イヴのライフはどこまで削られる?
てな訳でどうぞ
周囲の建物が無残に焼け焦げた、燃えさしのような世界の中心で、ジャティスは蹲り、ブレイクはうつ伏せで倒れていた。
どちらも全身が激しく焼け焦げており、誰の目から見ても致命傷だった。
「……はっ!弱っ……さんざん大口叩いておいてその程度?」
終始、一方的に彼らを焼き続けたイヴが、嘲弄するような声を浴びせる。
「やっぱり、グレンみたいな三流の使えない駄犬なんていならかったのよ……時間も充分に余裕があるし、これでイグナイト家の―――」
「くっくっくっ……」
そんなご機嫌なイヴに、ジャティスの突然の低い声が水を差した。
「本当は、このままグレンに免じて、
「……は?」
「だけど……気が変わった。君の―――その無意味なプライドを完膚なきまでに、へし折って、惨めに這いつくばらせて殺してやるよ……きひひひひ……ッ!ひゃーっはははははははははははははははは……ッ!!!」
そんなジャティスの様子に、イヴは恐怖を感じるも、必死に自分の勝利を言い聞かせる。
イヴはそのまま、壊れた人形のように立ち上がったジャティスの予言通りに、建物の屋根の上へと飛び乗り、炎をたぎらせた左手をジャティスに向かって降り下ろす。
その結果は―――
「……えっ?」
自身の肘から先の左腕が斬り落とされるという、残酷な現実だった。
「あ……?……あ、ああ……ぁああああああああああああああああああああ――――ッ!!!?」
その現実を認識し、絶叫を上げるイヴにジャティスは淡々と種明かしを始めていく。
【
数秘術は『既存情報を組み合わせ結果、予想される未来を観測する』魔術学問。精度の低さから『数を使った占い』程度の認識だが、ジャティスはかつて、その数秘術を極めれば、どんな未来も観測できると考えたそうだ。
イヴは、人間には自由意思があると反論するも―――
「それすらも、脳内電気信号と生体化学反応の集積。そう考えれば数値化できて、人の未来も数秘術で予測可能―――そうは思わないかい?」
「……え?」
突然、背後から聞こえたジャティスの声に、イヴは恐る恐る振り返ると……そこに
「これが【ユースティアの天秤】……“僕の目に映るあらゆる事象・現象・具象を数値化・数式化して取得する”、僕の
イヴが反射的に眼下を再び見ると、そこに居たジャティスが、光の粒子となって砕けていた。
完全に一杯食わされていた事に気づき、イヴは絶望感に囚われるも、一矢報いようと右手を動かすも、今度は右掌に不可視の刃が突き刺さる。
そんなイヴに、ジャティスはイヴを除く特務分室のメンバーの素晴らしさを語っていく。
《星》のアルベルトは正義を尊いながらも、報われない茨の道を歩み続ける
《法皇》のクリストフは心臓さえも女王陛下に捧げる、真の忠義に生きる者だと。
《隠者》のバーナードは生と死の狭間でしか生きている実感を得られない、究極のスリルジャンキーだと。
《戦車》のリィエルは《詐欺師》やシスティーナ達と出会った事で、本当の意味で命をかけるに値する、かけがえのない何かを手に入れつつあると。
最後に、《愚者》のグレンはイレギュラーの塊だと、ジャティスは興奮を抑えきれずに高笑いする。
「―――月並みだけど、運命を超えるのは『人間の強き意思』なのさ。だから、彼らは素晴らしく、脅威なんだ。さて……」
「ま、まだよ……ッ!まだ終わって―――」
「―――いいや、貴女はもう終わりですぞ」
イヴの負け惜しみのような言葉を、横から聞こえてきた声が遮る。
イヴはまさかと思い、恐る恐る横を見やると、ジャティスと同じく、
「貴女が焼いていた我輩は、我輩が作った
「そ、そんな……」
「せっかくですので、貴女が誰よりも弱い理由を教えて差し上げましょう。その理由は、貴女には己を貫き通す意思が微塵もないからなのですよ」
ボロボロのイヴに、ブレイクは容赦なく心の傷を抉り始めていく。
「貴女は誰も自分を認めてくれないと仰っていましたが、貴女を見てくれていた仲間は確かに存在していた。彼の《女帝》はその一人だった」
「や、やめて……」
「だが、貴女はその仲間を、友と呼べる唯一の存在を、父親の恐怖に屈して見殺しにした!!自らの安楽を守る為に
「それ以上は……ッ!」
自らの心を致命的なまでに暴かれていくブレイクの物言いを、イヴは首を振ってやめるよう懇願するも、ブレイクは止めずに容赦なく告げる。
「そんな他者によって押しつけられた望まぬ道が、彼の《愚者》はおろか、自らの意思で選びとり、もしくは折り合いをつけて道を歩む者の上となるわけがないッッッ!己を貫く為の『立ち向かう意思』が無く、植えつけられた恐怖に屈し、己の真の望みさえも忘れ、自ら切り捨てておきながら、孤独と思い込んでいるから貴女は最弱なのだッッッ!!!!!!!」
「いやぁああああああああああああああああああああ――――ッッッ!!!!!」
イヴは堪らず叫び声を上げ、必死に誤魔化すように、右手で頭を抑え、激しく首を振りかぶる。
心の内に閉まっていた事を、目の前の男に暴露された。知りえない筈なのに―――
「何故我輩がしっているのか疑問でしょうなぁ。その答えは、貴女の記憶という情報を覗いたからなのですよ」
ブレイクは左手に持っている分厚い本―――魔導書をイヴに突きつける。
「我輩はこの魔導書を介することで、対象のあらゆる情報を閲覧し、自由にこの魔導書等に記録することができるのですよ。それは対象の記憶だけでなく魔術式さえも記録することもでき、幾つかの魔術を再現して使えるようにもなります。今も貴女が我輩の説明を嘘だ、あり得ないと考え、否定しようとしていることも筒抜けですぞ?……これこそが、我輩の
それによって、イヴはようやく理解した。何故、ジャティスが
この男には、謀りごとが通用せず、隠しごとが出来ない。どれだけ行動を予測して、周到に策を練り、入念に準備しても、それ自体が筒抜けとなっていては意味がないからだ。
「ええ、大当たりですぞ。ですから、ジャティス殿は御自身の『正義』のために、我輩を利用しているのですよ。本当は家の事など―――」
再び思考を当てられたイヴは、これ以上の内心を暴露される恐怖から逃れるために、屋根上から飛び降り、着地と同時に跳び下がる。
ブシャ
だが、また予め配置されていた不可視の刃に、両脚の腱を斬られて、血が噴き出していく。
「……あ……」
身体を支える力を失ったイヴはその場で崩れ落ち、瞳からも全ての感情が消えていく。
そこにいるのは、肉体的にも、精神的にも追い詰められ、心を完膚なきまでへし折られた、哀れな女だった。
そんなイヴに、ジャティスは魔術師の在り方を問いかける。
イヴは裁判官のような風格を漂わすジャティスの姿に怯えながら、イグナイト家の名誉のためと、もうそれしかないと言った途端―――
「はぁ~~~~~……やっぱり見込み違いか……」
「あれだけ指摘して、答えがそれですか……」
ジャティスとブレイクは盛大な溜め息を吐いて、呆れていた。
そして、ジャティスはグレンを侮辱したイヴに死刑判決を下し、憤怒の表情で両腕を振るい、大量の
顕れたのは、左手に黄金の剣、右手に銀の吊り天秤、背中に七つの翼を頂いた、目隠しをした女神―――
「
偽りの女神が剣を掲げた、その瞬間―――
――― 一条の雷閃が、ジャティスの頭部へと迫ってきていた。
「―――ッ!?」
ジャティスは咄嗟にかわすも、集中が途切れたため、偽りの女神はその形を失い、霧散していく。
「―――おおっとぉッ!?」
更に、遅れてもう一条の雷閃がブレイクへと迫り、ブレイクは軽い身のこなしで回避する。
「ちっ……“読めなかった”よ……ッ!」
ジャティスは忌々しげに、雷閃が飛来してきた方向を睨み付ける。
「ふむ……どうやら、もうじき《法皇》と《隠者》のお二方がこちらに到着するようですぞ?」
明後日の方向を見て呟くブレイクに、ジャティスは忌々しげにイヴと、フェジテ城壁にいるアルベルトを睨み、ブレイクと共にその場を離脱した。
いかがでしたか?
相手の考えがリアルタイムで覗ける······厄介の極みだと私は思います
嵌めたと思っていたら、逆に嵌められていた上に、背けていた事を突き付けられたら、堪ったもんじゃないと思いません?
まぁ、《正義》の狂人は幾ら指摘しても、微塵も揺るがないでしょうが
感想お待ちしてます