てな訳でどうぞ
ウィリアムとリィエルは近場のレストランに来ていた。
「いらっしゃいませ!お二人様ですか?」
「はい」
「じゃあ、あちらの席にご案内致しますね」
ウェイター姿の店員に案内された二人は席に着き、ウィリアムがテーブルの上にあるメニュー表をリィエルにへと渡す。
「苺タルト以外も注文しとけよ」
「苺タルトだけでいい」
「ちゃんと苺タルト以外も食べろ」
二人はそのままウェイターを呼び、料理を注文していく。ウィリアムはウェイターの耳元である事をお願いする。
「えっと……よろしいんでしょうか?」
「よろしいですから遠慮なくやって下さい。後……」
ウィリアムはそう言ってウェイターをマジマジと見つめ……
「……どこかで会った事ないですか?」
「いえ。初対面の筈ですが?」
「……そうですか。変な事聞いてすいません。後、お願いしますね」
「お気になさらず」
ウェイターはそう言ってウィリアム達から離れて厨房へと向かっていく。
(さすがに近づきすぎたか……危うく気付かれるところだったな)
件のウェイターに変装していたアルベルトは僅かながら冷や汗をかいていた。
(しかし、アイゼンも珍妙な事を頼んだものだな……『リィエルに差し出す苺タルトを一口かじったような形で出してくれ』等と……)
一体何が狙いなのか、その意図が読めない。
「そんじゃ俺はこれとこれとこれを……」
「ちょっと!?幾ら注文する気ですか!?」
「うっせぇ!食える時に食っとかないとな!!なんたってお前らの奢りだからな!!」
「本当に最低ですね!?」
「あはは……」
(まったく相変わらずだな、アイツは……)
遠くのテーブルのやり取りに呆れながらもコックにオーダーを伝え……
……そして。
「お待たせしましたお客様。ご注文のお品になります」
アルベルトは先ずはリィエルの注文―――魚のパイにサンドイッチ、オレンジジュースに……一口かじられた苺タルトをテーブルの上に並べる。
「……ねえ」
「……モグモグゴックン……なんでしょうかお客様」
「どうしてわたしの苺タルトが食べられているの?」
明らかに不機嫌なリィエルに、アルベルトではなくウィリアムが答える。
「俺がこうするように店員さんに頼んだ」
「……どうして?」
「お前、前回のアルバイトでこういうことをやっただろ。それがどんなに相手を嫌な気分にするか実際に体験させて理解させようとな。人の振り見て我が振り直せ······東方の諺だ」
「むう……」
「実際、こんな苺タルトを差し出されていい気分しなかっただろ?」
「ん……」
「だから、次こういう機会があったら二度とするなよ?」
「……わかった。もう二度としない」
(リィエルがアルバイトした事にも驚きだが·····それ以上に、リィエルに常識を理解させただと……!?)
表情には臆面にも出していないが、アルベルトは戦慄していた。
あのリィエルに常識を理解させる等という難解な事案をやってのけるとは……と。
(ウィリアム=アイゼン……まさかそこまでのやり手だったとは……このままではリィエルが奴に懐柔されるのも、最早時間の問題か……!?)
「……あの?店員さん?御用があるんでしょうか?」
「申し訳ありません。少し呆けていました。すぐにお料理をお持ちいたしますね」
アルベルトはそそくさと一礼し、テーブルから離れていく。
(くっ……俺とした事が……任務中に呆ける等という無様な真似をするとは……!)
己の失態に内心毒づきつつ、次の料理を運ぼうと厨房へと向かって行くと。
「……まさかああやって常識を教えるとはな……」
「当たり前すぎて逆に盲点でしたね……」
「ふふっ……リィエルの社会勉強は今のところ上手くいっていますね」
(……何?)
ルミアから洩れた情報に、アルベルトは硬直しかけるも、かろうじて踏みとどまり、直ぐ様集音の魔術を密かに起動してグレン達の会話を盗み聞きする。
『そうねルミア。今のところ、ウィリアムが提案したリィエルに一般常識を身に付けさせる作戦は順調ね』
『こうした普通の生活を満喫させてやれば、多少は常識を身に付けてくれそうだな。俺ももっと早く、リィエルをこうやって外に触れさせてやっていればよかったな……』
『先生……』
『そうすりゃ今頃、リィエルをこきつかって、たんまり稼げていたのになぁ』
『返して下さい!私のこの気持ちを返して下さい!!!』
『まぁまぁ……』
そんな彼らの会話を盗み聞きしたアルベルトは……
(……懐柔では無かった、のか……?)
僅かに脂汗を流していた。
懐柔ではなく社会勉強と考えてウィリアムの行動を振り返ってみる。その結果……
(……辻褄は合う、な……こんな簡単な事を見抜けぬとは……くっ……)
思わず顔を覆いたくなる衝動に駆られる事となった。そして……
(アイゼンにリィエルの手綱を握らせるべきか……?)
グレンが実行しようとしている考えに至っていた。
そんな思考をしながら、アルベルトはウィリアムが注文した料理を運んでいった。
―――――――――――――――――――――
その後もアルベルトはいろんな店を見て回っている二人を監視するも、社会勉強という前提もあり、ウィリアムが帝国に害ある存在とは判断できなかった。寧ろ、リィエルに振り回されるウィリアムに一種の共感さえ覚えてしまう。
だが……
(アイゼンへのスカウトはこのままいけば必須事項だな……)
この事をグレンが知ったらいい顔はしないだろうが……
(だが、これは必要な事だ。帝国の未来と、俺の苦労の削減の為に……)
アルベルトはそう思いながら監視を終了し、その場から立ち去った。
「……言い訳はあるか?お前ら」
「「ごめんなさい」」
「こんな面白そうなぐはっ!?」
向こうの会話を聞き流しながら…………
――――――――――――――――――――――――
―――その日の夜。
フェジテの某所。建物の屋上にて。
「……クリストフ。これはどういう事だ?」
「あはは……」
厳しい顔をしたアルベルトと曖昧な笑みを浮かべるクリストフの視線を向ける先には……
「……………………(ビクン、ビクン)」
まるで打ち上げられた魚のように痙攣しているバーナードが倒れていた。
「何故翁がここにいる?」
「……すいませんアルベルトさん。後で知ったのですが、あの書状はどうやらバーナードさんが用意した偽の任務書だったようです」
「…………」
再び騙されたと理解したアルベルトは表情を更に険しくしていく。
「それで、翁は何故ああなっている?」
「簡単に説明しますと、彼女達とデートしている二人への嫉妬でああなったんですよ」
「……そうか」
「大変でしたよ。『なんであやつらが可愛い娘ちゃんにモテて、儂はモテないんじゃあああああああああああああああ―――ッ』って叫んで皆さんの元へ行こうとしていたのを、僕が必死に止めていましたから」
「……お前も大変だったな」
「いえ。気にしなくて大丈夫ですよ」
そしてアルベルトはバーナードの元へと歩み寄る。
「……翁」
「…………アル坊か。こんな儂に何のようじゃ?」
意気消沈状態のバーナードに対し、アルベルトは何かが書かれた一枚のメモ用紙を渡す。
「……これは?」
「とある酒場の場所を書いた用紙だ。そこで接待している人達に翁の写真を見せ、翁の事を話したら一緒に飲みたいと言っていたぞ」
「え?マジで!?」
「今からそこで飲みに行ってこい。代わりにこんな事は金輪際、二度とするな」
「ありがとなアル坊!!今からちょっとそこで飲みに行ってくる!!!」
バーナードはそう言って、先程の消沈振りが嘘の様に意気揚々とその場から立ち去って行った。
「珍しいですね。アルベルトさんがそんな事を言うなんて」
「……あれは翁への仕返しだ」
「仕返し?」
「俺が渡した店の住所は有名なゲイバーの店の住所だ。翁に言ったことは全部本当だがな」
「……」
アルベルトが決行した鬼の所業にクリストフは顔をひきつらせ、冷や汗を流した。
そして……
「朝まで私達と一緒に飲みましょ?心配しないで。アルベルトくんから先にお代は貰っていて今回はタダだから☆」
「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおお―――ッ!!!!!!!!!アル坊めッ!!謀りおったなぁああああああああああああああああああああああああああああ―――ッ!!!!!!!!!!!!!!!?」
「んもう、こんなに叫んじゃって·····アルベルトくんの言ってた通り照れ屋さんなのね♪」
「男前のお爺様一名、彼方のVIP席にご案内よ~」
「嫌じゃッ!!!儂は可愛い娘ちゃんと―――」
深夜、とある酒場で老人の悲鳴がフェジテに木霊するのであった……
感想お待ちしています
『死ねい作者ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――――――――ッ!!!!!!!!!!』
作者は修羅と化した老人によって、ミンチとなりました
希望の○~