艦隊これくしょん VERDICT DAY   作:水崎涼

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on your memories

 

 

 

「目標地点に到達。敵反応は、今のところはなしかな」

 

 由良の指示で、二人は格納庫に入る。艤装をホットにして待機だそうだ。

 

「二人を下ろしておかないのか」

「艤装の駆動時間は短いんです、常に警戒というわけにはいきません。昔は、それこそ何百里も単独で走れたそうですが」

「なぜ今は無理なんだ」

「改造の代償です。炸薬を使用する実弾を使わずに敵を撃ち抜く大きなエネルギー投射能力を得た代わり、駆動時間を短くせざるを得なかった。技術的なことは、わかりませんが。ポテンシャルだけで言えば、私達の艤装はオリジナル以上のものがあるそうです。数倍の数の深海棲艦を相手に戦えるのも、駆逐艦艤装で戦艦と戦えるのもそのおかげです」

 

 艤装込みで6名程度を運搬でき、小回りが利く。このヘリ、F21Cは短い駆動時間を補う為の輸送手段だ。ヘリのコンテナ部には補給の為の燃料を搭載しているのが常だ。短い駆動時間を、現地補給で補うわけだ。

 

「来ました」

 

 レーダーに反応。同時に吹雪と五月雨が降下。なお、夕張は今回は見学という事で待機となった。

 ヘリの望遠カメラが敵影を捕らえる。まるで目玉が浮いているかのような機械が複数飛来してきていた。前回の仕事では夜間の為その姿を正しく確認できなかったが、あれが、財団の無人兵器。やはりジャックの見たことのない兵器だ。

 接近した吹雪たちが、交戦を開始する。素人の夕張が見てもわかる優勢で、特に問題はないようだ。通常兵器には相応でしかないと以前由良は語ったが、それでも彼女達の砲撃は2発ほどで撃破に追い込んでおり、敵が次々と数を減らしていく。第二派、第三派と集団が押しかけてきたが、そのいずれもを追い散らす。護衛対象を気にせず好きに機動できるのは、やはりアドバンテージである。機動力が命の駆逐艦型となればなおさら。

 これなら問題ない。

 そう、ジャックも由良も夕張も気を抜いた。瞬間。

 ヘリのレーダーが、大きな信号を捕らえた。望遠カメラの映像が、届く。数瞬怪訝な顔をした由良は、唐突に焦りだしてマイクを掴んだ。

 

「方位215より大型兵器接近中。深入りしないで」

「どうした」

「情報にない大型兵器です」

 

 赤く塗装されたなんとも形容しがたい水上機体の映像を見ながら、由良は難しい顔。

 ヘリの解析ではその赤い敵は「D-C101-D」と結果が出ている。一応はデータにある敵だが、大型兵器と言うだけあり人間と比べるにはあまりに大きい。それが二機、接近してきている。潜行して姿を隠していたようだった。

 

「知識で武装しなければこうなるのだ。私の話は理解できたな?」

「はい、すみません‥‥‥」

「しかしクライアントもいい加減な仕事をする。この程度の索敵もできんとは」

 

 あるいは別途で動いていたものが後から合流してきたのかもしれないが、いずれにしても状況は変わらない。

 

「挑んでみてもいいですが、あなたのお叱りの後ですからね。今すぐに撤退しましょう」

「そうも行かないようだ」

 

 レーダーの光点を見つめて、ジャックは思案を巡らせる。

 第四派だ。幾多もの目玉無人機が、大型兵器に先んじて飛来してきている。

 対空戦闘をしている二人の火力がなくなれば、制空権喪失の中無防備に回収作業中のヘリは射的の的。ならば片付けてからとしたいが、大型兵器が接近している。小物を片付けている間に距離を詰められるのは必定だ。

 手があるとすれば、一秒でも早く小型機を片付けてから、少々強引ながら撤収。

 

「飛行型無人機を片付けながら後退、折を見て回収でいきます」

「無難だ」

「では、私も出ます」

 

 適切な柔軟さでの補助の為、部隊長はヘリから動かないのが通例だ。だがそんな事を言っていられない。

 操縦をオートにし、格納庫に向かう由良を夕張が呼び止める。

 

「ちょっと由良、私も行く」

「あなたは待機して」

 

 夕張はついこの前実践試験をしたばかりの新人だ。さらに彼女の艤装は万年不調、規定の60%ほどしか性能を発揮できない。この非常事態に対処するには、錬度・性能いずれも不足だ。彼女は何も言い返せずに、見送るしかない。

 

「由良、出撃します。01、投下」

 

 そして彼女は、少女達を助ける為に海へと出た。

 同時に、何かを垂直に発射。放たれた弾は空中で炸裂して、真昼でもわかる青い光を強く放ってゆっくりと舞い落ちる。

 

「信号弾。青三発?」

「救援要請です。近くに誰か居れば、だけど」

 

 答えながらも夕張が副操縦席に座り、難しい表情でコンソールを触る。救援要請をデータに載せて鎮守府に送付では、やらないよりはいいがこの瞬間には間に合わないだろう。よって夕張は送付しつつ付近で作戦行動中の隊がいるかどうかを依頼データから探っていたのだが、望みは薄い。哨戒か、付近を移動中である部隊がいることを願うしかない。

 

「こちら由良、戦列に入りました。両名は指定ポイントへ移動。指揮下に入ってください」

「吹雪、旗艦由良の指揮下に入ります!」

「さ、五月雨、了解です!」

 

 由良の情報もヘリは共有している。彼女が指定したマーカーに従って三人は集結し、そこで円陣を組んで防空に専念した。さすがと言うべきなのか、由良は吹雪たちよりも素早く敵を処理していく。

 目玉無人機自体はそう脅威ではない。やはり問題は、対空戦闘の間にこちらを射程距離に収めてきた大型兵器。

 敵から砲弾が放たれる。問題なく回避したが、砲弾は着水と同時に爆発を起こした。グレネード弾らしい。さらには垂直誘導ミサイル。これは彼女たちが砲で迎撃し打ち落とすが、面倒な武器を持っているようだ。

 飛行型無人機は殆ど落とした。由良は二人を連れて脱出を試みる。

 だがそれは大型兵器が許さなかった。図体以上に推力があるのか、中々の快速を見せる由良達にぴったりと追いすがる。さらには、足止めに由良たちが射撃をすれば潜行してしまう。そして潜行状態のまま、オービットを展開。脱出行動の阻害をし、さらには潜行したままミサイル攻撃。これではヘリが近づけない。悪あがきと由良は煙幕を展開。周囲を白い煙で包むが、敵から攻撃の正確さを取り除くことは出来なかった。

 この状況から、由良は意を決した。

 

「‥‥‥反転突撃します。雷撃戦用意。一撃後、離脱します」

「了解!」

 

 倒せなくてもいい。動きが鈍れば、彼女達の快速は敵を引き剥がすだろう。号令で三人は隊列を整え、そして由良を先頭に肉薄を開始した。

 ミサイルを五月雨が落とす。グレネード弾を避わす。途中、どうしても被弾を避けられなかったが、障壁が少女達の致命を阻害した。そして十分に接近し射程に捕らえたところで。

 

「3カウント。三、二、一、発射!」

 

 そして、三人が同時に魚雷を射出した。十数もの白い雷跡が、赤い大型兵器の片方を集中的に狙い、吸い込まれて。

 爆発。

 ヘリの中にいてもわかる衝撃。

 この状況で行うあたり、砲などよりもよほど自信のある武装のはずだ。深海棲艦の戦艦クラスをも一撃で屠った代物でもある。いくら艦娘と大型兵器の図体差があるとはいえ、これなら。

 そう、多少にも希望に思ったジャックの思考は砕かれる。

 レーダーの反応は、消えない。

 

「そ、そんな‥‥‥」

 

 五月雨の、動揺した声。

 巻き上げられた水柱が晴れたそこには。傷つきこそしているものの、未だに健在の大型兵器の姿があった。

 直後、発砲。至近から放たれたグレネード弾が三人を巻き込む。よもやと思ったが、こちらもヘリで受信する友軍信号は途切れていない。爆煙の中から退避を始める三人の姿も望遠カメラで認めて、ジャックは胸を撫で下ろす。

 だが状況は非常にまずい。敵に接近してしまった分、離脱はより困難になっている。さらに、切り札であるはずの攻撃が通用しなかったことが大いに彼女達の動揺を誘っていた。

 砲弾が交錯する。だが艦娘側のそれが通用しない以上、それは一方的な処刑であった。モニタ表示の中で、吹雪を参照している部分がアラートを吐き始める。度重なる被弾で、障壁発生装置の出力が落ちていた。だが、ジャックにはどうにも出来ない。自身の乗機でヘリに懸架されたままハイレーザーライフルで援護。そんな事をしたら彼女達の帰るべきヘリが攻撃を受け墜落しかねない。ハイレーザー数発でどうにかなるような敵ではない。

 夕張がヘリの操縦席に入って操作している。武装をチェックしていたのだが、このヘリに搭載されている兵装は、30ミリチェーンガン1基のみだった。魚雷を受け止める装甲と、グレネード弾を放つ敵相手にはあまりに貧弱。

 どうすれば。

 その時。

 

「救援要請を出した部隊、聞こえるか?」

 

 第三者の声が、通信機から。オープン回線で交信が来たのだ。

 女性、いや少女の声だ。

 

「信号弾を確認した。駆逐艦娘三名がもうすぐ到着する。状況を送れ」

 

 救援だ。付近を飛行していてくれていたらしい。

 だが。

 

「こちら第11部隊。急行中の部隊は引き返してください! 敵は大型兵器です。要請を出して申し訳ないけど、駆逐艦では対処できないわ」

「了解した」

 

 非常に淡白な返答が帰って来た。

 由良の判断は間違いではない。駆逐艦娘が加勢に来た所で犠牲を増やすだけだ。ならば自身を盾にしてでも、ということだろう。事実、由良は殿となって残り二人を逃がそうと試みていた。それはわかるが救援も救援だ。レイヴンなら危険な依頼から逃げることもあるが、今窮地に立たされている仲間を、そんなにあっさり見捨てるのか。

 憤りに近い感情をジャックが抱く中、救援の彼女は続けた。

 

 

 

 

 

「後は引き受ける」

 

 

 

 

 

 救援に来たF21Cヘリが、見える。高速だ。低空で突撃していった。そして、開放されたハッチからまず二名の艦娘が投下される。

 着水した二名はすぐさま由良達の元へと駆け始めた。遠目ではあるが、二名は同じ制服であることはわかった。直衛のつもりらしい。

 そして、さらに突撃していくF21C。

 限界まで突撃したヘリはミサイル対策にIRデコイを撒き散らし、さらに一人の艦娘を投下した。ヘリは30ミリチェーンガンで大型兵器を牽制しながら、反転離脱していく。

 IRデコイによる煙の中。

 その艦娘は。

 

 

 

 黒かった。

 

 

 

 その娘は、背中に背負った何か大型の装置を駆動させる。複雑に変形展開されたそれは、遠目には極太の近接用ブレードに見えた。

 ヘリの中にいてさえわかるけたたましい振動音を放ちながら、黒い娘は駆けた。大型無人兵器へと。

 無人兵器から砲弾が発射される。それらを圧倒的な推進力で舞い避けて突進する。それだけでも異常だった。なにせ、由良たちが散々に浴びた砲弾だからだ。

 黒い娘は、ブレードを突き出す。

 実に、あっけなかった。

 爆発的な加速からブレードは大型兵器に突き立ったかと思うと、凄まじい振動音と共に盛大に斬り、いや、粉々に噛み砕いていった。無残な姿となった大型兵器は機能を停止し、動きを止めて沈み始める。ターゲットマーカーも消失した。

 

「何だあれは」

 

 驚く間にも、もう一機の無人兵器が彼女に向けて射撃する。死角からの攻撃だったはずのそれはしかし、彼女に届くことはなかった。それより前に黒い娘はブレードを引っさげて駆け出していたのだ。一連の流れるような動きは、来るのがわかっていたかのように避けたようにも見えた。

 ブレードが再び咆哮を上げながら回転を始める。射撃を避けながら圧倒的な推力で海を疾走する。

 そして、懐に入る。

 実に、あっさりと。

 もう一機は、その制御装置があるであろう中心部を槍のごとく貫かれ荒々しく破砕され、壊れ沈んだ。

 水中で、爆発音。

 海に、静寂が戻る。

 由良、吹雪、五月雨。三人を窮地に立たせた大型兵器が、こんなにもあっさりと。これが普通なのかとジャックは思わず由良たちを見るが、彼女達もまたその光景に愕然としているのがわかった。

 そして五月雨が、その単語を呟く。

 

「『黒い鳥』の再来‥‥‥」

 

 目の前で起こった真実に、由良も言葉を詰まらせる。

 軽巡一人に駆逐二人の息の合った雷撃ですらたやすく耐えた大型兵器を、たった一人で、わずか一分足らずの間で二機を破壊した。苦労して接近して雷撃し防がれたというのに、ただ一人で白兵距離まで切り込み確実にしとめた。

 まさに、圧倒的。

 艦娘の真のポテンシャルなど知らないが、由良たちの実力を見てこそ思う、規格外の強さ。

 

「黒い鳥‥‥‥」

 

 ドミナント。

 あの娘が、そうだと言うのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 大型兵器の消滅により脅威がなくなったため、遠隔操作でヘリを下ろした由良達は無事に帰ってくることが出来た。吹雪は少々どころか服が焼けていたりするが、何とか無事らしい。むしろあのグレネード弾を食らってその程度で済んでいる、艤装の防御性能は驚くべきことだ。だが今は。

 そう。それよりももっと優先すべきことがある。

 望遠カメラの向こう。

 救援に来てくれた艦娘達が、やはりこちらもヘリに引っ込もうとしている。洋服の同じ二人と、黒い一人。

 艤装を早々と解除して吹雪の具合を確認した由良は、すぐに操縦席に戻ってその望遠カメラを眺めている。どうやら、録画もしているらしい。吹雪も五月雨も、夕張も、先ほどの戦闘の処理などではなく救援者を見ようと後ろから顔を覗かせていた。

 

「知り合い、ではないのだな」

「えぇ」

 

 由良はヘリの機体の一部をズームアップする。何の変哲ない、由良達と同じF21C/G型だ。

 が。

 

「機体の番号証部分に被弾痕」

「わざと消しているように見える。IFFが搭載されているんだろう? そこから辿れないか」

「リンクを切っているようですね。変だわ」

 

 ヘリや艤装のIFFを切る、などという操作は当然許されていないし、しようにもプロテクトがかけられていて行えないようになっている。しかし件の部隊はそのすべてをリンクから切り離しているようだった。

 先ほどの通信回線がまだ繋がっている。由良はIFFが途切れている旨を伝えるが、答えは淡白。「故障」だそうだ。

 そんな返答はわかりきっていたのだろう。応対もそこそこに、由良はデータベースにアクセスしている。救援のうち、直衛に付いた二名の顔は見えたので、艦娘データベースと記憶とを擦り合わせていた。そして。

 

「わかりました。陽炎型駆逐艦一番艦陽炎さんと、二番艦不知火さんですね。二人の所属は‥‥‥第31部隊。部隊員は」

 

 そこで、由良は眉をひそめる。

 

「所属者、陽炎さんと不知火さんだけになっていますね。ヘリが無人操縦だとしても最低三名はいるのに」

「彼女達は、救援に際して駆逐艦三名がと言っていた。あちらの言葉を信じるのなら、三名で正しいだろうな。そうなると、鎮守府が把握していないという事か。そんなことがあるのか」

「部隊編成は届出制なんです。認可はすぐ下りるので許諾必要はないも同然なんですが、今は財団騒ぎのせいで部隊の組み替え移動が頻繁に起きていて。以前から、事務処理が追いついていないのか実態が違っていたりというのはあるのですが」

「となると、あの艦娘の正体はわからず仕舞いか」

 

 黒い艦娘。録画した映像をズームして見せても、黒いセーラーに黒いスカート、黒いサイハイソックスに黒い帽子に黒いマフラーと、これでもかと真っ黒に染め上げ露出を減らし隠している。異質で目立つが、同時に、ここまで覆われては特定は難しい。現在の艦娘の服装は自由選択である。もちろん、服装からの推察も出来ない。

 もう一つ目を引くのは、黒い娘の背部艤装だ。吹雪のような煙突型艤装のさらに後ろに、チェーンソーのような刃を何枚も並べたような凶器部分と追加推進装置の集合体が見える。あれが大型兵器を切り裂いた武装であるのは、戦いを見ていたジャックには理解できている。ジャックは由良達三人にこの兵装について尋ねるが、そんな装置は知らないという。

 

「‥‥‥ここまでされては。私も。信じざるを得ませんね」

「本当に黒い鳥なんですね!」

「少なくとも、巷噂になっている艦娘はこの子でしょうね」

 

 昨今見かけるのは複数の黒い娘とのことだったが、今回たまたま単独だったのか、それとも「この程度の敵」なら一人で十分との判断なのか。少なくとも噂の一端を担っているのは間違いないだろう。

 由良はマイクに手を触れる。相手方に通信を入れるためだ。

 

「救援、感謝します。後でお礼をしたいのですが」

「礼はいらぬ」

「いえいえ、噂の黒い鳥さんには是非」

「黒い鳥などいない」

 

 吹雪並に若い声なのに、何と事務的でにべもない。このまま続けたとて、しらを切り通されるだろう。

 

「そういうことにしろ、という事は理解したわ。もちろん、恩人の頼みとあれば断れません」

「うむ」

「ですが」

「しつこいわね」

 

 今まで交信してきた女の子とはまた別の声がやってきた。より快活そうな声質でありながら、しかし由良たちへの苛立ちで不機嫌に変化している。

 そして彼女は、言う。

 

「敵を倒した。これ以上の『報告』が必要?」

「どうしてそこまでひた隠しにするんです」

「それ、マジに言ってるなら怒るわよ」

 

 既に怒りを隠していないわけだが、通信先の彼女は釘を刺す意味で続けた。

 

「大侵攻を跳ね除けた、何もかもを焼き尽くした伝説の黒い鳥。艦娘が深海棲艦と戦うのは至極当然だわ。すばらしき英雄は投げ込まれた戦場で華々しく戦って、そして?」

 

 一拍置く。

 

「死んだじゃない」

 

 それは、大侵攻時に表れたほうの黒い鳥。その戦いの終焉に際し、姿を消した伝説。

 生存報告がないのなら、そうなのであろう。それに。

 

「死んだからこそ、黒い鳥は真の英雄になった」

「‥‥‥そうですね」

「これ以上は言わないわよ」

「えぇ、安心してください。あなたが懸念するようなことはしませんから。救援、ありがとうございました」

「じゃ、お達者で」

 

 心底不機嫌そうな声で会話を閉じて、通信は一方的に切られた。番号証の消されたヘリは、海域を後にしていく。

 

「隠したいのか。あれほどの力を持ちながら」

 

 憤りにも近い感情で、ジャックは呟く。

 あの黒い娘は、艦娘という枠におけるドミナントである可能性がある。その力を誇示しろとは言わないが、これでは戦ってくれないではないかと。

 話しぶりからして、通信に出た二名は黒い鳥ではないと思われる。服装もそうだが、その態度は意気揚々と救援に入った様子ではないことが窺えるからだ。やりたくなかったが、やらざるをえなかった。会話的にも、あの黒い娘がかつての伝説のように殺されることを恐れて匿っている、ということになる。だとすれば。

 艦娘は、傭兵ではない。

 彼女達は、傭兵のように雇うことが出来ない。

 そこでジャックは、気付いた。

 ジャックのインターネサインの一件は、破壊を依頼する人間と、依頼を受けるドミナントがいて初めて成り立ったもの。傭兵、どこにも組せず依頼を請け負う人間。報酬を提示されれば受けるのが当たり前。その理念思想を問うものではないが、彼らには強者として「依頼を選択する権利」がある。目の前に仕事を用意しても、「依頼を受ける意思」がなければ成り立たないのだ。

 二人のドミナントに託した、インターネサインの破壊。

 ジナイーダは、強さを求めその存在意義を戦場で見出そうとする人物だった。彼女が欲していたのは戦場であり、自らを賭けるに値する強敵であった。だから彼女はジャックの依頼を受けた。

 では、もう一人のあのドミナントは。あのドミナントはなぜ、自身の依頼を「受けてくれた」のだろうか。

 

「‥‥‥帰りましょう」

 

 静かに、由良が告げる。

 

「調べるのは、それからでも遅くないから」

 

 

 

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