艦隊これくしょん VERDICT DAY   作:水崎涼

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依頼者 :鎮守府
作戦領域:トラック近海
敵勢力 :深海棲艦
作戦目標:艦娘試験の監督

 我が鎮守府では、艦娘を志す諸君に共通のテストを課しています。テストは実践で行います。艦娘候補生2792の試験見守りをお願いします。
 テストはトラック近海で行いますが、実践と言う形式上、不測の事態も考えられます。艦娘候補生で対処不能であると鎮守府が判断した場合、あなた方にはこれの護衛及び撤収を行っていただくことになります。艦娘候補生は当然ながら経験に乏しく、その対処能力は相応でしかありません。万全の準備をお願いします。
 また、艦娘候補生2792の艤装の戦闘時データ収集を行ってください。試験終了後に、任務達成報告と共に提出してください。

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I Know What You Stand

 

 

 

「新人?」

 

 由良達と共に鎮守府本棟を歩きながら、ジャックは彼女からその話を聞いた。

 今日の仕事は、いつもとは違う。それでなくても気楽な様子の彼女達だが、いつも以上に気を抜き、また上機嫌である。

 

「はい。今日は、新人の試験に立ち会うことになっています」

「艦娘の、か」

 

 問い返しに、由良は頷く。

 彼女達艦娘は志願制で、艤装と適合できた人間がなれる。その適合検査を終えて座学訓練を済ませた、艦娘候補生の最終試験の監督を行うのだという。この試験は一度きりで、その艦娘候補生が全課程終了後、任意のタイミングで受けられるようになっている。成功すればストレートに艦娘登録。

 

「失格になると?」

「艦娘予備生として、規定の成績を収めるまで艦娘を相手にした対抗演習を繰り返し行うことになります。次に、他部隊に随伴して近海哨戒を繰り返し行い、規定の功績点を得ます。すると艦娘登録ですが、鎮守府からの直接依頼しか受けられません。さらにそこで功績点を稼ぐと、一人前として自由裁量を得ることができます」

「まぁ、適合者をそうやすやすと手放すわけにもいかんな」

 

 どう考えても一発合格したほうが手間がない。そんな新たな艦娘の大切な試験に立ち会うという事だ。

 

「鎮守府からの指名で、監督役が選ばれます。今日は大当たりですね」

「殆どの艦娘は、その監督をしてくれた部隊にそのまま編入するんです」

「では、君達もか」

 

 由良を部隊長としたその部隊員、吹雪と五月雨に向くと彼女達も頷く。

 

「はい。私の時も、由良さんが監督役でした!」

「部隊員が増えるのはありがたいし、新人艦娘も一人で放り出されてもどうしていいかわからないですし、自分達も、そうやって面倒を見てもらってきましたから。暗黙の了解みたいな所があります」

 

 廊下を歩き、鎮守府本棟を抜ける。

 この先は工廠倉庫。艦娘艤装の修理点検、サルベージされた武装の販売などが行われる場所となっている。販売と言っても金銭ではなく、彼女達が依頼達成毎に加算される功績点を消費する、と言う形だ。国家からの報酬である資源資金そのものは、鎮守府の運営費に変換されている。

 かつては自力にて武装を製造できていた彼女達だが、今は、海から拾い上げた、かつてオリジナルが使用していたと思われる武器を何とか修理して使うしかないらしい。精度や連射性能が落ちているなど日常茶飯事。最悪、三連装砲なのに一門しか撃てないなどと言うひどいものもあるという。最近は、かなり改善されて粗悪ジャンク品は減ったそうだが。その場所で、今回の候補生と対面予定だという。

 そう。これは武装だけではない。彼女達の艤装もまた、海からサルベージして修復したものだ。

 海から。

 それは、かつての艤装使用者が眠る海を荒らし、剥ぎ取るという事でもある。

 

「オリジナルと呼ばれたものは、戦没しているのだな」

「はい」

 

 由良は答えて。

 

「提督が没したその後に、深海棲艦による鎮守府への一大攻勢がありました。私達は大侵攻とか、トラック防衛戦と呼んでいますが。その際に、オリジナルは全艦戦没したとされています。オリジナルの由良も、その戦いで亡くなったと聞いています」

「全滅とは穏やかではないな」

「防衛戦と、一度トラックを手放しての二回の反攻戦を総称しますので、規模はかなりです。オリジナルは確かに誰も残りませんでしたが、二代目の、適合試験をした艦娘達が残りましたから全滅とは少し違います。大侵攻時に残存していた艦娘の艤装は、近海に沈んでいるので回収が楽なのですけどね」

 

 歴史という名の情報を得ながら、ジャックは彼女と共に工廠倉庫の扉をくぐる。

 手元のデータの顔写真を確認。艦娘候補生2792は黒髪ポニーテールの女性だった。年齢は、由良と同程度だろうか。その顔写真を確認して、倉庫内を見回し。

 いた。

 艦娘艤装。彼女はそのひとつの傍に屈んで。

 

「えへへ、待っててね艤装ちゃん。もう離さないからね」

 

 艤装に抱きついて頬すりしていた。

 口付けまでしかねない勢いの彼女にさしもの由良も引きつつ、それでも何とか声をかける。

 

「あ、あの」

「はい!」

 

 呼ばれるや直立。素早い。

 

「艦娘候補生2792です!」

「第11部隊隊長由良です。今日はよろしくね」

「えぇ、よろしく!」

 

 快活なその少女は、ひとつ敬礼を決めて笑顔を振りまいた。

 

 

 

 □

 

 

 

 ジャックも、大分乗りなれてきたヘリの内部。

 艦娘候補生に気を使って、普段はおしゃべりの好きな吹雪も五月雨も、口を閉ざしている。自分達が行った試験の時の事を思い出しているのだ。

 その程よい緊張の中、第11部隊の面々とジャック、そして艦娘候補生2792は、マーカーにセットされた海域に到達した。由良の号令を受けて、候補生は自らの艤装の準備にかかる。

 と、通信が入ってきた。

 

「鎮守府オペレーター、レイン・マイヤーズです。そろそろ目標地点に到達します。艦娘候補生。もう一度、あなたに課せられた依頼を確認します」

 

 鎮守府本部でモニターをしている管制官だ。通信は、格納庫で待機している夕張にも届いている。

 

「目標は、この海域を回遊している部隊の撃破。敵勢力は、深海棲艦です。この依頼を達成した時、あなたは艦娘として鎮守府に登録されます。このチャンスに二度目はありません。では、健闘を」

 

 それで、通信は切れた。

 懐かしいものだ、とジャックも過去を思い起こす。もらいたての第一世代のパーツに身を包んでレイヴンとなった、その始まりを。レイヴンとしての自身の始まりを。

 格納庫に設置されているカメラの画像に目を向ける。少女は緊張の面持ちで。

 

「たっめしっ撃ちっ、えへっへ」

 

 本当に今の通信が聞こえていたのかどうか疑わしい愉快さであった。

 変に緊張していないだけ良いと捉えるべきか、いや‥‥‥この娘はもうだめかもしれない。艦娘とレイヴンの違いは理解したジャックだが、彼女のズレっぷりには思考が及ばない。吹雪たちも唖然としていた。

 

「さ、さて。第11部隊。04、出撃準備」

「こちら候補生2792、04、出撃準備完了!」

「04、投下。オペレーティングシステム起動。データリンク、敵情報を送信」

 

 彼女は投下され、海へと降り立つ。

 試験は始まった。

 とはいっても、やっていること自体はただの駆逐クラスのみの深海棲艦部隊の殲滅であり、彼女達艦娘にとって特別目新しいことではない。吹雪達に比べるとまだぎこちないが、ジャックの目から見ても動きは悪くないようにみえる。また、彼女の艤装は軽巡タイプという、吹雪や五月雨の駆逐タイプよりも安定性が高く、主砲も高威力なものだという。苦戦する要素はないだろう。

 と、隣では由良がいくつか画面を入れ替えている事にジャックは気づく。

 

「何をしている」

「艤装データの記録です。送信依頼が来ているので」

「試験の時はそんなこともしているのだな」

「いえ、彼女だからかな」

 

 言いながら、いくつかの画像データをジャックの端末に送付した。

 それは候補生の操る艤装の回収時の写真だった。が、原形をとどめないほどぐしゃぐしゃに潰されており焼け跡や爆発跡も凄まじい。アーム部分が折れ、いくつかの残骸と成り果てている。あまりにも無残だ。ACでさえ爆散でもしなければこうはならない。

 

「彼女の艤装は、回収時の状態がよくなかったんです。復元に手間取ったそうで、それでも満足に復旧できなかったらしいんです」

「‥‥‥艦娘が戦没する時は、これほどか。生身など残らんだろう」

「由良艤装の写真も見たけれど、ここまではなかったわ。でも、生身の方はどうでしょう。艤装使用者の遺体や遺留品が艤装と共に見つかる、というのは不思議とないのですけど」

「海流とて人骨くらいは残るだろう」

「骨のひとかけら、衣服の断片、何一つ。まるで、すべてが海に溶けてしまったかのように。このあたりのことを知っている人に、艦娘になると言うと渋い顔をされます」

 

 傭兵ならば親族を気にするようなことはない。親子二代で傭兵、血縁の敵討ちなどがないではないが、艦娘と傭兵ではその立ち位置がまったく異なる。彼女達にはそれなりに安全な場所に、戻れる温かい家庭がある。彼女達が相手にするのは異形の生命体。戦った所でどこからか恨まれることも少ないだろうし、戦争を強いられているわけではない。

 彼女達には本来、戦う理由などないはずであった。

 だが彼女達は戦う。見捨てられませんと言って護衛艦を守り、すなわち命をかける。幼稚な動機でそこまでできるのはなぜか。

 

「君達にとって艦娘とは、それほどに崇高な存在か」

「当然です。艦娘ですよ、艦娘!」

「憧れの正義の味方です!」

 

 吹雪、五月雨の子供二人のほうが、滾る熱を込めて即答する。それこそが幼稚なのだ、とジャックが冷めた目で返すが、二人はそれすら跳ね返す勢いだ。

 他方で、由良が候補生を注視しながらもジャックの求める対話をした。

 

「軍人、兵士、兵器として見た場合、私達の生き方は多分間違っているのだと思います。でも」

「でも?」

「鎮守府の歴史は、以前かいつまみましたね」

 

 国家を裏切り、国を出た。

 

「提督は艦娘を、軍に属し国家に奉仕する兵器ではなく、一人の人間一人の女性として扱った。オリジナルもまたそれに賛同して慕い付いていった。その力は、自分たちが守りたいと思う人や事の為に。私達は元の艤装の持ち主、古の戦闘艦の名を名乗るオリジナル達の名前をTACネームとして使っています。名前を受け継ぐんです。オリジナル達の思いを受け継ぐこともまた、軍人艦娘ではなく、人間艦娘として生きることもまた、私達がすることではないのかなと。私はそう思っています。今に、不満があるわけでもないですから」

 

 意識が高い、とも取れるし、やはり幼稚である、ともジャックは思ったが。議論の必要は認めず、「そうか」とジャックは納得の意思表示をするに留めた。

 改めて、モニターを見る。

 候補生の艤装は不調との話だったが、安定還流され一定になるべきエネルギー生成の時間グラフが、被弾もしていないのにふらついている。彼女達の兵装は、かつては実弾であったが現在はエネルギー火器に改造されたという。艤装が生み出すエネルギーは、武器としても利用される。つまり、彼女は普通に使っているだけなのに規定威力が出たり、出力足りず不発すらありえるということだ。兵器としては欠陥もいい所。

 防御用のスクリーン展開だけはかろうじて担保されている。しかし、全速航行しようものならそれさえ怪しいだろう。そのような不完全な艤装。

 

「このような状態で戦場投入か。承諾した鎮守府は何を考えている。それに、彼女は知っているのか?」

「告知はどうかわからないけれど、艤装の状態は繋げている自分たちが一番よくわかっています。だから知っているし、そして無茶をする事はないと思います」

「そうか」

 

 ならば言う事は何もない。

 そう考えて、はたとジャックは思う。これがどうこうした所で、自分が何か物言うことだろうか、と。

 

(いかんな。どうも感化されている)

 

 そう頭を振る。

 その間も、試験は順調に進み。

 

「こちら04。敵艦撃沈確認、周囲に敵影なし! ばっちり!」

 

 候補生からの報告。

 

「了解。こちらからも確認しました。依頼元に送信しますので、その場で待機していてください」

 

 述べながら、由良は合格のパネルをひとつ叩いて送信する。艤装の状態は兎も角、彼女個人の技能としては必要十分であり特に言う事はない。

 しばし待つと、鎮守府のレインから返信がやってきた。由良はすぐに操作して、データを転送する。

 

「依頼元より返信です」

「あなたの力は見せてもらいました。ようこそ、新たなる艦娘」

 

 

 

 

 

 襲名

 夕張型軽巡洋艦一番艦、夕張

 

 

 

 

 

 

「‥‥‥!」

 

 HDDに送られたその文字列に、さすがの彼女も数瞬言葉を詰まらせる。

 艦娘として認められた瞬間だ。

 

「ようこそ、鎮守府へ。よろしくね、夕張」

「やったぁ!」

 

 さすがの夕張も喜色で飛び跳ねる。

 新たな仲間の誕生に、吹雪も、五月雨も喜んでいる。仲間が増えること。それは彼女達にとって依頼達成よりも価値あることであることは、ジャックの目から明らかであった。

 しかしそんな彼女達とは反対側へと世界が流れていることを、彼は知っていた。

 

 

 

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