やる気なしの錬金術師   作:厄介な猫さん

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ここから原作七巻
そしてお気に入りが三百越え
てな訳でどうぞ


第六章・社交舞踏会と強制参加
五十四話(改)


『社交舞踏会』

 

それは毎年、学院で行われている伝統行事の一つだ。

他校の生徒や学院の卒業生、時には要人すら顔を出す大規模なパーティーだ。

そしてこのパーティーにはダンス・コンペがあり、優勝したカップルの女性は『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』の一夜限定の着用権が与えられる。

そしてこのドレスを勝ち取った男女は、将来、幸せに結ばれるというジンクスがある。

何故この話をしているのかと云うと―――

 

 

「リィエル、次はこれを運ぶぞ」

 

「ん。わかった」

 

 

現在、そのパーティーの準備の為、倉庫から必要な物を運んでいるからだ。

ウィリアムは本来なら準備に参加しないのだが、リィエルの監視の為に参加している。

リィエルは最初、ルミア達と一緒に銀の燭台磨きだったのだが、最初に磨こうとした銀の燭台をグリャリと曲げた時点で、ウィリアムが速攻で力仕事の方へと連れていった(曲げた燭台は錬金術で元に戻した)。

リィエルはその力で一度に大量に運んでいるため、作業は効率良く進んでいる。

見上げる程に積み上がったテーブルを、リィエルは楽々と抱えて運んでいく。

ウィリアムは椅子を幾つか同時に運ぼうとするも―――

 

 

「なんでアンタが此処にいるんだよ?」

 

「…………」

 

 

用務員に化けたアルベルトを見つけてしまった事で、ウィリアムは面倒事の予感に襲われる。

アルベルトはサボっていたグレンにも正体を明かし、ついてくるように言う。

 

 

「その格好……何とも思わないの?」

 

「…………」

 

 

そんなアルベルトの先導で連れてこられたのは、人払いの結界を張った、学院の裏庭だ。

そこでアルベルトは、天の智慧研究会が『社交舞踏会』でルミアを暗殺する動きがある事を告げた。

アルベルトの話によれば、『急進派』と呼ばれる奴らの一部が組織全体の方針を無視して、ルミア殺害を実行しようとしているそうだ。

 

 

「……ちょっと待て。そこまで掴んでながら、なんで平然とパーティーの準備が進められてんだよ?」

 

 

ウィリアムの指摘に、この事を学院に通達するために去ろうとしたグレンは足を止める。

 

 

「それは―――」

 

「そこからは私が説明するわ」

 

 

アルベルトの言葉を遮るように告げて木陰から現れたのは、アルベルトと同じ礼服を纏う、二十歳前後の真紅の髪の女性だ。

 

 

「てめぇは……《魔術師》イヴ……ッ!」

 

「久し振りね、グレン。そして、そこの《詐欺師》もね」

 

 

グレンの烈火のごとき睨みを受け流すその女性の名はイヴ=イグナイト。宮廷魔導士団特務分室室長―――執行官ナンバー1《魔術師》のコードネームを持つ女性だ。

ウィリアムもイヴとは一度対峙している。……引火しやすい可燃性物質と超絶なまでの悪臭を放つ液体で隙を作って、速攻で逃げたが。

グレンが一年前の《正義(ジャティス)》の件で食って掛かるも、イヴはそれもさらりと受け流し、説明していく。

今回、第二団(アデプタス・)地位(オーダー)》が直接動いているから、『社交舞踏会』をこのまま開催させソイツを捕らえると。既にこの作戦の承認は取っているそうだ。

アルベルトは納得しないまでも、黙認する方向のようである。

 

 

「お前らの思惑なんざ知るか。今から学院に―――」

 

「あら?外部に漏らすつもりなら、この場で始末しなければならないけど?」

 

「上等だ……」

 

 

グレンが懐に手を入れ、イヴに振り返った瞬間―――

グレンの左、右、背後から灼熱の紅蓮炎壁が燃え上がり、ほぼ同時に、イヴの周りに小銃(ライフル)を両手に持ち、上半身のみの一対の羽を持つ、四体の甲冑騎士が現れ、片方の小銃(ライフル)をイヴへと突きつける。

 

 

「あら、貴方もグレンと同じかしら?」

 

「…………」

 

 

物怖じしないイヴの問いかけに、ウィリアムは無言を貫く。

指定領域内の炎熱系魔術の『五工程(クイント・アクション)』を全て破棄する眷属秘呪(シークレット)、【第七園】を起動しているイヴに現時点で対抗できるのは、固有魔術(オリジナル)【詐欺師の工房】を起動させたウィリアムだけだ。

ウィリアムも周りを危険に晒すこの作戦を認める気は無い。人工精霊(タルパ)を具現召喚したのがその証だ。

 

 

「まぁ、こうしている時点でそうよね。グレンは私の敵じゃないけど、《詐欺師》は正直厄介なのよね。ここで始末するのも得策じゃないし……だから、こっちのカードを切るわ」

 

 

イヴはそう言い、グレンの周りの炎を消す。

ウィリアムも下手に刺激しないよう、【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・銃兵】を霧散させる。

 

 

「リィエルについてなんだけど、少し見ない内に随分と人間らしくなったわね……()()()()()()()()()()、ね」

 

「ッ!?」

 

「な……ッ!?」

 

 

イヴの言葉に、ウィリアムは辛うじて顔にこそ出さなかったが、驚愕していた。

この口ぶり、イヴはリィエルの正体を知っている。

一瞬、アルベルトが喋ったのかと思ったが、それなら、遠征学修の時に喋っている筈だ。なら―――

案の定、イヴは自力でリィエルの正体に辿り着いていた。

 

 

「さて、リィエルの正体を、上に報告してもいいかしら?」

 

「てめぇ……ッ!?」

 

「……ッ!」

 

「リィエルは使える駒で失うのは痛いんだけど……彼女は世界初の『Project:Revive Life』の成功例……実験用モルモットか標本として献上するのは、それはそれで多大な戦果だと思わない?」

 

 

ウィリアムはこの時点でこちらの敗北を悟った。この状況でリィエルを人質にされれば、もうどうしようもない。

 

 

「そんな恐い顔しないの。私とてリィエルという駒は惜しいの。それに上手くいけば《詐欺師(新しい駒)》を手に入れられるチャンスも失いたくないしね。全ての事が上手くいけば問題ないのよ?」

 

「……チッ」

 

 

ウィリアムは自身の内情まで把握しているらしいイヴに向かって、苦々しい顔で舌打ちをかます。

そんなイヴが次に何を言ってくるのか、さすがに分かる。そして、それを拒否する事も出来ない事も。

予想通り、イヴはこちらに協力しろと言ってきた。

グレンは噛みつくも、軍の権限と二人の命運を盾にされ、あっさりとイヴに封殺される。

 

 

「それで、《詐欺師》のウィリアムはどうなのかしら?」

 

「……変わりに要求を一つだけ呑んでもらうぞ。『リィエルの正体を今後一切誰にも明かさない』……それが最低条件だ」

 

「もし断ったら?」

 

「言わなくてもわかんだろ?」

 

 

ウィリアムは敢えて起動中の翡翠の石板(エメラルド・タブレット)を見せつける。

ここで戦うのは得策でないなら、それを活かして、リィエルの今後の安全をある程度確保する為にイヴと交渉する。

 

 

「……いいわ。ただし、作戦に口出ししたら、直ぐに破棄するわ」

 

「『今回の作戦だけ』、だよな?」

 

「……ええ」

 

「オーケー」

 

 

何とかリィエルの安全を掴み取れた事で、ウィリアムは【詐欺師の工房】を解除する。

もちろん約束が守られる保証は無い。あくまで釘さし程度だろう。それでも、このカードを何度も使われると堪ったものではない。

だから、釘を指しただけでも意味がある。

そのまま、イヴはグレンにある事を要請した。

 

 

 

その半刻後、グレンは表向きは賞金目当てというロクでもない理由でルミアをコンペへと誘い、システィーナに吹き飛ばされた。

 

 

 




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