艦隊これくしょん VERDICT DAY   作:水崎涼

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依頼者 :国連海軍第215任務群司令
作戦領域:ラバウル南西
敵勢力 :財団
作戦目標:敵勢力の撃破

 ラバウルへ退避中の艦隊、第215任務群が財団の襲撃を受け、次々に撃沈されている。
 既に多くの艦艇が攻撃を受け大破しており、これ以上の被害は何としても避けたいが、財団の攻撃を前に我々の戦力では難しい。そこで、鎮守府の力を借りたい。接近している財団攻撃部隊を迎撃してくれ。
 敵編成は飛行型無人機を中心とした航空編成だ。こちらからの艦砲の支援を約束する。よろしく頼む。

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Rain

 

 

 

「すっかり、日が落ちてしまいましたね」

 

 陸から離れた海上では、なんら明かりはない。レーダーを頼りに飛行を続けるヘリの中で、由良は難しい顔をした。彼女達にとって、夜とは味方にはならないのだ。

 

「夜間装備、持って来れば良かったなぁ」

「でも昔の艦娘は、夜戦が得意だったんですよね」

 

 そう口にしたのは五月雨だ。

 やることを一通り終えているジャックは、それに適当に応対する。

 

「ほう。そうなのか」

「有視界戦闘が主な私達は、視界が遮られる夜間においてその速力を持ち突進、雷撃決戦を敢行していたって聞きました。昔の艦娘達は、そのための夜襲訓練をしていたって」

「君達はどうなんだ?」

「私達は、殆ど昼間しかしません。夜戦の必要がなくなったんです」

 

 暗視装置などのない状態では、レイヴンとて苦戦する。レイヴンがそれでも戦えているのは、規定距離に入った敵を捕捉しロックしてくれるFCSがあるからであり、通常、目を奪われれば戦うことは出来ない。彼女達は、艤装と言う機械に接続される格好ではあるが、使用者自身は電子制御ではない。ターゲットロックをして誘導射撃をする概念はなく、移動先を読んで無誘導で見越し射撃する。いくらヘリからの補助があると言っても、敵位置把握が限度であった。視界情報として敵が見えなくなる、というのは致命だ。

 そして。

 

「えっと、教科書には‥‥‥深海棲艦との大規模決戦が起こらなくなって、不必要になった。ですよね、由良さん」

 

 五月雨に問われた由良は、操縦席から振り返って悪戯っぽく笑う。

 

「60点。正解は、深海棲艦に対する大規模作戦を展開できなくなって、従って決戦思想が消滅した、よ」

「なぜ大規模作戦ができなくなったんだ」

「そこからは、歴史の話になってしまいますけれど」

「構わん。続けてくれ」

 

 ジャックの催促に、由良は機体をオートパイロットにしてヘッドセットを外し、そして端末を弄り始める。

 

「どこから、話しましょうか」

「艦娘の起こりから、でどうか」

「また随分と巻き戻りますね。わかりました」

 

 頷いて、由良は端末をジャックに手渡す。それが教科書代わりだった。

 

「事の始まりは、2013年です」

 

 それがすべての始まり。

 

「当時、唐突に現れた謎の生命体、深海棲艦に対して、人類のあらゆる火器は無効と言っていいほどで、通常艦艇による海軍そして空軍はことごとく打ち破られ、深海棲艦に対して人類はその制海権を喪失しました。ですが深海棲艦と同時に現れた、もうひとつの存在がありました」

「それが艦娘か?」

「はい。『最初の5人』、そう呼ばれた艦娘と、たった5人から始まった艦娘部隊を指揮する『提督』。そこから歴史は始まりました」

 

 相手は、国家から海を奪った異形。そんなものを相手にするにはあまりに幼子。しかも得体が知れない上に数も少ないときた。それでも投入されたのが、時局というものだが。

 誰からも期待されなかった小さな部隊。

 

「艦娘は、人間ではありませんでした。深海棲艦同様、海から現れた者」

「まさか、君達もか?」

「人間ではなかったのは初代艤装使用者達、私達が『オリジナル』と呼んでいる方だけです。私達はちゃんと人間ですよ。それで、とてもとても端折りますと、オリジナルと彼女達を率いた提督は大活躍して、世界を挙げて賞賛されるんです。でも、それが不幸の始まりだったのかもしれません」

「ふむ」

「提督と言うただ一人に預けるには、艦娘部隊は世界に対し影響力が強くなりすぎたんです。地球の反対側まで救援に、なんて作戦もありました。艦娘を保有する国は海と言う財産を得て海上輸送航路を支配できますが、そうでない国は海運事情を他国に握られる。外交の道具にできるんです。だから、艦娘部隊は海軍の一提督から国家直属部隊へと移管され、国連の要請を受けるようになりました。当然、その指揮系統や部隊編成を初めとした承認も。提督の指揮権限は、この時点で剥奪されていました。そして政策のひとつとして、北太平洋への対深海棲艦一大侵攻作戦が発動。結果は‥‥‥艦娘に多数の殉職者を出しての、敗北でした」

 

 戦力の喪失。

 これにより積極攻勢に出れなくなったがために、大規模作戦を展開できなくなった。

 

「あとはもう、悪循環です。取り戻した支配海域を政治的理由で守る為に、戦力を切り崩して防衛しては削り取られ。その頃から不思議と、新たな艦娘が現れることもなくなっていました。戦力補充のめどがなくった国家は、艦娘を解析しようと研究所に送るなどして。そして艦娘達はその日、一斉に持ち場を飛び出し行方をくらましました」

「脱走か?」

「そうなりますね。提督の呼びかけに、残存の全艦娘が答えたんです。彼女達は提督座乗の小型船舶と共に一斉に出奔、トラック諸島へと移動し、そこを中心としてパラオ・ラバウルの大三角形を制圧して主権領域としました。新勢力鎮守府を名乗り、彼女達は活動を始めます」

「とんでもない糾弾に晒されただろうな」

「当時の紙面とか国連声明とか、国家反逆の悪者扱いだったみたいですね。でも、主権領域に組み込まれた地域の人は、当時から大歓迎ムードだったそうです」

 

 彼女達がいれば海上の不安はなくなるのだ。多少の海賊程度にも対処できるであろう事を考えれば、対深海棲艦能力を持たない国家からの糾弾などどれほど意味があるかというものだ。

 そこでジャックは思い至った。彼女達が人類海軍と呼ぶ組織、そして鎮守府と言う武装勢力。両者が隔てられている理由と、鎮守府の傭兵システム。地図を見る限り、艦娘が主権領域とした場所は島ばかりで陸地が殆どない。陸地がないという事は、石油鉱物作物資源がない。資源がないなら。

 

「傭兵システムは、人類海軍に向けてのものか」

「人類海軍からの要請で、対深海棲艦能力を持つ艦娘を派遣し深海棲艦を追い払う代わり、報酬として資材を得る。提督の死去で艦娘部隊の統帥権を持つ人が居なくなりましたが、だからこそずっと続いているのだと思います」

「む。提督は亡くなったのか」

「始まりは2013年、今は2116年。提督は50年台に病没しています。人間ではない艦娘と、人間である提督。共に歩むには、時間は残酷です」

「では誰が鎮守府の代表をしている」

「代表は事務長です。といっても、表の事に何か口を出すことはないので、組織経営者以上ではありません」

 

 そういえば事務長さんに会った事ないよね、などと吹雪と五月雨が話している。彼女達にとってはその程度の存在でしかないらしい。

 

「世界としては艦娘の行動を容認できないけれど、現場レベルではその力が必要だから借りている。今日のように、艦隊や船団を守る依頼がよくありました。財団騒ぎの前までは」

 

 今はそれどころではない、ということ。今回の依頼にしても、だ。

 艦娘主権領域内にいるのに襲撃してくる財団部隊、それの鎮守府戦力を借り入れての迎撃。なぜ今回、海軍の部隊が大破艦を多数抱えながら鎮守府領域のラバウルに向かっているのか。答えは明白、他に安全に休める自分達の管轄場所に逃げられないから。

 頼むから助けてくれ、わかったからラバウルまで逃げて来い。不仲でビジネス関係に留まっている両者がそうするほどに各地で大混乱している。財団の販売した無人機は、各国の主要軍事施設や戦線に配備されていた。それらが一斉に無差別破壊を始めたのだから、燃料弾薬の集積点や司令施設は、その最初に吹き飛んでいる。ロートルな戦車や艦船で、部隊単位で抵抗をしているに過ぎない。

 

「今回の依頼は、200番台の任務艦艇群。日本所属の戦闘部隊です」

「君達は憎くはないのか。君達の先輩に当たるものを貶めた相手だろう」

「でも、困っている人達を見捨てられません!」

 

 力強く言い放ったのは、吹雪だった。あまりにまっすぐで、愚かなほどまっすぐで。

 やはり、とジャックは思う。

 

「やはり君らは、レイヴンにはなれんな」

「? あの、それはどういう」

 

 吹雪が問う、その前に。

 ヘリ内に報知音が響く。それは今回の依頼者からの通信だった。

 

「接近中のF21C。君達が鎮守府からの派遣部隊か?」

「はい。依頼を受けてきました」

「支援を感謝する。財団の部隊は既に近距離防空システムの射程内だ。すぐに展開を頼む」

 

 了解を答えて、吹雪と五月雨が出撃準備に入る。

 ヘリのローター音でかき消されていたが、艦載主砲の砲撃は既に行われていた。海上では被弾して、炎を上げながら戦う艦もいた。が、それよりも目を引く大型建造物がジャックの目に留まる。

 巨塊。鉄塊。海上にあってはならないほどの大きさの人工建造物がひとつ。

 

「何だあれは。船か?」

「ギガベース級アームズフォート、の日本ライセンス生産なら。いずも型多用途護衛艦ですね」

「どう見ても護衛される側では‥‥‥いや、いい。随分と大仰な兵器だ」

「攻撃をものともしない巨体と、有無を言わせない大質量攻撃で深海棲艦に対する。艦娘を失ってからの、人類海軍の思想の結晶です」

 

 どこからともなく沸いて出てくる艦娘は、代替不能。新たに生み出すこともできなければ、今でもなお艤装適合者が機会を得て触れ、艦娘たることを決意しなければ補充できない存在。その個体依存性はあらゆる危険をはらむことになる。国家としては致命的だ。その艦娘に見限られ頼れなくなった彼らが、代替可能な多数の凡人による対深海棲艦兵器を求めるのは必然だったのかもしれない。もっとも、このアームズフォートの建造技術自体、財団からの提供物であったが。

 

「第215任務群へ。照明弾を保有していれば使用をお願いします」

「護衛艦はるぐもが任に当たる」

「感謝します」

 

 由良がやり取りをする間にも、二名は降下。両部隊の間に割り込むように展開する。

 

「はるぐもより艦娘へ。支援を開始する。照明弾発射」

 

 吹雪と五月雨が、照明弾によって照らされる財団飛行部隊を手近なところから迎撃していく。深海棲艦に対して明らかな有効弾になっていた彼女達の射撃だが、通常の装甲を持つ財団兵器に対しては規模相応の威力しか発揮できないようだった。ただ艦娘の攻撃は実弾ではなく、何かのエネルギーを集束させて放つタイプで、エネルギー兵器としてとりあえずの効果はある。少なくとも、艦隊の近接防御システムの穴を埋める程度の役割は果たせている。敵部隊の編成が対艦攻撃を重視した大型兵装搭載であることも、艦娘を助けている。アレでは小回りは利かないし、大味な攻撃は艦娘の機動力の前には無力だからだ。

 しかし。たった二人の人間に、十数隻からなる艦隊のすべてを守ることはまさに不可能であった。飛来してきた対艦ミサイルを見逃すのも、致し方ない。そしてそれを迎撃するだけの力を、近接防空ミサイルを打ちつくし、個艦防御の20ミリCIWSも装填中の艦隊は持ち合わせていなかった。

 その一本が、アームズフォート護衛艦艇の一隻に直撃。爆発音。そして炎上していく。

 

「そんな‥‥‥!」

「吹雪ちゃん、前を見て!」

「は、はいっ!」

 

 振り返っている暇などない。

 彼女の背でどんどん失速していく艦を救う暇も、ない。

 

「護衛艦はづきより通信。我、続行不能。武運を祈る」

「わ、私、はっ! 吹雪、護衛艦はづきの直衛に入ります。許可をください!」

「吹雪ちゃん、それは」

「それは君の仕事ではない」

 

 声をマイクに乗せて、ジャックは言い放つ。元から、損害は覚悟の上の依頼であるのは明白だ。無論、被害が少なければ報酬が、彼女達が手に出来る功績点は増えるだろうが、脱落した者を救うなどという偽善を働けという依頼でも状況でもない。

 殆ど涙声で、吹雪は食い下がろうとする。その声に一旦耳を塞いでから、ジャックは由良へと向いた。

 

「防護艦の状況はわかるか。沈没の危険があるか、推進なりが逝っただけか」

「傾斜沈没の様子はありません。機関室周りをやられて一時的に航行不能になったのかと」

「残敵の数は?」

「レーダー探知内に57機。次の集団が来るかはわからないですが」

「無理なものは無理と見捨てるのがレイヴンだ。報酬減額は渋いが、それは依頼が達成されてこそ。君はこの部隊の部隊長だ、その責任からの判断は常に正しくなければならない」

「‥‥‥わかっています。私は脱落した護衛艦以上に、吹雪ちゃんと五月雨ちゃんの生存を優先しなければなりません」

「いいだろう」

 

 ジャックはモニタで、炎上して止まっている護衛艦はづきをよく観察する。個艦防御すらする様子がない。脱落した単独行動では、いずれ狙われるのは当然か。

 その船の後部に目をつけて。

 腰を上げる。

 

「第二派が来たら諦める、それでいいな」

「え?」

「私がアレを護衛する。艦の後部甲板に降りる、ヘリをつけてくれ」

「‥‥‥あ、ありがとうございます!」

 

 驚く由良と感極まった吹雪からの返答を待たず、ジャックは懸架中の愛機に乗り込むべく移動する。F21Cはパイロットを搭載したまま運ぶのが本来の使い方であるため、ヘリからACへの移動は簡素な梯子で降りるという、中々に劣悪なものだったがジャックは今は何も言わない。

 乗り込み、起動。

 完全に静止した艦の後部にヘリが近づく。

 切り離し。

 対潜哨戒ヘリを載せる為ではなく、財団から購入したユーナックを搭載する為に拡張されたその平甲板に、フォックスアイは降り立った。彼の重ニ脚と内装は海上での行動には適さないが、ここで固定砲台となる分にはなんら問題はない。

 フォックスアイを下ろしたヘリは一度吹雪達の元に行き、そして何かがまた降下する。どうやらあの部隊長は、後ろで待つ性分ではないらしい。それを確認してジャックもまたFCSに導かれるまま、KRSWハイレーザーライフルを敵とした相手に向ける。

 財団の無人機は、ただの兵器であった。十分以上の火力を誇るハイレーザーライフルの一撃で、飛行体は爆散して海中に没する。ACの攻撃が通用する事実は、鎮守府AC部隊の普段の仕事がどのようなものかを容易に想像させた。以前がどうだったかは知らないが、今のレイヴンの主たる稼ぎ口は、対財団の依頼だろうと。

 ジャックがこれを引き受けたのは酔狂ではない。敵の57機程度なら味方の総合火力があればどうにかできるという計算からだ。少なくとも彼はそう考えていると思っている。

 

「艦隊。敵の残数を逐次知らせろ」

「了解した。残り38」

 

 ハイレーザーライフルで追いきれない敵を、両肩垂直ミサイルとエクステンション連動ミサイルで打ち落とす。

 

「30」

 

 再装填を終えた護衛艦艇のCIWSが再び火を吹く。はるぐもからの照明弾が戦場を照らす。

 

「20」

 

 ヘリからのデータ連動を受けた由良達が、三人で火力を集中させることでひとつずつ確実に落としていく。

 

「10」

「それで最後だ」

 

 戦場は既にフォックスアイの射程外に出ていたが、ここまで来れば最早決したも同然だった。

 かくして吹雪達は残敵を掃討して。

 戦場は、赤く燃える残骸と火薬の残り香を残して、静寂となった。

 

 

 

 □

 

 

 

 ひとつの迎撃戦を乗り越え、艦隊は海域を後に一路ラバウルへと向かった。そして由良達第11部隊には、追加の依頼がもたらされた。

 護衛艦はづきの、機関再始動までの護衛である。

 吹雪と五月雨が、夜の海を1時間おきに交代して周辺警戒に務め。そして夜が明けるころ。

 

「護衛艦はづきより通信。機関再始動、巡航にてラバウルへ向かう。貴隊の護衛に感謝する」

「よかった‥‥‥よかった!」

 

 吹雪は感極まったかのように喜び、去っていく護衛艦と、その甲板に並んで敬礼をしてくれる乗員に向けて手を振って見送った。

 もう一度レーダー探索をして、敵影がないことを確認した由良も一息。

 

「艦娘になってよかったなって思えます」

「ひとつ間違えば自分が死ぬかもしれないのにか」

「まぁ、そうですが」

 

 機体を再度懸架して、再びヘリの中に戻ってきたジャックの言葉に、由良は困ったような表情を浮かべて。

 

「私達は海の守り手なんです。その最初の時から。何の為に戦うのか。艦娘に何か使命のようなものがあるとすれば、それは誰かを守ることだと私は思います。オリジナル、先人達が築き上げたこれらを守っていくこともまた」

「やはり、君達はレイヴンにはなれんな」

「そうですよ。私達は艦娘です」

「ジャックさん!」

 

 通信機から、吹雪の声がやってくる。望遠カメラには、満面の笑みを浮かべた彼女の顔がはっきりと映し出される。

 

「ありがとうございました!」

「礼には及ばない」

 

 態度を変えずにジャックは返答する。

 その言葉に、少しだけ満足感のようなものを感じながら。

 

 

 

 

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