞だけもらえればいい。戦果のついでに余計な面倒も持って行ってくれるというのなら、喜んで渡す。

 子供に許された特権よねと、陽炎は長月と話しながらからからと笑った。

 

「堕ちる、な」

 

 未来は決した。

 とうとう飛ぶ力を失った黒い鳥は、海上に叩き落された。動きを止めた標的を艦砲の誘導砲弾が貫き、温存されていた流星の雷撃が水柱を上げる。

 最強の個人は、多数の凡人達の意思と力によって、永遠の水底へと姿を消していった。

 

 

 

 

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